1,058 / 1,480
オリーブの苗木より大事
しおりを挟む
「母上、さすがにそれは……こちらにも軍の、その……」
「そんなものはといいたいところですが、この国には必要ないでしょう。そう思いませんこと?国を国内からひっくり返すような爵位持ちなんて、ほしいともおもいませんことよ?」
だからって、私にあげると言われて、はいそうですかとならないものなのだが……困った。
ウィルの方をチラリと見れば、同じような表情をしている。セバスもナタリーもだ。
この国の軍師とも言われたダリアをいらないと……王妃がハッキリ言ったのだ。
「アンバー公なら、何かの役にたててくれるでしょ?こちらの国に置いておけば、また、何かされるかわかったものではありませんからね?」
「……それは、そうですけど、彼女が持っているであろうものは、多いはずです。伯爵という爵位があるのだから、それは……」
「領地云々のことでしたら、彼女は何も持っていませんよ?その才だけで、爵位を得ただけですから、屋敷も何もかもが借り物です」
王妃が言った言葉が本当なら、今のウィルとそう変わらない処遇なのかもしれない。爵位はあっても、何もないのだから。
「発言をお許し願えるでしょうか?」
急にウィルがこの話に入ってくる。視線はもちろんウィルに集まり、ばつの悪そうな表情を微かにする。
「いいわ。何かしら?」
「ありがとうございます。私、ローズディア公国で伯爵位を賜っているウィル・サーラーと申します」
「あら、あなたがそうなの?若いと聞いていましたが、なるほど。アンバー公のお気に入りということね?」
「……それだといいですけどね?それより、ウェスティン伯爵は、罪を侵したとまではお考えではないのですか?他国に押し付けるようなことをして……」
「私はね、ダリア・ウェスティンのことは、小さいころから知っているの。元々はここのメイドだったのですから。王宮での暮らしは、友人たちに囲まれ、楽しそうにしていたわ。ある日、王女が自国の令嬢とチェスをしていたとき、負けそうになったのよ」
「それは……致し方ないことではないですか?」
「確かに。ただ、負けることが悔しかったのよ。それで、負けを自分のものではなく、たまたまその場に居合わせたあの子に押し付けたの」
「聞いたことがない話ですね?そんなことがあったのですか?」
「えぇ、あと5駒ほど動かせばチェックメイト。それをどうやったのか、ひっくり返してしまった。それが元で、いろいろな貴族とチェスをして、負けることのなかったダリアを軍に招き入れたのよ」
殿方って、本当に……と大きなため息をついた王妃に私も苦笑いをする。どちらかというと、私もそちらに近いから。
「友人とも離れてしまい、あの子は笑う場所を無くしてしまったのよ。アンバー公なら、あの子にその場を提供してくれるのではないかと思って。側に……おいてあげてほしいのよ」
「……私にできることなら、その手をとって差し上げることも出来ますが、本当によろしいのですか?彼女ほどの才を持つものは、なかなかいないのではないですか?」
「そうかもしれないわ。でも、才あるものなら、あなたの側にいる方がなおいいでしょう。そちらのお嬢さん、自信に満ちた顔をしているもの。女性が生きにくい貴族社会でも、それほどの輝きを出せるのは、アンバー公がいるからでは無くて?」
ナタリーを指しているその言葉をとても嬉しく思う。決して平坦な道のりではないナタリーの道も、自身が信じたことのために突き進んでいる。
私の中で、ナタリーほど強い女性は知らなかった。何十人もの女性を守りながら過ごした日々も、領地へ出てたくさんの女性の活動の場を広げていっていることも、その全てに真摯に向き合い道の先を切り開いていく。
この短いあいだに、ナタリーのことに気付く王妃もなかなかのものだと思えた。
「はい。私は、アンバー公アンナリーゼ様を心の底から敬愛しております。私は父に道具として政略結婚をさせられましたが、今は一人になり、領地改革をお手伝いさせていただいています。今の私があるのは、ひとえにアンバー公と学生のときに出会ったから……何物にも代えがたい宝物のような繋がりです」
「そうであろう?私もそう思う。ダリアは、アンバー公に負けたと私に連絡をしてきた。アンバー公のものになるという話だと聞いて驚いていたのだが、結婚して第二夫人にでもなるのかと思っていたら、そうではないという。本当に、おっかなびっくりなことだ……」
「……お騒がせしました」
「いいのだ。それより……」
「いいですけど、いただいた限りは、お返ししませんよ?爵位はないとはいえ、元貴族です。それ相応の生活は保障いたしますが……」
受け入れなくてはならなくなって、心の内はため息が出る。誰か、嫁にもらってくれないだろうか……と、ぼんやり考えながら、セバスの方を見れば、視線があった。
考えることが多くなりすぎて、オリーブの苗木をもらうより、大事になってしまった。イチアに任せたらダメかな?とか、私の助手にする?とか、コーコナの領主をジョージが成人するまでしてもらう?とか、頭の中はフル回転している。
でも、まずは、公爵家の中でしばらくいろいろなやり方を覚えてもらわないといけないなぁ……と、教育係をどうしたものかと考えた。
「そんなものはといいたいところですが、この国には必要ないでしょう。そう思いませんこと?国を国内からひっくり返すような爵位持ちなんて、ほしいともおもいませんことよ?」
だからって、私にあげると言われて、はいそうですかとならないものなのだが……困った。
ウィルの方をチラリと見れば、同じような表情をしている。セバスもナタリーもだ。
この国の軍師とも言われたダリアをいらないと……王妃がハッキリ言ったのだ。
「アンバー公なら、何かの役にたててくれるでしょ?こちらの国に置いておけば、また、何かされるかわかったものではありませんからね?」
「……それは、そうですけど、彼女が持っているであろうものは、多いはずです。伯爵という爵位があるのだから、それは……」
「領地云々のことでしたら、彼女は何も持っていませんよ?その才だけで、爵位を得ただけですから、屋敷も何もかもが借り物です」
王妃が言った言葉が本当なら、今のウィルとそう変わらない処遇なのかもしれない。爵位はあっても、何もないのだから。
「発言をお許し願えるでしょうか?」
急にウィルがこの話に入ってくる。視線はもちろんウィルに集まり、ばつの悪そうな表情を微かにする。
「いいわ。何かしら?」
「ありがとうございます。私、ローズディア公国で伯爵位を賜っているウィル・サーラーと申します」
「あら、あなたがそうなの?若いと聞いていましたが、なるほど。アンバー公のお気に入りということね?」
「……それだといいですけどね?それより、ウェスティン伯爵は、罪を侵したとまではお考えではないのですか?他国に押し付けるようなことをして……」
「私はね、ダリア・ウェスティンのことは、小さいころから知っているの。元々はここのメイドだったのですから。王宮での暮らしは、友人たちに囲まれ、楽しそうにしていたわ。ある日、王女が自国の令嬢とチェスをしていたとき、負けそうになったのよ」
「それは……致し方ないことではないですか?」
「確かに。ただ、負けることが悔しかったのよ。それで、負けを自分のものではなく、たまたまその場に居合わせたあの子に押し付けたの」
「聞いたことがない話ですね?そんなことがあったのですか?」
「えぇ、あと5駒ほど動かせばチェックメイト。それをどうやったのか、ひっくり返してしまった。それが元で、いろいろな貴族とチェスをして、負けることのなかったダリアを軍に招き入れたのよ」
殿方って、本当に……と大きなため息をついた王妃に私も苦笑いをする。どちらかというと、私もそちらに近いから。
「友人とも離れてしまい、あの子は笑う場所を無くしてしまったのよ。アンバー公なら、あの子にその場を提供してくれるのではないかと思って。側に……おいてあげてほしいのよ」
「……私にできることなら、その手をとって差し上げることも出来ますが、本当によろしいのですか?彼女ほどの才を持つものは、なかなかいないのではないですか?」
「そうかもしれないわ。でも、才あるものなら、あなたの側にいる方がなおいいでしょう。そちらのお嬢さん、自信に満ちた顔をしているもの。女性が生きにくい貴族社会でも、それほどの輝きを出せるのは、アンバー公がいるからでは無くて?」
ナタリーを指しているその言葉をとても嬉しく思う。決して平坦な道のりではないナタリーの道も、自身が信じたことのために突き進んでいる。
私の中で、ナタリーほど強い女性は知らなかった。何十人もの女性を守りながら過ごした日々も、領地へ出てたくさんの女性の活動の場を広げていっていることも、その全てに真摯に向き合い道の先を切り開いていく。
この短いあいだに、ナタリーのことに気付く王妃もなかなかのものだと思えた。
「はい。私は、アンバー公アンナリーゼ様を心の底から敬愛しております。私は父に道具として政略結婚をさせられましたが、今は一人になり、領地改革をお手伝いさせていただいています。今の私があるのは、ひとえにアンバー公と学生のときに出会ったから……何物にも代えがたい宝物のような繋がりです」
「そうであろう?私もそう思う。ダリアは、アンバー公に負けたと私に連絡をしてきた。アンバー公のものになるという話だと聞いて驚いていたのだが、結婚して第二夫人にでもなるのかと思っていたら、そうではないという。本当に、おっかなびっくりなことだ……」
「……お騒がせしました」
「いいのだ。それより……」
「いいですけど、いただいた限りは、お返ししませんよ?爵位はないとはいえ、元貴族です。それ相応の生活は保障いたしますが……」
受け入れなくてはならなくなって、心の内はため息が出る。誰か、嫁にもらってくれないだろうか……と、ぼんやり考えながら、セバスの方を見れば、視線があった。
考えることが多くなりすぎて、オリーブの苗木をもらうより、大事になってしまった。イチアに任せたらダメかな?とか、私の助手にする?とか、コーコナの領主をジョージが成人するまでしてもらう?とか、頭の中はフル回転している。
でも、まずは、公爵家の中でしばらくいろいろなやり方を覚えてもらわないといけないなぁ……と、教育係をどうしたものかと考えた。
0
お気に入りに追加
120
あなたにおすすめの小説
挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました
結城芙由奈
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】
今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。
「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」
そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。
そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。
けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。
その真意を知った時、私は―。
※暫く鬱展開が続きます
※他サイトでも投稿中
悲恋を気取った侯爵夫人の末路
三木谷夜宵
ファンタジー
侯爵夫人のプリシアは、貴族令嬢と騎士の悲恋を描いた有名なロマンス小説のモデルとして持て囃されていた。
順風満帆だった彼女の人生は、ある日突然に終わりを告げる。
悲恋のヒロインを気取っていた彼女が犯した過ちとは──?
カクヨムにも公開してます。
側妃、で御座いますか?承知いたしました、ただし条件があります。
とうや
恋愛
「私はシャーロットを妻にしようと思う。君は側妃になってくれ」
成婚の儀を迎える半年前。王太子セオドアは、15年も婚約者だったエマにそう言った。微笑んだままのエマ・シーグローブ公爵令嬢と、驚きの余り硬直する近衛騎士ケイレブ・シェパード。幼馴染だった3人の関係は、シャーロットという少女によって崩れた。
「側妃、で御座いますか?承知いたしました、ただし条件があります」
********************************************
ATTENTION
********************************************
*世界軸は『側近候補を外されて覚醒したら〜』あたりの、なんちゃってヨーロッパ風。魔法はあるけれど魔王もいないし神様も遠い存在。そんなご都合主義で設定うすうすの世界です。
*いつものような残酷な表現はありませんが、倫理観に難ありで軽い胸糞です。タグを良くご覧ください。
*R-15は保険です。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
逃した番は他国に嫁ぐ
基本二度寝
恋愛
「番が現れたら、婚約を解消してほしい」
婚約者との茶会。
和やかな会話が落ち着いた所で、改まって座を正した王太子ヴェロージオは婚約者の公爵令嬢グリシアにそう願った。
獣人の血が交じるこの国で、番というものの存在の大きさは誰しも理解している。
だから、グリシアも頷いた。
「はい。わかりました。お互いどちらかが番と出会えたら円満に婚約解消をしましょう!」
グリシアに答えに満足したはずなのだが、ヴェロージオの心に沸き上がる感情。
こちらの希望を受け入れられたはずのに…、何故か、もやっとした気持ちになった。
《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。
友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」
貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。
「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」
耳を疑いそう聞き返すも、
「君も、その方が良いのだろう?」
苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。
全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。
絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。
だったのですが。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる