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オリーブの苗木より大事
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「母上、さすがにそれは……こちらにも軍の、その……」
「そんなものはといいたいところですが、この国には必要ないでしょう。そう思いませんこと?国を国内からひっくり返すような爵位持ちなんて、ほしいともおもいませんことよ?」
だからって、私にあげると言われて、はいそうですかとならないものなのだが……困った。
ウィルの方をチラリと見れば、同じような表情をしている。セバスもナタリーもだ。
この国の軍師とも言われたダリアをいらないと……王妃がハッキリ言ったのだ。
「アンバー公なら、何かの役にたててくれるでしょ?こちらの国に置いておけば、また、何かされるかわかったものではありませんからね?」
「……それは、そうですけど、彼女が持っているであろうものは、多いはずです。伯爵という爵位があるのだから、それは……」
「領地云々のことでしたら、彼女は何も持っていませんよ?その才だけで、爵位を得ただけですから、屋敷も何もかもが借り物です」
王妃が言った言葉が本当なら、今のウィルとそう変わらない処遇なのかもしれない。爵位はあっても、何もないのだから。
「発言をお許し願えるでしょうか?」
急にウィルがこの話に入ってくる。視線はもちろんウィルに集まり、ばつの悪そうな表情を微かにする。
「いいわ。何かしら?」
「ありがとうございます。私、ローズディア公国で伯爵位を賜っているウィル・サーラーと申します」
「あら、あなたがそうなの?若いと聞いていましたが、なるほど。アンバー公のお気に入りということね?」
「……それだといいですけどね?それより、ウェスティン伯爵は、罪を侵したとまではお考えではないのですか?他国に押し付けるようなことをして……」
「私はね、ダリア・ウェスティンのことは、小さいころから知っているの。元々はここのメイドだったのですから。王宮での暮らしは、友人たちに囲まれ、楽しそうにしていたわ。ある日、王女が自国の令嬢とチェスをしていたとき、負けそうになったのよ」
「それは……致し方ないことではないですか?」
「確かに。ただ、負けることが悔しかったのよ。それで、負けを自分のものではなく、たまたまその場に居合わせたあの子に押し付けたの」
「聞いたことがない話ですね?そんなことがあったのですか?」
「えぇ、あと5駒ほど動かせばチェックメイト。それをどうやったのか、ひっくり返してしまった。それが元で、いろいろな貴族とチェスをして、負けることのなかったダリアを軍に招き入れたのよ」
殿方って、本当に……と大きなため息をついた王妃に私も苦笑いをする。どちらかというと、私もそちらに近いから。
「友人とも離れてしまい、あの子は笑う場所を無くしてしまったのよ。アンバー公なら、あの子にその場を提供してくれるのではないかと思って。側に……おいてあげてほしいのよ」
「……私にできることなら、その手をとって差し上げることも出来ますが、本当によろしいのですか?彼女ほどの才を持つものは、なかなかいないのではないですか?」
「そうかもしれないわ。でも、才あるものなら、あなたの側にいる方がなおいいでしょう。そちらのお嬢さん、自信に満ちた顔をしているもの。女性が生きにくい貴族社会でも、それほどの輝きを出せるのは、アンバー公がいるからでは無くて?」
ナタリーを指しているその言葉をとても嬉しく思う。決して平坦な道のりではないナタリーの道も、自身が信じたことのために突き進んでいる。
私の中で、ナタリーほど強い女性は知らなかった。何十人もの女性を守りながら過ごした日々も、領地へ出てたくさんの女性の活動の場を広げていっていることも、その全てに真摯に向き合い道の先を切り開いていく。
この短いあいだに、ナタリーのことに気付く王妃もなかなかのものだと思えた。
「はい。私は、アンバー公アンナリーゼ様を心の底から敬愛しております。私は父に道具として政略結婚をさせられましたが、今は一人になり、領地改革をお手伝いさせていただいています。今の私があるのは、ひとえにアンバー公と学生のときに出会ったから……何物にも代えがたい宝物のような繋がりです」
「そうであろう?私もそう思う。ダリアは、アンバー公に負けたと私に連絡をしてきた。アンバー公のものになるという話だと聞いて驚いていたのだが、結婚して第二夫人にでもなるのかと思っていたら、そうではないという。本当に、おっかなびっくりなことだ……」
「……お騒がせしました」
「いいのだ。それより……」
「いいですけど、いただいた限りは、お返ししませんよ?爵位はないとはいえ、元貴族です。それ相応の生活は保障いたしますが……」
受け入れなくてはならなくなって、心の内はため息が出る。誰か、嫁にもらってくれないだろうか……と、ぼんやり考えながら、セバスの方を見れば、視線があった。
考えることが多くなりすぎて、オリーブの苗木をもらうより、大事になってしまった。イチアに任せたらダメかな?とか、私の助手にする?とか、コーコナの領主をジョージが成人するまでしてもらう?とか、頭の中はフル回転している。
でも、まずは、公爵家の中でしばらくいろいろなやり方を覚えてもらわないといけないなぁ……と、教育係をどうしたものかと考えた。
「そんなものはといいたいところですが、この国には必要ないでしょう。そう思いませんこと?国を国内からひっくり返すような爵位持ちなんて、ほしいともおもいませんことよ?」
だからって、私にあげると言われて、はいそうですかとならないものなのだが……困った。
ウィルの方をチラリと見れば、同じような表情をしている。セバスもナタリーもだ。
この国の軍師とも言われたダリアをいらないと……王妃がハッキリ言ったのだ。
「アンバー公なら、何かの役にたててくれるでしょ?こちらの国に置いておけば、また、何かされるかわかったものではありませんからね?」
「……それは、そうですけど、彼女が持っているであろうものは、多いはずです。伯爵という爵位があるのだから、それは……」
「領地云々のことでしたら、彼女は何も持っていませんよ?その才だけで、爵位を得ただけですから、屋敷も何もかもが借り物です」
王妃が言った言葉が本当なら、今のウィルとそう変わらない処遇なのかもしれない。爵位はあっても、何もないのだから。
「発言をお許し願えるでしょうか?」
急にウィルがこの話に入ってくる。視線はもちろんウィルに集まり、ばつの悪そうな表情を微かにする。
「いいわ。何かしら?」
「ありがとうございます。私、ローズディア公国で伯爵位を賜っているウィル・サーラーと申します」
「あら、あなたがそうなの?若いと聞いていましたが、なるほど。アンバー公のお気に入りということね?」
「……それだといいですけどね?それより、ウェスティン伯爵は、罪を侵したとまではお考えではないのですか?他国に押し付けるようなことをして……」
「私はね、ダリア・ウェスティンのことは、小さいころから知っているの。元々はここのメイドだったのですから。王宮での暮らしは、友人たちに囲まれ、楽しそうにしていたわ。ある日、王女が自国の令嬢とチェスをしていたとき、負けそうになったのよ」
「それは……致し方ないことではないですか?」
「確かに。ただ、負けることが悔しかったのよ。それで、負けを自分のものではなく、たまたまその場に居合わせたあの子に押し付けたの」
「聞いたことがない話ですね?そんなことがあったのですか?」
「えぇ、あと5駒ほど動かせばチェックメイト。それをどうやったのか、ひっくり返してしまった。それが元で、いろいろな貴族とチェスをして、負けることのなかったダリアを軍に招き入れたのよ」
殿方って、本当に……と大きなため息をついた王妃に私も苦笑いをする。どちらかというと、私もそちらに近いから。
「友人とも離れてしまい、あの子は笑う場所を無くしてしまったのよ。アンバー公なら、あの子にその場を提供してくれるのではないかと思って。側に……おいてあげてほしいのよ」
「……私にできることなら、その手をとって差し上げることも出来ますが、本当によろしいのですか?彼女ほどの才を持つものは、なかなかいないのではないですか?」
「そうかもしれないわ。でも、才あるものなら、あなたの側にいる方がなおいいでしょう。そちらのお嬢さん、自信に満ちた顔をしているもの。女性が生きにくい貴族社会でも、それほどの輝きを出せるのは、アンバー公がいるからでは無くて?」
ナタリーを指しているその言葉をとても嬉しく思う。決して平坦な道のりではないナタリーの道も、自身が信じたことのために突き進んでいる。
私の中で、ナタリーほど強い女性は知らなかった。何十人もの女性を守りながら過ごした日々も、領地へ出てたくさんの女性の活動の場を広げていっていることも、その全てに真摯に向き合い道の先を切り開いていく。
この短いあいだに、ナタリーのことに気付く王妃もなかなかのものだと思えた。
「はい。私は、アンバー公アンナリーゼ様を心の底から敬愛しております。私は父に道具として政略結婚をさせられましたが、今は一人になり、領地改革をお手伝いさせていただいています。今の私があるのは、ひとえにアンバー公と学生のときに出会ったから……何物にも代えがたい宝物のような繋がりです」
「そうであろう?私もそう思う。ダリアは、アンバー公に負けたと私に連絡をしてきた。アンバー公のものになるという話だと聞いて驚いていたのだが、結婚して第二夫人にでもなるのかと思っていたら、そうではないという。本当に、おっかなびっくりなことだ……」
「……お騒がせしました」
「いいのだ。それより……」
「いいですけど、いただいた限りは、お返ししませんよ?爵位はないとはいえ、元貴族です。それ相応の生活は保障いたしますが……」
受け入れなくてはならなくなって、心の内はため息が出る。誰か、嫁にもらってくれないだろうか……と、ぼんやり考えながら、セバスの方を見れば、視線があった。
考えることが多くなりすぎて、オリーブの苗木をもらうより、大事になってしまった。イチアに任せたらダメかな?とか、私の助手にする?とか、コーコナの領主をジョージが成人するまでしてもらう?とか、頭の中はフル回転している。
でも、まずは、公爵家の中でしばらくいろいろなやり方を覚えてもらわないといけないなぁ……と、教育係をどうしたものかと考えた。
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