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円卓外の内緒話Ⅲ
しおりを挟む私は、セバスがすでに話し合いの席から外されていることを王太子に伝えた。私の友人で、戦争を起こさないために、私たちの想いとともに、円卓で戦ってくれたと。
「アンバー公には、そのような人物があの円卓にはいたのか」
「いましたよ。セバスにパルマは、私が見出したものです。まぁ、うまく交渉が出来ていないと、円卓から外されるって、こちらに来る前に聞かされてましたから、迎えに来たんです」
「なるほど。それで、ここにいるわけか。巡り合わせってことだ」
私たちは頷きあえば、協力をしてほしいと王太子が願い出た。私は何も言わず、誤魔化すように笑った。私にできることは、今のところ何もないのだし、公の決定をする前ならいざしらず、決まったことを覆すこはできないのだから。
「それで、まずはどちらを掌握するつもりだい?」
おもしろそうにに笑う。実は、この王太子、とても腹黒なのではないかと、その笑顔が怖い。
「私に決めれることではありませんよ?ただの公爵ですから」
「何をいう。ただのでは、ないだろう?」
「それこそですよ。殿下はどのように考えていらっしゃるのですか?」
「質問に質問を返してきたか。言質はとられないように?」
「殿下もさっきから、質問に質問で返していらっしゃいますよ?」
急に笑いだす王太子にニコリと笑いかける。そんな私に諦めたのか、ため息をついた。腹黒王子に付き合うつもりはないので、エルドアのことはエルドアで何とかしてほしい。
「麻薬ってさっき言ってたね?何か知っている?」
「知っていると言えば知っていますけど、まず、そちらの持っている情報をくださってもいいのではないですか?」
「情報と言っても、アンバー公が知っていること以上はこちらも知らない。他にそちらが握っている情報があるなら……麻薬の出所とか……」
「知っていますよ。っていっても、一般的な出所ということしか知らないですけど」
「その一般的な出所も、こちらは知らない。だいたいの想像はついていても」
そのだいたいでいいんじゃないかな?と思いつつ、何で私に答えを求めるのだろうと考えた。私が言ったというふうにしたいのか……陥れられるのは、私の方なのかもしれない。
「良き隣人であり続けてほしいものですけど……エルドアは、どうお考えですか?」
「良き隣人。なるほど、ローズディアこそ」
「私には、エルドアこそが、良き隣人だと思ってはいるのですがね?」
「……それは?私が、アンバー公を陥れるつもりではないかという話か?」
「今、話していることは、繊細な話ですから」
確かにと言えば、後ろの護衛から紙とペン、あと印を受取ると、何やら書き始めた。
「私は、確かに王族。アンバー公が、警戒するのもわかる……が、私とて、この国を戦禍にしたいわけではない。将来は、ローズディアやトワイスのような明るい国にしたいと願っているのだから」
書き終えた紙に印を押す。その印を私に見せ、紙をこちらへと差し出した。
見せられたものは、王太子が使う簡易印だ。不測の事態起こったときに使うものだが、実際見たのは、もちろん初めてであった。侯爵は、見たことがあるのか、驚いている。
「それは?」
「王太子の簡易印。私の文章である印だ。我が国エルドアは、ローズディア公国及びアンバー公が不利になるようなことはしないという書状だ」
「抜け道はたくさんありそうですけど……」
「聞きしに勝る疑りようだな?」
「私は、それほど、人を疑ったりしませんよ?ほとんどの方々が私の手のひらの上で踊ってくださいますもの。それが心からでも偽りでも。私と対峙できる人物など、それほど多くはありません」
「……たいした自信だな?足元を掬われかねないぞ?」
「そうですね。だからこそ、私には、頼りになる友人たちが側にいるのです」
なるほどと頷く王太子。私は、この王太子に対して、評価をしたのだ。薄氷の上を行くような難しい人物だと。
「それに、誇っていいですよ?私に危ない人と思われることを」
「危ない人か」
空笑いをしながらもその眼光は鋭い。この書状は、私に対する誠意のつもりだと言うことはわかっているので、机の上の紙を手に取った。
「確かにいただきました。それで?私は何を話せばよいですか?」
「私が知らぬことを全て。あと、出来れば、ローズディアの公と同じく、後ろ盾になってほしい」
「私をですか?それは、あまり得策とは言えません。先程も言いましたが、ローズディアでは、アンバー公は公の後ろ盾言えど、弱者側なのですよ?」
「10年もすれば、対等以上になるであろう?もともと、トワイス国の侯爵令嬢。そのときの基盤は、そのまま国に残してあるのだろうから。なんなら、トワイス国の王太子との繋がりも、まだ、あるのであろう?」
「買い被りすぎですし、10年の歳月は長すぎます。私が、その間に出来ることは少ないですし、ローズディア国内の勢力図を塗り替えることで精一杯ですから」
嘘だろ?という表情を向けられても、本当のことだ。私程度の小娘をゴールド公爵が歯牙にもかけていないことは、対応の甘さでわかる。侮られているうちに、体制を整えたいと思ってはいても、なかなか、ことは進んでいないのだ。これ以上、面倒ごとはごめんである。
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