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王城の正門を通りすぎる。王家の家紋の入った馬車は、検問もなしに通してくれる。私とウィルはどうなの?と渋い顔をしたが、他国のことには何も言えないので、国によりけりねと話合う。
「姫さんは、何持ってきたの?」
ウィルが武器の確認をしてくるので、私はスカートの裾を上げる。ナタリーがギョッとして慌ててスカートを降ろされた。チラリと見えたであろう白い鞘を見て頷いた。
ウィルは護衛という立場であるので、帯剣を許される唯一の存在だが、敵の城にいくのに何もないのは心もとないので、ナイフだけではなく、剣も持ってきたのだ。
「私も一応ナイフは持ってきています。役に立つとは思えないですけど……」
そう言いながら、セバスの方を見た。もちろんセバスは何も持ってきていないようで、ナタリーのナイフを持ってきたという言葉に焦っている。
「ないよりはマシって感じかなぁ?」
スカートの裾からゴソゴソとするので、ナタリーにはしたないと叱られつつ引っ張り出したものをセバスに渡す。
「背中にでも差しておいて。ベルトに挟む感じで。セバスは姿勢がいいから、背中にあってもわからないでしょ?」
「……いいのですか?」
「もちろんよ!ないよりかはいいはず。私、愛剣があるから、他はよっぽどのことがないと使わないし」
「てかさ、姫さんのスカートの中、どうなってるわけ?なんか、いろいろ出てきそうなんだけど……」
「うーん、そんなにはないかなぁ?万能解毒薬とか、投げナイフとか……あとは、身分証明するためのディルからもらったナイフくらいだよ?」
「……俺からしたら、十分すぎる」
若干引いているウィルに失礼ね?と睨むころには、王宮の正門に着いた。黙ってはいるが、ヒーナもついてきており、1番に降りる。私もそのあとを続き、子爵令嬢ナタリーを降ろす役目をかってでた。
「ナタリー!よく来てくれたね?」
「殿下……私……私、本当によろしいのですか?」
いつもの強気なナタリーはなりを潜め、か弱い令嬢を演じる。王太子は顔を合わせるのは2回目なので、あまり違和感なく受け止めてくれているが、いつもを知っている私たちは笑わないように、俯いたり咳払いしたりよそ事言ったりと忙しい。そんな私たちを見て、ナタリーが甘えるように王太子に寄りかかる。
……さすがの演技だなぁ。殿下も満更ではなさそうな顔してるけど、手強いわよ?ナタリーは。
嬉しそうに笑う王太子はさすがに何人も妃がいるだけあって、いろいろと上手だ。エスコートされるナタリーの後ろを静々と歩く私たちに気をつけながら、ゆっくり謁見の間へ向かう。
ちなみに、私の髪は目立つので、嫁入り前の侍女だからと特別にベールを被せてもらってある。
このベール、なかなか使い勝手がいいようだ。髪の色を隠すためにと思ってつけたのだが、瞳の色も隠せる。私の姿なんて、この国出回っていないだろうとは思っていたが、結婚前の時期には相当数の姿絵がこの国でも出回っていたことを聞かされているので、ちょうどよかった。
「父上、昨日話をさせていただきました子爵令嬢ナタリーです。エルドアへ観光に来ていたところ出会いまして……一瞬で恋に落ちました。是非とも、側室に迎えたいと思い、許可をいただきたく!」
えっ?っと思わず王太子を見たが、もちろん本気で話しているようだ。男性陣もヒーナも口元が引きつっているので、私と同じように思っているのだろう。恋に落ちたから、側妃にしてくれって……と。
ただ、当のナタリーは、素晴らしい。私たちの驚きなんて知らないというくらい。恋に恋した乙女全開で甘える。見ているこちらが、恥ずかしいくらいに。
「殿下、お約束いただきましたが……急には難しいのではないですか?私を側妃にだなんて……」
うるうるとした目を王太子に向け、そんなことはないよ!君に囁いた愛は本物だなんていうので、背中がぞわぞわし始める。
……やりすぎなんじゃないの?
目の前で繰り広げられる演劇……愛の囁き合いに、どうも腰が引けてくるが、効果はてきめんだった。
「王太子妃から聞いておる。ここ三日ほど、無断でいなくなったうえに、何やら贈り物をされたと言っておった。外でうつつをぬかしておったのか!」
「失礼な!私はいつでも本気ですよ?父上。このナタリーに心底惚れ込んだのです。私は、側妃として迎えると申しましたが……寵姫として側に置きたいと考えています!」
「そんなっ!いけませんわ!王太子妃様がいらっしゃるのに……殿下、今の言葉、取り消してくださいませ!」
慌てて否定するナタリーの迫真の演技、それを引き出せるだけの王太子の言葉に私たちは感嘆の声を上げそうになる。
そのとき、後ろからスカート引っ張るものがいた。ここへついてきていたヒーナだ。ヒーナも同じくベールをかぶっているので、視線をあちこち向けていたらしい。手をそっとヒーナに預けると、『王の隣にニック。その他、見える範囲に五人』と手の甲に書いてくれる。あらかじめ決めていたように、私がウィルに親指を当て、その後、指を5本当てるとセバスに同じようにしている。それを同じようにナタリーの背中に私が、王太子の背中にウィルが触れる。
それぞれが確認をできたところで、次なる段階へ入ったといえよう。
王太子が、少し前にナタリーを連れて歩き出した。玉座に向かう合図である。
「姫さんは、何持ってきたの?」
ウィルが武器の確認をしてくるので、私はスカートの裾を上げる。ナタリーがギョッとして慌ててスカートを降ろされた。チラリと見えたであろう白い鞘を見て頷いた。
ウィルは護衛という立場であるので、帯剣を許される唯一の存在だが、敵の城にいくのに何もないのは心もとないので、ナイフだけではなく、剣も持ってきたのだ。
「私も一応ナイフは持ってきています。役に立つとは思えないですけど……」
そう言いながら、セバスの方を見た。もちろんセバスは何も持ってきていないようで、ナタリーのナイフを持ってきたという言葉に焦っている。
「ないよりはマシって感じかなぁ?」
スカートの裾からゴソゴソとするので、ナタリーにはしたないと叱られつつ引っ張り出したものをセバスに渡す。
「背中にでも差しておいて。ベルトに挟む感じで。セバスは姿勢がいいから、背中にあってもわからないでしょ?」
「……いいのですか?」
「もちろんよ!ないよりかはいいはず。私、愛剣があるから、他はよっぽどのことがないと使わないし」
「てかさ、姫さんのスカートの中、どうなってるわけ?なんか、いろいろ出てきそうなんだけど……」
「うーん、そんなにはないかなぁ?万能解毒薬とか、投げナイフとか……あとは、身分証明するためのディルからもらったナイフくらいだよ?」
「……俺からしたら、十分すぎる」
若干引いているウィルに失礼ね?と睨むころには、王宮の正門に着いた。黙ってはいるが、ヒーナもついてきており、1番に降りる。私もそのあとを続き、子爵令嬢ナタリーを降ろす役目をかってでた。
「ナタリー!よく来てくれたね?」
「殿下……私……私、本当によろしいのですか?」
いつもの強気なナタリーはなりを潜め、か弱い令嬢を演じる。王太子は顔を合わせるのは2回目なので、あまり違和感なく受け止めてくれているが、いつもを知っている私たちは笑わないように、俯いたり咳払いしたりよそ事言ったりと忙しい。そんな私たちを見て、ナタリーが甘えるように王太子に寄りかかる。
……さすがの演技だなぁ。殿下も満更ではなさそうな顔してるけど、手強いわよ?ナタリーは。
嬉しそうに笑う王太子はさすがに何人も妃がいるだけあって、いろいろと上手だ。エスコートされるナタリーの後ろを静々と歩く私たちに気をつけながら、ゆっくり謁見の間へ向かう。
ちなみに、私の髪は目立つので、嫁入り前の侍女だからと特別にベールを被せてもらってある。
このベール、なかなか使い勝手がいいようだ。髪の色を隠すためにと思ってつけたのだが、瞳の色も隠せる。私の姿なんて、この国出回っていないだろうとは思っていたが、結婚前の時期には相当数の姿絵がこの国でも出回っていたことを聞かされているので、ちょうどよかった。
「父上、昨日話をさせていただきました子爵令嬢ナタリーです。エルドアへ観光に来ていたところ出会いまして……一瞬で恋に落ちました。是非とも、側室に迎えたいと思い、許可をいただきたく!」
えっ?っと思わず王太子を見たが、もちろん本気で話しているようだ。男性陣もヒーナも口元が引きつっているので、私と同じように思っているのだろう。恋に落ちたから、側妃にしてくれって……と。
ただ、当のナタリーは、素晴らしい。私たちの驚きなんて知らないというくらい。恋に恋した乙女全開で甘える。見ているこちらが、恥ずかしいくらいに。
「殿下、お約束いただきましたが……急には難しいのではないですか?私を側妃にだなんて……」
うるうるとした目を王太子に向け、そんなことはないよ!君に囁いた愛は本物だなんていうので、背中がぞわぞわし始める。
……やりすぎなんじゃないの?
目の前で繰り広げられる演劇……愛の囁き合いに、どうも腰が引けてくるが、効果はてきめんだった。
「王太子妃から聞いておる。ここ三日ほど、無断でいなくなったうえに、何やら贈り物をされたと言っておった。外でうつつをぬかしておったのか!」
「失礼な!私はいつでも本気ですよ?父上。このナタリーに心底惚れ込んだのです。私は、側妃として迎えると申しましたが……寵姫として側に置きたいと考えています!」
「そんなっ!いけませんわ!王太子妃様がいらっしゃるのに……殿下、今の言葉、取り消してくださいませ!」
慌てて否定するナタリーの迫真の演技、それを引き出せるだけの王太子の言葉に私たちは感嘆の声を上げそうになる。
そのとき、後ろからスカート引っ張るものがいた。ここへついてきていたヒーナだ。ヒーナも同じくベールをかぶっているので、視線をあちこち向けていたらしい。手をそっとヒーナに預けると、『王の隣にニック。その他、見える範囲に五人』と手の甲に書いてくれる。あらかじめ決めていたように、私がウィルに親指を当て、その後、指を5本当てるとセバスに同じようにしている。それを同じようにナタリーの背中に私が、王太子の背中にウィルが触れる。
それぞれが確認をできたところで、次なる段階へ入ったといえよう。
王太子が、少し前にナタリーを連れて歩き出した。玉座に向かう合図である。
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