1,051 / 1,480
さぁさぁ、乗り込む体制は整ったわよ!
しおりを挟む
あれから、王都へと移動をし、王太子が準備してくれた宿で滞在することになった。今日は、計画どおり、王との謁見が決まったと連絡が入ったので、王太子が迎えに来る前に、順をしているところだ。
ナタリーに1番映える化粧を施していく。素肌が綺麗なナタリーには厚い化粧は必要ない。控えめなくらいに押さえ、元々の美しさを引き立たせた。
「アンナリーゼ様にこのような才能があるとは、思いませんでしたわ」
「……私、いつも着飾ってもらうほうですからねぇ?こういうの一応、得意なのよ?」
「ドレスを選ぶ目は素晴らしいですからね!」
ナタリーは嬉しそうに私を褒めてくれるが、そこまでの技量はないだろう。ただ、美しいものを見るという目は養われている。
ナタリーにほんのり薄桃の頬紅をし、オレンジを混ぜたようなピンク色の紅をさした。
「ヒーナ、どうかしら?」
「えぇ、とてもお似合いですよ!今日のドレスにも合うかと」
私のドレスを何着も漁り、ナタリーに合うものを探した昨夜。1着だけ、薄桃色のドレスが入っていた。冬に向かっているこの時期に、暖色はあまり好まれない傾向ではあるが、側室にと王へのお披露目であり祝い事であるため、この色を選んだ。
「アンナリーゼ様からいただいた指環は、外さないといけませんね……」
左薬指にはまっているアメジストの薔薇を一撫でして、大仰にため息をつくナタリー。余程、紫の薔薇を外すことが嫌だったのか、少し怒っているような表情をしている。
「外すのは嫌かしら?」
「……えぇ、そうですね。でも、そういうわけにもいきませんし……側室候補となれば、それに似合った指環をしないと……」
「そういえば、宝石類の話はしていなかったわね?どうしましょう?」
私たちは、首を捻りながら考えた。エルドアの王宮へ向かうのだから、それなりの準備が必要だ。昨日の今日に決まっていることだから、宝石をそれ相応に用意することは難しいだろう。
「そうだわ!これをつけていったらどうかしら?」
私は、昨日つけていたネックレスをナタリーとヒーナに見せた。そこには、夜会や茶会へ行くときにつけられるよう、一式揃っている。それを見てナタリーは一瞬喜んだが、すぐに暗い表情になった。
「どうしたの?気に入らない?」
「そういうわけではありません。これは、アンナリーゼ様を引き立てるものです。私では到底……」
ヒーナに箱を渡し、その中からネックレスを取る。少し俯くナタリーの後ろに回り、デリアがよくしてくれたように首にネックレスをあてた。大ぶりのアレキサンドライトは、ナタリーの白い肌によく映え、輝いている。
「ナタリー、見てちょうだい。ナタリーが宝石を輝かせるのではなくて、宝石がナタリーを輝かせるの。エルドアの特産品でもあるこのアレキサンドライトをつけることに、意味があるわ。貴族令嬢であれば、その意味、わかるわね?」
「……はい、アンナリーゼ様。私がつけても大丈夫でしょうか?」
「えぇ、とてもよく似合っている。私のためじゃなく、ナタリーのために私の手元に来たのかもしれないわね?数回使ってしまったけど、今回のお礼に受取ってくれるかしら?」
「そんな!いただけません!」
「もらってちょうだい。とても、よく似合っているもの。それに、王太子殿下からの贈り物ではなく、私からの贈り物のほうが……」
鏡に映るナタリーの表情が、困惑気味からはにかむような笑顔に変わる。「私からの」というのが嬉しいようで、ありがたくいただきますと言ってくれた。
ピアスにネックレス、ブレスレットと指環がセットになっており、まさに必需品が全て揃っていた。
「間違っても、謁見で、私にもらったとは言わないでね?」
念を押すと、ナタリーはクスクス笑いながら、頷いている。
「本当は言いたいです。アンナリーゼ様からいただいたものなのですよ!と、世界中の方々に。愛しい人から宝石をいただける……それが、どれほど嬉しいことか」
ネックレスの宝石に触れ、愛おしそうに指で揺らしている。そんな姿を見れば、応えてあげられないことが苦しく感じた。
「アンナリーゼ様は、そのような顔をなさいませんように!」
「わかったわ!」
「笑顔が一番素敵です。そうですわ……どこかに、青紫薔薇が欲しいのですけど……」
「どうして?」
「……これでも、緊張しているのです。私、普段は、気が強く振る舞えますけど、さすがに今回は、少し怖いです」
微かに震えるナタリーの手。そっと握ると、少し安心したような表情になるが、指先は冷たい。
鏡越しに何かないかとヒーナに合図を送ると、何か思い出したのか、パタパタと駆けていく。
「アンナリーゼ様、こちらをナタリー様にお貸ししてもよろしいですか?」
それは、普段、私が社交界へ向かうときに持っていくセンスであった。センスの留め具のところにアメジストの薔薇が咲いていた。
「えぇ、もちろんよ。それをお守り代わりに持っていって」
ヒーナからナタリーへ渡されるそれは、元々ナタリーのものだった。懐かしいですわね?と呟いているあたり、覚えていたようだ。
「ナタリーの準備も出来たわ!さぁさぁ、乗り込む体制は整ったわよ!」
