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紫の花の正体
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なんとか円卓での話合いは、まとまった。最初からずっと『戦争をする!』という言葉は、嘘のように消えていく。
「ひとつ、聞いてもいいですか?」
会談が終わったところで、ナタリーが口を開く。何をいうのかと、みなが注目してナタリーへと視線が移動していく。
私も興味をそそられて、ナタリーへ目を向ける。その中、一人の侍従が少し移動した。
「みなさまのつけているその花は、なんとう花ですか?私が知るものなら……それは、猛毒の花だと思いますけど?」
アメジストの薔薇をそっと撫でて、ニコリと笑いかける。その隣で、さらにあやしい動きをした侍従にヒーナが投げたティースプーンがナイフのように飛んでいった。それをあっさりはたき落とすその人物にも同じような花が咲いていた。
「その手の甲に咲いているのは、トリカブトかしら?」
問い詰めるようにナタリーがその人物に視線を送ると、ウィルもセバスを守るために体制を整える。王太子の方ももちろん囲むように守っていた。私の前だけは、自身がディルにもらったナイフを握りしめているので、苦々しそうにしている人物の顔がよく見えた。
他にも同じ花を持つ文官武官たちが、焦りを隠せずにいる。
「なるほど、それが……盟約の証?戦争が起こったあと、属国となったとしても、自分たちが助かるための保障ってことかしら?」
王太子からは横並びなので見難いであろうが、こちらからはよく見える。ナタリーは数時間のうちに、一人一人観察をしていたようだ。指摘するために効果的な一瞬を待っていたかのように、じっと潜めていたのだろう。
「ヒーナ、知り合いかしら?」
「いいえ。末端でしょう。手の甲にある花があるということは、いつでも切っていい駒」
「なるほど。ヒーナは首筋……それなりの幹部だったから、その端々までは知らなくて当然だろうけど、向こうは知っていたかもしれないわ?裏切者のヒーナ」
「アンナリーゼ様がそれをいいますか?私に裏切りの烙印とともに女神を背負わせたのは、どこの誰です?」
余裕そうに話すヒーナは、今度こそナイフを手に持っている。いつでも投げられるように体制を整えていた。私も立ち上がりナタリーの前に移動する。
「やはり、そうでしたか……一度お会いしただけでしたから、見間違いかと思っていましたが、まさか、こんな場所で。あの誉れだかいヒーナ様、こんな阿呆どもの集まりにいるとは……嘆かわしい」
「そう言われても、私は、裏切り者にされたのですもの。仕える主が変わってしまったのよ」
ふんっと鼻を鳴らし、睨んでいるのであろう。嘆かわしいと言われて、一番腹立たしいはずのヒーナ。王太子は、私たちの会話を聞いて驚いているくらいではあるが、その他の花もちたちは、どう逃げるか考えているのかもしれない。
「それで、そのトリカブトの花もちは、どういう組織なの?」
「組織も何も、戦争屋ですよ。今回、話を聞く限りでは……いけ好かないアイツが来ているのでしょ?」
「なっ、あの方を愚弄するとは……とうとう心まで腐ってしまわれたか!」
「腐ったつもりはないけど、元々、アイツとは犬猿の仲だもの。そこのところを間違えられるのは、心外だわ!」
「アイツって?」
「今回、王の側で恭しく近侍をしているらしいニックって男は、私との対立することも多かった人物です」
「ニック……。殿下、そのような名のものが側に?」
私は、王太子に問いかけると、あぁと声が聞こえてきた。ヒーナと相いれないというあたり、信条が違うのだろう。ヒーナは、現皇帝を崇拝しているのだから、それ以外の理由で動いているに違いない。
「ニックは、毒に関しては、知識が豊富で、人体実験が大好きな危ないヤツです。あぁ、そうそう。誰かに似ていると思ったら……アンナリーゼ様でした」
「なっ、」
私を見るのは、何もエルドアのものたちだけではない。ヒーナの言葉で、みなが私を見ているのがわかる。
「ヒーナ、それはどういうことかしら?最近流行りのこの容姿って意味?ストロベリーピンクの髪とアメジストのような紫の瞳」
「そうですね……希少とされている、アメジストのような紫の瞳です」
「そう。なら、血縁なんじゃないかしら?ジニーとも先祖を辿っていくと、繋がっているようだから。インゼロ帝国へ逃げたオレジア男爵の家系のものかもしれないわ」
「先祖が繋がってって……それは一体?」
私の先祖の話をするつもりはない。他国のものに話すことでもないので、聞くなと視線で命令をしておく。ザワザワしていた部屋も落ち着き、静まり返った。
「確かに、オレジア男爵の血をひくなら……そういうこともありえるでしょう。自身の子ですら、実験の道具だったのだから。そのニックが紫の花……とりわけ、トリカブトを選んで、自身の紋にしているなら……頷けるわ」
「考えたこともなかったですけど……トリカブトって、紫の花だったんですね?」
「あぁーっ!姫さん!」
急に声をあげ、ここが他国との会談の場であることも忘れたのか、ウィルが姫さんと呼ぶ。何かとそちらをみれば、ほら、あれだよ!と私に何か訴えてきたのである。
「ひとつ、聞いてもいいですか?」
会談が終わったところで、ナタリーが口を開く。何をいうのかと、みなが注目してナタリーへと視線が移動していく。
私も興味をそそられて、ナタリーへ目を向ける。その中、一人の侍従が少し移動した。
「みなさまのつけているその花は、なんとう花ですか?私が知るものなら……それは、猛毒の花だと思いますけど?」
アメジストの薔薇をそっと撫でて、ニコリと笑いかける。その隣で、さらにあやしい動きをした侍従にヒーナが投げたティースプーンがナイフのように飛んでいった。それをあっさりはたき落とすその人物にも同じような花が咲いていた。
「その手の甲に咲いているのは、トリカブトかしら?」
問い詰めるようにナタリーがその人物に視線を送ると、ウィルもセバスを守るために体制を整える。王太子の方ももちろん囲むように守っていた。私の前だけは、自身がディルにもらったナイフを握りしめているので、苦々しそうにしている人物の顔がよく見えた。
他にも同じ花を持つ文官武官たちが、焦りを隠せずにいる。
「なるほど、それが……盟約の証?戦争が起こったあと、属国となったとしても、自分たちが助かるための保障ってことかしら?」
王太子からは横並びなので見難いであろうが、こちらからはよく見える。ナタリーは数時間のうちに、一人一人観察をしていたようだ。指摘するために効果的な一瞬を待っていたかのように、じっと潜めていたのだろう。
「ヒーナ、知り合いかしら?」
「いいえ。末端でしょう。手の甲にある花があるということは、いつでも切っていい駒」
「なるほど。ヒーナは首筋……それなりの幹部だったから、その端々までは知らなくて当然だろうけど、向こうは知っていたかもしれないわ?裏切者のヒーナ」
「アンナリーゼ様がそれをいいますか?私に裏切りの烙印とともに女神を背負わせたのは、どこの誰です?」
余裕そうに話すヒーナは、今度こそナイフを手に持っている。いつでも投げられるように体制を整えていた。私も立ち上がりナタリーの前に移動する。
「やはり、そうでしたか……一度お会いしただけでしたから、見間違いかと思っていましたが、まさか、こんな場所で。あの誉れだかいヒーナ様、こんな阿呆どもの集まりにいるとは……嘆かわしい」
「そう言われても、私は、裏切り者にされたのですもの。仕える主が変わってしまったのよ」
ふんっと鼻を鳴らし、睨んでいるのであろう。嘆かわしいと言われて、一番腹立たしいはずのヒーナ。王太子は、私たちの会話を聞いて驚いているくらいではあるが、その他の花もちたちは、どう逃げるか考えているのかもしれない。
「それで、そのトリカブトの花もちは、どういう組織なの?」
「組織も何も、戦争屋ですよ。今回、話を聞く限りでは……いけ好かないアイツが来ているのでしょ?」
「なっ、あの方を愚弄するとは……とうとう心まで腐ってしまわれたか!」
「腐ったつもりはないけど、元々、アイツとは犬猿の仲だもの。そこのところを間違えられるのは、心外だわ!」
「アイツって?」
「今回、王の側で恭しく近侍をしているらしいニックって男は、私との対立することも多かった人物です」
「ニック……。殿下、そのような名のものが側に?」
私は、王太子に問いかけると、あぁと声が聞こえてきた。ヒーナと相いれないというあたり、信条が違うのだろう。ヒーナは、現皇帝を崇拝しているのだから、それ以外の理由で動いているに違いない。
「ニックは、毒に関しては、知識が豊富で、人体実験が大好きな危ないヤツです。あぁ、そうそう。誰かに似ていると思ったら……アンナリーゼ様でした」
「なっ、」
私を見るのは、何もエルドアのものたちだけではない。ヒーナの言葉で、みなが私を見ているのがわかる。
「ヒーナ、それはどういうことかしら?最近流行りのこの容姿って意味?ストロベリーピンクの髪とアメジストのような紫の瞳」
「そうですね……希少とされている、アメジストのような紫の瞳です」
「そう。なら、血縁なんじゃないかしら?ジニーとも先祖を辿っていくと、繋がっているようだから。インゼロ帝国へ逃げたオレジア男爵の家系のものかもしれないわ」
「先祖が繋がってって……それは一体?」
私の先祖の話をするつもりはない。他国のものに話すことでもないので、聞くなと視線で命令をしておく。ザワザワしていた部屋も落ち着き、静まり返った。
「確かに、オレジア男爵の血をひくなら……そういうこともありえるでしょう。自身の子ですら、実験の道具だったのだから。そのニックが紫の花……とりわけ、トリカブトを選んで、自身の紋にしているなら……頷けるわ」
「考えたこともなかったですけど……トリカブトって、紫の花だったんですね?」
「あぁーっ!姫さん!」
急に声をあげ、ここが他国との会談の場であることも忘れたのか、ウィルが姫さんと呼ぶ。何かとそちらをみれば、ほら、あれだよ!と私に何か訴えてきたのである。
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