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戦争をしなくても得られるもの、ありますよ?

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「先程から申しているとおり、アンバー公は、自らボロを着て、嬉々として領民に混ざっていくような方です」


 セバスが再度、私のことをいうので、みなの視線がこちらに向けられる。ローズディアでもあまり知られていないことだったので、文官たちや武官もこちらを見てくるので、よそ行きの微笑みをしておく。
 公たちとの派手なやり取りしかしらないので、文官たちは特にお互い顔を合わせているが、武官たちの一部は、訓練場に出入りしていたこともあり、頷いているものも中にはいた。今回選ばれた中に、ウィルの大隊から選ばれて来ているものもいるようだ。隊が大きくなると、私のことは知っていても私が知らないこともある。


「……あの、先程からこの文官が……トライド殿がいうことは、本当なのでしょうか?」


 一人のエルドアの文官がおそるおそる私に聞いてくるので、そうね……と言葉を濁す。


「どう思って?公爵である私が、領地を馬に乗って駆けまわったり、領民に混ざって麦を蒔いたり……領民がするようなことを私がすることはおかしいかしら?」
「いえ、一般的な話で、公爵がという……」
「そうよね。でも、公爵も領地にでないといけないくらいの惨状だったといえば、いいかしら?私は領主であるとともに、領民でもあるから、領地を良くしたいと思うのは当然だと思うわ。エルドアも今、似たような状況に陥ろうとしていると思うのだけど、どうかしら?」
「……それは、その。戦争にさえ勝てれば……」


『戦争』という言葉が魔法の言葉で、勝ってインゼロ帝国から恩恵が受けられるということだけに囚われてしまっている文官たち。お互いの目を見ては、しきりに合図をしているようで、どうしようもない状況であった。


「言わせてもらうけど、エルドアが戦争をインゼロ帝国とするとして、私は勝算があるとは思っていません。どうして、そういうふうに思えるのかは、わかりませんが、トライドが予測したとおりの道が待っています。所謂、エルドアは属国となるのです」
「……それは、しかし」
「私はローズディアの代表として、エルドアの隣国の民として、それは望んでいません。他に道があると思うのですが……」


 そこまで言って、セバスに視線を送ると伝わったようで、しゃしゃり出てしまって、ごめんと心の中であやまった。


「アンバー公がおっしゃる通り、あります。みなさまがお認めになってくれて初めて、提案する事業を進めることができるのですが……いかがいたしましょうか?」


 セバスは挑発するように王太子の方を見ると、にやりと笑っている。話はついているので、早くそっちの話にしたいのだろう。


「その提案、聞いてみたい。申せ、トライド殿」
「はい、王太子殿下。私から提案するのは、農業改革でございます。調べたところ、農地がやせ細り、作物が取れないということを聞きおよんでいます。そのおかげで、物価が上昇し、食糧すら買うことができない国民がたくさんいると」
「あぁ、そうだ。それにはどのように対処する?」
「そうですね……アンバー領の場合は、先行投資といい、アンバー公が私財を投げうって、領地の改革に取り組みました。ただ国という規模、予算もありますから、そのような方法は難しいと考えています。
 二段階の方法で進めていくことを提案したいと思います」
「具体的には?」


 話に乗ってきた王太子というていで、裏で話した内容を次から次へと話していく。騙されているのではないか、いずれは、この国を乗っ取るつもりではないかと言い始める文官たち。なかなかおもしろい着眼点に、センスを手に持ち、ぽんぽんと遊ぶように手のひらを叩く。それを見た文官たちは、一斉に口を閉ざしてしまった。


「……どうかなさったの?」


 きょとんと、みなのほうを見ると、気まずそうにしている。口を出さないと決めているので、それ以上は言えなかったが、セバスも笑い、ウィルも笑い始めた。いつもと違い、大人しくしている私がおかしいようである。


「アンナリーゼ様、いつものようになさればよいのではないですか?」
「何故?この場を預かっているのは、私ではなくてセバスだわ。ウィルもだから黙っているのでしょ?」
「まぁ、たしかに」
「……エルドアの方々にも考える時間は必要でしょう?お茶など飲んで、少し休憩してはいかがですか?」


 セバスがお茶をすすめる。ぬるくなってしまったであろうお茶を私も一口、私の回りも一口飲めば、言い争っていたものたちも飲んだ。万能解毒薬の入っているそれは、効果覿面であろう。何かの薬を使われていたとしたら。
 さっきまで、言い争っていたものが、スッと表情を柔らかくしている。

 もっと早く、お茶をすすめたらよかったかしら?

 そんな各々の表情をみながら、私はもう一口、セバスは最後の仕上げにかかるようだった。


「戦争ををしなくても得られるもの、ありますよ?例えば、食糧とか田畑を肥やす方法とか、それに精通する人材派遣とか。多少の出費はあるでしょうが……、誰かを失うより、誰かと手を取り合う方が、この国の現状いいと思います。そのお手伝いなら、ローズディアがいたします。隣国として、お互いの利益に繋がるような取引をいたしましょう!」


 その言葉に、さっきまで難色を示していた文官たちが頷いたり、賛同してくれたりする。実際問題、王太子の許しが出ているので、ここにいる文官たちは必要ないかもしれないが、人間、納得をするということはとても大切ではある。


「……では、よろしいですか?」


 満場一致で、ローズディアから……本当はアンバー公爵領からの支援を受けることで合致した。今回の戦争騒動は、どうやら無事に終わりそうであった。うまく運びすぎる文官との話合いは、王太子も笑い声を我慢していたが、クスクスと漏れてくるのであった。
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