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領主候補と回避要件
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ジョージアも混ざり、三人で報告会を続ける。友人であるウィルとの時間を作ってくれたようで、遠慮してくれたのだった。
「二人とも、話はできた?」
「えぇ、できましたよ。南の方は、やはり酷かったみたいですね」
「流行り病がうちの領地では出なかったことが、不幸中の幸いだったとは思っているが、なんとも言い難いな。領主たち貴族は、好きなことをして病に罹ったのだから、自業自得でいいだろうが、それに巻き込まれた領民は、可哀想なことだ。アンナたちが間に合った人らは良かっただろうけど……」
「間に合わなかった人も多いですからね。他領とはいえ、こちらでも、発生することがあると思えば、他人事ではありません」
「ヨハンが、日夜研究してくれていたおかげで、被害は多かったけど、最小限……には、なったのかもしれない」
三人がため息交じりに、貴族とはと考える。今回の流行り病は、ジニーという病原体が元ではあるのだが、インゼロから送り込まれたある意味刺客に振り回された。責任は誰がとるのか、という話もあるが、結局、南の領地を治める領主や貴族が亡くなっているので、うやむやになっている。
「領主ってどうなるんだ?」
「それは、しばらく、公の直轄地となるはずよ。文官が向こうで采配をするの。領主になってもいいっていう貴族がいれば、決まるでしょうけど……いくら助成金をもらったとしても、なりてはいないかもしれないわ」
「そんなもん?領主になったら、税収もあるし……結構、おいしい仕事だと思うけど、姫さん見てたら、そうじゃないってことは、身に染みてます」
降参と手をあげ、フルフルと首を横にふるウィルに私はクスっと笑った。私やジョージアは、領地を持っている貴族だ。一代限りの貴族は、領地を持たないものが多く、候補になりやすい。
今、候補の筆頭とまではいかなくても、アンバー領の領地運営に関わっているウィルやセバスは候補にあがりやすいだろう。
「ウィル、わからないぞ?」
「どういうことです?ジョージア様」
「領主候補になる可能性があるってことだ。一代限りの貴族は、その次代に継がれることはない。ただ、領地を賜れば、話は別になる。ウィルには、直系ではないとはいえ、養子の子がいるのだ。領主候補にはあがりやすい」
「……俺が?とんでもないっ!断りますけど!」
「そういうわけにはいかないでしょ?南の領地なら、なおのこと……ウィルに領主になってほしいと思うわ。ただ、私も手放せない。アンバー領に貴族をと思っているのだから」
ニコッと笑うと、ウィルが頷いた。前々からそんな話をしていたのだ。アンバー領は広大なわりに、貴族が一人も住まない領地であった。他の領地との違いは、貴族がそれぞれの事業で成した税を徴収できないことだ。
ウィルとセバスの拠点をこちらに置けば、それも可能にはなるのだが、事業をしていない二人は、税を取ることができない。
まだ、借り物である二人を縛ることもできなかった。
「いいこと考えた!アンバー領に屋敷を作る!元々、言ってたことだから、姫さんは反対しないよな?事業に関しては、セバスが帰ってきてから二人で考える」
「そう。なら、新しい事業を優先して回すこともするわ。二人名義で、事業をすればいいし、そこから税を徴収させてくれれば、私は問題ないわ!」
「新規事業のおぜん立てまでしてくれるのかよ?」
「もちろん!手放すつもりはないのよ。アンバー領も今は、隣国バニッシュ領のエールやミネルバと良好な関係を続けているけど、どうなるかわからないからね」
「インゼロみたいなことはないだろ?」
「えぇ、それは、ないと言い切ってもいい。アンバー領へ攻め入ろうとするなら、エールの領地までの道のりが大変だからね」
「黒の貴族もアンバー領とは手を組んでいた方がいいんだっけ?」
ジョージアが確……というので、頷いた。エールの領地から、街道作りの貝殻の提供の変わりに麦の販売をしている。オレンジの供給もしてもらい、お酒やジャム、最近では皮を使って、香水やケーキなんかにも使っているようだ。
「アンバー領との取引がなかったことは、麦の購入が大変だったようですからね。こちらから供給、運搬ができるようになっただけで、領民の生活も楽になったと聞いています」
「麦は主食だからな……高く手に入れるより、安く多く手に入れられるほうが、領民も喜ぶ。経済の回りもいいと聞いた」
「黒いものの採掘もしていますからね。いずれ、何かに必要だとは言ってあるので、私がお金をつぎ込んでます」
「……とりっぱぐれはないのかよ?新しいものって、怖くない?」
「怖くはないわ。失敗してもそれはそれで、勉強だったと思うようにしているもの」
「結構な額を投資しているって聞いているけど?」
「私のポケットから出ている分には、ジョージア様にもアンバー領のみんなにも言えないはずですよ!私は領地への投資で、資産の半分以上を無くしていますから」
「今はアンナへの借金生活が、苦しいよ……」
「税収も上がってきているので、すぐに返済できますよ。あと10年……そんなところですか?それには、やはり、貴族の参入が必要ですね」
はぁ……とため息をつくジョージア。どこら辺の土地がお薦めかな?と呟いているウィル。二人に余裕が出来てきているということは、アンバー領にも、余裕が出来上がってきているのだろう。
「二人とも、話はできた?」
「えぇ、できましたよ。南の方は、やはり酷かったみたいですね」
「流行り病がうちの領地では出なかったことが、不幸中の幸いだったとは思っているが、なんとも言い難いな。領主たち貴族は、好きなことをして病に罹ったのだから、自業自得でいいだろうが、それに巻き込まれた領民は、可哀想なことだ。アンナたちが間に合った人らは良かっただろうけど……」
「間に合わなかった人も多いですからね。他領とはいえ、こちらでも、発生することがあると思えば、他人事ではありません」
「ヨハンが、日夜研究してくれていたおかげで、被害は多かったけど、最小限……には、なったのかもしれない」
三人がため息交じりに、貴族とはと考える。今回の流行り病は、ジニーという病原体が元ではあるのだが、インゼロから送り込まれたある意味刺客に振り回された。責任は誰がとるのか、という話もあるが、結局、南の領地を治める領主や貴族が亡くなっているので、うやむやになっている。
「領主ってどうなるんだ?」
「それは、しばらく、公の直轄地となるはずよ。文官が向こうで采配をするの。領主になってもいいっていう貴族がいれば、決まるでしょうけど……いくら助成金をもらったとしても、なりてはいないかもしれないわ」
「そんなもん?領主になったら、税収もあるし……結構、おいしい仕事だと思うけど、姫さん見てたら、そうじゃないってことは、身に染みてます」
降参と手をあげ、フルフルと首を横にふるウィルに私はクスっと笑った。私やジョージアは、領地を持っている貴族だ。一代限りの貴族は、領地を持たないものが多く、候補になりやすい。
今、候補の筆頭とまではいかなくても、アンバー領の領地運営に関わっているウィルやセバスは候補にあがりやすいだろう。
「ウィル、わからないぞ?」
「どういうことです?ジョージア様」
「領主候補になる可能性があるってことだ。一代限りの貴族は、その次代に継がれることはない。ただ、領地を賜れば、話は別になる。ウィルには、直系ではないとはいえ、養子の子がいるのだ。領主候補にはあがりやすい」
「……俺が?とんでもないっ!断りますけど!」
「そういうわけにはいかないでしょ?南の領地なら、なおのこと……ウィルに領主になってほしいと思うわ。ただ、私も手放せない。アンバー領に貴族をと思っているのだから」
ニコッと笑うと、ウィルが頷いた。前々からそんな話をしていたのだ。アンバー領は広大なわりに、貴族が一人も住まない領地であった。他の領地との違いは、貴族がそれぞれの事業で成した税を徴収できないことだ。
ウィルとセバスの拠点をこちらに置けば、それも可能にはなるのだが、事業をしていない二人は、税を取ることができない。
まだ、借り物である二人を縛ることもできなかった。
「いいこと考えた!アンバー領に屋敷を作る!元々、言ってたことだから、姫さんは反対しないよな?事業に関しては、セバスが帰ってきてから二人で考える」
「そう。なら、新しい事業を優先して回すこともするわ。二人名義で、事業をすればいいし、そこから税を徴収させてくれれば、私は問題ないわ!」
「新規事業のおぜん立てまでしてくれるのかよ?」
「もちろん!手放すつもりはないのよ。アンバー領も今は、隣国バニッシュ領のエールやミネルバと良好な関係を続けているけど、どうなるかわからないからね」
「インゼロみたいなことはないだろ?」
「えぇ、それは、ないと言い切ってもいい。アンバー領へ攻め入ろうとするなら、エールの領地までの道のりが大変だからね」
「黒の貴族もアンバー領とは手を組んでいた方がいいんだっけ?」
ジョージアが確……というので、頷いた。エールの領地から、街道作りの貝殻の提供の変わりに麦の販売をしている。オレンジの供給もしてもらい、お酒やジャム、最近では皮を使って、香水やケーキなんかにも使っているようだ。
「アンバー領との取引がなかったことは、麦の購入が大変だったようですからね。こちらから供給、運搬ができるようになっただけで、領民の生活も楽になったと聞いています」
「麦は主食だからな……高く手に入れるより、安く多く手に入れられるほうが、領民も喜ぶ。経済の回りもいいと聞いた」
「黒いものの採掘もしていますからね。いずれ、何かに必要だとは言ってあるので、私がお金をつぎ込んでます」
「……とりっぱぐれはないのかよ?新しいものって、怖くない?」
「怖くはないわ。失敗してもそれはそれで、勉強だったと思うようにしているもの」
「結構な額を投資しているって聞いているけど?」
「私のポケットから出ている分には、ジョージア様にもアンバー領のみんなにも言えないはずですよ!私は領地への投資で、資産の半分以上を無くしていますから」
「今はアンナへの借金生活が、苦しいよ……」
「税収も上がってきているので、すぐに返済できますよ。あと10年……そんなところですか?それには、やはり、貴族の参入が必要ですね」
はぁ……とため息をつくジョージア。どこら辺の土地がお薦めかな?と呟いているウィル。二人に余裕が出来てきているということは、アンバー領にも、余裕が出来上がってきているのだろう。
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