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どうする?私

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「そんなに、私を見ても、どうすることもできないわよ?」
「あれは、ダメなの?」
「あれ?」
「万能解毒剤」


 ウィルに言われ、私は少し考えた。多少の毒なら……麻薬でもなんとかしただろう。ただ、春から常習的に使われていて、体の芯から麻薬に浸かっているような状態に、効くのだろうか?という疑問がある。


「……わからない。少量の麻薬なら、なんとかなると思うけど、もう半年近く使われているなら、体にしみ込んでしまっている。それに対抗できるのか、私にはわからないわ」


 いいことを思いついたと思ったウィルや効力を知っているナタリーは表情を明るくしたが、私が首を振ったことで、反転してしまう。


「万能解毒剤とはなんですか?」
「ありとあらゆる毒の効果を無効にできるの。完璧ではないから、人体実験とかして、どういう症状になら効くかある程度、決まってはいるんだけど」
「そんなものがあるなら、やってみないのですか?」
「……効果があるとは、とても思えないわ。私も持ってきてはいるけど、麻薬の効果を無くすほどは持っていないし、万能解毒剤は、今、屋敷での手持ちも少ないの」
「どうしてですか?」
「ヨハンが、南の領地に行っていたから、作ってもらっていないのよ」
「……教授しか作れない?」


 ヒーナの目が光ったが、私は首を横に振る。レシピは公開されているので、ヨハン以外にも、助手たちが作ることもできる。が、その助手も、ほとんどが南の領地へ向かっていた。栄養剤のような使い方もできるので、消費量も多かった。だから、私の手持ちも少なかった。これもそれも、公の人望が無いが故に、こちらへのしわ寄せがきているのだ。


「助手でも作れるし、なんなら、私も作れるわよ?ヒーナ、ヨハンを殺してやろうとかちょっと考えたかもしれないけど、ついでにいえば、強いわよ?そこらの近衛よりよっぽど」
「……そんなことは、思ってないですけど、強いのですか?」
「えぇ、ウィルとは手合わせしたことなかったっけ?」
「あぁ、うまいことはぐらかされてるから、ないな」
「それより、この国王様の話ではないですか?もぅ、アンナリーゼ様もウィルもすぐに誰が強いとかそういう話ばかり……」


 ナタリーに私とウィルが謝ると、すぐに話が戻っていく。


「それで、どうするの?王様なんて、俺らがどうこうできるものじゃないでしょ?」
「確かにね……かといって、隣国の内政に干渉もできないし……どうする?私って感じ」
「侯爵に頼むわけにはいかないのか?」


 チラリと見たが、正直なところ厳しい。まだ、小さな子を抱えているだけでも大変なのだ。事業もしているのだから、内政どころではないはず。内政に関わろうとすれば、必ずあたる壁がある。宰相が王の側から外されている今なら、余計に、そのあおりをもらってしまうはずだ。


「八方塞がりな状況?」
「そうね……頼る人がいないから」
「姫さんの得意な王太子でもひっかけて来たらどう?」


 あぁ、その手があったかとナタリーがさも当たり前のように頷いているが、私は王子ほいほいではない。何を言っているのだろうと睨んだ。


「陛下には、もしかしたら断られるかもしれませんが、王太子殿下なら、会える可能性があります。どうしますか?」
「侯爵が狙われるのは本意ではないわ。ただでさえ、今回のお願いで、不利な状況になっていないか心配していたのよ」
「ご心配には及びません。私は本当に、フレイゼン侯爵家に返せないほどの恩があるのです。もちろん、アンナリーゼ様にも。だから、これしきのこと、気に病む必要はないのですよ」


 元引きこもり侯爵も、ここ数年で、いろいろあったのだろう。苦労ももちろんあっただろうし、私の無理難題にもエレーナとともに応えてもらっている。


「みんな成長しているのね」
「まぁ、姫さんの無理難題を達成させようとするなら、無茶もしないとなぁ……その先に成長があるなら、姫さんの周りは、成長株ばかりだと思うぜ?」
「なんか、ちょっと、むかつく言い方ね?」
「そうか?だいたい合ってるんじゃない?一番の成長株はローズディアの公だろうと思うけど……」
「セバスも、アンナリーゼ様に出会ってから変わりましたよ?」
「ナタリーだってそうだろ?」


 お互いのことを言い合って笑いあうウィルとナタリーを横目に苦笑いだけして、私は侯爵の方をじっと見つめた。
 引きこもり侯爵は、貴族の友人が少ないと聞いている。それでも、王太子との繋がりがあるのは、エレーナのがんばりなのか、エレーナに頑張った自分を褒めて欲しかったのか、どちらにしても、大金星だろう。


「侯爵」
「はい、アンナリーゼ様」
「王太子に会えるよう手配してくれるかしら?」
「もちろんです。王太子様なら、貴族とは一定の距離を取っていらっしゃるので大丈夫かと」
「一定の?」
「えぇ、そうです。我が家はフレイゼン侯爵家との繋がりがあるので、懇意にしていただいてますが、他は、なかなか個人的にお会いすることは難しいかと」
「王太子妃もその日、呼べるかしら?」
「殿下にお手紙をさせていただきますが、それは……」
「王太子にも手が伸びてたら困るから、一緒に見てみたいと思って」


 なるほどと頷き、メイドに便箋を持ってくるように伝えた。手紙の用意をして戻ってきたメイドから一式を受取ると、私の前で手紙を書き、内容を一緒に確かめて王太子へと手紙を送った。その手紙の返事は、そうそうに来ることになる。
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