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さぁ、出かけましょうⅡ
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「では、お気をつけください」
ペコリと頭を下げて私たちを見送ってくれるウィルとヒーナに手を振り、馬車は屋敷を発つ。商業区にあるお店を見て回るという目的のため、どこから向かうかと話始めた。
「まずは、何処から行きたいかしら?」
「できれば、ドレスや宝飾品が売っているところへ」
「かしこまりました。では、エルドアで1番のお店へ向かいましょう」
「ふだん、エレーナもそのお店を使うの?」
「あまり行きませんね。エリザベス様のお手紙のやり取りをさせていただいているので、基本的に、ローズディアでの流行りを取り入れるようにしているので……」
「なら、目立ちませんか?エレーナ様が、そのお店に行くと」
ナタリーの指摘に頷いたが、特に問題はないだろう。友人ナタリーにエルドアの流行を見せたくてと言えばいいだけだ。
「私は、少し後ろを歩くわ。二人とも、私のことはアンナと呼んで、決して様なんて就けないでね?」
「……どういうことですか?」
「エルドア侯爵夫人であるエレーナの友人ナタリーの侍女として私はついていくことにするわ。その方が、街を見て歩きやすいし」
「わかりました。では、そうします。本当にかまいませんか?」
「えぇ、ナタリーの買い物について回るわ。私も、エルドアの流行りを見て、ハニーアンバー店の発展に繋げたいわ」
「……繋がるとは思えませんが。この三国の中で、ハニーアンバー店ほどのお店はないかと」
「そんなことないわ!見て回るだけでも、いろいろ勉強になるのよ。国1番のお店なら、お客に売るための努力は必ずしているから」
そうですか?と気のなさそうな返事をするエレーナ。ガタンと馬車が着いたようで、御者が扉を開けてくれる。
私が1番先に降りる。御者が驚いたような表情をしていたが、スルッと御者の隣に並び、お嬢様とナタリーに声をかけた。
御者の差し出した手をとり、エレーナが先に降り、その後ににこやかに続くナタリー。馬車の前で私と目配せしてから、後ろを歩いた。少し、下を見ながら、後ろをついて歩く。
ナタリーとエレーナが横並びに歩く中、ついていく。少しだけ周りを見ていく。昨日の夜から感じていた人が少ない……という想いは、賑わっているはずの商業区でも見て取れた。
「エレーナ様」
「どうかして?」
「私がこんなことを聞くのはおかしいかもしれませんが……」
「いいですよ。なんでも聞いてください、アンナ」
「ありがとうございます。昨日の夜から、ずっと気になっていたのですが、王都に人が少ないように感じています。何かあるのでしょうか?」
私の質問を聞いたエレーナの表情は曇る。聞いてはいけなかっただろうか?と見つめると、苦笑いをする。
「アンナの感じていることは、私もここしばらく感じていることです。理由は、聞いているかもしれませんが、インゼロ帝国とことを起こすのではないのかという噂話が、王都には出回っているので、みなが、屋敷から出たがりません」
はぁ……とため息をつくエレーナ。もちろん、私は小競り合いも戦争も反対だ。国を守ることはあっても、わざわざこちらから仕掛けることをしなくてもいいのだ。
「不躾なことを聞きますが……」
「えぇ、言いたいことはわかります。私も同じ気持ちです。子どもたちがいる今、国の上の人たちは、何を想い、舵切りをしようとしているのか……とても疑問に思っています」
「エレーナ様、こんな場所でハッキリと……」
「かまいません。私には私の意見があります。大切な人がいる。家族や友人、領民も含め、私にはとても大切な人たちなのです。そんな方々に対して、どうして戦場に行けと言えますか?」
悲痛な想いを胸に抱えていたのだろう。涙こそ流れてはいないが、苦しそうなその表情を見れば、わかる。私も同じなのだ。守りたい人がいる。守りたいと言っても、いざ、小競り合いが起こったり、万が一にも戦争になれば、最前線へと向かう領民を見送ることになるのだ。そんなこと、したいわけがない。
私は、それを無くすために、ローズディアに嫁いで来たのだから、阻止するためになら国さえ跨いでこれる。
「今、ここにナタリー様やアンナがいるのは、私と同じ考えがあるからだと思っています。守りたい人がいる。それを崩そうとする上のものがいる……あまり、ゆっくりとしていられる時間はないのかもしれませんが……戦うために来てくれたのだと、信じています」
私は返事をすることはせず、ただ、微笑むだけにした。
エレーナの言っていることは、私も考えている。ただ、私が解決するのではなく、然るべき文官が、役目を果たさないといけない。それが、セバスなのだが、公に解雇されたので、少し困っているということだ。必ず、セバスにもう一度、その役目が回ってくるとは考えているけど、つくづく、公には見る目がないなぁ……とため息をグッと堪えた。
今、こうして、王都を出回っているのは、情報収集のため。セバスと合流をしたあと、エルドア国の現状把握と次に円卓へ行ったとき、場の掌握をする必要がある。アンバー領の利益に繋がる情報も交えつつ、今回の買い物では、しっかり見極めることが重要であった。別行動している二人も、そのあたりをしっかり考えて行動してくれているだろう。
