ハニーローズ  ~ 『予知夢』から始まった未来変革 ~

悠月 星花

文字の大きさ
上 下
1,060 / 1,516

オリーブの苗木と

しおりを挟む
 朝、用意された馬車に乗り込むと、そこにはダリアがすでに乗り込んでいた。食欲がなかったのか、それとも処分を聞かされたあとだからか、あまり顔色がよいように思えない。


「大丈夫?」
「……アンナリーゼ様」
「楽にしてちょうだい。この馬車は、私しか乗らないことになっているから」
「それでは、その……」
「大丈夫よ?私、この国にいる誰より強いから!」


 微笑むと、少しだけ安心したように口角を上げてくれる。誰もいないからこそ、少しだけ気持ちを落ち着かせることが出来るのかもしれない。


「ダリアは、今日の話はどこまで聞いているかしら?」
「オリーブ畑と工場の見学と聞いています」
「あっているわ。案内、頼むわね?」
「こちらこそ……私で良かったのでしょうか?」


 戸惑う様子を見せはしているが、私の顔を見て大丈夫なんだという確信も持っているようだった。


「もちろんよ!あと、移動の短い時間で話すのも違うかもしれないけど……」
「私の処分でしょうか?」
「えぇ、聞いていて?」
「……はい。この国を追放されると。私、これからどうしたらいいのか……わかりません」


 瞳からは不安の様子がみてとれた。国に守られていたダリアは爵位も取り上げられ、国さえも失うのだ。不安でないことのほうがおかしい。私は、ダリアの手を取り、優しく包み込むようにした。


「私は、他国へ嫁いだ身です。ダリアもそのように考えるのはどうかしら?」
「……でも、私には爵位も何もないです。そんな私を受け入れてくださる方がいらっしゃるとは思えません」


 ダリアのいうことは正しい。罪人として、国を追われるのだから。でも、今回は、国を追放することは、発表されないことになった。私が預かることになった時点で、罪人を私に押し付けることはできないと、王妃は一応の配慮をしてくれたのだ。


「ダリア、あなたの意思を確認したいのだけど」
「はい、なんでございましょう?」
「結婚する気はあるかしら?例えば、政略結婚だったとしても。もちろん、私と違って、行く宛てがないあなたは、離婚することを許さないわ」
「……結婚ですか?そんな道、あるのでしたら、私はこの先の一生を耐えてみせます!」
「結婚が耐えるものとならないことを願うしかないわね……」


 苦笑いを思わずしてしまう。どうせなら、ダリアにも幸せになってほしい。もちろん、その相手には、最大の幸せを願っている。二人が幸せになれるよう、私にできることはないのかもしれないけど、二人の関係を大事にしていきたい。


「私の友人、男爵なんだけど……どうかな?って思っているの」
「男爵ですか?」
「嫌かしら?」
「いえ、そんなことはありません!アンナリーゼ様は、どうして、私にそんな縁談を?」
「それは、本人に聞いてほしいのだけど……爵位があるとはいえ、平民とそんなに変わらない生活だし、今よりずっと仕事も多いわよ?たぶん、書類仕事とか……主に頭を使うような仕事が、本当にウンザリするくらいあるわよ?なんて言ったって、今来ているようなドレスは滅多にきれないし、正直、小汚い格好で、フラフラと領主に付き従って歩き回る日もあるわよ?馬に乗ったり、もう、これでもかって、体力的に削られることも。それでも、いいかしら?」
「……えらく具体的ですね?その旦那様となる方が、そんな日々を過ごしていらっしゃるのですか?」
「……ほとんど書類仕事かなぁ?馬に乗るのが少々苦手だし……」


 呆気に取られていたダリアが、クスっと笑う。思わず笑ってしまったといういふうで、こちらの方が、取り残されたような気分になった。


「……ご、ごめんなさい。先程から、本当に具体的だったので、想像してしまいました。どれもこれも、素敵だなって思って。私、そういうふうに生活をしたことがないので。メイドだったときはもちろん王宮住まいでしたし、爵位を得てからもほとんど、城からでたことがなかったので」
「そうなの?私、てっきり、演習くらいは行っているのかと思ってたわ!私、祖父の私兵の演習にはよくついて行っていたから」
「……それは、アンナリーゼ様だけだと思います」


 馬車の中は、さっきまでの重苦しい雰囲気は吹き飛び、二人の笑い声が響く。護衛として、馬に乗って隣から見守ってくれていたウィルには聞こえただろう。


「あぁ~笑った!久しぶりだわ!」
「私もです。ずっと、息の詰まるような生活でしたから……」
「そうなの?私の元へ来たら、目まぐるしくてビックリするかもしれないわね?」
「アンナリーゼ様のところへですか?」
「えぇ、ダリアと政略結婚をしてもらおうとしている男性が、私の元にいるからね。だから、物凄く大変だと思うの。私でも、ときどきねをあげて逃げ回っているのですもの!」
「それほどなのですか?」
「……嫌になった?今の話を聞いて」


 少し考える素振りをしたあと、首を横にふるダリア。ニッコリと笑っているので、承諾してくれるようだ。


「私の領地へ来てくれるかしら?」
「喜んで、お願いします!」
「私の見込んだ人だから、ダリアのことを大事にしてくれるはずよ!じゃあ、エルドアから、オリーブの苗木と一緒に、花嫁をいただきましょう!私の友人もきっと喜ぶわ!すぐに知らせましょうか!」


 ウィル!と窓から呼ぶと、何?と怪訝そうにこちらを睨む。そんな顔しないで欲しいわと文句を言ってやると、察したようで馬を後ろの馬車へと移動させていく。

 元々、セバスからの申し出があるまでは乗り気ではなかったが、さてさて、この政略結婚をうまく纏めないとと私の中でやる気がむくむくとでてきたのであった。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

白い結婚はそちらが言い出したことですわ

来住野つかさ
恋愛
サリーは怒っていた。今日は幼馴染で喧嘩ばかりのスコットとの結婚式だったが、あろうことかバーティでスコットの友人たちが「白い結婚にするって言ってたよな?」「奥さんのこと色気ないとかさ」と騒ぎながら話している。スコットがその気なら喧嘩買うわよ! 白い結婚上等よ! 許せん! これから舌戦だ!!

愛など初めからありませんが。

ましろ
恋愛
お金で売られるように嫁がされた。 お相手はバツイチ子持ちの伯爵32歳。 「君は子供の面倒だけ見てくれればいい」 「要するに貴方様は幸せ家族の演技をしろと仰るのですよね?ですが、子供達にその様な演技力はありますでしょうか?」 「……何を言っている?」 仕事一筋の鈍感不器用夫に嫁いだミッシェルの未来はいかに? ✻基本ゆるふわ設定。箸休め程度に楽しんでいただけると幸いです。

五歳の時から、側にいた

田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。 それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。 グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。 前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

追放された悪役令嬢はシングルマザー

ララ
恋愛
神様の手違いで死んでしまった主人公。第二の人生を幸せに生きてほしいと言われ転生するも何と転生先は悪役令嬢。 断罪回避に奮闘するも失敗。 国外追放先で国王の子を孕んでいることに気がつく。 この子は私の子よ!守ってみせるわ。 1人、子を育てる決心をする。 そんな彼女を暖かく見守る人たち。彼女を愛するもの。 さまざまな思惑が蠢く中彼女の掴み取る未来はいかに‥‥ ーーーー 完結確約 9話完結です。 短編のくくりですが10000字ちょっとで少し短いです。

あなたの側にいられたら、それだけで

椎名さえら
恋愛
目を覚ましたとき、すべての記憶が失われていた。 私の名前は、どうやらアデルと言うらしい。 傍らにいた男性はエリオットと名乗り、甲斐甲斐しく面倒をみてくれる。 彼は一体誰? そして私は……? アデルの記憶が戻るとき、すべての真実がわかる。 _____________________________ 私らしい作品になっているかと思います。 ご都合主義ですが、雰囲気を楽しんでいただければ嬉しいです。 ※私の商業2周年記念にネップリで配布した短編小説になります ※表紙イラストは 由乃嶋 眞亊先生に有償依頼いたしました(投稿の許可を得ています)

十三回目の人生でようやく自分が悪役令嬢ポジと気づいたので、もう殿下の邪魔はしませんから構わないで下さい!

翠玉 結
恋愛
公爵令嬢である私、エリーザは挙式前夜の式典で命を落とした。 「貴様とは、婚約破棄する」と残酷な事を突きつける婚約者、王太子殿下クラウド様の手によって。 そしてそれが一度ではなく、何度も繰り返していることに気が付いたのは〖十三回目〗の人生。 死んだ理由…それは、毎回悪役令嬢というポジションで立ち振る舞い、殿下の恋路を邪魔していたいたからだった。 どう頑張ろうと、殿下からの愛を受け取ることなく死ぬ。 その結末をが分かっているならもう二度と同じ過ちは繰り返さない! そして死なない!! そう思って殿下と関わらないようにしていたのに、 何故か前の記憶とは違って、まさかのご執心で溺愛ルートまっしぐらで?! 「殿下!私、死にたくありません!」 ✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼ ※他サイトより転載した作品です。

私の知らぬ間に

豆狸
恋愛
私は激しい勢いで学園の壁に叩きつけられた。 背中が痛い。 私は死ぬのかしら。死んだら彼に会えるのかしら。

居場所を奪われ続けた私はどこに行けばいいのでしょうか?

gacchi
恋愛
桃色の髪と赤い目を持って生まれたリゼットは、なぜか母親から嫌われている。 みっともない色だと叱られないように、五歳からは黒いカツラと目の色を隠す眼鏡をして、なるべく会わないようにして過ごしていた。 黒髪黒目は闇属性だと誤解され、そのせいで妹たちにも見下されていたが、母親に怒鳴られるよりはましだと思っていた。 十歳になった頃、三姉妹しかいない伯爵家を継ぐのは長女のリゼットだと父親から言われ、王都で勉強することになる。 家族から必要だと認められたいリゼットは領地を継ぐための仕事を覚え、伯爵令息のダミアンと婚約もしたのだが…。 奪われ続けても負けないリゼットを認めてくれる人が現れた一方で、奪うことしかしてこなかった者にはそれ相当の未来が待っていた。

処理中です...