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こちらに来てみてください。
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値段交渉をしようと、店主の方を見た。初めて見るその宝石アレキサンドライトは、私の心をギュっと掴むようにして離さない。
相場はわからないけど、店主が出してきた金額は、私が想像するよりかなり高かった。
「……すごい金額。私、そこそこ宝石の相場はわかっているし、見る目もあると思っているのだけど、これって、そんなにするんだ?」
手に取ってみると、やはりおもしろい色をしている。ルビーのようなハッキリした赤ではないのだが、なんとも言えないその色が気に入っていた。
「少し高すぎませんか?」
たまらず、ナタリーが口を挟む。わからないでもない。ただ、この宝石、今まで生きてきた中で見たことがないのだから、どう判断すればいいのか、わからなかった。
「このアレキサンドライトは、この国でしか採掘されません。もしかしたら、他の国でも取れるのかもしれませんが、今のところは我が国だけ。私が、ご提示した金額は、希少価値があるという意味でも最安値ではないかと、自負しております」
「確かに、おもしろい色をしているし、傷もなく美しいわ。とても気に入ったもの」
「アンナリーゼ様?」
「どうかして?」
ナタリーがこちらを見て、驚いた表情をしていた。いつも、色のハッキリしたようなものを好んでつけている……そう思っているのだろう。
……こういう色も好きなんだけどな。みんな、しっかりした色の宝石しか選んでくれないから。私の性格的に、そう思われているのかもしれないわね。
「いえ、驚いたのです。ふだん、あまりつけないような色味だったので」
「普段は、どのようなものが多いのですか?」
「基本的に今つけている真紅の薔薇のチェーンピアスとサファイアの青薔薇くらいかしら?夜会や茶会などにはサファイヤの宝飾品やアメジストが多いわ」
「なるほど……青い系統の宝飾品が多いのですね?」
そうねというと、店主はニッコリ笑った。意図があるのかわからないが、自信に満ちていて、興味が出てくる。
「御足労をおかけしますが、しばしあちらの日の当たる窓際へ向かってくださいますか?」
「窓際?何かあるの?」
「見ていただきたいのです。この美しいアレキサンドライトを」
スッと立った店主の後ろに続いて、私もナタリーもエレーナも立つ。窓際へ向かったあと、店員がケースに入ったアレキサンドライトの宝飾品を持って近づいてきた。蓋は閉められており、何をするのかわからなかった。
「こちらに来てみてください」
「何があるの?さっきから」
ナタリーが少し不機嫌そうに店主に小言をいうが、私が後ろからまぁまぁと抑えた。
言われた通り、店主の隣に立ち、店員がケースを開く。先ほどと同じ色をしたアレキサンドライトの宝飾品が入っていた。
「よく見ていてください」
私たちに声をかけたあと、店員に頷く。店員は、窓の日の当たる場所へゆっくり後退していった。
私は、太陽の光が当たって、赤が少し色が変わるくらいだろうと当たりをつけていた。それは、私だけでなく、ナタリーもだったし、エレーナもだ。
太陽の光を浴びたとき、青色に光るアレキサンドライトの宝飾品に目を疑った。
「「えっ……?」」
「何が起こりましたの?」
「さっきまで赤い色だったのに、今度は、青?」
見ていた私たちも混乱してしまい、どうなっているの?と三人が顔を見合わせていた。でも、目の前にあるのは、青い色の宝飾品だ。どこからどう見ても青い。太陽の光の当たり具合で、ところどころ、緑色に見えるような場所もあった。
「……これは?」
「先程あちらで見せたアレキサンドライトの宝飾品です」
「……太陽の光を浴びると、青くなるの?」
「えぇ、そうです。値段を高額だと皆様は思われたかもしれません。ただ、私どもは、この値を希少価値を含め、最も安い値段だと考えております」
いかがでしょうか?と強気な店主。こんな秘密を持った宝石は、私は一度も見たことがなかった。精々、少し色が濃くなるとか薄くなるくらいのものだと思っていたのだ。
「見事だとしか言えないわね。そちらの提示額で買わせてもらいます」
「ありがとうございます」
「手持ちは足りる?」
「……少しだけ足りません。先程、別の宝飾品を買いましたので」
「いくら?」
「ほんの少しです」
ナタリーがこれだけというので、私はポケット漁る。先程、麦を買い取ってもらったときのお金があるのだ。
「……これでたりるかしら?」
「アンナ様、そのお金はどこから?」
「麦をね、交換したのよ。そのときの差額にって、店主がくれたお金よ。これで、払えるかしら?」
「はい、大丈夫でございます」
私から小銭をナタリーから有り金を渡され、店員が金額の確認をしている。別の店員が、持ち帰るようにきちんとした化粧箱へと詰めていった。
「それにしても見事なものね。アレキサンドライトは、私でも仕入れることは可能かしら?」
「それは、欲しいということですか?」
「原石がほしいわ。こちらにもお抱えの宝飾職人はいるのよ。見せてやりたいと思ったの」
「それでしたら、数も少ないですが、小さなものであれば集めることが可能ですよ」
「本当?お金は、払うから、一度見せてもらうことはできる?」
「えぇ、もちろんでございます。ただ、私どもが納めさせてもらったものよりかは、質が落ちる可能性があります。それでも、よろしいでしょうか?」
「えぇ、それは大丈夫。見せてあげたいの。新しい宝石を。そこから、彼女の職人としての力が発揮されるのだもの」
ふふっと笑うと、準備が出来ましたと店員が店主に声をかけている。ナタリーがその宝飾品を受取り、私たちは無一文となったので、クロック侯爵家へ、予定よりだいぶ早く帰ることになった。
相場はわからないけど、店主が出してきた金額は、私が想像するよりかなり高かった。
「……すごい金額。私、そこそこ宝石の相場はわかっているし、見る目もあると思っているのだけど、これって、そんなにするんだ?」
手に取ってみると、やはりおもしろい色をしている。ルビーのようなハッキリした赤ではないのだが、なんとも言えないその色が気に入っていた。
「少し高すぎませんか?」
たまらず、ナタリーが口を挟む。わからないでもない。ただ、この宝石、今まで生きてきた中で見たことがないのだから、どう判断すればいいのか、わからなかった。
「このアレキサンドライトは、この国でしか採掘されません。もしかしたら、他の国でも取れるのかもしれませんが、今のところは我が国だけ。私が、ご提示した金額は、希少価値があるという意味でも最安値ではないかと、自負しております」
「確かに、おもしろい色をしているし、傷もなく美しいわ。とても気に入ったもの」
「アンナリーゼ様?」
「どうかして?」
ナタリーがこちらを見て、驚いた表情をしていた。いつも、色のハッキリしたようなものを好んでつけている……そう思っているのだろう。
……こういう色も好きなんだけどな。みんな、しっかりした色の宝石しか選んでくれないから。私の性格的に、そう思われているのかもしれないわね。
「いえ、驚いたのです。ふだん、あまりつけないような色味だったので」
「普段は、どのようなものが多いのですか?」
「基本的に今つけている真紅の薔薇のチェーンピアスとサファイアの青薔薇くらいかしら?夜会や茶会などにはサファイヤの宝飾品やアメジストが多いわ」
「なるほど……青い系統の宝飾品が多いのですね?」
そうねというと、店主はニッコリ笑った。意図があるのかわからないが、自信に満ちていて、興味が出てくる。
「御足労をおかけしますが、しばしあちらの日の当たる窓際へ向かってくださいますか?」
「窓際?何かあるの?」
「見ていただきたいのです。この美しいアレキサンドライトを」
スッと立った店主の後ろに続いて、私もナタリーもエレーナも立つ。窓際へ向かったあと、店員がケースに入ったアレキサンドライトの宝飾品を持って近づいてきた。蓋は閉められており、何をするのかわからなかった。
「こちらに来てみてください」
「何があるの?さっきから」
ナタリーが少し不機嫌そうに店主に小言をいうが、私が後ろからまぁまぁと抑えた。
言われた通り、店主の隣に立ち、店員がケースを開く。先ほどと同じ色をしたアレキサンドライトの宝飾品が入っていた。
「よく見ていてください」
私たちに声をかけたあと、店員に頷く。店員は、窓の日の当たる場所へゆっくり後退していった。
私は、太陽の光が当たって、赤が少し色が変わるくらいだろうと当たりをつけていた。それは、私だけでなく、ナタリーもだったし、エレーナもだ。
太陽の光を浴びたとき、青色に光るアレキサンドライトの宝飾品に目を疑った。
「「えっ……?」」
「何が起こりましたの?」
「さっきまで赤い色だったのに、今度は、青?」
見ていた私たちも混乱してしまい、どうなっているの?と三人が顔を見合わせていた。でも、目の前にあるのは、青い色の宝飾品だ。どこからどう見ても青い。太陽の光の当たり具合で、ところどころ、緑色に見えるような場所もあった。
「……これは?」
「先程あちらで見せたアレキサンドライトの宝飾品です」
「……太陽の光を浴びると、青くなるの?」
「えぇ、そうです。値段を高額だと皆様は思われたかもしれません。ただ、私どもは、この値を希少価値を含め、最も安い値段だと考えております」
いかがでしょうか?と強気な店主。こんな秘密を持った宝石は、私は一度も見たことがなかった。精々、少し色が濃くなるとか薄くなるくらいのものだと思っていたのだ。
「見事だとしか言えないわね。そちらの提示額で買わせてもらいます」
「ありがとうございます」
「手持ちは足りる?」
「……少しだけ足りません。先程、別の宝飾品を買いましたので」
「いくら?」
「ほんの少しです」
ナタリーがこれだけというので、私はポケット漁る。先程、麦を買い取ってもらったときのお金があるのだ。
「……これでたりるかしら?」
「アンナ様、そのお金はどこから?」
「麦をね、交換したのよ。そのときの差額にって、店主がくれたお金よ。これで、払えるかしら?」
「はい、大丈夫でございます」
私から小銭をナタリーから有り金を渡され、店員が金額の確認をしている。別の店員が、持ち帰るようにきちんとした化粧箱へと詰めていった。
「それにしても見事なものね。アレキサンドライトは、私でも仕入れることは可能かしら?」
「それは、欲しいということですか?」
「原石がほしいわ。こちらにもお抱えの宝飾職人はいるのよ。見せてやりたいと思ったの」
「それでしたら、数も少ないですが、小さなものであれば集めることが可能ですよ」
「本当?お金は、払うから、一度見せてもらうことはできる?」
「えぇ、もちろんでございます。ただ、私どもが納めさせてもらったものよりかは、質が落ちる可能性があります。それでも、よろしいでしょうか?」
「えぇ、それは大丈夫。見せてあげたいの。新しい宝石を。そこから、彼女の職人としての力が発揮されるのだもの」
ふふっと笑うと、準備が出来ましたと店員が店主に声をかけている。ナタリーがその宝飾品を受取り、私たちは無一文となったので、クロック侯爵家へ、予定よりだいぶ早く帰ることになった。
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