ハニーローズ  ~ 『予知夢』から始まった未来変革 ~

悠月 星花

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 お昼ご飯を優雅に食べたあと、円卓会場に向かう。そこには、豪奢な馬車がすでに到着していた。


「殿下の方が早かったみたい。私たちも急ぎましょう」


 ドレスのスカートを掴み、足早に円卓の会場に乗り込んだ。円卓の席には王太子が座っており、顔の青い貴族や文官が俯いて視線を彷徨わせていた。

 なんだか、おもしろいことになっているわね?殿下は、何をしたのかしら?


「ごきげんよう、みなさま」
「アンバー公爵か。よく来てくれた」
「お初にお目にかかります、王太子殿下。この度、公からの書状で、私の友人が円卓の席に座ることになりましたので、その見送りに。もし、許されるのなら、私も、一緒に話を聞いていてもよろしいでしょうか?」


 他の文官たちが話を進める前に、この場で1番、位の高い王太子へ許可を取る。もちろん、王太子とはこのあたりの話も詰めてあったので、ダメだとは言わないだろう。


「もちろんだ。かの有名なアンバー公がこの場で一緒に話を聞いてくれるとなれば、とても心強い。広大なアンバー公爵領の運営など、ぜひ聞いてみたいものだなぁ」
「えぇ、殿下が望むのであれば、ご披露させていただきます。が、その前に……少々、やらせていただきたい事柄ございます」
「なんだ?申してみよ」
「ローズディア公国の公より、許可をいただいております、セバスチャン・トライド及びキース・ゴールドの毒殺未遂について、裁きを行いたく存じます」
「セバスチャン・トライドと言えば、この円卓の席についていたものではないか?」
「さようでございます。セバスチャンは、私が学園に通っていたころからの友人でして、こういった交渉ごとにはたけております。また、現在は、公より、アンバー領の改革をするために、無期限で借り受けている要人でございます。どういうわけか、このセバスチャンが、どうやら、ここにいる誰かに命を狙われたようでして……我が国の事ながら、真に恐縮ではございますが、お時間をいただきたく」


 王太子にニッコリ笑いかけると、好きにするがよいと返事がきた。私は、容疑のかかっている人物の前へツカツカと近寄っていく。私の微笑みを見て、一歩、また、一歩と後ろへ下がっていく人物。怯えているのがわかるが、ここで、死なれては困る。ヒーナに目配せをして、ここにいる戦争屋を把握する。それとなく、守るようにして近づいて、肩を叩いてやった。


「宰相からの推薦でしたから、私、すっかり騙されてしまいましたわ!あなたが、向こうの陣営だっただなんて……宰相が知って、嘆いていましたよ?あと、抵抗はしないでください。自害もダメですよ?あなたが死ねば、家族が責をおうことになります」
「……何故、私だと?」


 項垂れているので、表情は見えないが悔しいのだろう。絞り出すような声で私に尋ねた。


「至極簡単な話です。宰相になりたいのでしょ?そのためには、強力な後ろ盾がいる。今の宰相、意外としぶといですからね。中級貴族とはいえ、自信の力で、宰相という地位を得られているのは、ただものではありませんから。それでも、あの席に座りたかったあなたは、約束をしたんですね?この交渉がうまくいけば、宰相の座に座らせてもらえると。誰とは言いませんが、私ではないとても大きな後ろ盾の方に」
「……そうだ。そこまでわかっていて、何を躊躇うのだ?私を殺せば済むだけのこと。ダドリー男爵に毒を渡したように、私にもそなたの手ずから」


 俯いていて、私を見ようとも品が、私は侮蔑の視線を送る。確かに、ダドリー男爵のときは、無慈悲にもたくさんの人を殺した。女子供関係なく、領地で苦しんでいたものの代わりに私が号令をかけた。
 でも、今回は、私の出番ではない。国の決定事項として、戦争はしないし、戦争に踏み切ろうとしているエルドアを止めるというのが、使命である。小物を捕らえるのが、私の、セバスの指示されたものではなかった。


「あのときは、私の領地がダドリー男爵によって荒らされていました。さらに、ハニーローズの殺害未遂を起こしたかの一族に対し、私が制裁を与えるのは当たり前のことですが、今回は、公が戦争を止めろという命令の元、それを無視したあなたを裁く権利は、私にはありません。宰相代理であるセバスがすることですから」


 替わろうと、セバスを前に出した。円卓の席につくのも、今回のセバスへの毒殺未遂に決着をつけるのも、宰相代理として権限を持つセバスの役目だ。
 私は、それを見守る証人としても役目しかない。


「残念です。私は、あなたの真摯な仕事ぶりにとても感銘を受けていたのだから……こんな結果になってしまったこと、悔しくてなりません」
「……未来の宰相候補は言うことが違うな?」


 俯いていたものが仄暗い目をセバスに向ける。ウィルが庇うようにセバスとのあいだに入るが、やはり、セバスに対する嫉妬が今回の騒動に繋がったようだ。


「この毒を飲めば、すぐに死ぬと聞いていたのに、こうして、生きて対峙することになるとは……思いもしなかった。貴様さえいなければ、アイツが退いたあと、宰相になれたはずだったのに」
「……何か勘違いしているようだけど、言わせてもらうと。僕は、宰相になんて、なるつもりはないよ。アンナリーゼ様の側で、ずっと、アンバー領やコーコナ領の改革に生涯を費やすと決めている。戦争なんてされれば、今、イチアと計画しているものが、さらに遅れてしまうじゃないか?宰相になりたいなら、勝手になればよかったんだ。宰相候補は、よく僕の名が上がると聞いてはいるけど、僕ではなくて……」


 ちらりと、後ろの方を見る。その先にいるのは、私たちがよく見知った青年であった。私も、彼ならセバスに匹敵すると頷ける。


「パルマが適任だと思っているよ」
「セバス様!押し付けないでくださいよ!僕だって、アンナリーゼ様と領地改革したいんですから!」
「そんなこと言って……国側から、アンナリーゼ様を支える存在が必要なんだよ。それが、パルマだって、僕は君が文官になったときから、ずっと考えていたことだよ」


 事もなさげにいうセバスに、みなが呆気に取られていた。もちろん、嫉妬の先を間違えたものも同じくだ。


「公専属の馬車で国に帰ってもらうよ?死なせはしないから!」


 ウィル!と声をかければ、腹を思いっきり殴った。その場で崩れ落ち、気絶したようだった。
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