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合流

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 商店街を歩くと、それなりに人はいる。ただ、クロック侯爵家の前の大通りに比べれば、活気があるように思えるだけで、わりと人々が下を向いている人が多いように思えた。


「国民に、戦争を仕掛けるという噂話が浸透しているってことなのかしらね?不穏な空気を感じているってこと、あまりいい傾向ではないのだけど、本当、何を考えているのかしら?国民を守るのが王の仕事であって、苦しめることは本意ではないはずなのに……」


 商店街の道をずっと奥まで目で追っていくと、そこにはエルドアの王宮がある。街中に建っているそれは、存在感だけでも、圧迫するかのようであるが、エルドアの民にしてみれば、それが誇りなのだときいたことがある。
 城の周りは水掘りがあるので、容易には近づけない仕組みになっていて、籠城も可能な城だそうだ。
 ただ、本当に籠城をするような争いをしたことがないここの国民に、いざ、そのときがきて、戦えるとか……それは、疑問であった。
 それは、ローズディアやトワイスでも同じこと。小競り合いでさえ、苦戦することが多いのに、わざわざ、虎の尾を踏みに出ていくバカものをとめようとするのは、至極真っ当なことなのだが、そういう話にならないのは、何故なのだろうかと思う。


「不安な民の心をすくうことができない王ではないはずなのに……どうして、わざわざ、火種になるようなことをしようとするのかしら?」


 疑問を口にしてしまえば、悪夢を思い出す。未来は変わったと思っていたのに、ここに来て、『予知夢』とは別のところから、あの悪夢が再現されるような事態になってきている。

 ハリーを……家族を友人たちを守るために、私は間違えることなく道をひとつひとつ選んできた。なのに、どうして、最悪の結果に向かおうとするの?
 ……ハニーローズが生まれたから、悪夢は、もう……。それとも、試練なのだろうか?アンジェラという女王を迎えるための……厄災と希望のための。
 そんな試練、いらないわ。……私が、このバカげた争いの芽をとめてみせる。


 グッと握った手にさらに力を込めていく。最初の『予知夢』から、随分未来が変わったと思っていた。自身の寿命が伸びたことに安心すらしていたのだ。


「とりあえず、ナタリーたちと合流ね」


 スカートを揺らし、商店街の真ん中を歩く。視線は高く、背筋を伸ばして。
 これから、私がおもてに出ることはなく、セバスが再度、このおかしなエルドアとの話合いの円卓の席につくことになるだろう。
 解雇されたとしても、絶対だ。セバス以外に、この状況をひっくり返せる文官が、ローズディアにはいないから、そう信じている。


「さて、どんなことになるのかしらね……でも、私、一度もエルドアの王様にあったことがないわ。一度、お目通りをしてもらえるか、エレーナに聞いてもらおうかしら?それなら、宝飾品がいるわね……持ってきていないもの」


 落ち合う予定の宝飾品店まで来た。クロック侯爵夫人の使いですといえば、中に通してくれ、応接室でナタリーとエレーナ、この店の店主が迎え入れてくれる。


「戻りました。少し、お約束の時間を過ぎてしまいましたね?」
「いいえ、大丈夫ですよ。まだ、宝飾品を見せていただいているところですから」
「そうなのね……ちょうどいいわ」


 私の雰囲気が変わったことにナタリーは気が付いたようだ。ニッコリ笑いかけるナタリーは、何が欲しいのかと視線を贈ってくる。侍女風情がという店主を睨み、そうねぇ?と考えたふりをする。


「この店で高い宝飾品を全て見せてちょうだい。少し、行きたい場所ができたの」
「な、なんですと?侍女に買える値段のものはないですぞ?」
「……侍女?」


 コテンと頬に手をあて首を傾げると、あぁ、と思い出した。目的のことで、すっかり役を忘れてしまった。ローズディアでは、有名人なので、侍女の格好をしようが、お忍びであるいていようが、わりとすぐに公爵とバレてしまう。触れないようにしてくれる公都のみなには、助かっているところはあるが、ここは、エルドアだ。私を知らない人ばかりだったことを思い出した。


「アンナ様、そろそろ、お遊びは終わりにするのですか?」
「えぇ、街の様子も見れたし、もういいかと。それより、エレーナ」
「こ、こ、侯爵夫人を呼びつけにするとは!なんて、恐れ多いことを!」
「侯爵夫人より、公爵の方がえらいもの。普通のことでしょ?」
「……アンナリーゼ様、ここは、エルドアですから」
「あぁ、また、忘れてた。ナタリーもエレーナもいると、どうしてもトワイスにいる気分になるのよね……んー、役はもういいし……名乗るわ」


 店主はおっかなびっくりの顔をしながら、玉のような汗をかいている。侯爵夫人を呼びつけにした上に、自身が公爵だっていう侍女のような見た目の私に戸惑っていることはわかる。


「私の名は、ローズディア公国アンバー公爵アンナリーゼ・トロン・アンバー。エルドアの王様に会いに行きたいから、それ相応の宝飾品を所望するわ。値段は、そうね……いい値では買わないから、覚悟してちょうだ!」


 にぃっと笑うと、ひぃっと短い悲鳴をあげる店主。わからないでもないが……、怖いものでもみたかのような顔面蒼白に少しむっとしていると、ナタリーが側に来て、肩をトントンと叩いていった。
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