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俺思うんだけど?
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部屋に大きなため息が響いた。他の誰でもないウィルのものだが、どうしたの?とそちらを見れば、肩をすがめた。
「いや、俺おもうんだけど?」
「うん。何?」
「姫さんって、死体とかなんとも思わないよなって……普通の婦人とは違うのはわかっているつもりだけど、なんていうかさ?」
「あぁ、わかる。むしろ、僕の方が……ダメだ」
「何を言っているの?」
「戦場に行っても飄々と立っているんじゃないかって思って」
「普通のことじゃないの?私、軍人の娘だし」
何を今更とウィルとセバスの方を見れば、何故か納得いかない……と、そんな表情だった。
「私、ここまで来るのに、それなりに覚悟を決めて来ているのよ?人の死を悼まないわけではないけど、優先するべきことが私にはあるだけだから。1日でも長く生きる。アンジェラを守る。それが、私のするべきこと。そのために必要なもの必要じゃないものは分けているの。冷たい人間だって思うかもしれないけど、多くの犠牲を出さないために、流す血はあると思っているわ」
「……上に立つものの覚悟ってやつ?」
「そんな大それたものではないよ」
苦笑い死ながら、私は未来のことを考えた。
「私が1番いいと思っていることは、戦争の火種になりそうなことを全部取っ払うこと。できることなら、インゼロ帝国の皇帝を失脚させたいわ。そうすれば、未来はもっと明るくなるかもしれないから」
「大国だからな……あっちも一枚岩ってわけではないんだろうけど……血統という意味では、こちらも切り札を2枚持っているしな」
アンバー領で、麦の収穫の手伝いをしているガタイのいいおじいちゃんと、のらりくらりと主人がいないことで逃げ回っている青年を思い浮かべた。どちらも、インゼロ帝国にとって重要人物ではあるのだが、どうも皇帝という器ではない二人なだけに諦めてはいる。
「ないものとして、考えないといけないカードだ。ウィル」
「まぁ、そうだけどさ。いつか、あっちはやくに立ってほしいもんだけどな……ナタリーのケツばっかり追っかけてないで」
「好きで私の側をうろつかせているわけではないのだけど……」
「どこにいても役に立たないから……」
しかたないよねと、四人の意見が重なった。実際問題、本人はどう思っているのだろう。根っからのどんくささというのはあるだろうが、仮にもノクトの甥であり、現皇帝の兄なのだから、うつけものを演じているように思えてならない。
まぁ、本人にやる気がなければ、意味がないと言うことはわかっているのだろう。
「ライズもそのうち、何かに目覚めるかもしれないし、そうじゃないかもしれないから、見守っていきましょう。それまでは、申し訳ないけど、ナタリー、お願いね?」
嫌な顔をされるかと思ったが、そうでもないらしい。長く一緒にいるあいだに、二人には何かしらの関係が出来上がっているようだ。ナタリーの後ろをついてあるくライズは、本当によくできた人物に見えるのだから、きっと、ナタリーがインゼロ帝国の女帝になれば、全て収まるんじゃないかと笑うと、さすがに冗談じゃないと叱られた。
「さて、十分な雑談もしたことだし、そろそろ、セバスのほうはどうかしら?」
「待ってくれていたのですか?」
「うん、顔色も良くなったし、もう話せる?」
「大丈夫だよ。ここに来たのも、いいと思ったからだし」
「じゃあ、始めましょうか。円卓での話合いの詳細を聞きたいわ」
コクンと頷くセバス。まずは、円卓にいた人の名を教えてくれる。
「話合いは、ごく普通に始まりました。ただ、最初から、戦争をしたいというふうなことをやんわり言われ、ハッキリと断ると、強行で話をするのです。いつまで立っても平行線で……何が言いたかったのか、正直わかりませんでした」
「そうなの?背景がわからない感じだった?」
「はい。戦争をしないといけないんだという意志しか伝わってこなかったのです。何か知っていますか?」
私は王太子と話をしたことをセバスにも共有することにした。戦争をしたい背景とエルドアが困っていることを伝えると、驚いている。
「それって、領土をもらうために、戦争を起こしたいっていうのが上層部の考えで、何故、その考えに至ったかというと、食糧不足?確かに、食糧不足は、争いの種にはなりやすいかもだけど……アンナリーゼ様が言ったように、インゼロ帝国にもそれほど肥えた土地は、こちら側にはないはずですけど?」
「それを知らなかったようなのよね。王の側に、インゼロ帝国の戦争屋がついているようで、意見がそこから通っているらしいわ。王太子がいうには、もう、王は、麻薬漬けになっているのではないかと」
「それで、譲位を促して、王太子が王になるって話が出ているの?でも、それにも反対な貴族も多いんじゃないの?」
「セバスがいう通り。王太子がなんとか2週間のうちにすると言ってくれたから、それを信じるしかないわ。私たちは、食糧不足で戦争をしてもらうと困るから、支援をする約束を取り付けている。それをどのように説得に使うかで、この会談の行方は変わる」
セバスもウィルやナタリーもそれはわかっているようで、頷きあう。私たちに残された手は多くはないが、他国のことに干渉することも出来ない。結果を待つしかないのだと話せば、それいがいにも考えることはありますよとセバスが笑った。
「いや、俺おもうんだけど?」
「うん。何?」
「姫さんって、死体とかなんとも思わないよなって……普通の婦人とは違うのはわかっているつもりだけど、なんていうかさ?」
「あぁ、わかる。むしろ、僕の方が……ダメだ」
「何を言っているの?」
「戦場に行っても飄々と立っているんじゃないかって思って」
「普通のことじゃないの?私、軍人の娘だし」
何を今更とウィルとセバスの方を見れば、何故か納得いかない……と、そんな表情だった。
「私、ここまで来るのに、それなりに覚悟を決めて来ているのよ?人の死を悼まないわけではないけど、優先するべきことが私にはあるだけだから。1日でも長く生きる。アンジェラを守る。それが、私のするべきこと。そのために必要なもの必要じゃないものは分けているの。冷たい人間だって思うかもしれないけど、多くの犠牲を出さないために、流す血はあると思っているわ」
「……上に立つものの覚悟ってやつ?」
「そんな大それたものではないよ」
苦笑い死ながら、私は未来のことを考えた。
「私が1番いいと思っていることは、戦争の火種になりそうなことを全部取っ払うこと。できることなら、インゼロ帝国の皇帝を失脚させたいわ。そうすれば、未来はもっと明るくなるかもしれないから」
「大国だからな……あっちも一枚岩ってわけではないんだろうけど……血統という意味では、こちらも切り札を2枚持っているしな」
アンバー領で、麦の収穫の手伝いをしているガタイのいいおじいちゃんと、のらりくらりと主人がいないことで逃げ回っている青年を思い浮かべた。どちらも、インゼロ帝国にとって重要人物ではあるのだが、どうも皇帝という器ではない二人なだけに諦めてはいる。
「ないものとして、考えないといけないカードだ。ウィル」
「まぁ、そうだけどさ。いつか、あっちはやくに立ってほしいもんだけどな……ナタリーのケツばっかり追っかけてないで」
「好きで私の側をうろつかせているわけではないのだけど……」
「どこにいても役に立たないから……」
しかたないよねと、四人の意見が重なった。実際問題、本人はどう思っているのだろう。根っからのどんくささというのはあるだろうが、仮にもノクトの甥であり、現皇帝の兄なのだから、うつけものを演じているように思えてならない。
まぁ、本人にやる気がなければ、意味がないと言うことはわかっているのだろう。
「ライズもそのうち、何かに目覚めるかもしれないし、そうじゃないかもしれないから、見守っていきましょう。それまでは、申し訳ないけど、ナタリー、お願いね?」
嫌な顔をされるかと思ったが、そうでもないらしい。長く一緒にいるあいだに、二人には何かしらの関係が出来上がっているようだ。ナタリーの後ろをついてあるくライズは、本当によくできた人物に見えるのだから、きっと、ナタリーがインゼロ帝国の女帝になれば、全て収まるんじゃないかと笑うと、さすがに冗談じゃないと叱られた。
「さて、十分な雑談もしたことだし、そろそろ、セバスのほうはどうかしら?」
「待ってくれていたのですか?」
「うん、顔色も良くなったし、もう話せる?」
「大丈夫だよ。ここに来たのも、いいと思ったからだし」
「じゃあ、始めましょうか。円卓での話合いの詳細を聞きたいわ」
コクンと頷くセバス。まずは、円卓にいた人の名を教えてくれる。
「話合いは、ごく普通に始まりました。ただ、最初から、戦争をしたいというふうなことをやんわり言われ、ハッキリと断ると、強行で話をするのです。いつまで立っても平行線で……何が言いたかったのか、正直わかりませんでした」
「そうなの?背景がわからない感じだった?」
「はい。戦争をしないといけないんだという意志しか伝わってこなかったのです。何か知っていますか?」
私は王太子と話をしたことをセバスにも共有することにした。戦争をしたい背景とエルドアが困っていることを伝えると、驚いている。
「それって、領土をもらうために、戦争を起こしたいっていうのが上層部の考えで、何故、その考えに至ったかというと、食糧不足?確かに、食糧不足は、争いの種にはなりやすいかもだけど……アンナリーゼ様が言ったように、インゼロ帝国にもそれほど肥えた土地は、こちら側にはないはずですけど?」
「それを知らなかったようなのよね。王の側に、インゼロ帝国の戦争屋がついているようで、意見がそこから通っているらしいわ。王太子がいうには、もう、王は、麻薬漬けになっているのではないかと」
「それで、譲位を促して、王太子が王になるって話が出ているの?でも、それにも反対な貴族も多いんじゃないの?」
「セバスがいう通り。王太子がなんとか2週間のうちにすると言ってくれたから、それを信じるしかないわ。私たちは、食糧不足で戦争をしてもらうと困るから、支援をする約束を取り付けている。それをどのように説得に使うかで、この会談の行方は変わる」
セバスもウィルやナタリーもそれはわかっているようで、頷きあう。私たちに残された手は多くはないが、他国のことに干渉することも出来ない。結果を待つしかないのだと話せば、それいがいにも考えることはありますよとセバスが笑った。
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