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作りたいもの
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「綺麗な薔薇ね」
「アンバー公爵家には、青い薔薇があるのでしたね?」
中庭で美しさを誇っている赤薔薇を見ながら、エレーナはお茶を一口飲む。私たちも同じように口をつけた。
「えぇ、あるわ!ジョージア様に卒業式の日にいただいた9本の青い薔薇は、屋敷のものだったそうよ」
「あの薔薇ですか?」
「そう。お義母様が持たせてくれたらしいのよ」
ナタリーとエレーナが微笑み合う。ナタリーは同じ卒業式に出ていたので知っているだろうが、エレーナは、また聞きのまた聞きでろう。兄からエリザベス、エリザベスからエレーナへと伝わったに違いない。
「私もその場に参列出来なかったこと、とても残念に思いました。素敵だったでしょうね?」
もちろんよ!とナタリーがうっとりしたようにいうので、ジョージア様がかっこいいといってくれるのかと思えば、私の話になってしまい、思わず止めてしまった。
「照れなくてもいいではないですか?私の愛は永遠にアンナリーゼ様のものですから」
「……嬉しいけど、さすがに恥ずかしいわ」
頬を押さえいやいやをすると、クスクス笑うエレーナ。
「アンナ様も可愛らしいところがあるのですね」
「……恥ずかしいものは、恥ずかしいわ。ナタリーは臆面もなく言ってくれるのだけど……」
「戴冠式の日は、とてもかっこよく、私の気持ちを受け入れてくださいましたのに」
「それは、私にも外面というものがあるのです。とても嬉しいことに変わりはアリアませんけど、こうして、友人たちだけでおしゃべりをするときくらい、仮面は外してもいいわよね?」
親しい人しかいないのだからと、素の私で話をすると、二人ともが嬉しそうに笑いかけてくれる。貴族としてのアンナリーゼは、この瞬間だけお休みを許された。
「そういえば、ずいぶんとインゼロ帝国からの織物を仕入れていましたね?新作に使うのですか?」
エレーナもドレスのことは気になるようで、先程の織物の話をナタリーに聞いた。私の予想が正しければ……とんでもないことを言い出すに違いない。
「使いたいのはやまやまなのですがね……」
「使わないのですか?」
「えぇ、今は、使わないわ。と、いうか……使えないが正解ね」
ナタリーが大きなため息をついて、普段は見せないような、少しだらけたように座る。エレーナはもちろん驚いているが、私も驚いた。
「何か問題でも?」
「問題は、大あり……なのですよ」
何処がですか?とエレーナがナタリーに問うと、肩を落としてしまった。私もあまり見たことがない表情だった。
「インゼロ帝国で作られた織物だっていうのが、問題ね。敵国だからってだけで、わけではなくて……今、ローズディアでは、いろいろな感情があるからね。病で国が傾いているのも、インゼロとの取引から始まっているのよ。エレーナは知っていて?」
「えぇ、セバスチャン様に聞いています。詳細は、あまり教えてはいただけなかったですが……」
「私が知ることは教えたけど、本当の南の領地で起こっていたことは、知らせてなかったからね。こっちに集中するために」
「そういえば、なぜ、セバスが選ばれたのですか?私、それこそ、詳細をしりませんわ」
ナタリーが私を見て、エレーナは何のことですか?と小首を傾げている。
二人に向かってクスっと笑って、セバスを迎えにいったときに話しましょうと切り上げた。
「織物の話に戻ったらどう?ナタリー」
「えぇ、そうですね。あの織物は、とても素晴らしいものでした。私、一目で好きになりましたわ。アンナリーゼ様のドレスにどのように使うかもちゃんと想像できていますし、すぐにでも描けますわ」
「では、インゼロ帝国のものだということがダメなら、使えないのですか?」
「いいえ、答えは至極簡単ですわ。私、これでも、ハニーアンバー店の中でドレスだけでなく、布を扱っている部門で、勉強をしているのですよ。エルドアでの流行ももちろん知っていますし、トワイスのもです。流行を作ることに生きがいを感じているのですから、変わった織物は、とても気になっていますわ」
得意げに胸をはるナタリーにニコリと笑いかける。ナタリーの自信は、頷ける。今まで私のドレスやローズディアの流行はナタリーが作ったものだ。それが、その自信に繋がっている。
「インゼロで作っているのなら、仕入れることは出来ません。だから、作ってしまうのです。技術を盗んだと言われるかもしれませんが、相手は伝統を引き継いでいるのです。なら、私たちは、その伝統に革新をもたらした上で、使えばいいのですよ」
「……ナタリー様って、以前お会いしたときとは、ぜんぜん違いますね。学生だったということもあるでしょうが、失礼な言い方をすれば……」
「親の駒でしょ?貴族令嬢は、本来、そうなるように躾けられますからね。枠から飛び出ないようにと」
「えぇ、そうです。私にも身に覚えがあります」
二人が私を見て、頷きあいながらため息をついた。目をパチクリさせると、同時だった。
「「規格外の令嬢なら、目の前にいますもの」ね」
自覚はあったのだが、さすがに面と向かって言われると、返す言葉もない。みんなに言われ続けたのだから、驚きはしないが、苦笑いをするしかなかった。
きっと、今頃、私の動向を追っているであろうトワイスでは、殿下とハリーとお兄様が大きなため息をついて、「また、何かやらかすつもりか!」と言っているような気がしたのである。
「アンバー公爵家には、青い薔薇があるのでしたね?」
中庭で美しさを誇っている赤薔薇を見ながら、エレーナはお茶を一口飲む。私たちも同じように口をつけた。
「えぇ、あるわ!ジョージア様に卒業式の日にいただいた9本の青い薔薇は、屋敷のものだったそうよ」
「あの薔薇ですか?」
「そう。お義母様が持たせてくれたらしいのよ」
ナタリーとエレーナが微笑み合う。ナタリーは同じ卒業式に出ていたので知っているだろうが、エレーナは、また聞きのまた聞きでろう。兄からエリザベス、エリザベスからエレーナへと伝わったに違いない。
「私もその場に参列出来なかったこと、とても残念に思いました。素敵だったでしょうね?」
もちろんよ!とナタリーがうっとりしたようにいうので、ジョージア様がかっこいいといってくれるのかと思えば、私の話になってしまい、思わず止めてしまった。
「照れなくてもいいではないですか?私の愛は永遠にアンナリーゼ様のものですから」
「……嬉しいけど、さすがに恥ずかしいわ」
頬を押さえいやいやをすると、クスクス笑うエレーナ。
「アンナ様も可愛らしいところがあるのですね」
「……恥ずかしいものは、恥ずかしいわ。ナタリーは臆面もなく言ってくれるのだけど……」
「戴冠式の日は、とてもかっこよく、私の気持ちを受け入れてくださいましたのに」
「それは、私にも外面というものがあるのです。とても嬉しいことに変わりはアリアませんけど、こうして、友人たちだけでおしゃべりをするときくらい、仮面は外してもいいわよね?」
親しい人しかいないのだからと、素の私で話をすると、二人ともが嬉しそうに笑いかけてくれる。貴族としてのアンナリーゼは、この瞬間だけお休みを許された。
「そういえば、ずいぶんとインゼロ帝国からの織物を仕入れていましたね?新作に使うのですか?」
エレーナもドレスのことは気になるようで、先程の織物の話をナタリーに聞いた。私の予想が正しければ……とんでもないことを言い出すに違いない。
「使いたいのはやまやまなのですがね……」
「使わないのですか?」
「えぇ、今は、使わないわ。と、いうか……使えないが正解ね」
ナタリーが大きなため息をついて、普段は見せないような、少しだらけたように座る。エレーナはもちろん驚いているが、私も驚いた。
「何か問題でも?」
「問題は、大あり……なのですよ」
何処がですか?とエレーナがナタリーに問うと、肩を落としてしまった。私もあまり見たことがない表情だった。
「インゼロ帝国で作られた織物だっていうのが、問題ね。敵国だからってだけで、わけではなくて……今、ローズディアでは、いろいろな感情があるからね。病で国が傾いているのも、インゼロとの取引から始まっているのよ。エレーナは知っていて?」
「えぇ、セバスチャン様に聞いています。詳細は、あまり教えてはいただけなかったですが……」
「私が知ることは教えたけど、本当の南の領地で起こっていたことは、知らせてなかったからね。こっちに集中するために」
「そういえば、なぜ、セバスが選ばれたのですか?私、それこそ、詳細をしりませんわ」
ナタリーが私を見て、エレーナは何のことですか?と小首を傾げている。
二人に向かってクスっと笑って、セバスを迎えにいったときに話しましょうと切り上げた。
「織物の話に戻ったらどう?ナタリー」
「えぇ、そうですね。あの織物は、とても素晴らしいものでした。私、一目で好きになりましたわ。アンナリーゼ様のドレスにどのように使うかもちゃんと想像できていますし、すぐにでも描けますわ」
「では、インゼロ帝国のものだということがダメなら、使えないのですか?」
「いいえ、答えは至極簡単ですわ。私、これでも、ハニーアンバー店の中でドレスだけでなく、布を扱っている部門で、勉強をしているのですよ。エルドアでの流行ももちろん知っていますし、トワイスのもです。流行を作ることに生きがいを感じているのですから、変わった織物は、とても気になっていますわ」
得意げに胸をはるナタリーにニコリと笑いかける。ナタリーの自信は、頷ける。今まで私のドレスやローズディアの流行はナタリーが作ったものだ。それが、その自信に繋がっている。
「インゼロで作っているのなら、仕入れることは出来ません。だから、作ってしまうのです。技術を盗んだと言われるかもしれませんが、相手は伝統を引き継いでいるのです。なら、私たちは、その伝統に革新をもたらした上で、使えばいいのですよ」
「……ナタリー様って、以前お会いしたときとは、ぜんぜん違いますね。学生だったということもあるでしょうが、失礼な言い方をすれば……」
「親の駒でしょ?貴族令嬢は、本来、そうなるように躾けられますからね。枠から飛び出ないようにと」
「えぇ、そうです。私にも身に覚えがあります」
二人が私を見て、頷きあいながらため息をついた。目をパチクリさせると、同時だった。
「「規格外の令嬢なら、目の前にいますもの」ね」
自覚はあったのだが、さすがに面と向かって言われると、返す言葉もない。みんなに言われ続けたのだから、驚きはしないが、苦笑いをするしかなかった。
きっと、今頃、私の動向を追っているであろうトワイスでは、殿下とハリーとお兄様が大きなため息をついて、「また、何かやらかすつもりか!」と言っているような気がしたのである。
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