1,011 / 1,513
作りたいもの
しおりを挟む
「綺麗な薔薇ね」
「アンバー公爵家には、青い薔薇があるのでしたね?」
中庭で美しさを誇っている赤薔薇を見ながら、エレーナはお茶を一口飲む。私たちも同じように口をつけた。
「えぇ、あるわ!ジョージア様に卒業式の日にいただいた9本の青い薔薇は、屋敷のものだったそうよ」
「あの薔薇ですか?」
「そう。お義母様が持たせてくれたらしいのよ」
ナタリーとエレーナが微笑み合う。ナタリーは同じ卒業式に出ていたので知っているだろうが、エレーナは、また聞きのまた聞きでろう。兄からエリザベス、エリザベスからエレーナへと伝わったに違いない。
「私もその場に参列出来なかったこと、とても残念に思いました。素敵だったでしょうね?」
もちろんよ!とナタリーがうっとりしたようにいうので、ジョージア様がかっこいいといってくれるのかと思えば、私の話になってしまい、思わず止めてしまった。
「照れなくてもいいではないですか?私の愛は永遠にアンナリーゼ様のものですから」
「……嬉しいけど、さすがに恥ずかしいわ」
頬を押さえいやいやをすると、クスクス笑うエレーナ。
「アンナ様も可愛らしいところがあるのですね」
「……恥ずかしいものは、恥ずかしいわ。ナタリーは臆面もなく言ってくれるのだけど……」
「戴冠式の日は、とてもかっこよく、私の気持ちを受け入れてくださいましたのに」
「それは、私にも外面というものがあるのです。とても嬉しいことに変わりはアリアませんけど、こうして、友人たちだけでおしゃべりをするときくらい、仮面は外してもいいわよね?」
親しい人しかいないのだからと、素の私で話をすると、二人ともが嬉しそうに笑いかけてくれる。貴族としてのアンナリーゼは、この瞬間だけお休みを許された。
「そういえば、ずいぶんとインゼロ帝国からの織物を仕入れていましたね?新作に使うのですか?」
エレーナもドレスのことは気になるようで、先程の織物の話をナタリーに聞いた。私の予想が正しければ……とんでもないことを言い出すに違いない。
「使いたいのはやまやまなのですがね……」
「使わないのですか?」
「えぇ、今は、使わないわ。と、いうか……使えないが正解ね」
ナタリーが大きなため息をついて、普段は見せないような、少しだらけたように座る。エレーナはもちろん驚いているが、私も驚いた。
「何か問題でも?」
「問題は、大あり……なのですよ」
何処がですか?とエレーナがナタリーに問うと、肩を落としてしまった。私もあまり見たことがない表情だった。
「インゼロ帝国で作られた織物だっていうのが、問題ね。敵国だからってだけで、わけではなくて……今、ローズディアでは、いろいろな感情があるからね。病で国が傾いているのも、インゼロとの取引から始まっているのよ。エレーナは知っていて?」
「えぇ、セバスチャン様に聞いています。詳細は、あまり教えてはいただけなかったですが……」
「私が知ることは教えたけど、本当の南の領地で起こっていたことは、知らせてなかったからね。こっちに集中するために」
「そういえば、なぜ、セバスが選ばれたのですか?私、それこそ、詳細をしりませんわ」
ナタリーが私を見て、エレーナは何のことですか?と小首を傾げている。
二人に向かってクスっと笑って、セバスを迎えにいったときに話しましょうと切り上げた。
「織物の話に戻ったらどう?ナタリー」
「えぇ、そうですね。あの織物は、とても素晴らしいものでした。私、一目で好きになりましたわ。アンナリーゼ様のドレスにどのように使うかもちゃんと想像できていますし、すぐにでも描けますわ」
「では、インゼロ帝国のものだということがダメなら、使えないのですか?」
「いいえ、答えは至極簡単ですわ。私、これでも、ハニーアンバー店の中でドレスだけでなく、布を扱っている部門で、勉強をしているのですよ。エルドアでの流行ももちろん知っていますし、トワイスのもです。流行を作ることに生きがいを感じているのですから、変わった織物は、とても気になっていますわ」
得意げに胸をはるナタリーにニコリと笑いかける。ナタリーの自信は、頷ける。今まで私のドレスやローズディアの流行はナタリーが作ったものだ。それが、その自信に繋がっている。
「インゼロで作っているのなら、仕入れることは出来ません。だから、作ってしまうのです。技術を盗んだと言われるかもしれませんが、相手は伝統を引き継いでいるのです。なら、私たちは、その伝統に革新をもたらした上で、使えばいいのですよ」
「……ナタリー様って、以前お会いしたときとは、ぜんぜん違いますね。学生だったということもあるでしょうが、失礼な言い方をすれば……」
「親の駒でしょ?貴族令嬢は、本来、そうなるように躾けられますからね。枠から飛び出ないようにと」
「えぇ、そうです。私にも身に覚えがあります」
二人が私を見て、頷きあいながらため息をついた。目をパチクリさせると、同時だった。
「「規格外の令嬢なら、目の前にいますもの」ね」
自覚はあったのだが、さすがに面と向かって言われると、返す言葉もない。みんなに言われ続けたのだから、驚きはしないが、苦笑いをするしかなかった。
きっと、今頃、私の動向を追っているであろうトワイスでは、殿下とハリーとお兄様が大きなため息をついて、「また、何かやらかすつもりか!」と言っているような気がしたのである。
「アンバー公爵家には、青い薔薇があるのでしたね?」
中庭で美しさを誇っている赤薔薇を見ながら、エレーナはお茶を一口飲む。私たちも同じように口をつけた。
「えぇ、あるわ!ジョージア様に卒業式の日にいただいた9本の青い薔薇は、屋敷のものだったそうよ」
「あの薔薇ですか?」
「そう。お義母様が持たせてくれたらしいのよ」
ナタリーとエレーナが微笑み合う。ナタリーは同じ卒業式に出ていたので知っているだろうが、エレーナは、また聞きのまた聞きでろう。兄からエリザベス、エリザベスからエレーナへと伝わったに違いない。
「私もその場に参列出来なかったこと、とても残念に思いました。素敵だったでしょうね?」
もちろんよ!とナタリーがうっとりしたようにいうので、ジョージア様がかっこいいといってくれるのかと思えば、私の話になってしまい、思わず止めてしまった。
「照れなくてもいいではないですか?私の愛は永遠にアンナリーゼ様のものですから」
「……嬉しいけど、さすがに恥ずかしいわ」
頬を押さえいやいやをすると、クスクス笑うエレーナ。
「アンナ様も可愛らしいところがあるのですね」
「……恥ずかしいものは、恥ずかしいわ。ナタリーは臆面もなく言ってくれるのだけど……」
「戴冠式の日は、とてもかっこよく、私の気持ちを受け入れてくださいましたのに」
「それは、私にも外面というものがあるのです。とても嬉しいことに変わりはアリアませんけど、こうして、友人たちだけでおしゃべりをするときくらい、仮面は外してもいいわよね?」
親しい人しかいないのだからと、素の私で話をすると、二人ともが嬉しそうに笑いかけてくれる。貴族としてのアンナリーゼは、この瞬間だけお休みを許された。
「そういえば、ずいぶんとインゼロ帝国からの織物を仕入れていましたね?新作に使うのですか?」
エレーナもドレスのことは気になるようで、先程の織物の話をナタリーに聞いた。私の予想が正しければ……とんでもないことを言い出すに違いない。
「使いたいのはやまやまなのですがね……」
「使わないのですか?」
「えぇ、今は、使わないわ。と、いうか……使えないが正解ね」
ナタリーが大きなため息をついて、普段は見せないような、少しだらけたように座る。エレーナはもちろん驚いているが、私も驚いた。
「何か問題でも?」
「問題は、大あり……なのですよ」
何処がですか?とエレーナがナタリーに問うと、肩を落としてしまった。私もあまり見たことがない表情だった。
「インゼロ帝国で作られた織物だっていうのが、問題ね。敵国だからってだけで、わけではなくて……今、ローズディアでは、いろいろな感情があるからね。病で国が傾いているのも、インゼロとの取引から始まっているのよ。エレーナは知っていて?」
「えぇ、セバスチャン様に聞いています。詳細は、あまり教えてはいただけなかったですが……」
「私が知ることは教えたけど、本当の南の領地で起こっていたことは、知らせてなかったからね。こっちに集中するために」
「そういえば、なぜ、セバスが選ばれたのですか?私、それこそ、詳細をしりませんわ」
ナタリーが私を見て、エレーナは何のことですか?と小首を傾げている。
二人に向かってクスっと笑って、セバスを迎えにいったときに話しましょうと切り上げた。
「織物の話に戻ったらどう?ナタリー」
「えぇ、そうですね。あの織物は、とても素晴らしいものでした。私、一目で好きになりましたわ。アンナリーゼ様のドレスにどのように使うかもちゃんと想像できていますし、すぐにでも描けますわ」
「では、インゼロ帝国のものだということがダメなら、使えないのですか?」
「いいえ、答えは至極簡単ですわ。私、これでも、ハニーアンバー店の中でドレスだけでなく、布を扱っている部門で、勉強をしているのですよ。エルドアでの流行ももちろん知っていますし、トワイスのもです。流行を作ることに生きがいを感じているのですから、変わった織物は、とても気になっていますわ」
得意げに胸をはるナタリーにニコリと笑いかける。ナタリーの自信は、頷ける。今まで私のドレスやローズディアの流行はナタリーが作ったものだ。それが、その自信に繋がっている。
「インゼロで作っているのなら、仕入れることは出来ません。だから、作ってしまうのです。技術を盗んだと言われるかもしれませんが、相手は伝統を引き継いでいるのです。なら、私たちは、その伝統に革新をもたらした上で、使えばいいのですよ」
「……ナタリー様って、以前お会いしたときとは、ぜんぜん違いますね。学生だったということもあるでしょうが、失礼な言い方をすれば……」
「親の駒でしょ?貴族令嬢は、本来、そうなるように躾けられますからね。枠から飛び出ないようにと」
「えぇ、そうです。私にも身に覚えがあります」
二人が私を見て、頷きあいながらため息をついた。目をパチクリさせると、同時だった。
「「規格外の令嬢なら、目の前にいますもの」ね」
自覚はあったのだが、さすがに面と向かって言われると、返す言葉もない。みんなに言われ続けたのだから、驚きはしないが、苦笑いをするしかなかった。
きっと、今頃、私の動向を追っているであろうトワイスでは、殿下とハリーとお兄様が大きなため息をついて、「また、何かやらかすつもりか!」と言っているような気がしたのである。
0
お気に入りに追加
123
あなたにおすすめの小説
【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。
氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。
私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。
「でも、白い結婚だったのよね……」
奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。
全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。
一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。
断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

メインをはれない私は、普通に令嬢やってます
かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール
けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・
だから、この世界での普通の令嬢になります!
↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・


追放された悪役令嬢はシングルマザー
ララ
恋愛
神様の手違いで死んでしまった主人公。第二の人生を幸せに生きてほしいと言われ転生するも何と転生先は悪役令嬢。
断罪回避に奮闘するも失敗。
国外追放先で国王の子を孕んでいることに気がつく。
この子は私の子よ!守ってみせるわ。
1人、子を育てる決心をする。
そんな彼女を暖かく見守る人たち。彼女を愛するもの。
さまざまな思惑が蠢く中彼女の掴み取る未来はいかに‥‥
ーーーー
完結確約 9話完結です。
短編のくくりですが10000字ちょっとで少し短いです。

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持
空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。
その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。
※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。
※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。

結婚記念日をスルーされたので、離婚しても良いですか?
秋月一花
恋愛
本日、結婚記念日を迎えた。三周年のお祝いに、料理長が腕を振るってくれた。私は夫であるマハロを待っていた。……いつまで経っても帰ってこない、彼を。
……結婚記念日を過ぎてから帰って来た彼は、私との結婚記念日を覚えていないようだった。身体が弱いという幼馴染の見舞いに行って、そのまま食事をして戻って来たみたいだ。
彼と結婚してからずっとそう。私がデートをしてみたい、と言えば了承してくれるものの、当日幼馴染の女性が体調を崩して「後で埋め合わせするから」と彼女の元へ向かってしまう。埋め合わせなんて、この三年一度もされたことがありませんが?
もう我慢の限界というものです。
「離婚してください」
「一体何を言っているんだ、君は……そんなこと、出来るはずないだろう?」
白い結婚のため、可能ですよ? 知らないのですか?
あなたと離婚して、私は第二の人生を歩みます。
※カクヨム様にも投稿しています。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません
abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。
後宮はいつでも女の戦いが絶えない。
安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。
「どうして、この人を愛していたのかしら?」
ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。
それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!?
「あの人に興味はありません。勝手になさい!」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる