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人の少ない街
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買い物を終え、馬車に乗り込んだ私たち。どうやら、馬車がいっぱいになってしまったので、一度、戻らなくてはならなくなった。
「どこか、お茶ができるところはあるかしら?」
「そうですね……ひとつ、個室でお茶が楽しめる場所がありますから、そちらに」
御者に店を伝えると、馬車は、屋敷とは違う場所へと向かった。
「ずっと、気になっていたのだけど……」
「何かありますか?アンナ様」
「……様は、いらないわ。今日は侍女ですから」
「そういうわけには」
「馬車の中だけなら、いいのではないですか?」
私とエレーナの言い分に割って入ったナタリー。いつものように、馬車の中ではということになった。
それで?とエレーナは、聞くので、昨日から感じてたことを話す。
「馬車に揺られているあいだは、あまり気にならなかったのだけど……」
「気になる?」
「えぇ、王都にしては、静かすぎないかしら?」
エレーナは、窓の外を見て、馬車がほとんど走っていない様子に驚いていた。
「全然気が付きませんでした」
私の要請で、領地から別荘、そして、王都の屋敷と飛び回っていたエレーナは、その忙しさゆえに気が付いていなかったようだ。街に人がいないこと、馬車が行きかっていないことに。
「……何かの前兆でしょうか?」
ナタリーが不安そうに馬車から見える閑散とした道を見ている。私は頷いた。
「前兆というより、戦争に備えているのでしょ?」
「……戦、争ですか?」
「今、セバスが、話し合いの席についているでしょ?」
「えぇ、それと関係があるのですね」
エルドアには、友人らしい友人がエレーナ夫妻しかいないからか、情報共有できる貴族がどうしても少ない。国の外へ目を向けているエレーナでは、国内情勢がどうしても疎くなってしまうようだった。
「この国は、大国インゼロ帝国へケンカを吹っ掛けようとしているの。寝ている虎の尾をわざわざ踏みに行きたいそうよ」
「そんな……だから、みな、王都に人がいないのですか?」
「そうね。クロック侯爵家は戦争には関わらないと頑なに賛同を拒絶していると聞いているわ。侯爵に事情を話して、屋敷を貸してもらったのもそれでなの」
「私は、ただ、言われるがままでしたから……そんなことになっているとは」
私はエレーナに向かって苦笑いをする。国がおかしな方向へ向かっていくとき、止める人間が必要なのだが、エルドアはそういうときに、前に出る貴族がどうもいないらしい。クロック侯爵も元引きこもりなので、無理だろうことはわかっていたが、他はどうなっているのか。蛇に睨まれば、黙るカエルばかりのようだ。
「心配しないでといいたいところだけど、今回の話合いで、セバスは席を外れることが決まったの。すぐに呼び戻せざるえなくなるとは思ってはいるけど……」
「どうして、そこまで、エルドアのためにアンナ様が動くのですか?」
「今回の戦争を始めようとしているのは、エルドアだけではないからよ」
「エルドアだけではない?」
私は頷く。聞いている限りでは、エルドアはローズディアもこの戦争に巻き込みたいという思惑がある。何故、そうしたいのかはわからないが、大義名分もないこの話し合いに、乗るようなバカはいない。ただでさえ、病が流行ったせいで、国力が段違いに落ちているのだから……。
「今、ローズディアに戦争をできる力はないわ。国中で病が流行って、国力自体が下がっているの。それに、今、豊かな国を脅かしてまで、他所の領土を取ろうなんてバカなことを考える必要がないの。今度、インゼロ帝国がちょっかいをだしてくれば、別でしょうけど、こちらから仕掛けることをしてはいけない」
「……それは、わかります。なのに、なぜ、エルドアはそのような蛮行をしようとしているですか?」
「皇帝が変わって、内政が整っていないと思っているからでしょうね?誰に唆されたのかは知らないけど、インゼロ帝国は、ある程度の内政は整っているわ。その証拠に、戦争屋が、ローズディアをウロウロと歩き回っているのですもの」
エレーナは、ひゅっと息を飲んだ。『戦争屋』という言葉は、聞いたことがあるようだ。インゼロ帝国の皇帝直轄部隊だけではないのだが、戦争好きな帝国がお抱えの集団だ。
「……そんな、集団まで動いているのですか?」
「そうね。今朝がた紹介したヒーナが、まさに『戦争屋』よ。皇帝直轄のね」
「えっ?そんな人が?アンナ様の側にいるのですか……?」
「いるわよ。ヒーナは私のもの。エレーナにはみせたことがないわね。ヒーナの背中に、私がいるのよ。誰が、ご主人かちゃんとわかるように」
クスっと笑う私にナタリーは呆れ顔をしている。南の領地で、拾ってきたヒーナを未だ、良く思っていないのは知っている。いつ裏切られるかわからないものを側に置いていることは、ナタリーにとって、許しがたいことのようだ。
「次の円卓まで、時間があるから、しばらくエルドア観光をしようと思っているの。セバスを迎えに行かないといけないし……国から出ることが少ないから、とても楽しみにしてたのよ。こんな状況でなければ、もっと、楽しめたでしょうけどね!」
ニッコリ笑ったとき、目的の場所へついたようだ。馬車からおりると、エレーナの顔を見た店主が飛んでくる。急な申し出であったにも関わらず、この店で1番いい個室へと案内してもらい、整えられた中庭が見える場所でお茶を楽しむ。秋の薔薇が、中庭で一際目立って、とても綺麗であった。
「どこか、お茶ができるところはあるかしら?」
「そうですね……ひとつ、個室でお茶が楽しめる場所がありますから、そちらに」
御者に店を伝えると、馬車は、屋敷とは違う場所へと向かった。
「ずっと、気になっていたのだけど……」
「何かありますか?アンナ様」
「……様は、いらないわ。今日は侍女ですから」
「そういうわけには」
「馬車の中だけなら、いいのではないですか?」
私とエレーナの言い分に割って入ったナタリー。いつものように、馬車の中ではということになった。
それで?とエレーナは、聞くので、昨日から感じてたことを話す。
「馬車に揺られているあいだは、あまり気にならなかったのだけど……」
「気になる?」
「えぇ、王都にしては、静かすぎないかしら?」
エレーナは、窓の外を見て、馬車がほとんど走っていない様子に驚いていた。
「全然気が付きませんでした」
私の要請で、領地から別荘、そして、王都の屋敷と飛び回っていたエレーナは、その忙しさゆえに気が付いていなかったようだ。街に人がいないこと、馬車が行きかっていないことに。
「……何かの前兆でしょうか?」
ナタリーが不安そうに馬車から見える閑散とした道を見ている。私は頷いた。
「前兆というより、戦争に備えているのでしょ?」
「……戦、争ですか?」
「今、セバスが、話し合いの席についているでしょ?」
「えぇ、それと関係があるのですね」
エルドアには、友人らしい友人がエレーナ夫妻しかいないからか、情報共有できる貴族がどうしても少ない。国の外へ目を向けているエレーナでは、国内情勢がどうしても疎くなってしまうようだった。
「この国は、大国インゼロ帝国へケンカを吹っ掛けようとしているの。寝ている虎の尾をわざわざ踏みに行きたいそうよ」
「そんな……だから、みな、王都に人がいないのですか?」
「そうね。クロック侯爵家は戦争には関わらないと頑なに賛同を拒絶していると聞いているわ。侯爵に事情を話して、屋敷を貸してもらったのもそれでなの」
「私は、ただ、言われるがままでしたから……そんなことになっているとは」
私はエレーナに向かって苦笑いをする。国がおかしな方向へ向かっていくとき、止める人間が必要なのだが、エルドアはそういうときに、前に出る貴族がどうもいないらしい。クロック侯爵も元引きこもりなので、無理だろうことはわかっていたが、他はどうなっているのか。蛇に睨まれば、黙るカエルばかりのようだ。
「心配しないでといいたいところだけど、今回の話合いで、セバスは席を外れることが決まったの。すぐに呼び戻せざるえなくなるとは思ってはいるけど……」
「どうして、そこまで、エルドアのためにアンナ様が動くのですか?」
「今回の戦争を始めようとしているのは、エルドアだけではないからよ」
「エルドアだけではない?」
私は頷く。聞いている限りでは、エルドアはローズディアもこの戦争に巻き込みたいという思惑がある。何故、そうしたいのかはわからないが、大義名分もないこの話し合いに、乗るようなバカはいない。ただでさえ、病が流行ったせいで、国力が段違いに落ちているのだから……。
「今、ローズディアに戦争をできる力はないわ。国中で病が流行って、国力自体が下がっているの。それに、今、豊かな国を脅かしてまで、他所の領土を取ろうなんてバカなことを考える必要がないの。今度、インゼロ帝国がちょっかいをだしてくれば、別でしょうけど、こちらから仕掛けることをしてはいけない」
「……それは、わかります。なのに、なぜ、エルドアはそのような蛮行をしようとしているですか?」
「皇帝が変わって、内政が整っていないと思っているからでしょうね?誰に唆されたのかは知らないけど、インゼロ帝国は、ある程度の内政は整っているわ。その証拠に、戦争屋が、ローズディアをウロウロと歩き回っているのですもの」
エレーナは、ひゅっと息を飲んだ。『戦争屋』という言葉は、聞いたことがあるようだ。インゼロ帝国の皇帝直轄部隊だけではないのだが、戦争好きな帝国がお抱えの集団だ。
「……そんな、集団まで動いているのですか?」
「そうね。今朝がた紹介したヒーナが、まさに『戦争屋』よ。皇帝直轄のね」
「えっ?そんな人が?アンナ様の側にいるのですか……?」
「いるわよ。ヒーナは私のもの。エレーナにはみせたことがないわね。ヒーナの背中に、私がいるのよ。誰が、ご主人かちゃんとわかるように」
クスっと笑う私にナタリーは呆れ顔をしている。南の領地で、拾ってきたヒーナを未だ、良く思っていないのは知っている。いつ裏切られるかわからないものを側に置いていることは、ナタリーにとって、許しがたいことのようだ。
「次の円卓まで、時間があるから、しばらくエルドア観光をしようと思っているの。セバスを迎えに行かないといけないし……国から出ることが少ないから、とても楽しみにしてたのよ。こんな状況でなければ、もっと、楽しめたでしょうけどね!」
ニッコリ笑ったとき、目的の場所へついたようだ。馬車からおりると、エレーナの顔を見た店主が飛んでくる。急な申し出であったにも関わらず、この店で1番いい個室へと案内してもらい、整えられた中庭が見える場所でお茶を楽しむ。秋の薔薇が、中庭で一際目立って、とても綺麗であった。
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