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オリーブの苗木と
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朝、用意された馬車に乗り込むと、そこにはダリアがすでに乗り込んでいた。食欲がなかったのか、それとも処分を聞かされたあとだからか、あまり顔色がよいように思えない。
「大丈夫?」
「……アンナリーゼ様」
「楽にしてちょうだい。この馬車は、私しか乗らないことになっているから」
「それでは、その……」
「大丈夫よ?私、この国にいる誰より強いから!」
微笑むと、少しだけ安心したように口角を上げてくれる。誰もいないからこそ、少しだけ気持ちを落ち着かせることが出来るのかもしれない。
「ダリアは、今日の話はどこまで聞いているかしら?」
「オリーブ畑と工場の見学と聞いています」
「あっているわ。案内、頼むわね?」
「こちらこそ……私で良かったのでしょうか?」
戸惑う様子を見せはしているが、私の顔を見て大丈夫なんだという確信も持っているようだった。
「もちろんよ!あと、移動の短い時間で話すのも違うかもしれないけど……」
「私の処分でしょうか?」
「えぇ、聞いていて?」
「……はい。この国を追放されると。私、これからどうしたらいいのか……わかりません」
瞳からは不安の様子がみてとれた。国に守られていたダリアは爵位も取り上げられ、国さえも失うのだ。不安でないことのほうがおかしい。私は、ダリアの手を取り、優しく包み込むようにした。
「私は、他国へ嫁いだ身です。ダリアもそのように考えるのはどうかしら?」
「……でも、私には爵位も何もないです。そんな私を受け入れてくださる方がいらっしゃるとは思えません」
ダリアのいうことは正しい。罪人として、国を追われるのだから。でも、今回は、国を追放することは、発表されないことになった。私が預かることになった時点で、罪人を私に押し付けることはできないと、王妃は一応の配慮をしてくれたのだ。
「ダリア、あなたの意思を確認したいのだけど」
「はい、なんでございましょう?」
「結婚する気はあるかしら?例えば、政略結婚だったとしても。もちろん、私と違って、行く宛てがないあなたは、離婚することを許さないわ」
「……結婚ですか?そんな道、あるのでしたら、私はこの先の一生を耐えてみせます!」
「結婚が耐えるものとならないことを願うしかないわね……」
苦笑いを思わずしてしまう。どうせなら、ダリアにも幸せになってほしい。もちろん、その相手には、最大の幸せを願っている。二人が幸せになれるよう、私にできることはないのかもしれないけど、二人の関係を大事にしていきたい。
「私の友人、男爵なんだけど……どうかな?って思っているの」
「男爵ですか?」
「嫌かしら?」
「いえ、そんなことはありません!アンナリーゼ様は、どうして、私にそんな縁談を?」
「それは、本人に聞いてほしいのだけど……爵位があるとはいえ、平民とそんなに変わらない生活だし、今よりずっと仕事も多いわよ?たぶん、書類仕事とか……主に頭を使うような仕事が、本当にウンザリするくらいあるわよ?なんて言ったって、今来ているようなドレスは滅多にきれないし、正直、小汚い格好で、フラフラと領主に付き従って歩き回る日もあるわよ?馬に乗ったり、もう、これでもかって、体力的に削られることも。それでも、いいかしら?」
「……えらく具体的ですね?その旦那様となる方が、そんな日々を過ごしていらっしゃるのですか?」
「……ほとんど書類仕事かなぁ?馬に乗るのが少々苦手だし……」
呆気に取られていたダリアが、クスっと笑う。思わず笑ってしまったといういふうで、こちらの方が、取り残されたような気分になった。
「……ご、ごめんなさい。先程から、本当に具体的だったので、想像してしまいました。どれもこれも、素敵だなって思って。私、そういうふうに生活をしたことがないので。メイドだったときはもちろん王宮住まいでしたし、爵位を得てからもほとんど、城からでたことがなかったので」
「そうなの?私、てっきり、演習くらいは行っているのかと思ってたわ!私、祖父の私兵の演習にはよくついて行っていたから」
「……それは、アンナリーゼ様だけだと思います」
馬車の中は、さっきまでの重苦しい雰囲気は吹き飛び、二人の笑い声が響く。護衛として、馬に乗って隣から見守ってくれていたウィルには聞こえただろう。
「あぁ~笑った!久しぶりだわ!」
「私もです。ずっと、息の詰まるような生活でしたから……」
「そうなの?私の元へ来たら、目まぐるしくてビックリするかもしれないわね?」
「アンナリーゼ様のところへですか?」
「えぇ、ダリアと政略結婚をしてもらおうとしている男性が、私の元にいるからね。だから、物凄く大変だと思うの。私でも、ときどきねをあげて逃げ回っているのですもの!」
「それほどなのですか?」
「……嫌になった?今の話を聞いて」
少し考える素振りをしたあと、首を横にふるダリア。ニッコリと笑っているので、承諾してくれるようだ。
「私の領地へ来てくれるかしら?」
「喜んで、お願いします!」
「私の見込んだ人だから、ダリアのことを大事にしてくれるはずよ!じゃあ、エルドアから、オリーブの苗木と一緒に、花嫁をいただきましょう!私の友人もきっと喜ぶわ!すぐに知らせましょうか!」
ウィル!と窓から呼ぶと、何?と怪訝そうにこちらを睨む。そんな顔しないで欲しいわと文句を言ってやると、察したようで馬を後ろの馬車へと移動させていく。
元々、セバスからの申し出があるまでは乗り気ではなかったが、さてさて、この政略結婚をうまく纏めないとと私の中でやる気がむくむくとでてきたのであった。
「大丈夫?」
「……アンナリーゼ様」
「楽にしてちょうだい。この馬車は、私しか乗らないことになっているから」
「それでは、その……」
「大丈夫よ?私、この国にいる誰より強いから!」
微笑むと、少しだけ安心したように口角を上げてくれる。誰もいないからこそ、少しだけ気持ちを落ち着かせることが出来るのかもしれない。
「ダリアは、今日の話はどこまで聞いているかしら?」
「オリーブ畑と工場の見学と聞いています」
「あっているわ。案内、頼むわね?」
「こちらこそ……私で良かったのでしょうか?」
戸惑う様子を見せはしているが、私の顔を見て大丈夫なんだという確信も持っているようだった。
「もちろんよ!あと、移動の短い時間で話すのも違うかもしれないけど……」
「私の処分でしょうか?」
「えぇ、聞いていて?」
「……はい。この国を追放されると。私、これからどうしたらいいのか……わかりません」
瞳からは不安の様子がみてとれた。国に守られていたダリアは爵位も取り上げられ、国さえも失うのだ。不安でないことのほうがおかしい。私は、ダリアの手を取り、優しく包み込むようにした。
「私は、他国へ嫁いだ身です。ダリアもそのように考えるのはどうかしら?」
「……でも、私には爵位も何もないです。そんな私を受け入れてくださる方がいらっしゃるとは思えません」
ダリアのいうことは正しい。罪人として、国を追われるのだから。でも、今回は、国を追放することは、発表されないことになった。私が預かることになった時点で、罪人を私に押し付けることはできないと、王妃は一応の配慮をしてくれたのだ。
「ダリア、あなたの意思を確認したいのだけど」
「はい、なんでございましょう?」
「結婚する気はあるかしら?例えば、政略結婚だったとしても。もちろん、私と違って、行く宛てがないあなたは、離婚することを許さないわ」
「……結婚ですか?そんな道、あるのでしたら、私はこの先の一生を耐えてみせます!」
「結婚が耐えるものとならないことを願うしかないわね……」
苦笑いを思わずしてしまう。どうせなら、ダリアにも幸せになってほしい。もちろん、その相手には、最大の幸せを願っている。二人が幸せになれるよう、私にできることはないのかもしれないけど、二人の関係を大事にしていきたい。
「私の友人、男爵なんだけど……どうかな?って思っているの」
「男爵ですか?」
「嫌かしら?」
「いえ、そんなことはありません!アンナリーゼ様は、どうして、私にそんな縁談を?」
「それは、本人に聞いてほしいのだけど……爵位があるとはいえ、平民とそんなに変わらない生活だし、今よりずっと仕事も多いわよ?たぶん、書類仕事とか……主に頭を使うような仕事が、本当にウンザリするくらいあるわよ?なんて言ったって、今来ているようなドレスは滅多にきれないし、正直、小汚い格好で、フラフラと領主に付き従って歩き回る日もあるわよ?馬に乗ったり、もう、これでもかって、体力的に削られることも。それでも、いいかしら?」
「……えらく具体的ですね?その旦那様となる方が、そんな日々を過ごしていらっしゃるのですか?」
「……ほとんど書類仕事かなぁ?馬に乗るのが少々苦手だし……」
呆気に取られていたダリアが、クスっと笑う。思わず笑ってしまったといういふうで、こちらの方が、取り残されたような気分になった。
「……ご、ごめんなさい。先程から、本当に具体的だったので、想像してしまいました。どれもこれも、素敵だなって思って。私、そういうふうに生活をしたことがないので。メイドだったときはもちろん王宮住まいでしたし、爵位を得てからもほとんど、城からでたことがなかったので」
「そうなの?私、てっきり、演習くらいは行っているのかと思ってたわ!私、祖父の私兵の演習にはよくついて行っていたから」
「……それは、アンナリーゼ様だけだと思います」
馬車の中は、さっきまでの重苦しい雰囲気は吹き飛び、二人の笑い声が響く。護衛として、馬に乗って隣から見守ってくれていたウィルには聞こえただろう。
「あぁ~笑った!久しぶりだわ!」
「私もです。ずっと、息の詰まるような生活でしたから……」
「そうなの?私の元へ来たら、目まぐるしくてビックリするかもしれないわね?」
「アンナリーゼ様のところへですか?」
「えぇ、ダリアと政略結婚をしてもらおうとしている男性が、私の元にいるからね。だから、物凄く大変だと思うの。私でも、ときどきねをあげて逃げ回っているのですもの!」
「それほどなのですか?」
「……嫌になった?今の話を聞いて」
少し考える素振りをしたあと、首を横にふるダリア。ニッコリと笑っているので、承諾してくれるようだ。
「私の領地へ来てくれるかしら?」
「喜んで、お願いします!」
「私の見込んだ人だから、ダリアのことを大事にしてくれるはずよ!じゃあ、エルドアから、オリーブの苗木と一緒に、花嫁をいただきましょう!私の友人もきっと喜ぶわ!すぐに知らせましょうか!」
ウィル!と窓から呼ぶと、何?と怪訝そうにこちらを睨む。そんな顔しないで欲しいわと文句を言ってやると、察したようで馬を後ろの馬車へと移動させていく。
元々、セバスからの申し出があるまでは乗り気ではなかったが、さてさて、この政略結婚をうまく纏めないとと私の中でやる気がむくむくとでてきたのであった。
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