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メイドが入出許可をもらい入ってきた。手元には2通の手紙がある。それを侯爵が受取り、宛名を確認した。
「こちらは、アンナリーゼ様です。アンバー公からのお手紙ですね?」
分厚い手紙を見て、苦笑いしている。普通は、この厚さをみれば苦笑いするだろう。ここに甘い言葉がつらつら書かれているなら、私の側にいるものたちは、辟易しているだろうが、情報として捉えているので、こちらを見た。
「読んでもかまいませんか?」
「少し、後にしていただけますか?」
もう一通の手紙を見て、侯爵が私の申し出をとめてしまう。何事かと、ジョージアからの手紙を机に置き、姿勢を正す。
その手紙は、見た感じ、とても上質な封筒に入っている。
「王太子様から連絡が」
「えらく早いな?」
「普通の王太子なら、こんなものじゃないの?私、いつも殿下に手紙を送ったら、一瞬で帰ってくるわよ?」
「それは、姫さんと殿下の仲だからだろ?侯爵と王太子との関係って、姫さんとこみたいな関係じゃないから」
ウィルはそういうが、普通だと思う。他国の公爵が秘密裏に会いたいと言ってきた。今は、王がインゼロ帝国との戦争を押し進めたいと他の貴族と手を組んで進めようとしている。ローズディアとしては、やめてほしいと再三願い出ているのにも関わらず、相手にもしてこない状況で、王の暴走を止めるには、王太子という駒は、最適だ。味方であればなのだが、そこは言わないでおく。
王太子も、自身の駒として役割をきっちりわかっているからこそ、この密会を早々にしたいと言ってきているのだろう。
「会う場所はどこかって書いてあるのかしら?」
「……離宮でと書かれてあります」
「離宮ね?敵陣に特攻するようなもんだなぁ……味方無しで」
くっと笑うウィルに頷き、誘われているのかしら?と呟けば、ナタリーが場所を変えたらいかがですか?と提案をしてくれる。
「王族にどこどこで会いましょうっていうのは、ちょっと……」
「それなら、私に案があるわ!」
「なんでしょうか?」
「王太子妃がもうすぐ誕生日だっていう話を聞いているの。二人の仲はどうかしら?」
「良好だと思いますよ。王太子妃様のお茶会では、だいたい、仲睦まじい姿を見せていますから」
「それは……演技ではなく?」
「えぇ、違います。王太子妃様は、この国の方ではありませんから、頼る人が殿下以外いないのです」
なるほどと頷く。こちらに世話役として、貴族と繋がりはあるだろうが……その貴族さえどこの所属かわかればいいだろう。
「王太子妃の後ろ盾の貴族はどこの所属になるかしら?」
「保守派の侯爵家です」
「……それなら、情報がもれたとしても、大丈夫?」
「まぁ、そのための場所を選ぶんだろ?」
「えぇ、今日行った宝飾品店はどう?」
ナタリーやエレーナに目配せすると、あぁ……というふうだ。突飛ではあるが、ひとつ提案をする。
「例えばですけど……王太子妃に宝飾品を秘密にして贈るために、いかがですか?という内容でどうかしら?誕生日も近いし、王宮に呼んでしまうと、秘密にならないでしょ?」
「出かけるというだけで、無理な気がするけど……」
「そこは、公みたいな技術が必要よね?」
「……公は、一体何をしたんだ?」
「ちょっと出かけてくるって公妃に言って、アンバー領まで私に会いに来たわよ?逆もあったけどね」
「あぁ、あったあった。そんなこと」
懐かしそうにしているが、苦い想い出でしかないので、それ以上は言わないが、確かにいいかもしれないという話になった。
「ついでと言ってはなんだけど、侯爵もエレーナに贈る宝飾品を見に行くというていで行けばいいのですよ。そうすれば、誰も何も言わないでしょ?」
「……私、聞いてしまっていますが」
「そこは、王太子を呼ぶための口実だから、聞かなかったことにしておいてちょうだい。王太子にも、こちらの事情を話して、伺いをたててみて?断られたら、大人しく離宮に向かうから」
王太子への手紙の返事は、その場で侯爵がすぐに書いてくれた。同時に宝飾品店にも、もしかしたら、また、私を連れて行くかもしれない。場所を貸してほしいなどの内容で手紙を送っておく。ただし、特別なことはしなくていいと一文を添えた。
「王太子からの返事待ちね?」
「えぇ、今日中には連絡が来るかもしれません。こちらから場所指定をしてしまったので、申し訳ないですが、殿下は、話に乗ってくると思いますか?」
「たぶんね。もし、こちらの味方になってくれるのなら、必ず来てくれるはずよ」
手紙を送り終えたので、次は私がジョージアからの手紙に手を伸ばす。分厚いそれは、領地のことではなく、アンジェラからの手紙が入っているのだろう。なんだか、そんな予感が先程からしていた。
……もしかしたら、『予知夢』でも見たのかしら?
まずは、ジョージアから公都を出発するむねの連絡が書かれていた。私が出立してから公都で起こったことも書かれていたが、新しい交渉人が出発したという内容である。
「なんて書いてあるの?」
「領地へ向けて出発したことと、エルドアへの新しい交渉人が出発したと書かれているわ。昨日当たりから、公から聞いた話によれば、席についているそうよ」
へぇーっと軽い調子でウィルは呟き、ぼんやり上を見た。ナタリーもため息をつき、セバスに敵うわけがないのになんて呟いている。
「お手並み拝見よね。どうなってもいいように、動けるよう体制は常に整えて起きましょう。侯爵も手間をかけるけど、よろしくね?」
「とんでもありません。私どもにできることなら、なんなりと」
侯爵もエレーナも微笑む。私は、もうひとつの手紙……というか、少し厚めの紙を手に取り、アンジェラの描いた絵と文字を読み取っていった。
「こちらは、アンナリーゼ様です。アンバー公からのお手紙ですね?」
分厚い手紙を見て、苦笑いしている。普通は、この厚さをみれば苦笑いするだろう。ここに甘い言葉がつらつら書かれているなら、私の側にいるものたちは、辟易しているだろうが、情報として捉えているので、こちらを見た。
「読んでもかまいませんか?」
「少し、後にしていただけますか?」
もう一通の手紙を見て、侯爵が私の申し出をとめてしまう。何事かと、ジョージアからの手紙を机に置き、姿勢を正す。
その手紙は、見た感じ、とても上質な封筒に入っている。
「王太子様から連絡が」
「えらく早いな?」
「普通の王太子なら、こんなものじゃないの?私、いつも殿下に手紙を送ったら、一瞬で帰ってくるわよ?」
「それは、姫さんと殿下の仲だからだろ?侯爵と王太子との関係って、姫さんとこみたいな関係じゃないから」
ウィルはそういうが、普通だと思う。他国の公爵が秘密裏に会いたいと言ってきた。今は、王がインゼロ帝国との戦争を押し進めたいと他の貴族と手を組んで進めようとしている。ローズディアとしては、やめてほしいと再三願い出ているのにも関わらず、相手にもしてこない状況で、王の暴走を止めるには、王太子という駒は、最適だ。味方であればなのだが、そこは言わないでおく。
王太子も、自身の駒として役割をきっちりわかっているからこそ、この密会を早々にしたいと言ってきているのだろう。
「会う場所はどこかって書いてあるのかしら?」
「……離宮でと書かれてあります」
「離宮ね?敵陣に特攻するようなもんだなぁ……味方無しで」
くっと笑うウィルに頷き、誘われているのかしら?と呟けば、ナタリーが場所を変えたらいかがですか?と提案をしてくれる。
「王族にどこどこで会いましょうっていうのは、ちょっと……」
「それなら、私に案があるわ!」
「なんでしょうか?」
「王太子妃がもうすぐ誕生日だっていう話を聞いているの。二人の仲はどうかしら?」
「良好だと思いますよ。王太子妃様のお茶会では、だいたい、仲睦まじい姿を見せていますから」
「それは……演技ではなく?」
「えぇ、違います。王太子妃様は、この国の方ではありませんから、頼る人が殿下以外いないのです」
なるほどと頷く。こちらに世話役として、貴族と繋がりはあるだろうが……その貴族さえどこの所属かわかればいいだろう。
「王太子妃の後ろ盾の貴族はどこの所属になるかしら?」
「保守派の侯爵家です」
「……それなら、情報がもれたとしても、大丈夫?」
「まぁ、そのための場所を選ぶんだろ?」
「えぇ、今日行った宝飾品店はどう?」
ナタリーやエレーナに目配せすると、あぁ……というふうだ。突飛ではあるが、ひとつ提案をする。
「例えばですけど……王太子妃に宝飾品を秘密にして贈るために、いかがですか?という内容でどうかしら?誕生日も近いし、王宮に呼んでしまうと、秘密にならないでしょ?」
「出かけるというだけで、無理な気がするけど……」
「そこは、公みたいな技術が必要よね?」
「……公は、一体何をしたんだ?」
「ちょっと出かけてくるって公妃に言って、アンバー領まで私に会いに来たわよ?逆もあったけどね」
「あぁ、あったあった。そんなこと」
懐かしそうにしているが、苦い想い出でしかないので、それ以上は言わないが、確かにいいかもしれないという話になった。
「ついでと言ってはなんだけど、侯爵もエレーナに贈る宝飾品を見に行くというていで行けばいいのですよ。そうすれば、誰も何も言わないでしょ?」
「……私、聞いてしまっていますが」
「そこは、王太子を呼ぶための口実だから、聞かなかったことにしておいてちょうだい。王太子にも、こちらの事情を話して、伺いをたててみて?断られたら、大人しく離宮に向かうから」
王太子への手紙の返事は、その場で侯爵がすぐに書いてくれた。同時に宝飾品店にも、もしかしたら、また、私を連れて行くかもしれない。場所を貸してほしいなどの内容で手紙を送っておく。ただし、特別なことはしなくていいと一文を添えた。
「王太子からの返事待ちね?」
「えぇ、今日中には連絡が来るかもしれません。こちらから場所指定をしてしまったので、申し訳ないですが、殿下は、話に乗ってくると思いますか?」
「たぶんね。もし、こちらの味方になってくれるのなら、必ず来てくれるはずよ」
手紙を送り終えたので、次は私がジョージアからの手紙に手を伸ばす。分厚いそれは、領地のことではなく、アンジェラからの手紙が入っているのだろう。なんだか、そんな予感が先程からしていた。
……もしかしたら、『予知夢』でも見たのかしら?
まずは、ジョージアから公都を出発するむねの連絡が書かれていた。私が出立してから公都で起こったことも書かれていたが、新しい交渉人が出発したという内容である。
「なんて書いてあるの?」
「領地へ向けて出発したことと、エルドアへの新しい交渉人が出発したと書かれているわ。昨日当たりから、公から聞いた話によれば、席についているそうよ」
へぇーっと軽い調子でウィルは呟き、ぼんやり上を見た。ナタリーもため息をつき、セバスに敵うわけがないのになんて呟いている。
「お手並み拝見よね。どうなってもいいように、動けるよう体制は常に整えて起きましょう。侯爵も手間をかけるけど、よろしくね?」
「とんでもありません。私どもにできることなら、なんなりと」
侯爵もエレーナも微笑む。私は、もうひとつの手紙……というか、少し厚めの紙を手に取り、アンジェラの描いた絵と文字を読み取っていった。
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