1,021 / 1,480
とんでもないことになってない?
しおりを挟む
手紙が部屋から出ていくのを見送ったあと、さらに話を続ける。私の考えていたことは、ウィルも考えていたようだ。
「あのさぁ?」
「……なんでしょうか?」
「ウィル、ちょっと、砕けすぎてるわ。私たちだけのときと違うのだから!」
「いいですよ。私もエレーナもアンナリーゼ様を裏切るようなことはありませんから。何かあれば、必ず」
「そう言ってくれるのは嬉しいけど……まずは、自身たちのことを考えてちょうだい。こんな時勢だからこそ、双子もいるのだし、事業も領民もあなたたち夫妻を本当に頼りにしていると思うから」
侯爵とエレーナを見て頷くと、お互いを見合ってから微笑んでいる。
仲がいいんだな……。
二人の雰囲気だけでわかる。前に会ったときも感じていたことだ。いつもどちらからも寄り添っている二人は、いわば、私の理想とするところだろう。うちの両親でさえ、そんな雰囲気があるのに、私はどうだろう?いつも、ジョージアを残し、飛び回っている。大変なときは、わざわざ私のために駆けつけてくれるのに、反省ばかりである。
「わかっています。領民がいて私たちがいるのです。私たちは、彼彼女たちにそっと手を差し出すだけの存在……それだけで、十分なのです」
「それと、害意があるものから、領民を守るのも私たちの仕事ですよ」
「なんていうか、しっかりしているのですね」
「どっかの誰かみたいな領主は珍しいんだよなぁ。うちの父もどっちかっていうと、侯爵みたいな感じかなぁ?」
「……名前出さなくても、私だってわかるけど、私は私なりに努力はしているつもりだよ」
「誰も悪いとは言ってないじゃん?」
ウィルが苦笑いをすると、みなも同じような表情であった。
「でも、それがいいんじゃない?型にはまったやり方じゃ、アンバー領の再興は無理だから」
「そういってくれるのは嬉しいけど、ちょっと、悲しいのよね。まぁ、いつもみんなに言われてることだから、折り合いつけているけど」
それで?と王太子の話を振ると侯爵が人となりを教えてくれた。聞いている感じ、人となりはよさそうな人物である。
「王太子と会うことが出来たとして、どういう話をするのかなぁ?」
「……まずは、戦争をしたいのかどうなのか確認じゃない?ズバッと聞くんじゃなくて、やんわり包んでだよ?」
「……やんわり。それが1番苦手」
「わかってる」
ウィルもナタリーも私の性格をよくわかっている。それに、エレーナも学生のころの私をよく知っている。三人が、頷きあっているのを見て、侯爵の頭には?が浮かんでいるようだった。
「侯爵様は、姫さんの無茶苦茶な感じは知らないですか?」
「……全然とは言わないけど、エレーナに聞いているくらいしか」
「それなら、少し、免疫をつけておいた方がいいですよ。今度、王太子のところへ一緒に出かけるなら」
「……善処します」
「私、珍獣扱い?なんていうか、酷い扱いだなぁ……いつもながらだけど。それより、ひとつ気になることがあるの」
「何?」
「……王太子も敵側?に組していたら、どうするかってこと」
一同、なるほどとなる。誰が敵で誰が味方なのか、わからないのだ。味方が少ない今、頼みの綱だと思っている王太子が、敵であった場合。どうするのか……を考えなくてはいけない。
「そこは、出たとこ勝負になるでしょうね?」
「何か気を付けることは?」
「基本的に出されたものは、飲んだり食べたりしないというのが基本だけど、そういうわけにはいかないから、万能解毒剤を先に飲んでおきましょう。何もなければ、ないでいいわけだし」
「わかりました。私はついていくことになると思います」
「もちろん、侯爵に私を紹介してもらわないといけないからね。他に連れていくとしたら……ウィルとヒーナね」
「アンナリーゼ様!」
「ナタリーはダメよ。いざとなったとき、身を自分で守れる人じゃないと、連れていけないわ。それに、私が預かっている身なのよ?危ないことはさせられないわ」
「私の意志で行きたいのです!」
「ダメだよ?これっぽっちのことで、危険な場所へ連れていけない」
悔しそうにしているナタリーの肩を抱く。こちらに寄せギュっと抱きしめる。私に身を任せながらも、葛藤は感じた。
耳元で、囁いた。ナタリーが欲しい言葉ではないのかもしれないけど、私の精一杯の言葉を。
「ナタリー」
呼びかけると、少し潤んだ瞳に私が映る。いつも強気なナタリーも、私についていけないのが辛いのだろう。
「私が、ナタリーに求めていることは、別のこと。王太子と会う日、私を公爵として、送り出してくれるのは、ナタリー以外ここには誰もいないわ。側にいてくれることも嬉しいけど、そうやって、私を私として送り出してくれる人も必要なの。他の誰でもない、ナタリーにお願いしたい。例の宝飾品もあるからね!」
ニコッと笑いかけると、ナタリーは頷いてくれる。この場で、1番、私を公爵として作ってくれるのは、ナタリーなのだ。適材適所。
ヒーナが行くのは、王太子の周りにも戦争屋がいないかの確認が必要だからだ。
王宮に一人入っているなら、何人も入っている場合もある。それを見抜くにはヒーナが必要だし、護衛として、名の通っているウィルは目を引きやすいので、おおいに目立ってもらう必要もある。
「とんでもないことになってない?」
私が呟くと、仕方ないんじゃない?とウィルが軽く言い放つ。いつものことだからと、ナタリーもヒーナも流している。
そのとき、コンコンっと応接室の扉がノックされた。
「あのさぁ?」
「……なんでしょうか?」
「ウィル、ちょっと、砕けすぎてるわ。私たちだけのときと違うのだから!」
「いいですよ。私もエレーナもアンナリーゼ様を裏切るようなことはありませんから。何かあれば、必ず」
「そう言ってくれるのは嬉しいけど……まずは、自身たちのことを考えてちょうだい。こんな時勢だからこそ、双子もいるのだし、事業も領民もあなたたち夫妻を本当に頼りにしていると思うから」
侯爵とエレーナを見て頷くと、お互いを見合ってから微笑んでいる。
仲がいいんだな……。
二人の雰囲気だけでわかる。前に会ったときも感じていたことだ。いつもどちらからも寄り添っている二人は、いわば、私の理想とするところだろう。うちの両親でさえ、そんな雰囲気があるのに、私はどうだろう?いつも、ジョージアを残し、飛び回っている。大変なときは、わざわざ私のために駆けつけてくれるのに、反省ばかりである。
「わかっています。領民がいて私たちがいるのです。私たちは、彼彼女たちにそっと手を差し出すだけの存在……それだけで、十分なのです」
「それと、害意があるものから、領民を守るのも私たちの仕事ですよ」
「なんていうか、しっかりしているのですね」
「どっかの誰かみたいな領主は珍しいんだよなぁ。うちの父もどっちかっていうと、侯爵みたいな感じかなぁ?」
「……名前出さなくても、私だってわかるけど、私は私なりに努力はしているつもりだよ」
「誰も悪いとは言ってないじゃん?」
ウィルが苦笑いをすると、みなも同じような表情であった。
「でも、それがいいんじゃない?型にはまったやり方じゃ、アンバー領の再興は無理だから」
「そういってくれるのは嬉しいけど、ちょっと、悲しいのよね。まぁ、いつもみんなに言われてることだから、折り合いつけているけど」
それで?と王太子の話を振ると侯爵が人となりを教えてくれた。聞いている感じ、人となりはよさそうな人物である。
「王太子と会うことが出来たとして、どういう話をするのかなぁ?」
「……まずは、戦争をしたいのかどうなのか確認じゃない?ズバッと聞くんじゃなくて、やんわり包んでだよ?」
「……やんわり。それが1番苦手」
「わかってる」
ウィルもナタリーも私の性格をよくわかっている。それに、エレーナも学生のころの私をよく知っている。三人が、頷きあっているのを見て、侯爵の頭には?が浮かんでいるようだった。
「侯爵様は、姫さんの無茶苦茶な感じは知らないですか?」
「……全然とは言わないけど、エレーナに聞いているくらいしか」
「それなら、少し、免疫をつけておいた方がいいですよ。今度、王太子のところへ一緒に出かけるなら」
「……善処します」
「私、珍獣扱い?なんていうか、酷い扱いだなぁ……いつもながらだけど。それより、ひとつ気になることがあるの」
「何?」
「……王太子も敵側?に組していたら、どうするかってこと」
一同、なるほどとなる。誰が敵で誰が味方なのか、わからないのだ。味方が少ない今、頼みの綱だと思っている王太子が、敵であった場合。どうするのか……を考えなくてはいけない。
「そこは、出たとこ勝負になるでしょうね?」
「何か気を付けることは?」
「基本的に出されたものは、飲んだり食べたりしないというのが基本だけど、そういうわけにはいかないから、万能解毒剤を先に飲んでおきましょう。何もなければ、ないでいいわけだし」
