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夜会でなんかやらかしてたの?
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お茶を一口飲み、喉を潤す。リアンの入れてくれたお茶は、ホッとする。ウィルの方をみれば、ふぅ……と、そちらも息をはいていた。
「俺、聞いていいのかわからないんだけどさ?」
「何?」
「父から聞いたんだけど」
「えぇ、サーラー子爵から?」
「姫さんは夜会でなんかやらかしてたの?」
「……?」
「いや、屋敷に帰ってから、父がずっと話しっぱなしで……俺の勲章の話はほんの少し、母に言っただけで、そのあとは、レオやミア、兄貴たちを集めて、ずっと、チェスの話だったからさ。俺、一応、勲章もらったわけじゃん?」
拗ねたようにいうウィルにクスっと笑う。サーラー子爵もあの輪の中に入っていたので、私とダリアとのチェスの勝負を見ていたのだろう。
「それね、チェスの勝負をしていたのよ」
「夜会中に?」
「えぇ、そうね」
「夜会ですることじゃないよな……まぁ、姫さん自由だから、いいのかもしれないけどさ」
「……返す言葉がないわ。でも、昨日の夜会は久しぶりに胸が高鳴るほど楽しい一晩になったわよ?」
「へぇーそんな強敵?」
私がニヤッと笑ったのを見て、あぁあと呆れたような声を出した。
「父が棋譜を並べてくれたけど……確かにおもしろかった。けど、姫さんさ、適当にやるじゃん?ああいう場では」
「そうでもないわよ?負けるのは悔しいから」
負けず嫌いめっと笑う。私の性格はわかっていても、本気の勝負をしていたと聞いて少しだけ驚いていたように見えた。今回の棋譜はおもしろかったようで、その話になった。
「そこまで、真剣にチェスをするってことは、何かかけてた?」
私を見て、ウィルが困ったように笑う。何をかけたのか、だいたい予想は出来ているのだろう。
「ジョージア様とウェスティン伯爵をかけたの」
「ジョージア様は相手が欲しいってことだよな?伯爵が、ジョージア様を欲しがるのか?」
「ウェスティン伯爵は女性だからね」
「……なるほどな」
「ジョージア様を旦那様にして、自身が公爵夫人として活躍するつもりだったようね。私が爵位を得ていて、領地運営をしていることは知らなかったみたいだけど……」
「結構大々的に戴冠式とかで、貴族代表とかやってたのにな?んで、姫さんは、なんで伯爵が欲しいわけ?愛妾って……あってんのか?そういうのを考えているわけじゃないんだろ?」
「そうね」
「そんなことしたら、ナタリーに殺される?」
「ナタリーは、そんなことしないわよ!」
私は立ち上がって、執務室の隅に置いてあるチェス盤を持ってきて、二人の間に置いた。棋譜はわかっているので、並べていく。
「ダリアが欲しかったのは……エルドアにこちらの味方が欲しかったから。私が欲しいと言ったのは、ウェスティン伯爵」
「女伯爵だろ?」
「そう」
「女性をどうこういうつもりはないんだけど、姫さんっていう規格外もいるからさ。でも、ウェスティン伯爵を味方にするのって、意味があるの?」
「あるわよ!軍師なのよ。それも、開戦側の」
「それって、女伯爵を押さえたくらいで、どうこうなるようなもんじゃないじゃん?」
「そうでもないのよ。首に鈴をつけておくことが、まず大事。そのあとは、エレーナにうまくしてもらうわ」
「あぁ、あの侍女か。今は、侯爵家に嫁いで、運輸業を一手に引き受けてくれているんだったな」
ウィルも学園でエリザベスの侍女として側にいたニナとしてのほうが印象があるようで、エレーナと言われても、それほど親しいわけではないので、あまり関心がない。
チェックをすると、なるほどなぁ……と呟いて、チェス盤を眺めた。
「鈴をつけるだけでいいって、それって、大丈夫なわけ?」
「えぇ、いいのよ。ヒーナと一緒。背中の刺青と噂話を広げることで、疑心暗鬼を狙っているって感じかしら?ウェスティン伯爵は国一番の軍師だという。その軍師が、たかだか、公爵夫人にチェスに負けたっていうのは、結構な痛手だと思うわよ。
セバスの後ろに私がいるってことは、大々的に広げているのはね、私には勝てないと思わせればいいだけだから」
「あぁ、なるほどね。軍師に勝ってしまう公爵夫人。その後ろ盾を持っている国の代表はただものではないと」
「今も、十分ただものではないという働きをしてくれているわ!セバスって本当に力をつけているわよね!」
クイーンをコンコンと爪ではじきながら、盤上を私も見ていた。キング、クイーン、ナイト、をひとつづつつまみ、片付けていく。
「イチアのおかげだよな。俺も、イチアがいたから、いろいろと身に着いたことも多いし、俺より、一緒にいる時間が多い分、学ぶことも多いんだろうな」
「そうね。元々の知識は豊富だったけど、そこに応用力がついたって感じよね。すごいわね……私なんて、足元にも及ばなくなりそうよ」
「それは、ないだろ?俺も含め、姫さんには勝てない。ない道を切り開くっていうのは、まだ、俺たちには備わってないだろ?」
「そんなことないと思うけど?」
お茶をコクっと飲み、領地に帰る前にダリアに会うことになるとウィルに伝えると、ついていくから連絡するよう言われた。
そろそろ、混ざってもいいかと、執務室の扉が開いた。ジョージアが執務室へ入ってきた。
「俺、聞いていいのかわからないんだけどさ?」
「何?」
「父から聞いたんだけど」
「えぇ、サーラー子爵から?」
「姫さんは夜会でなんかやらかしてたの?」
「……?」
「いや、屋敷に帰ってから、父がずっと話しっぱなしで……俺の勲章の話はほんの少し、母に言っただけで、そのあとは、レオやミア、兄貴たちを集めて、ずっと、チェスの話だったからさ。俺、一応、勲章もらったわけじゃん?」
拗ねたようにいうウィルにクスっと笑う。サーラー子爵もあの輪の中に入っていたので、私とダリアとのチェスの勝負を見ていたのだろう。
「それね、チェスの勝負をしていたのよ」
「夜会中に?」
「えぇ、そうね」
「夜会ですることじゃないよな……まぁ、姫さん自由だから、いいのかもしれないけどさ」
「……返す言葉がないわ。でも、昨日の夜会は久しぶりに胸が高鳴るほど楽しい一晩になったわよ?」
「へぇーそんな強敵?」
私がニヤッと笑ったのを見て、あぁあと呆れたような声を出した。
「父が棋譜を並べてくれたけど……確かにおもしろかった。けど、姫さんさ、適当にやるじゃん?ああいう場では」
「そうでもないわよ?負けるのは悔しいから」
負けず嫌いめっと笑う。私の性格はわかっていても、本気の勝負をしていたと聞いて少しだけ驚いていたように見えた。今回の棋譜はおもしろかったようで、その話になった。
「そこまで、真剣にチェスをするってことは、何かかけてた?」
私を見て、ウィルが困ったように笑う。何をかけたのか、だいたい予想は出来ているのだろう。
「ジョージア様とウェスティン伯爵をかけたの」
「ジョージア様は相手が欲しいってことだよな?伯爵が、ジョージア様を欲しがるのか?」
「ウェスティン伯爵は女性だからね」
「……なるほどな」
「ジョージア様を旦那様にして、自身が公爵夫人として活躍するつもりだったようね。私が爵位を得ていて、領地運営をしていることは知らなかったみたいだけど……」
「結構大々的に戴冠式とかで、貴族代表とかやってたのにな?んで、姫さんは、なんで伯爵が欲しいわけ?愛妾って……あってんのか?そういうのを考えているわけじゃないんだろ?」
「そうね」
「そんなことしたら、ナタリーに殺される?」
「ナタリーは、そんなことしないわよ!」
私は立ち上がって、執務室の隅に置いてあるチェス盤を持ってきて、二人の間に置いた。棋譜はわかっているので、並べていく。
「ダリアが欲しかったのは……エルドアにこちらの味方が欲しかったから。私が欲しいと言ったのは、ウェスティン伯爵」
「女伯爵だろ?」
「そう」
「女性をどうこういうつもりはないんだけど、姫さんっていう規格外もいるからさ。でも、ウェスティン伯爵を味方にするのって、意味があるの?」
「あるわよ!軍師なのよ。それも、開戦側の」
「それって、女伯爵を押さえたくらいで、どうこうなるようなもんじゃないじゃん?」
「そうでもないのよ。首に鈴をつけておくことが、まず大事。そのあとは、エレーナにうまくしてもらうわ」
「あぁ、あの侍女か。今は、侯爵家に嫁いで、運輸業を一手に引き受けてくれているんだったな」
ウィルも学園でエリザベスの侍女として側にいたニナとしてのほうが印象があるようで、エレーナと言われても、それほど親しいわけではないので、あまり関心がない。
チェックをすると、なるほどなぁ……と呟いて、チェス盤を眺めた。
「鈴をつけるだけでいいって、それって、大丈夫なわけ?」
「えぇ、いいのよ。ヒーナと一緒。背中の刺青と噂話を広げることで、疑心暗鬼を狙っているって感じかしら?ウェスティン伯爵は国一番の軍師だという。その軍師が、たかだか、公爵夫人にチェスに負けたっていうのは、結構な痛手だと思うわよ。
セバスの後ろに私がいるってことは、大々的に広げているのはね、私には勝てないと思わせればいいだけだから」
「あぁ、なるほどね。軍師に勝ってしまう公爵夫人。その後ろ盾を持っている国の代表はただものではないと」
「今も、十分ただものではないという働きをしてくれているわ!セバスって本当に力をつけているわよね!」
クイーンをコンコンと爪ではじきながら、盤上を私も見ていた。キング、クイーン、ナイト、をひとつづつつまみ、片付けていく。
「イチアのおかげだよな。俺も、イチアがいたから、いろいろと身に着いたことも多いし、俺より、一緒にいる時間が多い分、学ぶことも多いんだろうな」
「そうね。元々の知識は豊富だったけど、そこに応用力がついたって感じよね。すごいわね……私なんて、足元にも及ばなくなりそうよ」
「それは、ないだろ?俺も含め、姫さんには勝てない。ない道を切り開くっていうのは、まだ、俺たちには備わってないだろ?」
「そんなことないと思うけど?」
お茶をコクっと飲み、領地に帰る前にダリアに会うことになるとウィルに伝えると、ついていくから連絡するよう言われた。
そろそろ、混ざってもいいかと、執務室の扉が開いた。ジョージアが執務室へ入ってきた。
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