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準備
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王太子との会う日、準備を整える。ナタリーは、公爵として恥ずかしくない装いを用意してもらい、全体的に整えてもらった。ウィルも制服に着替えついてきてくれるし、ヒーナは、侍女のお仕着せを着ていた。
あくまでも、二人は目立たないようにというふうである。おかげで、より一層、私が派手に見えるようになった。
「ちょっと、派手すぎない?」
「大丈夫ですよ。ヒーナを隠さないといけませんから、これくらい」
持ってきたドレスのうち、一番発色の良いものを選んでいるので、さすがに私も戸惑った。
「ナタリーに全面的に任せてあるから……従うわ」
そういえば、嬉しそうにしてくれる。王太子との会う場には、連れていけないと言ってあるので、折り合いをここでつけているのだろう。
「姫さん、できた?」
ウィルが扉の向こうで、聞いてくるので、入っていいわよと言えば、おずおずと入ってくる。私のドレスを見て、さすがに、ウィルも驚いているようだった。
「そんなドレスも持ってるんだ?」
「……華やか過ぎるわよね?」
「そんなことありませんよ!」
三人がそれぞれの想いを口にしながら、公爵アンナリーゼが完成した。先日、有り金全部叩いて買った、アレキサンドライトの宝飾品をつける。宝飾品に負けないドレスと考えれば、これくらいは必要だったのだと、納得させられた。
「じゃあ、行ってくるわね!」
ナタリーだけを残して、部屋を出る。侯爵とは別に移動することになり、用意してくれた馬車に乗り込んだ。
「今日は、俺もこっちに乗るから」
馬車に乗り込むウィルとその後ろからヒーナが乗る。扉を閉めれば、すぐに揺れ始めた。昨日行った宝飾品店は近くだったので、馬車が停まる。
「こんなに近いんだ?」
「えぇ、その近くに市場があるの。私、昨日はそっちでウロウロとしていたのよ!」
へぇーっと言いながら、先にウィルが降り、私に手を差し出してくれる。護衛らしい雰囲気で、周りの人がこちらを見ていても、近づけないように視線でとめていた。私が降りると、目をひいたのだろう。感嘆の声が聞こえてきた。
「……さすがに目立つわね」
「まぁ、それが仕事なわけだから、いいんじゃない?」
私の後ろにヒーナが続き、正面の入口へ歩いていくと、店主がにこやかに出迎えてくれる。昨日、手紙を侯爵がしていたので、今日は慌てず、それなりの準備が出来たらしい。
「ようこそおいでくださいました」
綺麗なお辞儀に、微笑み、ヒーナが案内を頼む。店主がこちらですと、先を歩き始めた。私はその後ろをついていく。すでに侯爵は待っているはずなので、通された部屋に入る。
「まだ、お連れ様は、いらっしゃっていません」
誰が来る予定なのかも伝えてはあるが、一応、全てをうやむやにしてくれている。そういうところは、いい商売人なのだと感じる。
「アンナリーゼ様、お待ちしていました」
「侯爵には、何から何まで世話になりっぱなしね。ありがとう」
「いえ、そんなことは……」
「そうだ。これを飲んでおいて。念のために」
差し出したのは、万能解毒剤。カップをもらい、一口分を入れ飲む。残りを侯爵に渡して、飲んでもらった。毒は入っていませんよというマナーのようなものだ。ウィルとヒーナにも飲むように言って、私は、自分の分をグイっと飲み干した。試験管に入っているそれは、無色透明なうえに無味無臭。だからこその毒見が必要だった。
ウィルはぐぃっと飲み、ヒーナは試験管を振って少し考えていた。
「飲んでも、何ともないぞ?しいて言うなら、元気になる」
「……元気に?」
「そう。なんていうか、栄養剤みたいな感じ」
「そうなんですね」
蓋を開けて、ゴクッと飲んだ。それを見て、侯爵も飲む。ただの水のようなものを体に流していくと、のどごしすっきりとしているだろう。
そんなやり取りをしていると、コンコンとノックされる。そろそろ、約束の時間なので、侯爵が返事をして、私も立ち上がった。ヒーナが扉を開けに行けば、後ろには見慣れない男性が立っていた。
「殿下、御足労いただきありがとうございます」
侯爵が頭を下げているので、私は微笑むだけにした。入ってきたエルドア国王太子は、私の方をチラリと見て、侯爵の方へと歩み寄る。
「いや、こちらこそ、気遣いに感謝する」
ローズディアの公とも違う、トワイスの殿下とも違う、苦労しているんだな……と思えるほど、草臥れた様子の王太子であった。
こちらにどうぞと王太子を先に座らせ、私へ目配せをする。ヒーナにお茶を用意するように言えば、一旦部屋を出ていった。
「そなたが、アンバー公か?」
言葉を発するだけでもため息が出てきそうなほど、疲れているのがわかった。私は、正式な礼をとらず、スカートをつまみ挨拶する。
「ローズディア公国アンバー公爵、アンナリーゼ・トロン・アンバーでございます。王太子殿下にこうしてお目通り敵いましたこと……」
「堅苦しい挨拶はいい。こちらも、会いたいと思っていたのだ」
唐突に発せられた会いたいという言葉に、私はわざと驚いたふりをした。私に会いたい理由は、わかっているのだから、当然だろう。
「それは、嬉しいお話ですわ。殿下が私に会いたいなどと。昨日の突然の申し出、断られるのではないかと危惧していましたの」
「……それは、ないだろう。こちらに来ていることは知っていた。円卓につくのかと、ずっと待っていたのだ」
王太子は、私が円卓に座る使者だと思っていたらしい。そうではないとは、微塵にも考えてはいなさそうだった。
あくまでも、二人は目立たないようにというふうである。おかげで、より一層、私が派手に見えるようになった。
「ちょっと、派手すぎない?」
「大丈夫ですよ。ヒーナを隠さないといけませんから、これくらい」
持ってきたドレスのうち、一番発色の良いものを選んでいるので、さすがに私も戸惑った。
「ナタリーに全面的に任せてあるから……従うわ」
そういえば、嬉しそうにしてくれる。王太子との会う場には、連れていけないと言ってあるので、折り合いをここでつけているのだろう。
「姫さん、できた?」
ウィルが扉の向こうで、聞いてくるので、入っていいわよと言えば、おずおずと入ってくる。私のドレスを見て、さすがに、ウィルも驚いているようだった。
「そんなドレスも持ってるんだ?」
「……華やか過ぎるわよね?」
「そんなことありませんよ!」
三人がそれぞれの想いを口にしながら、公爵アンナリーゼが完成した。先日、有り金全部叩いて買った、アレキサンドライトの宝飾品をつける。宝飾品に負けないドレスと考えれば、これくらいは必要だったのだと、納得させられた。
「じゃあ、行ってくるわね!」
ナタリーだけを残して、部屋を出る。侯爵とは別に移動することになり、用意してくれた馬車に乗り込んだ。
「今日は、俺もこっちに乗るから」
馬車に乗り込むウィルとその後ろからヒーナが乗る。扉を閉めれば、すぐに揺れ始めた。昨日行った宝飾品店は近くだったので、馬車が停まる。
「こんなに近いんだ?」
「えぇ、その近くに市場があるの。私、昨日はそっちでウロウロとしていたのよ!」
へぇーっと言いながら、先にウィルが降り、私に手を差し出してくれる。護衛らしい雰囲気で、周りの人がこちらを見ていても、近づけないように視線でとめていた。私が降りると、目をひいたのだろう。感嘆の声が聞こえてきた。
「……さすがに目立つわね」
「まぁ、それが仕事なわけだから、いいんじゃない?」
私の後ろにヒーナが続き、正面の入口へ歩いていくと、店主がにこやかに出迎えてくれる。昨日、手紙を侯爵がしていたので、今日は慌てず、それなりの準備が出来たらしい。
「ようこそおいでくださいました」
綺麗なお辞儀に、微笑み、ヒーナが案内を頼む。店主がこちらですと、先を歩き始めた。私はその後ろをついていく。すでに侯爵は待っているはずなので、通された部屋に入る。
「まだ、お連れ様は、いらっしゃっていません」
誰が来る予定なのかも伝えてはあるが、一応、全てをうやむやにしてくれている。そういうところは、いい商売人なのだと感じる。
「アンナリーゼ様、お待ちしていました」
「侯爵には、何から何まで世話になりっぱなしね。ありがとう」
「いえ、そんなことは……」
「そうだ。これを飲んでおいて。念のために」
差し出したのは、万能解毒剤。カップをもらい、一口分を入れ飲む。残りを侯爵に渡して、飲んでもらった。毒は入っていませんよというマナーのようなものだ。ウィルとヒーナにも飲むように言って、私は、自分の分をグイっと飲み干した。試験管に入っているそれは、無色透明なうえに無味無臭。だからこその毒見が必要だった。
ウィルはぐぃっと飲み、ヒーナは試験管を振って少し考えていた。
「飲んでも、何ともないぞ?しいて言うなら、元気になる」
「……元気に?」
「そう。なんていうか、栄養剤みたいな感じ」
「そうなんですね」
蓋を開けて、ゴクッと飲んだ。それを見て、侯爵も飲む。ただの水のようなものを体に流していくと、のどごしすっきりとしているだろう。
そんなやり取りをしていると、コンコンとノックされる。そろそろ、約束の時間なので、侯爵が返事をして、私も立ち上がった。ヒーナが扉を開けに行けば、後ろには見慣れない男性が立っていた。
「殿下、御足労いただきありがとうございます」
侯爵が頭を下げているので、私は微笑むだけにした。入ってきたエルドア国王太子は、私の方をチラリと見て、侯爵の方へと歩み寄る。
「いや、こちらこそ、気遣いに感謝する」
ローズディアの公とも違う、トワイスの殿下とも違う、苦労しているんだな……と思えるほど、草臥れた様子の王太子であった。
こちらにどうぞと王太子を先に座らせ、私へ目配せをする。ヒーナにお茶を用意するように言えば、一旦部屋を出ていった。
「そなたが、アンバー公か?」
言葉を発するだけでもため息が出てきそうなほど、疲れているのがわかった。私は、正式な礼をとらず、スカートをつまみ挨拶する。
「ローズディア公国アンバー公爵、アンナリーゼ・トロン・アンバーでございます。王太子殿下にこうしてお目通り敵いましたこと……」
「堅苦しい挨拶はいい。こちらも、会いたいと思っていたのだ」
唐突に発せられた会いたいという言葉に、私はわざと驚いたふりをした。私に会いたい理由は、わかっているのだから、当然だろう。
「それは、嬉しいお話ですわ。殿下が私に会いたいなどと。昨日の突然の申し出、断られるのではないかと危惧していましたの」
「……それは、ないだろう。こちらに来ていることは知っていた。円卓につくのかと、ずっと待っていたのだ」
王太子は、私が円卓に座る使者だと思っていたらしい。そうではないとは、微塵にも考えてはいなさそうだった。
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