「わかりました。私はついていくことになると思います」
「もちろん、侯爵に私を紹介してもらわないといけないからね。他に連れていくとしたら……ウィルとヒーナね」
「アンナリーゼ様!」
「ナタリーはダメよ。いざとなったとき、身を自分で守れる人じゃないと、連れていけないわ。それに、私が預かっている身なのよ?危ないことはさせられないわ」
「私の意志で行きたいのです!」
「ダメだよ?これっぽっちのことで、危険な場所へ連れていけない」
悔しそうにしているナタリーの肩を抱く。こちらに寄せギュっと抱きしめる。私に身を任せながらも、葛藤は感じた。
耳元で、囁いた。ナタリーが欲しい言葉ではないのかもしれないけど、私の精一杯の言葉を。
「ナタリー」
呼びかけると、少し潤んだ瞳に私が映る。いつも強気なナタリーも、私についていけないのが辛いのだろう。
「私が、ナタリーに求めていることは、別のこと。王太子と会う日、私を公爵として、送り出してくれるのは、ナタリー以外ここには誰もいないわ。側にいてくれることも嬉しいけど、そうやって、私を私として送り出してくれる人も必要なの。他の誰でもない、ナタリーにお願いしたい。例の宝飾品もあるからね!」
ニコッと笑いかけると、ナタリーは頷いてくれる。この場で、1番、私を公爵として作ってくれるのは、ナタリーなのだ。適材適所。
ヒーナが行くのは、王太子の周りにも戦争屋がいないかの確認が必要だからだ。
王宮に一人入っているなら、何人も入っている場合もある。それを見抜くにはヒーナが必要だし、護衛として、名の通っているウィルは目を引きやすいので、おおいに目立ってもらう必要もある。
「とんでもないことになってない?」
私が呟くと、仕方ないんじゃない?とウィルが軽く言い放つ。いつものことだからと、ナタリーもヒーナも流している。
そのとき、コンコンっと応接室の扉がノックされた。
0
お気に入りに追加
121
あなたにおすすめの小説
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
悲恋を気取った侯爵夫人の末路
三木谷夜宵
ファンタジー
侯爵夫人のプリシアは、貴族令嬢と騎士の悲恋を描いた有名なロマンス小説のモデルとして持て囃されていた。
順風満帆だった彼女の人生は、ある日突然に終わりを告げる。
悲恋のヒロインを気取っていた彼女が犯した過ちとは──?
カクヨムにも公開してます。
美しい姉と痩せこけた妹
サイコちゃん
ファンタジー
若き公爵は虐待を受けた姉妹を引き取ることにした。やがて訪れたのは美しい姉と痩せこけた妹だった。姉が夢中でケーキを食べる中、妹はそれがケーキだと分からない。姉がドレスのプレゼントに喜ぶ中、妹はそれがドレスだと分からない。公爵はあまりに差のある姉妹に疑念を抱いた――
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました
結城芙由奈
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】
今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。
「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」
そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。
そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。
けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。
その真意を知った時、私は―。
※暫く鬱展開が続きます
※他サイトでも投稿中
婚約破棄の場に相手がいなかった件について
三木谷夜宵
ファンタジー
侯爵令息であるアダルベルトは、とある夜会で婚約者の伯爵令嬢クラウディアとの婚約破棄を宣言する。しかし、その夜会にクラウディアの姿はなかった。
断罪イベントの夜会に婚約者を迎えに来ないというパターンがあるので、では行かなければいいと思って書いたら、人徳あふれるヒロイン(不在)が誕生しました。
カクヨムにも公開しています。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる