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取引の話
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買ったものを、馬車に運ぶあいだ、私はナタリーの後ろについていた。ナタリーは、やはり、インゼロ帝国からの輸入品について気になるようで、そちらの話をすることになった。
「先ほどの織物」
「あれでございますね?」
「えぇ、とても気に入ったのだけど、どうして、敵対している国から手に入れられるのかしら?」
「……それは、」
言い淀む店主の代わりに口を開いた。ローズディアでも南の領地でやっていることだから。
「闇取引ですよね?」
「何故、それを?」
「もちろん、ローズディアでもありますから、知ってはいます。闇オークション。人身売買もあったあのオークションでは、敵対しているインゼロ帝国からの品も入ってくる。ただ、エルドアと違うのは、ローズディアの公都までは届かない」
「……アンナ、それは、どういうことですか?」
「どうもこうもありませんよ。本当のことを言ったまで。珍しいものは、基本的に貴族の屋敷にあるでしょうし」
「……金に糸目をつけませんからね。貴族っていうのは。珍しいものには、いくらお金をかけてもかまわないと。それが、貴族としての矜持だそうですから。私には、わかりませんけど」
そう言って、店主は、下を向く。そのまま、私のほうを見た。
「そのお嬢さんもそのようだ。貴族の道楽には、興味がなさそうで、こちら側の人間のような気がしますが?」
「……貴族令嬢の侍女ですから、そういうわけではありませんが、素敵なドレスにはいつも手に取らせていただいてますので、珍しいものにあまり興味がないだけです」
「値が高ければいいものでもないし、安くても代えがたいほどの素晴らしいものもある。よくわかっていらっしゃいますね」
「製法は、やはりインゼロ帝国でしかわからないのかしら?」
ナタリーの興味は、それ一択。コーコナ領でできるものなら、作りたい!それがナタリーの思惑だろう。ナタリーの目がインゼロ帝国からの輸入品を見たときから、目がギラギラと光っていたのだから。
「そうですね。そういったものだから、闇取引をしてでも、手に入れているのですから。他の領地でできるなら、わざわざ、高値ではこちらも仕入れませんよ」
「そうよね……この織物は、ドレスに使っても、いいかしら?どう思う?」
「……そうですね、多少目立つんじゃないですか?こんな織物はありませんから。少し、専門家に相談したうえで、使うかどうかは決めた方がいいでしょう。難しい情勢ですから、とくに」
「インゼロとは、本当にいろいろあるわね」
あの織物を使って、何か考えついているようなナタリーではあるが、今までなかったものを使うのは、ある意味危険である。ノクト経由で仕入れられたと言えないこともないが、私が着る用のドレスに使えば、次の流行になるだろうし、量産できない状態では使えない。
「インゼロ帝国からの購入ルートがないこともないけど……」
「ノクト様経由ですか?」
「そうですね。たまに奥様から連絡が来るので、お願いはできますよ」
「でも、それは、他国を頼るということですよね。自国でできるようになってこそ発展があるのですから、もう少し、考えてみます」
「……あの、お嬢様は、何か商売をしているのですか?」
「私ですか?」
えぇ、と店主は目を丸くして、ナタリーをじっと見ている。店としては、聞き逃せない話であろう。
「店をしているわけではないわ。ドレスが、すごく好きなだけ。こういうドレスが欲しいだとかを作り手に伝えるのが、好きなの」
「……そうでしたか。今日のお召し物も、この国では見たこともないものでしたから……」
「これは、ローズディアで今流行っているドレスよ。見た目の光沢だけでなく、着心地にもきちんと配慮したもの。ドレスって、豪奢になればなるほど、あちこち擦れたりして、着にくいのよね」
ドレスを着るときは、それなりの準備がいる。下着やコルセットなど綺麗に見えるようにだ。ナタリーのドレスは、脇のすれがないとか、歩くときに形が崩れないとか、重くなりすぎないとか、きちんと配慮されている。ドレスは女性の戦闘服だなんて、誰がいったかはしらないが、重すぎるドレスは、女性を美しく保つことができない。夜通しある夜会で、どれほど令嬢たちの涙ぐましい努力があるのか、知られていないだろう。
「アンバー公爵であるアンナリーゼ様と同じように作られているこのドレスは、今までのものと違い、とても軽くなっています。だからといって、決して着崩れすることも、見劣りすることもありませんわ」
スッと立って、店主に自身の着ているドレスを見せる。
「このドレスは、本来、光がある場所でのほうが、輝きますの。公宮のシャンデリア、太陽の元など、光を集めれば集めるほど……エルドアへの輸出はあまりしていないはずなので、ご存じないかもしれませんが、ぜひ、一着でもいいので、仕入れてくださいませ!」
商売上手なナタリーは、ハニーアンバー店の名を店主に教える。もちろん、輸送にはクロック侯爵家の事業をと宣伝しているあたり、なかなかの商売上手になってきたらしい。
元々、ナタリーは商才があったように思えるし、人を育てることや使うことは私以上だったもの。
