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とんでもないことになってない?

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 手紙が部屋から出ていくのを見送ったあと、さらに話を続ける。私の考えていたことは、ウィルも考えていたようだ。


「あのさぁ?」
「……なんでしょうか?」
「ウィル、ちょっと、砕けすぎてるわ。私たちだけのときと違うのだから!」
「いいですよ。私もエレーナもアンナリーゼ様を裏切るようなことはありませんから。何かあれば、必ず」
「そう言ってくれるのは嬉しいけど……まずは、自身たちのことを考えてちょうだい。こんな時勢だからこそ、双子もいるのだし、事業も領民もあなたたち夫妻を本当に頼りにしていると思うから」


 侯爵とエレーナを見て頷くと、お互いを見合ってから微笑んでいる。

 仲がいいんだな……。

 二人の雰囲気だけでわかる。前に会ったときも感じていたことだ。いつもどちらからも寄り添っている二人は、いわば、私の理想とするところだろう。うちの両親でさえ、そんな雰囲気があるのに、私はどうだろう?いつも、ジョージアを残し、飛び回っている。大変なときは、わざわざ私のために駆けつけてくれるのに、反省ばかりである。


「わかっています。領民がいて私たちがいるのです。私たちは、彼彼女たちにそっと手を差し出すだけの存在……それだけで、十分なのです」
「それと、害意があるものから、領民を守るのも私たちの仕事ですよ」
「なんていうか、しっかりしているのですね」
「どっかの誰かみたいな領主は珍しいんだよなぁ。うちの父もどっちかっていうと、侯爵みたいな感じかなぁ?」
「……名前出さなくても、私だってわかるけど、私は私なりに努力はしているつもりだよ」
「誰も悪いとは言ってないじゃん?」


 ウィルが苦笑いをすると、みなも同じような表情であった。


「でも、それがいいんじゃない?型にはまったやり方じゃ、アンバー領の再興は無理だから」
「そういってくれるのは嬉しいけど、ちょっと、悲しいのよね。まぁ、いつもみんなに言われてることだから、折り合いつけているけど」


 それで?と王太子の話を振ると侯爵が人となりを教えてくれた。聞いている感じ、人となりはよさそうな人物である。


「王太子と会うことが出来たとして、どういう話をするのかなぁ?」
「……まずは、戦争をしたいのかどうなのか確認じゃない?ズバッと聞くんじゃなくて、やんわり包んでだよ?」
「……やんわり。それが1番苦手」
「わかってる」


 ウィルもナタリーも私の性格をよくわかっている。それに、エレーナも学生のころの私をよく知っている。三人が、頷きあっているのを見て、侯爵の頭には?が浮かんでいるようだった。


「侯爵様は、姫さんの無茶苦茶な感じは知らないですか?」
「……全然とは言わないけど、エレーナに聞いているくらいしか」
「それなら、少し、免疫をつけておいた方がいいですよ。今度、王太子のところへ一緒に出かけるなら」
「……善処します」
「私、珍獣扱い?なんていうか、酷い扱いだなぁ……いつもながらだけど。それより、ひとつ気になることがあるの」
「何?」
「……王太子も敵側?に組していたら、どうするかってこと」


 一同、なるほどとなる。誰が敵で誰が味方なのか、わからないのだ。味方が少ない今、頼みの綱だと思っている王太子が、敵であった場合。どうするのか……を考えなくてはいけない。


「そこは、出たとこ勝負になるでしょうね?」
「何か気を付けることは?」
「基本的に出されたものは、飲んだり食べたりしないというのが基本だけど、そういうわけにはいかないから、万能解毒剤を先に飲んでおきましょう。何もなければ、ないでいいわけだし」
「わかりました。私はついていくことになると思います」
「もちろん、侯爵に私を紹介してもらわないといけないからね。他に連れていくとしたら……ウィルとヒーナね」
「アンナリーゼ様!」
「ナタリーはダメよ。いざとなったとき、身を自分で守れる人じゃないと、連れていけないわ。それに、私が預かっている身なのよ?危ないことはさせられないわ」
「私の意志で行きたいのです!」
「ダメだよ?これっぽっちのことで、危険な場所へ連れていけない」


 悔しそうにしているナタリーの肩を抱く。こちらに寄せギュっと抱きしめる。私に身を任せながらも、葛藤は感じた。
 耳元で、囁いた。ナタリーが欲しい言葉ではないのかもしれないけど、私の精一杯の言葉を。


「ナタリー」


 呼びかけると、少し潤んだ瞳に私が映る。いつも強気なナタリーも、私についていけないのが辛いのだろう。


「私が、ナタリーに求めていることは、別のこと。王太子と会う日、私を公爵として、送り出してくれるのは、ナタリー以外ここには誰もいないわ。側にいてくれることも嬉しいけど、そうやって、私を私として送り出してくれる人も必要なの。他の誰でもない、ナタリーにお願いしたい。例の宝飾品もあるからね!」


 ニコッと笑いかけると、ナタリーは頷いてくれる。この場で、1番、私を公爵として作ってくれるのは、ナタリーなのだ。適材適所。
 ヒーナが行くのは、王太子の周りにも戦争屋がいないかの確認が必要だからだ。
 王宮に一人入っているなら、何人も入っている場合もある。それを見抜くにはヒーナが必要だし、護衛として、名の通っているウィルは目を引きやすいので、おおいに目立ってもらう必要もある。


「とんでもないことになってない?」


 私が呟くと、仕方ないんじゃない?とウィルが軽く言い放つ。いつものことだからと、ナタリーもヒーナも流している。
 そのとき、コンコンっと応接室の扉がノックされた。
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