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それよりも
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王妃を前に、ずっとこのままなのかと思ったところで、チラリとこちらをみられた。確か、側妃を迎えるために王との謁見を申し込んでいたことを思い出し、着飾っているナタリーの方を見たのだろう。そのあと、私を見てくる。視線が、ジッとこちらを捕らえたまま動かない。
「そこのもの、別室に。ついてまいるように。あと、その男、今すぐ、首を刎ねよ!」
私は顔をあげ、王妃の方を見る。側妃候補のナタリーではなく、私に言った言葉だと視線でわかった。ただ、それについていく義理はないはずだ。王太子が、慌てて王妃と私のあいだに割って入る。
「母上、このものは、侍女です。その……」
「だまらっしゃい。そなたもついてきなさい。他のものも。宰相はどこに?」
「……た、ただいま!」
よろよろとかけてくる男性は、汗をびっしりかいている。なんだか見ているほうが可哀想になるくらいなのだが、王妃の命令にははきはきと応えるつもりがあるのだろう。
「そのものを王宮の応接室へ。陛下は、寝室へ。第二妃が準備を整えておるから、メイドたちに対応をさせて」
「あの……王妃殿下?お言葉ですが……今、王妃殿下が応接室へといったものは、子爵令嬢の侍女では?」
「そなたらの目は節穴か?だから、陛下がここまでになっていてもきがつかなんだのだ!貴族どもの好きなようにさせた、そなたらにも十分な罪があると思え!」
「はいぃ!」
……宰相って、どこも王族に振り回されている感じなのかしら?ハリーのお父様はそんな感じではなかったけど。
自身が振り回していたということは知らぬことではあったが、トワイス国宰相を思い浮かべ、目の前のへこへことしている宰相は、役職が務まるのか不安になる。
「子爵令嬢より、そっちの侍女の方が何倍も気になるのが普通だと思うけど……そうではなくて?」
「……母上。相変わらず、勘が冴えわたっていますね」
「そうでしょ?私の勘はあたるのよ」
いくわよ!という王妃にもうついていくしかない。ウィルたちを見て、頷きあい、抵抗しない方向でまとまった。王太子からもすまないという合図があり、ヒーナへ視線を送って、兵士にニックを渡すよう促した。
庭園が見える場所まで歩き、その少し前に部屋が見える。お茶会の準備……ではなく、昼食の準備をしているのか、お腹のむしをくすぐるようないい匂いがしてきた。
扉が開き部屋に入れば、そこには、昼食の用意がされている。料理人が、壁際に立ち、料理の準備を今か今かと待ち構えていた。
かけてちょうだいと言われ、私たちはそれぞれ用意された場所へ向かう。この場合、侍女である私は王族と食卓を一緒にすることも出来ないが、王太子が私とウィルとナタリーを反対側に、セバスを自身の隣に座るようにというので、言われた通りにした。もちろん、王妃は、1番位の高い場所へ座る。
「そろそろベールをとって下さらない?お名前を聞きたいわ」
「失礼いたしました、私、ローズディア公国公爵アンナリーゼ・トロン・アンバーです。王妃様へのご挨拶が遅れ、申し訳ございません」
「いいのよ。やはりあなたの方が、身分が上だったのね?何か考えてのことだったとはいえ、見事なものです」
「恐れ入ります」
つけていたベールを椅子の背もたれにかけ、微笑むと満足そうにしている。
「昼食に誘えてよかったわ。ところで、側妃の話ですけど……」
「あの、それは……私が話してもいいでしょうか?」
「本当なら、王太子が話すべきですけど、いいでしょう。何かあるのよね?」
「はい。王の様子を私が見たいと殿下に申し出たからです」
「それは、どうして?王との謁見なら、あなたが望めば出来るでしょう?」
「そうですね。でも、私が、出てしまうと、相手が出てきてくれないと困るので、王太子殿下には、側妃を迎えるという名目で敵方を油断させることにしました。大変失礼なことを……」
「どこが失礼なの?全く……王太子妃にはこれくらいの気概がある子ではないと!すぐにでも、王室へ迎えたいくらいだわ!」
「……母上?アンバー公爵は、ローズディアで爵位を得ていますし……それに」
「爵位ぐらいがどうしたの?そんなことより、いつ婚約を発表……」
「しませんよ!アンバー公はすでに嫁がれている身ですから。お子さんもいらっしゃいますし、旦那様にはとても愛されているのですから」
そうですかと残念そうにしている王妃には悪いが、ジョージア以外、誰とも結婚するつもりはないし、今更、変な噂をたてられても困る。ナタリーもいなくなると困るので、売り込むことはしない。
「あの、ところで、窺ってもいいですか?」
「何なりと」
「このオイル……とてもおいしいのですけど、なんていうものなのですか?」
「オリーブオイルのことかしら?」
「はい。そうです。このオイルの話を聞いてもいいですか?」
さすがに、話を逸らしたくて、口に運んだときにおいしいと感じたオイルについて聞くことにした。ウィルはやや苦手そうにしているが、ナタリーとセバスはおいしいと頬を緩ませている。どうやら、これは、次の特産品に繋がりそうなものだと、心の中では大はしゃぎをするのであった。
「そこのもの、別室に。ついてまいるように。あと、その男、今すぐ、首を刎ねよ!」
私は顔をあげ、王妃の方を見る。側妃候補のナタリーではなく、私に言った言葉だと視線でわかった。ただ、それについていく義理はないはずだ。王太子が、慌てて王妃と私のあいだに割って入る。
「母上、このものは、侍女です。その……」
「だまらっしゃい。そなたもついてきなさい。他のものも。宰相はどこに?」
「……た、ただいま!」
よろよろとかけてくる男性は、汗をびっしりかいている。なんだか見ているほうが可哀想になるくらいなのだが、王妃の命令にははきはきと応えるつもりがあるのだろう。
「そのものを王宮の応接室へ。陛下は、寝室へ。第二妃が準備を整えておるから、メイドたちに対応をさせて」
「あの……王妃殿下?お言葉ですが……今、王妃殿下が応接室へといったものは、子爵令嬢の侍女では?」
「そなたらの目は節穴か?だから、陛下がここまでになっていてもきがつかなんだのだ!貴族どもの好きなようにさせた、そなたらにも十分な罪があると思え!」
「はいぃ!」
……宰相って、どこも王族に振り回されている感じなのかしら?ハリーのお父様はそんな感じではなかったけど。
自身が振り回していたということは知らぬことではあったが、トワイス国宰相を思い浮かべ、目の前のへこへことしている宰相は、役職が務まるのか不安になる。
「子爵令嬢より、そっちの侍女の方が何倍も気になるのが普通だと思うけど……そうではなくて?」
「……母上。相変わらず、勘が冴えわたっていますね」
「そうでしょ?私の勘はあたるのよ」
いくわよ!という王妃にもうついていくしかない。ウィルたちを見て、頷きあい、抵抗しない方向でまとまった。王太子からもすまないという合図があり、ヒーナへ視線を送って、兵士にニックを渡すよう促した。
庭園が見える場所まで歩き、その少し前に部屋が見える。お茶会の準備……ではなく、昼食の準備をしているのか、お腹のむしをくすぐるようないい匂いがしてきた。
扉が開き部屋に入れば、そこには、昼食の用意がされている。料理人が、壁際に立ち、料理の準備を今か今かと待ち構えていた。
かけてちょうだいと言われ、私たちはそれぞれ用意された場所へ向かう。この場合、侍女である私は王族と食卓を一緒にすることも出来ないが、王太子が私とウィルとナタリーを反対側に、セバスを自身の隣に座るようにというので、言われた通りにした。もちろん、王妃は、1番位の高い場所へ座る。
「そろそろベールをとって下さらない?お名前を聞きたいわ」
「失礼いたしました、私、ローズディア公国公爵アンナリーゼ・トロン・アンバーです。王妃様へのご挨拶が遅れ、申し訳ございません」
「いいのよ。やはりあなたの方が、身分が上だったのね?何か考えてのことだったとはいえ、見事なものです」
「恐れ入ります」
つけていたベールを椅子の背もたれにかけ、微笑むと満足そうにしている。
「昼食に誘えてよかったわ。ところで、側妃の話ですけど……」
「あの、それは……私が話してもいいでしょうか?」
「本当なら、王太子が話すべきですけど、いいでしょう。何かあるのよね?」
「はい。王の様子を私が見たいと殿下に申し出たからです」
「それは、どうして?王との謁見なら、あなたが望めば出来るでしょう?」
「そうですね。でも、私が、出てしまうと、相手が出てきてくれないと困るので、王太子殿下には、側妃を迎えるという名目で敵方を油断させることにしました。大変失礼なことを……」
「どこが失礼なの?全く……王太子妃にはこれくらいの気概がある子ではないと!すぐにでも、王室へ迎えたいくらいだわ!」
「……母上?アンバー公爵は、ローズディアで爵位を得ていますし……それに」
「爵位ぐらいがどうしたの?そんなことより、いつ婚約を発表……」
「しませんよ!アンバー公はすでに嫁がれている身ですから。お子さんもいらっしゃいますし、旦那様にはとても愛されているのですから」
そうですかと残念そうにしている王妃には悪いが、ジョージア以外、誰とも結婚するつもりはないし、今更、変な噂をたてられても困る。ナタリーもいなくなると困るので、売り込むことはしない。
「あの、ところで、窺ってもいいですか?」
「何なりと」
「このオイル……とてもおいしいのですけど、なんていうものなのですか?」
「オリーブオイルのことかしら?」
「はい。そうです。このオイルの話を聞いてもいいですか?」
さすがに、話を逸らしたくて、口に運んだときにおいしいと感じたオイルについて聞くことにした。ウィルはやや苦手そうにしているが、ナタリーとセバスはおいしいと頬を緩ませている。どうやら、これは、次の特産品に繋がりそうなものだと、心の中では大はしゃぎをするのであった。
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