店主が感心して、ナタリーを見ている。是非とも紹介してほしいと店主がいうので、ニコライに連絡しておくと伝え、どうやら、ハニーアンバー店の協力店舗拡充をナタリー自らしたようであった。
「先ほどの織物」
「あれでございますね?」
「えぇ、とても気に入ったのだけど、どうして、敵対している国から手に入れられるのかしら?」
「……それは、」
言い淀む店主の代わりに口を開いた。ローズディアでも南の領地でやっていることだから。
「闇取引ですよね?」
「何故、それを?」
「もちろん、ローズディアでもありますから、知ってはいます。闇オークション。人身売買もあったあのオークションでは、敵対しているインゼロ帝国からの品も入ってくる。ただ、エルドアと違うのは、ローズディアの公都までは届かない」
「……アンナ、それは、どういうことですか?」
「どうもこうもありませんよ。本当のことを言ったまで。珍しいものは、基本的に貴族の屋敷にあるでしょうし」
「……金に糸目をつけませんからね。貴族っていうのは。珍しいものには、いくらお金をかけてもかまわないと。それが、貴族としての矜持だそうですから。私には、わかりませんけど」
そう言って、店主は、下を向く。そのまま、私のほうを見た。
「そのお嬢さんもそのようだ。貴族の道楽には、興味がなさそうで、こちら側の人間のような気がしますが?」
「……貴族令嬢の侍女ですから、そういうわけではありませんが、素敵なドレスにはいつも手に取らせていただいてますので、珍しいものにあまり興味がないだけです」
「値が高ければいいものでもないし、安くても代えがたいほどの素晴らしいものもある。よくわかっていらっしゃいますね」
「製法は、やはりインゼロ帝国でしかわからないのかしら?」
ナタリーの興味は、それ一択。コーコナ領でできるものなら、作りたい!それがナタリーの思惑だろう。ナタリーの目がインゼロ帝国からの輸入品を見たときから、目がギラギラと光っていたのだから。
「そうですね。そういったものだから、闇取引をしてでも、手に入れているのですから。他の領地でできるなら、わざわざ、高値ではこちらも仕入れませんよ」
「そうよね……この織物は、ドレスに使っても、いいかしら?どう思う?」
「……そうですね、多少目立つんじゃないですか?こんな織物はありませんから。少し、専門家に相談したうえで、使うかどうかは決めた方がいいでしょう。難しい情勢ですから、とくに」
「インゼロとは、本当にいろいろあるわね」
あの織物を使って、何か考えついているようなナタリーではあるが、今までなかったものを使うのは、ある意味危険である。ノクト経由で仕入れられたと言えないこともないが、私が着る用のドレスに使えば、次の流行になるだろうし、量産できない状態では使えない。
「インゼロ帝国からの購入ルートがないこともないけど……」
「ノクト様経由ですか?」
「そうですね。たまに奥様から連絡が来るので、お願いはできますよ」
「でも、それは、他国を頼るということですよね。自国でできるようになってこそ発展があるのですから、もう少し、考えてみます」
「……あの、お嬢様は、何か商売をしているのですか?」
「私ですか?」
えぇ、と店主は目を丸くして、ナタリーをじっと見ている。店としては、聞き逃せない話であろう。
「店をしているわけではないわ。ドレスが、すごく好きなだけ。こういうドレスが欲しいだとかを作り手に伝えるのが、好きなの」
「……そうでしたか。今日のお召し物も、この国では見たこともないものでしたから……」
「これは、ローズディアで今流行っているドレスよ。見た目の光沢だけでなく、着心地にもきちんと配慮したもの。ドレスって、豪奢になればなるほど、あちこち擦れたりして、着にくいのよね」
ドレスを着るときは、それなりの準備がいる。下着やコルセットなど綺麗に見えるようにだ。ナタリーのドレスは、脇のすれがないとか、歩くときに形が崩れないとか、重くなりすぎないとか、きちんと配慮されている。ドレスは女性の戦闘服だなんて、誰がいったかはしらないが、重すぎるドレスは、女性を美しく保つことができない。夜通しある夜会で、どれほど令嬢たちの涙ぐましい努力があるのか、知られていないだろう。
「アンバー公爵であるアンナリーゼ様と同じように作られているこのドレスは、今までのものと違い、とても軽くなっています。だからといって、決して着崩れすることも、見劣りすることもありませんわ」
スッと立って、店主に自身の着ているドレスを見せる。
「このドレスは、本来、光がある場所でのほうが、輝きますの。公宮のシャンデリア、太陽の元など、光を集めれば集めるほど……エルドアへの輸出はあまりしていないはずなので、ご存じないかもしれませんが、ぜひ、一着でもいいので、仕入れてくださいませ!」
商売上手なナタリーは、ハニーアンバー店の名を店主に教える。もちろん、輸送にはクロック侯爵家の事業をと宣伝しているあたり、なかなかの商売上手になってきたらしい。
元々、ナタリーは商才があったように思えるし、人を育てることや使うことは私以上だったもの。
店主が感心して、ナタリーを見ている。是非とも紹介してほしいと店主がいうので、ニコライに連絡しておくと伝え、どうやら、ハニーアンバー店の協力店舗拡充をナタリー自らしたようであった。
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