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準備大事
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セバスと合流ができたことで、アンバー領の直近の情報を整理することができた。ヨハン教授が南の領地への医療支援へ向かっているあいだも、着々と領地の農耕地については整備が整っているようだ。
「肥料の余剰分については、少し使いたいところがあったのですが、エルドアに回しましょう。ヨハン教授の作る肥料は速攻性がありますから。肥料と食糧の提供で戦争回避が出来るなら、少々の赤字でもいいですよね?」
「もちろん!アンバー領は今や農作物は過剰に採れるようになってきているから、提供しましょう」
「春の誕生日会の分をみても、余裕がありますし、もちろん備蓄についても、大丈夫です」
セバスの説明に頷き、今回の夜会でのことや取引をしたい領地の話も含め、全体をみれば、大きく黒字になる。収穫量が多いということが、今回の騒ぎも抑えられる要因なら私たちがしてきたことに間違いがなかったことになる。一定数の売却はもともと考えてはいたが、ここに来て、営業していってよかった。
「ニコライと話をしていたのですが」
「何?おもしろいことを考えたの?」
「おもしろいことではないですよ?僕らが考えたのは、麦を売るときの麻袋を領地の紋章入りにしたらどうかという話をしていたのです」
「麻袋を?」
「そうです。今までは、何の変哲もないものでしたが、袋でも領地の宣伝が出来ればと」
「それって、いい考えだと思うけど、セバス」
「なんだい?ウィル」
「悪用されないか?産地偽造」
「それは、もちろん考えた。1回こっきりのものでなくてはダメなんだけど……大量にエルドアへ移送するならなおのこと、見せたいではないですか?」
「そうね……」
私には思いつかないわと根を上げていると、隣でナタリーが考え込んでいる。ブツブツ言っているので、何かいい案があるのかもしれない。
でも、そうなると……と難しい顔をするナタリーの答えが出るのを待つことにした。
「どうかしましたか?こちらを見て」
「……何かいい方法を見つけたかと思って、待っていたの」
「いえ、あまりいい考えとは思えなかったです」
「そうなの?言ってみてくれる?」
戸惑いながら、ナタリーは、自分の考えたことを口にしていく。画期的なものかといえば、そうではなさそうで、本人も首を傾げていた。
「専属でしか運ばないとしてしまうのはいかがですか?今もそうしていますが、クロック侯爵家の運送業以外で運ばれるものだけが、アンバー領からでたもの。それを運ぶための特別車のような」
「なるほど……今回は、エルドアにも入って行くわけだから、それはいいかもしれないわ」
「荷馬車を専属にか。それは、考えなかった」
「いいな、それなら……領地からでたものだっていうのはわかる。売るものが不正をしたらどうする?」
「そこは、販売先との契約書を交わすしかないわ。公爵家を怒らせるとどうなるかをきっちり書き込んでおきましょう。それでも、魔が差す人は魔が差してしまうのだけど……売る商人も限定してしまえばいいかしらね?」
「今後は、売る先も増えていくから、こういうことももう少し、ニコライと詰めていかないといけないな」
セバスのいうことに頷いた。産地がわかるように印をしておくことは、私たちに利益ももたらしてくれるだろうが、いらぬ争いも考えられる。貴族に対して、何かをする平民は多くはないだろうが、想定できそうなことはしておくべきだ。
「試してみましょう。うまくいけば、そのままでいいでしょうし、そうじゃないなら、考えましょう」
そうねと確認をとったところで、扉がノックされた。どうぞと部屋に入ってくるのは、二人。ヒーナとキースだった。
「ヒーナ、ご苦労様。パルマの様子はどうだった?」
「今のところは、元気でした。これ、預かってきました。軽く口頭で教えてもらいましたが、どうやら、アンナリーゼ様の望む方向に話は進んでいないだけでなく、ローズディアへも連絡をしていないようです。こちらが、パルマが宰相様に送ろうとした手紙らしいのですが、止められてしまったそうです」
「誰にと言わなくてもわかるわね……」
「僕の替わりに来た文官ですか?」
「それだけじゃないでしょ?キース」
顔色はよくなりつつあるが、無理は禁物だろう。私は、椅子に座るように指示をすると、小声でありがとうございますと言って座る。
「中身は読んでいいいいと言っていたかしら?」
「アンナリーゼ様ならと言っていましたから、大丈夫です。あと、これは、報告ですが、今回派遣された文官たちの付き人の中に、見知った顔がありました。アンナリーゼ様に言われたとおりに少し変装をして行ったので気付かれていないと思います」
「……そこにも紛れているのね?」
「はい、私たちとは別の班でほとんど面識がありませんでしたが、紫の花が左手の親指の付け根あたりにありました」
「それは、どんな意味があるのかしら?紫というと、警戒しないといけない花なのよ」
そういうと、ヒーナがおもむろにペンと紙を取り出した。手にあった刺青をサラサラと書いていく。アンジェラがくれた花に似ていなくもないと思い、しまってあった手紙から、絵を取り出した。
「トリカブトという毒のあるはなです」
「……それって、わりと即死な毒ね。皇帝がまだ動きをとめているというのに……どこもかしこも物騒ね?ねぇ、そうは思わない?」
「……嫌味ですか?」
少し不機嫌なヒーナはそっぽを向いてしまう。私とウィル、キースはそんな焦っているようにしか見えなかったヒーナの班を潰したのだから、怒っているのだろう。
手紙をさっと読み、公へ転送するように伝えると、ヒーナが準備をする。私はあまり芳しくない円卓の話をみなに聞かせた。
「肥料の余剰分については、少し使いたいところがあったのですが、エルドアに回しましょう。ヨハン教授の作る肥料は速攻性がありますから。肥料と食糧の提供で戦争回避が出来るなら、少々の赤字でもいいですよね?」
「もちろん!アンバー領は今や農作物は過剰に採れるようになってきているから、提供しましょう」
「春の誕生日会の分をみても、余裕がありますし、もちろん備蓄についても、大丈夫です」
セバスの説明に頷き、今回の夜会でのことや取引をしたい領地の話も含め、全体をみれば、大きく黒字になる。収穫量が多いということが、今回の騒ぎも抑えられる要因なら私たちがしてきたことに間違いがなかったことになる。一定数の売却はもともと考えてはいたが、ここに来て、営業していってよかった。
「ニコライと話をしていたのですが」
「何?おもしろいことを考えたの?」
「おもしろいことではないですよ?僕らが考えたのは、麦を売るときの麻袋を領地の紋章入りにしたらどうかという話をしていたのです」
「麻袋を?」
「そうです。今までは、何の変哲もないものでしたが、袋でも領地の宣伝が出来ればと」
「それって、いい考えだと思うけど、セバス」
「なんだい?ウィル」
「悪用されないか?産地偽造」
「それは、もちろん考えた。1回こっきりのものでなくてはダメなんだけど……大量にエルドアへ移送するならなおのこと、見せたいではないですか?」
「そうね……」
私には思いつかないわと根を上げていると、隣でナタリーが考え込んでいる。ブツブツ言っているので、何かいい案があるのかもしれない。
でも、そうなると……と難しい顔をするナタリーの答えが出るのを待つことにした。
「どうかしましたか?こちらを見て」
「……何かいい方法を見つけたかと思って、待っていたの」
「いえ、あまりいい考えとは思えなかったです」
「そうなの?言ってみてくれる?」
戸惑いながら、ナタリーは、自分の考えたことを口にしていく。画期的なものかといえば、そうではなさそうで、本人も首を傾げていた。
「専属でしか運ばないとしてしまうのはいかがですか?今もそうしていますが、クロック侯爵家の運送業以外で運ばれるものだけが、アンバー領からでたもの。それを運ぶための特別車のような」
「なるほど……今回は、エルドアにも入って行くわけだから、それはいいかもしれないわ」
「荷馬車を専属にか。それは、考えなかった」
「いいな、それなら……領地からでたものだっていうのはわかる。売るものが不正をしたらどうする?」
「そこは、販売先との契約書を交わすしかないわ。公爵家を怒らせるとどうなるかをきっちり書き込んでおきましょう。それでも、魔が差す人は魔が差してしまうのだけど……売る商人も限定してしまえばいいかしらね?」
「今後は、売る先も増えていくから、こういうことももう少し、ニコライと詰めていかないといけないな」
セバスのいうことに頷いた。産地がわかるように印をしておくことは、私たちに利益ももたらしてくれるだろうが、いらぬ争いも考えられる。貴族に対して、何かをする平民は多くはないだろうが、想定できそうなことはしておくべきだ。
「試してみましょう。うまくいけば、そのままでいいでしょうし、そうじゃないなら、考えましょう」
そうねと確認をとったところで、扉がノックされた。どうぞと部屋に入ってくるのは、二人。ヒーナとキースだった。
「ヒーナ、ご苦労様。パルマの様子はどうだった?」
「今のところは、元気でした。これ、預かってきました。軽く口頭で教えてもらいましたが、どうやら、アンナリーゼ様の望む方向に話は進んでいないだけでなく、ローズディアへも連絡をしていないようです。こちらが、パルマが宰相様に送ろうとした手紙らしいのですが、止められてしまったそうです」
「誰にと言わなくてもわかるわね……」
「僕の替わりに来た文官ですか?」
「それだけじゃないでしょ?キース」
顔色はよくなりつつあるが、無理は禁物だろう。私は、椅子に座るように指示をすると、小声でありがとうございますと言って座る。
「中身は読んでいいいいと言っていたかしら?」
「アンナリーゼ様ならと言っていましたから、大丈夫です。あと、これは、報告ですが、今回派遣された文官たちの付き人の中に、見知った顔がありました。アンナリーゼ様に言われたとおりに少し変装をして行ったので気付かれていないと思います」
「……そこにも紛れているのね?」
「はい、私たちとは別の班でほとんど面識がありませんでしたが、紫の花が左手の親指の付け根あたりにありました」
「それは、どんな意味があるのかしら?紫というと、警戒しないといけない花なのよ」
そういうと、ヒーナがおもむろにペンと紙を取り出した。手にあった刺青をサラサラと書いていく。アンジェラがくれた花に似ていなくもないと思い、しまってあった手紙から、絵を取り出した。
「トリカブトという毒のあるはなです」
「……それって、わりと即死な毒ね。皇帝がまだ動きをとめているというのに……どこもかしこも物騒ね?ねぇ、そうは思わない?」
「……嫌味ですか?」
少し不機嫌なヒーナはそっぽを向いてしまう。私とウィル、キースはそんな焦っているようにしか見えなかったヒーナの班を潰したのだから、怒っているのだろう。
手紙をさっと読み、公へ転送するように伝えると、ヒーナが準備をする。私はあまり芳しくない円卓の話をみなに聞かせた。
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