ペコリと頭を下げて私たちを見送ってくれるウィルとヒーナに手を振り、馬車は屋敷を発つ。商業区にあるお店を見て回るという目的のため、どこから向かうかと話始めた。
「まずは、何処から行きたいかしら?」
「できれば、ドレスや宝飾品が売っているところへ」
「かしこまりました。では、エルドアで1番のお店へ向かいましょう」
「ふだん、エレーナもそのお店を使うの?」
「あまり行きませんね。エリザベス様のお手紙のやり取りをさせていただいているので、基本的に、ローズディアでの流行りを取り入れるようにしているので……」
「なら、目立ちませんか?エレーナ様が、そのお店に行くと」
ナタリーの指摘に頷いたが、特に問題はないだろう。友人ナタリーにエルドアの流行を見せたくてと言えばいいだけだ。
「私は、少し後ろを歩くわ。二人とも、私のことはアンナと呼んで、決して様なんて就けないでね?」
「……どういうことですか?」
「エルドア侯爵夫人であるエレーナの友人ナタリーの侍女として私はついていくことにするわ。その方が、街を見て歩きやすいし」
「わかりました。では、そうします。本当にかまいませんか?」
「えぇ、ナタリーの買い物について回るわ。私も、エルドアの流行りを見て、ハニーアンバー店の発展に繋げたいわ」
「……繋がるとは思えませんが。この三国の中で、ハニーアンバー店ほどのお店はないかと」
「そんなことないわ!見て回るだけでも、いろいろ勉強になるのよ。国1番のお店なら、お客に売るための努力は必ずしているから」
そうですか?と気のなさそうな返事をするエレーナ。ガタンと馬車が着いたようで、御者が扉を開けてくれる。
私が1番先に降りる。御者が驚いたような表情をしていたが、スルッと御者の隣に並び、お嬢様とナタリーに声をかけた。
御者の差し出した手をとり、エレーナが先に降り、その後ににこやかに続くナタリー。馬車の前で私と目配せしてから、後ろを歩いた。少し、下を見ながら、後ろをついて歩く。
ナタリーとエレーナが横並びに歩く中、ついていく。少しだけ周りを見ていく。昨日の夜から感じていた人が少ない……という想いは、賑わっているはずの商業区でも見て取れた。
「エレーナ様」
「どうかして?」
「私がこんなことを聞くのはおかしいかもしれませんが……」
「いいですよ。なんでも聞いてください、アンナ」
「ありがとうございます。昨日の夜から、ずっと気になっていたのですが、王都に人が少ないように感じています。何かあるのでしょうか?」
私の質問を聞いたエレーナの表情は曇る。聞いてはいけなかっただろうか?と見つめると、苦笑いをする。
「アンナの感じていることは、私もここしばらく感じていることです。理由は、聞いているかもしれませんが、インゼロ帝国とことを起こすのではないのかという噂話が、王都には出回っているので、みなが、屋敷から出たがりません」
はぁ……とため息をつくエレーナ。もちろん、私は小競り合いも戦争も反対だ。国を守ることはあっても、わざわざこちらから仕掛けることをしなくてもいいのだ。
「不躾なことを聞きますが……」
「えぇ、言いたいことはわかります。私も同じ気持ちです。子どもたちがいる今、国の上の人たちは、何を想い、舵切りをしようとしているのか……とても疑問に思っています」
「エレーナ様、こんな場所でハッキリと……」
「かまいません。私には私の意見があります。大切な人がいる。家族や友人、領民も含め、私にはとても大切な人たちなのです。そんな方々に対して、どうして戦場に行けと言えますか?」
悲痛な想いを胸に抱えていたのだろう。涙こそ流れてはいないが、苦しそうなその表情を見れば、わかる。私も同じなのだ。守りたい人がいる。守りたいと言っても、いざ、小競り合いが起こったり、万が一にも戦争になれば、最前線へと向かう領民を見送ることになるのだ。そんなこと、したいわけがない。
私は、それを無くすために、ローズディアに嫁いで来たのだから、阻止するためになら国さえ跨いでこれる。
「今、ここにナタリー様やアンナがいるのは、私と同じ考えがあるからだと思っています。守りたい人がいる。それを崩そうとする上のものがいる……あまり、ゆっくりとしていられる時間はないのかもしれませんが……戦うために来てくれたのだと、信じています」
私は返事をすることはせず、ただ、微笑むだけにした。
エレーナの言っていることは、私も考えている。ただ、私が解決するのではなく、然るべき文官が、役目を果たさないといけない。それが、セバスなのだが、公に解雇されたので、少し困っているということだ。必ず、セバスにもう一度、その役目が回ってくるとは考えているけど、つくづく、公には見る目がないなぁ……とため息をグッと堪えた。
今、こうして、王都を出回っているのは、情報収集のため。セバスと合流をしたあと、エルドア国の現状把握と次に円卓へ行ったとき、場の掌握をする必要がある。アンバー領の利益に繋がる情報も交えつつ、今回の買い物では、しっかり見極めることが重要であった。別行動している二人も、そのあたりをしっかり考えて行動してくれているだろう。
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