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ブラブラと出歩く私

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 さっきの店で見つけた裸体のお姉さんを見ただけでも、アンバー領が小さな影響を出し始めている?と思えるくらいには、なってきているのだろう。

 ブラブラと店が続く街並みを買い物客が同じようにあちこち見ていた。庶民らしい物価のものが多く、貴族相手の商店街ではないことがわかる。

 ……こういう通りって、どうしてか、ワクワクするのよね。

 トワイス国にいる頃は、よく王都の街を出歩いた。貴族の令嬢だと言っていなかったのに、いつの間にかみんな知っていたというのは、大きくなってから知ったのだが、温かく迎えてくれた商店街の人たちのことがとても好きだった。

 ……お兄様とかハリーと一緒に出かけたわよね。ハリーと出かけるのは、楽しかったけど、お兄様って、どういうわけかいつも絡まれていたわよね。
 侯爵家の跡取りなのに……って、いつも起こっていた気がするわ。

 懐かしい想い出を浮かべながら、見知らぬ商店街を歩く。どこもここも同じようなものばかり置いてあるので、代り映えはしない。少し品代が、ローズディアより割高な気がするのは、錯覚だろうか。

 ……ハニーアンバー店は、地産地消を考えているから、なるべく安く買えるようにと値崩れ起こさない程度に下げている。市場の金額は、きちんと調査して、決めるようにしているのが、この商店街は、ほとんどが商品について一律の金額で売られているように思う。

 値切ってみようかしら?

 私は店に入って行く。日用品が並ぶその店で、特に何か欲しかったわけではないのだが、店内を見回る。

 うーん、品ぞろえもあんまりよくないのね。見栄えがよく見えるのは、同じ品の数が多いからだわ。


「いらっしゃいませ」
「こんにちは!えっと……」


 何かを探している様子で、キョロキョロしていると思われたのだろうから、答えないといけない。これと言って欲しいものがなかったので、どうしようかと思ったのだが、これなら、普通に怪しまれないかもしれない。


「何かお探しですか?」
「……えぇ、芋や野菜の皮むきをするために、ナイフをひとつ欲しいのだけど……いいのはあるかしら?」


 日用品屋へ入ったので、何か何かと焦って出した答えが、芋の皮むきようにナイフが欲しい……。どこの貴族が芋の皮むきなんか……と、ウィルには笑われそうだが、実際、貴族は、料理をしない。侍従がいるのだから、する必要がないのだ。
 でも、私は違う。お出かけには、いつなんどき芋の皮むきを領地の奥様方と一緒にすることになるかわからないので、必要になるのだ。
 最近、活躍が多かったナイフは、愛用品のため研いではいるが、そろそろ、年季もので、剝きにくい。
 レオにも、練習をさせようかしら?と今思いついたので、実際、見せてもらうことにした。


「こちらの一品はどうですか?よく出ていますよ」


 渡してくれたのは、何の変哲もないナイフだ。手で持った感じは、女性でも使いやすそうな持ち手であった。レオはまだ、子どもだから、これくらいでもいいだろう。
 将来のことは、ウィルがなんとかしてくれるしと思いながら、ナイフをケースから出してみる。


「いいものね。使い勝手もよさそう。これ、いくらになるかしら?」
「こんなものだねぇ?」


 提示された金額に頷き、私はお金を払う。聞きたいことがあるので、店員の後ろについていくことにした。


「ここらあたりのナイフの値段って、同じくらい?」
「えぇ、相場が決まっているので、だいたいそのお値段です。高くしすぎると、誰も買ってくれなくなりますし、安くすると、他の店に睨まれますから」
「私、前も、このナイフを買ったように思うのだけど……値段ってあがっているかしら?」
「前もですか?このナイフは作りがいいから、それほど、悪くならないと思うけど……」
「今回は、子どもへのプレゼントに買ったの」


 店員は私を見て、少し微妙な表情を作ったあと、微笑んだ。
 私が持っているナイフを見て、私にわからない程度にため息をつく。


「少し、値段は上がっていると思うわ」
「上がっているの?」
「ここしばらく、不穏な空気があるなって……私が言っているって思わないで欲しいのだけど、お貴族様の考えていることは、わからないわ。戦争が始まるとか、小競り合いがとか、徴兵や税が上がるとかの噂があって……不安でない国民はいないわ」
「……相手は、やっぱりインゼロ?」
「そんな噂はあるけど……噂だけであってほしいと思っているのだけど、国の行方を決めるのは、国王や貴族だから……決められたことをするだけ。物価がどんどんこれから上がっていくかと思うと、ゾッとする」


 不安な未来は、肌で感じているところなのだろう。こんなふうに、国民へ不安を与えてまで、国王はどうしたいのだろう?と私もため息をついた。


「貴族って、何を考えているのかしらね?」
「……私たちは、税を納めていれば、いいというふうなのでしょう。貴族が大きな額のお金を使っていたとしても、私たちはこのナイフ1本買うことすら難しい世の中が来ることを知らないのかもしれないわ。私たちのことなんて、国王からしたら、蟻のような存在なのでしょうね」


 諦めたような店員に、そうじゃないことを願うわねと微笑めば、本当にと返してくれた。店員の好意で、ナイフの柄に名を入れることができるということだったので、レオと入れてもらうことにした。
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