ハニーローズ  ~ 『予知夢』から始まった未来変革 ~

悠月 星花

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得体のしれない雰囲気

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 考え事をしている私に侯爵は、気になる点を教えてくれた。


「最近といいますか、少し、私を遠ざけるようなことをするときがありました。お会いしたいと連絡をしたら、忙しいからと断られたのですが、それでもと王宮へ向かったら、私を見て声をかけてきたり……ちぐはぐなときがあるのです」
「ちぐはぐなとき?」
「えぇ、そうなのです。もしかしたら、手紙は陛下の元へ届いていないのではないかと疑っていたのですが、そうでもないようで……」
「内容を書き換えられているとかはないの?」


 ハッとしたような表情をする侯爵。まさかと思う反面、何か思い当たるようなことがあるのだろうか?話を促すと、頷いて話始める。


「宰相が常に一緒にいたのですが、最近は、ちょっと様子が違います。春頃からでしょうか?この国で3番目の位にあります公爵の薦めで、新しい近侍を陛下が迎えられました」
「……たしか、お茶を入れるのが上手だとか、気配りがうまいとか……それに加えて、腕もたつような方でしたわね?」
「エレーナも覚えていたか」
「えぇ、なんだか、得体のしれない雰囲気がありましたから……少し怖く感じていました」
「特徴とかはわかる?」


 特徴と聞かれて、侯爵もエレーナも首を傾げる。嫌な雰囲気があったというなら、その特徴も覚えていそうなのに、何も思い出せないというのだ。もやがかかったような感じらしく、それ以上は話にならなかった。
 コンコンとノックの音とともに、メイドに案内されて、ウィルたちも入ってきた。自分たちの方が早く帰ってきたと思っていたらしく、すでに私たちがお茶を飲んでいるところを見て、顔を顰めた。


「俺らの方が早く帰ってきたと思ったのに、姫さんたちの方が早いって……どう思う?ヒーナ」
「何か、不測の事態があったのではないかと」
「やっぱりそう思う?」


 ウィルに席を勧めると、ナタリーと反対側に座る。ヒーナは私の後ろに立った。そのとき、あっとおもいたった。元戦争屋のヒーナのことを。


「ヒーナ」
「どうかされましたか?」
「お茶を入れるのが上手で、気配り上手で、腕の立つ仲間っていたかしら?」
「なんのことですか?」
「王の側に侍ることができるほど、きちんとした教育を受けていて、嫌な雰囲気を持っているけど、記憶には残りにくいような戦争屋がいるかしら?」


 私の質問にやっと繋がったのか、あぁという。ヒーナを見上げると思い当たる人物がいるようだ。


「私、アイツ、嫌いです」
「……嫌いということは、いるっていうことね。油断も隙もないわね……」
「そういえば、エルドアの有力貴族へ派遣されていたと思いますが……、王に仕えているのですか?」
「まだ、はっきりとはしないけどね?」
「それなら、王は変なところがありませんか?人格が変わったとか、おかしな言動をするとか……その侍従以外、人を寄せ付けないとか」
「どうしてそれを?」


 侯爵は、ヒーナを見て驚いていた。今、言ったことは、まさにエルドア国王にあたっているのだろう。


「……それなら、わりと手遅れですよ。麻薬中毒になっている可能性が高いです」
「麻薬?えっ、お茶……」
「ナタリー様は令嬢ですから、ご存じないかもしれませんね。アンナリーゼ様なら、知っているのではありませんか?そういうものがあるということを」
「……なんだか、それを言い当てられるのは、怖いわね?」


 はぁ……とため息をつくと、侯爵も目を丸くしてこちらを見ていた。普通の貴族なら、知っている人物は多くないだろうが、普通ではない私は知っている。もちろん、ウィルも近衛にいるのだから知っているだろう。


「実物を見たのは、一回だけ。ヨハンに毒の試し飲みのときに、もらったきりよ。1度や2度ならまだしも、常習的に飲んでいるとしたら、中毒だったとしてもおかしくはないわ」
「麻薬ってさ、あれだよな?」
「そう。死が近い人に使う場合もあるけど、痛みで神経がおかしくなりそうなときに使うこともある。それは、医術がきちんとできる人の側で、適量だと大丈夫だけど、今回は違う」
「王を狂わせるために、常習的に接種させているということですか?」


 侯爵からの問いに、私もヒーナも頷いた。この国を内側から狙ったやり方だろう。ローズディアでは、ヒーナたちが動いていたのだが、エルドアはすでに狙った人物まで辿り着いていたことに驚いた。


「春からだとすれば……もう、半年近くなるかしら?」
「それって、治るのか?常習的に麻薬を取り入れている王を正常になんて……正直、難しくないか?」
「無理でしょうね。時間もかかるし、その間にも、この国を意のままに動かしたい人物がいるのだから。疑わしいのは、王に侍従を推薦したものだと思うけど、それも、後ろにだれかいる……例えば……、ダリア・ウェスティン伯爵の陣営のものね」


 一斉に私へ視線が集まるのがわかる。この国のことに、首を突っ込むべきではないのだが、どうにかしないといけないことはわかる。エルドアには、味方がいないのだから……どうしたものかと、ため息をついた。
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