迎えに来てくれる馬車もちょうど宿の前に停まったようだ。私もすでに着替えていたので、ナタリーの手をとり、部屋を出た。ヒーナもついてきており、後ろには護衛としてのウィル、子爵家の執事としてセバスがついて歩くことになっている。
「みんなに迷惑かけるけど、頑張りましょうね!」
青紫の薔薇を持つものたちは、それぞれ頷き、王太子が用意してくれた馬車へと乗り込んだ。もちろん、毒対策もしてあるし、武力行使で何かしようものならと、ドレスの中に愛剣を忍ばせてきた。
どうなるかはわからないが、一波乱ありそうな……そんな胸騒ぎがしたのである。
ナタリーに1番映える化粧を施していく。素肌が綺麗なナタリーには厚い化粧は必要ない。控えめなくらいに押さえ、元々の美しさを引き立たせた。
「アンナリーゼ様にこのような才能があるとは、思いませんでしたわ」
「……私、いつも着飾ってもらうほうですからねぇ?こういうの一応、得意なのよ?」
「ドレスを選ぶ目は素晴らしいですからね!」
ナタリーは嬉しそうに私を褒めてくれるが、そこまでの技量はないだろう。ただ、美しいものを見るという目は養われている。
ナタリーにほんのり薄桃の頬紅をし、オレンジを混ぜたようなピンク色の紅をさした。
「ヒーナ、どうかしら?」
「えぇ、とてもお似合いですよ!今日のドレスにも合うかと」
私のドレスを何着も漁り、ナタリーに合うものを探した昨夜。1着だけ、薄桃色のドレスが入っていた。冬に向かっているこの時期に、暖色はあまり好まれない傾向ではあるが、側室にと王へのお披露目であり祝い事であるため、この色を選んだ。
「アンナリーゼ様からいただいた指環は、外さないといけませんね……」
左薬指にはまっているアメジストの薔薇を一撫でして、大仰にため息をつくナタリー。余程、紫の薔薇を外すことが嫌だったのか、少し怒っているような表情をしている。
「外すのは嫌かしら?」
「……えぇ、そうですね。でも、そういうわけにもいきませんし……側室候補となれば、それに似合った指環をしないと……」
「そういえば、宝石類の話はしていなかったわね?どうしましょう?」
私たちは、首を捻りながら考えた。エルドアの王宮へ向かうのだから、それなりの準備が必要だ。昨日の今日に決まっていることだから、宝石をそれ相応に用意することは難しいだろう。
「そうだわ!これをつけていったらどうかしら?」
私は、昨日つけていたネックレスをナタリーとヒーナに見せた。そこには、夜会や茶会へ行くときにつけられるよう、一式揃っている。それを見てナタリーは一瞬喜んだが、すぐに暗い表情になった。
「どうしたの?気に入らない?」
「そういうわけではありません。これは、アンナリーゼ様を引き立てるものです。私では到底……」
ヒーナに箱を渡し、その中からネックレスを取る。少し俯くナタリーの後ろに回り、デリアがよくしてくれたように首にネックレスをあてた。大ぶりのアレキサンドライトは、ナタリーの白い肌によく映え、輝いている。
「ナタリー、見てちょうだい。ナタリーが宝石を輝かせるのではなくて、宝石がナタリーを輝かせるの。エルドアの特産品でもあるこのアレキサンドライトをつけることに、意味があるわ。貴族令嬢であれば、その意味、わかるわね?」
「……はい、アンナリーゼ様。私がつけても大丈夫でしょうか?」
「えぇ、とてもよく似合っている。私のためじゃなく、ナタリーのために私の手元に来たのかもしれないわね?数回使ってしまったけど、今回のお礼に受取ってくれるかしら?」
「そんな!いただけません!」
「もらってちょうだい。とても、よく似合っているもの。それに、王太子殿下からの贈り物ではなく、私からの贈り物のほうが……」
鏡に映るナタリーの表情が、困惑気味からはにかむような笑顔に変わる。「私からの」というのが嬉しいようで、ありがたくいただきますと言ってくれた。
ピアスにネックレス、ブレスレットと指環がセットになっており、まさに必需品が全て揃っていた。
「間違っても、謁見で、私にもらったとは言わないでね?」
念を押すと、ナタリーはクスクス笑いながら、頷いている。
「本当は言いたいです。アンナリーゼ様からいただいたものなのですよ!と、世界中の方々に。愛しい人から宝石をいただける……それが、どれほど嬉しいことか」
ネックレスの宝石に触れ、愛おしそうに指で揺らしている。そんな姿を見れば、応えてあげられないことが苦しく感じた。
「アンナリーゼ様は、そのような顔をなさいませんように!」
「わかったわ!」
「笑顔が一番素敵です。そうですわ……どこかに、青紫薔薇が欲しいのですけど……」
「どうして?」
「……これでも、緊張しているのです。私、普段は、気が強く振る舞えますけど、さすがに今回は、少し怖いです」
微かに震えるナタリーの手。そっと握ると、少し安心したような表情になるが、指先は冷たい。
鏡越しに何かないかとヒーナに合図を送ると、何か思い出したのか、パタパタと駆けていく。
「アンナリーゼ様、こちらをナタリー様にお貸ししてもよろしいですか?」
それは、普段、私が社交界へ向かうときに持っていくセンスであった。センスの留め具のところにアメジストの薔薇が咲いていた。
「えぇ、もちろんよ。それをお守り代わりに持っていって」
ヒーナからナタリーへ渡されるそれは、元々ナタリーのものだった。懐かしいですわね?と呟いているあたり、覚えていたようだ。
「ナタリーの準備も出来たわ!さぁさぁ、乗り込む体制は整ったわよ!」
迎えに来てくれる馬車もちょうど宿の前に停まったようだ。私もすでに着替えていたので、ナタリーの手をとり、部屋を出た。ヒーナもついてきており、後ろには護衛としてのウィル、子爵家の執事としてセバスがついて歩くことになっている。
「みんなに迷惑かけるけど、頑張りましょうね!」
青紫の薔薇を持つものたちは、それぞれ頷き、王太子が用意してくれた馬車へと乗り込んだ。もちろん、毒対策もしてあるし、武力行使で何かしようものならと、ドレスの中に愛剣を忍ばせてきた。
どうなるかはわからないが、一波乱ありそうな……そんな胸騒ぎがしたのである。
0
お気に入りに追加
120
あなたにおすすめの小説
挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました
結城芙由奈
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】
今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。
「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」
そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。
そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。
けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。
その真意を知った時、私は―。
※暫く鬱展開が続きます
※他サイトでも投稿中
悲恋を気取った侯爵夫人の末路
三木谷夜宵
ファンタジー
侯爵夫人のプリシアは、貴族令嬢と騎士の悲恋を描いた有名なロマンス小説のモデルとして持て囃されていた。
順風満帆だった彼女の人生は、ある日突然に終わりを告げる。
悲恋のヒロインを気取っていた彼女が犯した過ちとは──?
カクヨムにも公開してます。
側妃、で御座いますか?承知いたしました、ただし条件があります。
とうや
恋愛
「私はシャーロットを妻にしようと思う。君は側妃になってくれ」
成婚の儀を迎える半年前。王太子セオドアは、15年も婚約者だったエマにそう言った。微笑んだままのエマ・シーグローブ公爵令嬢と、驚きの余り硬直する近衛騎士ケイレブ・シェパード。幼馴染だった3人の関係は、シャーロットという少女によって崩れた。
「側妃、で御座いますか?承知いたしました、ただし条件があります」
********************************************
ATTENTION
********************************************
*世界軸は『側近候補を外されて覚醒したら〜』あたりの、なんちゃってヨーロッパ風。魔法はあるけれど魔王もいないし神様も遠い存在。そんなご都合主義で設定うすうすの世界です。
*いつものような残酷な表現はありませんが、倫理観に難ありで軽い胸糞です。タグを良くご覧ください。
*R-15は保険です。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
逃した番は他国に嫁ぐ
基本二度寝
恋愛
「番が現れたら、婚約を解消してほしい」
婚約者との茶会。
和やかな会話が落ち着いた所で、改まって座を正した王太子ヴェロージオは婚約者の公爵令嬢グリシアにそう願った。
獣人の血が交じるこの国で、番というものの存在の大きさは誰しも理解している。
だから、グリシアも頷いた。
「はい。わかりました。お互いどちらかが番と出会えたら円満に婚約解消をしましょう!」
グリシアに答えに満足したはずなのだが、ヴェロージオの心に沸き上がる感情。
こちらの希望を受け入れられたはずのに…、何故か、もやっとした気持ちになった。
《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。
友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」
貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。
「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」
耳を疑いそう聞き返すも、
「君も、その方が良いのだろう?」
苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。
全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。
絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。
だったのですが。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる