1,026 / 1,480
円卓外の内緒話
しおりを挟む
王太子が座るようにいうので、私はソファにかけた。後ろにウィルが立ち、侯爵が、スツールにかけた。
私を値踏みするように見てくる王太子。嫌な顔ひとつせず、微笑み続ける。後ろには、こちらと同じように護衛が立っていた。
「それで、今日は何かあったのかな?」
「……特にはと言えば、忙しい殿下をお呼びだてしておいてなんですが、少し、話をしてみたかったのです」
ほうっと目を細める殿下は、何を考えているのだろう。さすがに、甘ちゃんな公とはものが違うということは、この少しの会話だけでもわかる。
「そなた、確か、ローズディアでは、公と仲が良いと聞いたが」
思わず笑ってしまった。公と仲が良いということは、どういうことを意味して言っているのか、私が考えているそれかどうか気になった。私が笑ったことで、王太子の方も少し眉を顰めている。
「殿下がどういう意味で、仲が良いとおっしゃっているのかはわかりませんが……、そうですね。後ろ盾という立場ですわ。今は、まだ、対抗勢力に比べれば、小さな集まりですけど」
「なるほど。噂通りというわけではないのか」
「それは、どういう噂ですか?」
「本人に聞かせていいものではない。言わないでおこう」
「そうですか。なら、社交好きの友人に聞かせてもらいますわ」
呆気にとられたように、口を開いて驚いている。私が、こんな好戦的であることは、知らなかったようで、固まってしまった。
「どうかされましたか?」
窺うように王太子を見れば、いや、何でもないと首を振る。どうやら、いろいろな私の噂に振り回されているようだった。
はぁ……と大きなため息をつく王太子。よほど疲れているのか、客人の前だということを忘れているようだった。
扉がノックされ、ヒーナがお茶を持ってくる。王太子と私、侯爵の前にお茶をおくと、私の後ろへ下がった。
「アンバー公爵領でとれる最高級茶葉で淹れたものです。ご賞味ください」
ニコッと笑いかけ、一口飲んだ。ヒーナに言って、万能解毒剤を入れてもらったので、お茶を飲んだことで、少しだけ元気になってくれれば、いいだろう。
「ほう、これは香りがいいな。久しくこんな香りのものは飲んだことがない」
「ぜひ、飲んでみてください。体の中から、休まりますよ」
そうしようと、一口、二口と飲んでいく。ヒーナに目配せをして、二杯目の用意をしてもらう。
カップを置いたときには、もう空である。余程気に入ったのだろう。
「これは、いい。アンバー公が言ったとおり、体の中から休まるようだ」
「それはよかったです。私の農園で作られた茶葉は、ローズディアでもトワイスでも、とても人気なのですよ」
「それは頷けるな」
ヒーナが二杯目を入れると、すぐに口を持っていく。ほうっと一息入れたところで、噂の真相を聞くことにした。
「殿下、噂とはなんですか?」
「……いや、言いにくいのだが、公と仲良く……」
「あぁ、公と仲良くですね。それは、公爵として、領地運営をするためのものであって、個人的には、公との関わりはありません。殿下もわかると思いますが、公は、国の頂にいる方です。手足のように動く貴族が必要な場合は、私が動いているにすぎませんよ!」
「……悪かった。言い方というものもあっただろうが」
もうひとつと聞きにくそうにしているので、なんなりとと答えると、子どもたちのことを聞かれた。
何を意味しているのだろうと、よくよく聞いていくと、私と公の間に生まれた子だという噂があるそうで、どこからそんなでたらめが出たのか、不思議で仕方がない。
「おもしろい噂ですね?私も、たくさんの噂話をされる側なので、少々のことでは驚きませんが、ビックリしました」
「……そう、であろうな?」
「えぇ、そうです。私の子は二人とも、ジョージア様の子ですよ」
「その証拠はあるのか?」
「証拠ですか?ローズディアでは有名な話ではありますが……」
アンジェラとネイトの顔を思い浮かべる。今頃、領地に向かっている最中で、レオやミアと騒いでいるのではないだろうか?思わず、クスっと笑ってしまう。
「私の子は、アンバー公爵家の血をついでいないと現れない特徴があるのです」
「特徴?」
「はい。アンバー公爵家の子は、瞳が蜂蜜色なのです。全ての子がそうというわけではありませんが、嫡子であるアンジェラは、蜂蜜色の瞳をしていますし、二子のネイトは、大部分が私と同じアメジストのような瞳ですが、それを囲うように蜂蜜色が現れています」
「……公爵家にしか生まれない子。元を正せば、公も同じではないのか?」
「確かに、それを言われると、そうですね。ただ、どういうわけか、アンバー公爵家にしか、生まれません。だから、私がというのはありえないですし、公と私では釣り合いません」
「公爵なら、釣り合うと思うが」
「公爵と言っても、私は仮初ですから。一代限りの公爵になんの価値がありますか?」
「そう言われれば、そうかもしれん」
「なにより……」
満面の笑みで、惚気てやる。私のそんな噂を信じた王太子には、少々気の毒な気もするが。
「私、学園に通っていたときより、ジョージア様のことが大好きで、前公にジョージア様との政略結婚をさせてほしいと直談判までした女ですよ?わざわざ、愛しいジョージア様意外と共寝をするなど、片腹痛くて仕方がありませんわ!」
チラリと、ウィルの方を見る。うんうんと相槌を打ってくれているので、信憑性も高いだろう。
それより、そんな話を聞かされた侯爵や護衛、ヒーナが微妙な表情をしているのは、気にしないことにした。
私を値踏みするように見てくる王太子。嫌な顔ひとつせず、微笑み続ける。後ろには、こちらと同じように護衛が立っていた。
「それで、今日は何かあったのかな?」
「……特にはと言えば、忙しい殿下をお呼びだてしておいてなんですが、少し、話をしてみたかったのです」
ほうっと目を細める殿下は、何を考えているのだろう。さすがに、甘ちゃんな公とはものが違うということは、この少しの会話だけでもわかる。
「そなた、確か、ローズディアでは、公と仲が良いと聞いたが」
思わず笑ってしまった。公と仲が良いということは、どういうことを意味して言っているのか、私が考えているそれかどうか気になった。私が笑ったことで、王太子の方も少し眉を顰めている。
「殿下がどういう意味で、仲が良いとおっしゃっているのかはわかりませんが……、そうですね。後ろ盾という立場ですわ。今は、まだ、対抗勢力に比べれば、小さな集まりですけど」
「なるほど。噂通りというわけではないのか」
「それは、どういう噂ですか?」
「本人に聞かせていいものではない。言わないでおこう」
「そうですか。なら、社交好きの友人に聞かせてもらいますわ」
呆気にとられたように、口を開いて驚いている。私が、こんな好戦的であることは、知らなかったようで、固まってしまった。
「どうかされましたか?」
窺うように王太子を見れば、いや、何でもないと首を振る。どうやら、いろいろな私の噂に振り回されているようだった。
はぁ……と大きなため息をつく王太子。よほど疲れているのか、客人の前だということを忘れているようだった。
扉がノックされ、ヒーナがお茶を持ってくる。王太子と私、侯爵の前にお茶をおくと、私の後ろへ下がった。
「アンバー公爵領でとれる最高級茶葉で淹れたものです。ご賞味ください」
ニコッと笑いかけ、一口飲んだ。ヒーナに言って、万能解毒剤を入れてもらったので、お茶を飲んだことで、少しだけ元気になってくれれば、いいだろう。
「ほう、これは香りがいいな。久しくこんな香りのものは飲んだことがない」
「ぜひ、飲んでみてください。体の中から、休まりますよ」
そうしようと、一口、二口と飲んでいく。ヒーナに目配せをして、二杯目の用意をしてもらう。
カップを置いたときには、もう空である。余程気に入ったのだろう。
「これは、いい。アンバー公が言ったとおり、体の中から休まるようだ」
「それはよかったです。私の農園で作られた茶葉は、ローズディアでもトワイスでも、とても人気なのですよ」
「それは頷けるな」
ヒーナが二杯目を入れると、すぐに口を持っていく。ほうっと一息入れたところで、噂の真相を聞くことにした。
「殿下、噂とはなんですか?」
「……いや、言いにくいのだが、公と仲良く……」
「あぁ、公と仲良くですね。それは、公爵として、領地運営をするためのものであって、個人的には、公との関わりはありません。殿下もわかると思いますが、公は、国の頂にいる方です。手足のように動く貴族が必要な場合は、私が動いているにすぎませんよ!」
「……悪かった。言い方というものもあっただろうが」
もうひとつと聞きにくそうにしているので、なんなりとと答えると、子どもたちのことを聞かれた。
何を意味しているのだろうと、よくよく聞いていくと、私と公の間に生まれた子だという噂があるそうで、どこからそんなでたらめが出たのか、不思議で仕方がない。
「おもしろい噂ですね?私も、たくさんの噂話をされる側なので、少々のことでは驚きませんが、ビックリしました」
「……そう、であろうな?」
「えぇ、そうです。私の子は二人とも、ジョージア様の子ですよ」
「その証拠はあるのか?」
「証拠ですか?ローズディアでは有名な話ではありますが……」
アンジェラとネイトの顔を思い浮かべる。今頃、領地に向かっている最中で、レオやミアと騒いでいるのではないだろうか?思わず、クスっと笑ってしまう。
「私の子は、アンバー公爵家の血をついでいないと現れない特徴があるのです」
「特徴?」
「はい。アンバー公爵家の子は、瞳が蜂蜜色なのです。全ての子がそうというわけではありませんが、嫡子であるアンジェラは、蜂蜜色の瞳をしていますし、二子のネイトは、大部分が私と同じアメジストのような瞳ですが、それを囲うように蜂蜜色が現れています」
「……公爵家にしか生まれない子。元を正せば、公も同じではないのか?」
「確かに、それを言われると、そうですね。ただ、どういうわけか、アンバー公爵家にしか、生まれません。だから、私がというのはありえないですし、公と私では釣り合いません」
「公爵なら、釣り合うと思うが」
「公爵と言っても、私は仮初ですから。一代限りの公爵になんの価値がありますか?」
「そう言われれば、そうかもしれん」
「なにより……」
満面の笑みで、惚気てやる。私のそんな噂を信じた王太子には、少々気の毒な気もするが。
「私、学園に通っていたときより、ジョージア様のことが大好きで、前公にジョージア様との政略結婚をさせてほしいと直談判までした女ですよ?わざわざ、愛しいジョージア様意外と共寝をするなど、片腹痛くて仕方がありませんわ!」
チラリと、ウィルの方を見る。うんうんと相槌を打ってくれているので、信憑性も高いだろう。
それより、そんな話を聞かされた侯爵や護衛、ヒーナが微妙な表情をしているのは、気にしないことにした。
0
お気に入りに追加
121
あなたにおすすめの小説
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
悲恋を気取った侯爵夫人の末路
三木谷夜宵
ファンタジー
侯爵夫人のプリシアは、貴族令嬢と騎士の悲恋を描いた有名なロマンス小説のモデルとして持て囃されていた。
順風満帆だった彼女の人生は、ある日突然に終わりを告げる。
悲恋のヒロインを気取っていた彼女が犯した過ちとは──?
カクヨムにも公開してます。
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
婚約破棄の場に相手がいなかった件について
三木谷夜宵
ファンタジー
侯爵令息であるアダルベルトは、とある夜会で婚約者の伯爵令嬢クラウディアとの婚約破棄を宣言する。しかし、その夜会にクラウディアの姿はなかった。
断罪イベントの夜会に婚約者を迎えに来ないというパターンがあるので、では行かなければいいと思って書いたら、人徳あふれるヒロイン(不在)が誕生しました。
カクヨムにも公開しています。
挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました
結城芙由奈
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】
今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。
「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」
そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。
そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。
けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。
その真意を知った時、私は―。
※暫く鬱展開が続きます
※他サイトでも投稿中
【完結】言いたいことがあるなら言ってみろ、と言われたので遠慮なく言ってみた
杜野秋人
ファンタジー
社交シーズン最後の大晩餐会と舞踏会。そのさなか、第三王子が突然、婚約者である伯爵家令嬢に婚約破棄を突き付けた。
なんでも、伯爵家令嬢が婚約者の地位を笠に着て、第三王子の寵愛する子爵家令嬢を虐めていたというのだ。
婚約者は否定するも、他にも次々と証言や証人が出てきて黙り込み俯いてしまう。
勝ち誇った王子は、最後にこう宣言した。
「そなたにも言い分はあろう。私は寛大だから弁明の機会をくれてやる。言いたいことがあるなら言ってみろ」
その一言が、自らの破滅を呼ぶことになるなど、この時彼はまだ気付いていなかった⸺!
◆例によって設定ナシの即興作品です。なので主人公の伯爵家令嬢以外に固有名詞はありません。頭カラッポにしてゆるっとお楽しみ下さい。
婚約破棄ものですが恋愛はありません。もちろん元サヤもナシです。
◆全6話、約15000字程度でサラッと読めます。1日1話ずつ更新。
◆この物語はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。
◆9/29、HOTランキング入り!お読み頂きありがとうございます!
10/1、HOTランキング最高6位、人気ランキング11位、ファンタジーランキング1位!24h.pt瞬間最大11万4000pt!いずれも自己ベスト!ありがとうございます!
【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。
BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。
辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん??
私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる