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見事なものだ
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「ウィルより私の方が、たくさん倒したんじゃない?」
「俺は、飛び出していった姫さんの補佐をしただけだから、少なくて当然じゃない?」
「そこは、男性だし、私より力もあるじゃない?」
「……確かに。でも、背中を守るものも必要だろ?」
「ウィル以外いないから、大丈夫!」
ウィルが大きくため息をついたとき、王太子の前まで戻ってきた。嬉々として飛び出した私は、久しぶりに暴れ回ったのでニコニコとしていたが、セバスはそうではないらしい。ジョージアがよくしているようにこめかみをグリグリと押しているので、どうしたの?とコテンと首を傾げてみた。
「アンナリーゼ様!何をなさっているのですか?あなたには、立場があるのですよ?わかっていますか?」
「……わかっているけど、今は、侍女だし……」
「そんな言い訳は聞きません!他所の城で、公爵が暴れるなど、ダメでしょう?」
「……ごめんなさい。セバス」
「まぁ、その……向こうのやつらもきちんと捕らえたんだしさ?許してやってよ?セバス」
「ウィルもだ。アンナリーゼ様をとめるならまだしも、久方ぶりに二人で剣を振ったからと言って、顔が笑いすぎだ!不謹慎にもほどがある!」
叱られる私に助け船を出したウィルも一緒にセバスに叱られた。ナタリーに何も言われないのは、しかたないではないかという表情だ。
「セバス、それくらいしておきなさい。アンナリーゼ様とウィルの働きで、この場のものは捕らえられたのだから、いいではない」
「ナタリー、それでは示しが……」
「大丈夫。今、ここで、アンナリーゼ様だってことを知っているのは、私たちだけだから。まさか、女公爵が剣を振り回して悪党どもをとっつ構える最前線で、踊っているなんて考えるのは、私たちやジョージア様、ウィルの大隊とあの甘ちゃん坊ちゃんたちだけよ?」
「それはそうだけど……」
「それに、今は私の侍女よ?そのベールを取らない限り、アンナリーゼ様だってことは、わからないわ!」
セバスがジッとこっちを見てくる。レース越しの私からは、セバスたちの様子がよく見えるのだが、ムッとしているセバスは珍しい。後ろで王太子が苦笑いをしているのが見えた。
「見事なものだな?剣術もさながら、体捌きが素晴らしい」
「ありがとうございます!
スカートをつまんで、お辞儀をすれば、クスクス笑っている。何がおもしろいのかと見上げても、王太子の考えていることがよくわからなかった。
「どこで習ったんだ?まさか、城とは言わないだろう?」
「母からです。名門武門の出身ですので。未だに私は母には勝てませんが……」
「なるほど……トワイスで有名な武門とは、さすがだ。そういえば、息ひとつ乱れていない。ウィル・サーラーは近衛で鍛えているだろうが……アンバー公は、違うであろう?」
「……多少は、体づくりはしておりますよ?想像した通りに体が動かないのは、やはり不便ですし、いつも命を狙われている身なので、これくらいは……」
「……アンバー公も大変なのだな?」
「えぇ、お陰様で」
「そうそう。もう一人のアンバー公には、さっきのことは言わないでおこう。あくまで、侍女がしたこととして、片付けておく」
ありがとうございます!と声をはずませて言うと、視線がどうにも痛かった。お構いなしに王太子と並ぶナタリーの側に向かい、改めて王の方を見た。化粧で誤魔化されているように見えるが、先程より近くで見れば、その顔色が悪いことも、目の焦点が合っていないことも、口からよだれが垂れていることも見て取れた。
「……ひどいですね」
「あぁ、そうだな。ここに至るまでに早く気づけたかもしれなかったのに、悔やまれて仕方がない」
「私からは何も言えないけど……多くのものが働いている王宮。それぞれの思惑が複雑に絡み合ってしまった結果ですね。どこまで、回復させられるかはわかりませんが……これからが大変かと」
「この症状になった場合、どうなるのだ?」
「麻薬が切れれば、禁断症状が出てきます。暴れたり、幻覚幻聴はあるでしょう。味方であっても、敵として扱われたり、家族が支えるとすれば、先に家族が参ってしまうかもしれません。可哀想ですが……メイドたちにお世話を任せ、ときおり声をかける……その程度で距離を取った方がいいかもしれません」
「……それほどまでに、辛く厳しいのか?」
「えぇ、麻薬の接種が過剰だったことにより、死の手前まで進行しているでしょう。私は医師ではないので診断はできませんが……」
王を見ていた視線を王太子の方を見ると、悔しそうにしている。エルドアの王と王太子はの仲は悪くないと聞いていた。距離があるのは、王として王太子として接するためであっただろうが、そこを狙われたのだ。
仕方がない……と自身に言い聞かせているような王太子は、可哀想に思えた。そのとき、不意に王が出入りする扉が開いた。
その姿は、威厳ある王妃である。私たちはその場に傅き、声がかかるのを待つ。
「これは一体何が起こっているのかしら?」
驚いているというより、起こっていることを説明するよう王太子に説明を求めている。
「……母上」
「どうしたのだ?」
「父をどうか……」
王太子は、それ以上言葉にならなかったが、玉座に座る王を見て、わかったと力強く返事をする。
どこの家でも、女性は肝が据わっている……颯爽としている様は我が家の女王様を思い出し、胸に少しの寂しさを感じた。
「俺は、飛び出していった姫さんの補佐をしただけだから、少なくて当然じゃない?」
「そこは、男性だし、私より力もあるじゃない?」
「……確かに。でも、背中を守るものも必要だろ?」
「ウィル以外いないから、大丈夫!」
ウィルが大きくため息をついたとき、王太子の前まで戻ってきた。嬉々として飛び出した私は、久しぶりに暴れ回ったのでニコニコとしていたが、セバスはそうではないらしい。ジョージアがよくしているようにこめかみをグリグリと押しているので、どうしたの?とコテンと首を傾げてみた。
「アンナリーゼ様!何をなさっているのですか?あなたには、立場があるのですよ?わかっていますか?」
「……わかっているけど、今は、侍女だし……」
「そんな言い訳は聞きません!他所の城で、公爵が暴れるなど、ダメでしょう?」
「……ごめんなさい。セバス」
「まぁ、その……向こうのやつらもきちんと捕らえたんだしさ?許してやってよ?セバス」
「ウィルもだ。アンナリーゼ様をとめるならまだしも、久方ぶりに二人で剣を振ったからと言って、顔が笑いすぎだ!不謹慎にもほどがある!」
叱られる私に助け船を出したウィルも一緒にセバスに叱られた。ナタリーに何も言われないのは、しかたないではないかという表情だ。
「セバス、それくらいしておきなさい。アンナリーゼ様とウィルの働きで、この場のものは捕らえられたのだから、いいではない」
「ナタリー、それでは示しが……」
「大丈夫。今、ここで、アンナリーゼ様だってことを知っているのは、私たちだけだから。まさか、女公爵が剣を振り回して悪党どもをとっつ構える最前線で、踊っているなんて考えるのは、私たちやジョージア様、ウィルの大隊とあの甘ちゃん坊ちゃんたちだけよ?」
「それはそうだけど……」
「それに、今は私の侍女よ?そのベールを取らない限り、アンナリーゼ様だってことは、わからないわ!」
セバスがジッとこっちを見てくる。レース越しの私からは、セバスたちの様子がよく見えるのだが、ムッとしているセバスは珍しい。後ろで王太子が苦笑いをしているのが見えた。
「見事なものだな?剣術もさながら、体捌きが素晴らしい」
「ありがとうございます!
スカートをつまんで、お辞儀をすれば、クスクス笑っている。何がおもしろいのかと見上げても、王太子の考えていることがよくわからなかった。
「どこで習ったんだ?まさか、城とは言わないだろう?」
「母からです。名門武門の出身ですので。未だに私は母には勝てませんが……」
「なるほど……トワイスで有名な武門とは、さすがだ。そういえば、息ひとつ乱れていない。ウィル・サーラーは近衛で鍛えているだろうが……アンバー公は、違うであろう?」
「……多少は、体づくりはしておりますよ?想像した通りに体が動かないのは、やはり不便ですし、いつも命を狙われている身なので、これくらいは……」
「……アンバー公も大変なのだな?」
「えぇ、お陰様で」
「そうそう。もう一人のアンバー公には、さっきのことは言わないでおこう。あくまで、侍女がしたこととして、片付けておく」
ありがとうございます!と声をはずませて言うと、視線がどうにも痛かった。お構いなしに王太子と並ぶナタリーの側に向かい、改めて王の方を見た。化粧で誤魔化されているように見えるが、先程より近くで見れば、その顔色が悪いことも、目の焦点が合っていないことも、口からよだれが垂れていることも見て取れた。
「……ひどいですね」
「あぁ、そうだな。ここに至るまでに早く気づけたかもしれなかったのに、悔やまれて仕方がない」
「私からは何も言えないけど……多くのものが働いている王宮。それぞれの思惑が複雑に絡み合ってしまった結果ですね。どこまで、回復させられるかはわかりませんが……これからが大変かと」
「この症状になった場合、どうなるのだ?」
「麻薬が切れれば、禁断症状が出てきます。暴れたり、幻覚幻聴はあるでしょう。味方であっても、敵として扱われたり、家族が支えるとすれば、先に家族が参ってしまうかもしれません。可哀想ですが……メイドたちにお世話を任せ、ときおり声をかける……その程度で距離を取った方がいいかもしれません」
「……それほどまでに、辛く厳しいのか?」
「えぇ、麻薬の接種が過剰だったことにより、死の手前まで進行しているでしょう。私は医師ではないので診断はできませんが……」
王を見ていた視線を王太子の方を見ると、悔しそうにしている。エルドアの王と王太子はの仲は悪くないと聞いていた。距離があるのは、王として王太子として接するためであっただろうが、そこを狙われたのだ。
仕方がない……と自身に言い聞かせているような王太子は、可哀想に思えた。そのとき、不意に王が出入りする扉が開いた。
その姿は、威厳ある王妃である。私たちはその場に傅き、声がかかるのを待つ。
「これは一体何が起こっているのかしら?」
驚いているというより、起こっていることを説明するよう王太子に説明を求めている。
「……母上」
「どうしたのだ?」
「父をどうか……」
王太子は、それ以上言葉にならなかったが、玉座に座る王を見て、わかったと力強く返事をする。
どこの家でも、女性は肝が据わっている……颯爽としている様は我が家の女王様を思い出し、胸に少しの寂しさを感じた。
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