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南の領地での報告会Ⅹ
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「皇帝が変わったんだよな?」
「えぇ、ノクトの兄からその息子第二王子にね」
「あぁ、たしかライズは、皇太子だったはず……」
思い浮かべたのだろう。なんともどんくさそうなライズの様子を。目を塞ぎ首を横に振っている。
「悪いやつではないんだけどな?しっかりした嫁とかさ?腹黒宰相とかさ?ガハハと体力バカな近衛とかさ?」
「ん?」
「そういうやついなかったわけ?」
ライズを少し小馬鹿にしたように、ウィルはため息をついた。よその国のことを考える余裕は、未だ、私たちにはなくとも、同じような境遇にあった人を知っているからこそ、なんとかならないのかとなるのも、わからないでもない。
「私でいうところの……しっかりした嫁はナタリーでしょ?腹黒くないけど立派な宰相候補はセバス」
「ガハハと体力バカな近衛って……もしかしなくても、俺?」
自身を指さし、まさかぁという顔をこちらに向けてきた。
そのまさかは合っているよね?どこの誰が見ても聞いてもウィルだというと思うんだけど……。
「こういうのは、知らぬは本人ばかりって感じなのかしら?残念だわ!」
「残念って……なんか、大雑把な感じが嫌なだけで、満足はしてるんだよ?」
「そう?別にノクトにその座を明け渡してくれてもいいんだよ?」
「そ……さ、さすがに、それは嫌かなぁ?そ、そうだ!ライズにガハハな将軍ノクトと、腹黒将軍のイチアをつけてやればいいんじゃないか?」
「ノクトはいいとして、イチアは手放せないからダメよ?」
「姫さん、イチアには甘いんだから!」
「ウィルにも甘すぎると思うんだけど……私」
「そんなことないだろ?」
「そう思うなら、ナタリーに聞いてみなさいよ。きっと、朝までお説教してもらえると思うよ?」
「はっ?何それ……怖いんだけど!」
「ジョージア様が、私のいない間に、寂しいとか会いたいとこぼしたらしいの」
「……普通じゃないの?ジョージア様、姫さんのこと本当に好きすぎるから」
あっけらかんというウィルにこちらが恥ずかしくなってコホンと咳ばらいをしてしまう。不意打ちのそういうのは、いらないのだ。わざとらしくもう一度、コホンとすると、小首を傾げていた。
「ナタリーは、ジョージア様以上に姫さんのことをってこと?そういえば、ナタリーも忙しくしているから、姫さんに会えないと、手紙で愚痴が延々と書かれていた。そういえば、これ、渡しておく。ナタリーの愛の重さを知るといいよ」
胸ポケットから2通、ズボンのポケットから5通の分厚い便箋を手渡される。ものすごく重い手紙は、ナタリーの想いがたくさん詰まっていると主張するように厚みもあった。
「これ、私のところには届かなかったけど?」
「忙しくしている姫さんには出しにくいんだろ?手紙を出すのも、遠慮がちにどうしようかって書いてあったくらいだから。姫さんにとって、ナタリーも大事な一人だろうから、気にせず手紙を書けばいいとは、返事を出しては置いたけど……来た?」
「えぇ、これの4分の1くらいのものは。元気にしていますか?無理はしないでくださいね?新作のドレスを早く見せたいですという内容と、コーコナにいたから、そちらの情報があればくれというものだったわ。ナタリーは、アンバーへ戻る前に、コーコナへ向かうつもりって書いてあったから、もう少ししたら、出発するのかもしれないわね?」
ナタリーの手紙を机の端にどける。あとでじっくり読ませてもらおうと楽しみにしていると、ウィルが笑い始める。
「何?」
「ナタリーがライズと結婚して、インゼロ帝国を仕切ってやればいいのにな。戦争で取った国も独立したいと願うならそうしてやればいいだろうし……」
「独立は、簡単にはできないでしょうね。どこもかしこも利権が絡んでくるから。ナタリーなら、難なくうまく纏めてしまいそうだけど」
「ほらな?ナタリーがライズに振り向く可能性はあるのか?」
「ないでしょうね?」
「姫さんしか見ていないか。ライズがもう少し、頼りがいのあるヤツだったらいいのにな?」
「そうは言ってあげないで。ナタリーのためなら、少々のことでは諦めないから!」
「愛ゆえにか?」
「愛ゆえにね。恋は盲目って言葉もあるし……ナタリーがどこを向いてようが、見守ることに幸せを感じているのかもしれないわね……」
「……姫さんが、言ったらいいんじゃないか?」
「政略結婚しろと?」
あぁ、と頷くウィルを睨んでやる。ナタリーの幸せを私は願っている。望まない結婚をまたしてほしいとは思っていないのだ。
ナタリーが自らしてもいいと思えるときが来たら、私への恋心より優先できる人が出来たなら、私は全力で応援するつもりだが、あえて、私からどうしなさいとは言わない。私の人生じゃないのだから……責任をとれない。
「私はいやよ?私が好かれているからとかではなく、ナタリーには望んだ将来を手に入れてほしい。今、やってる事業も、仕方なくやっているというよりかは、本当に楽しんでいるように見えるから。そういうことには応援するわ!もちろん、ウィルやセバスもよ?」
「俺は、いいんだよ。子らが巣立つまで見守って、頃合いを見てから、将来を考えるし」
「投げやりね?私、ウィルにも幸せになってほしいわ!」
「今は、そういうときじゃないんだから、この話は終わり!」
そういって、話は終わらされ、インゼロ帝国の皇帝の話をした。残虐なとか非道なと形容がつく現皇帝。自身の父親を殺してでも手に入れたかったものは、手に入ったのだろうか。
「えぇ、ノクトの兄からその息子第二王子にね」
「あぁ、たしかライズは、皇太子だったはず……」
思い浮かべたのだろう。なんともどんくさそうなライズの様子を。目を塞ぎ首を横に振っている。
「悪いやつではないんだけどな?しっかりした嫁とかさ?腹黒宰相とかさ?ガハハと体力バカな近衛とかさ?」
「ん?」
「そういうやついなかったわけ?」
ライズを少し小馬鹿にしたように、ウィルはため息をついた。よその国のことを考える余裕は、未だ、私たちにはなくとも、同じような境遇にあった人を知っているからこそ、なんとかならないのかとなるのも、わからないでもない。
「私でいうところの……しっかりした嫁はナタリーでしょ?腹黒くないけど立派な宰相候補はセバス」
「ガハハと体力バカな近衛って……もしかしなくても、俺?」
自身を指さし、まさかぁという顔をこちらに向けてきた。
そのまさかは合っているよね?どこの誰が見ても聞いてもウィルだというと思うんだけど……。
「こういうのは、知らぬは本人ばかりって感じなのかしら?残念だわ!」
「残念って……なんか、大雑把な感じが嫌なだけで、満足はしてるんだよ?」
「そう?別にノクトにその座を明け渡してくれてもいいんだよ?」
「そ……さ、さすがに、それは嫌かなぁ?そ、そうだ!ライズにガハハな将軍ノクトと、腹黒将軍のイチアをつけてやればいいんじゃないか?」
「ノクトはいいとして、イチアは手放せないからダメよ?」
「姫さん、イチアには甘いんだから!」
「ウィルにも甘すぎると思うんだけど……私」
「そんなことないだろ?」
「そう思うなら、ナタリーに聞いてみなさいよ。きっと、朝までお説教してもらえると思うよ?」
「はっ?何それ……怖いんだけど!」
「ジョージア様が、私のいない間に、寂しいとか会いたいとこぼしたらしいの」
「……普通じゃないの?ジョージア様、姫さんのこと本当に好きすぎるから」
あっけらかんというウィルにこちらが恥ずかしくなってコホンと咳ばらいをしてしまう。不意打ちのそういうのは、いらないのだ。わざとらしくもう一度、コホンとすると、小首を傾げていた。
「ナタリーは、ジョージア様以上に姫さんのことをってこと?そういえば、ナタリーも忙しくしているから、姫さんに会えないと、手紙で愚痴が延々と書かれていた。そういえば、これ、渡しておく。ナタリーの愛の重さを知るといいよ」
胸ポケットから2通、ズボンのポケットから5通の分厚い便箋を手渡される。ものすごく重い手紙は、ナタリーの想いがたくさん詰まっていると主張するように厚みもあった。
「これ、私のところには届かなかったけど?」
「忙しくしている姫さんには出しにくいんだろ?手紙を出すのも、遠慮がちにどうしようかって書いてあったくらいだから。姫さんにとって、ナタリーも大事な一人だろうから、気にせず手紙を書けばいいとは、返事を出しては置いたけど……来た?」
「えぇ、これの4分の1くらいのものは。元気にしていますか?無理はしないでくださいね?新作のドレスを早く見せたいですという内容と、コーコナにいたから、そちらの情報があればくれというものだったわ。ナタリーは、アンバーへ戻る前に、コーコナへ向かうつもりって書いてあったから、もう少ししたら、出発するのかもしれないわね?」
ナタリーの手紙を机の端にどける。あとでじっくり読ませてもらおうと楽しみにしていると、ウィルが笑い始める。
「何?」
「ナタリーがライズと結婚して、インゼロ帝国を仕切ってやればいいのにな。戦争で取った国も独立したいと願うならそうしてやればいいだろうし……」
「独立は、簡単にはできないでしょうね。どこもかしこも利権が絡んでくるから。ナタリーなら、難なくうまく纏めてしまいそうだけど」
「ほらな?ナタリーがライズに振り向く可能性はあるのか?」
「ないでしょうね?」
「姫さんしか見ていないか。ライズがもう少し、頼りがいのあるヤツだったらいいのにな?」
「そうは言ってあげないで。ナタリーのためなら、少々のことでは諦めないから!」
「愛ゆえにか?」
「愛ゆえにね。恋は盲目って言葉もあるし……ナタリーがどこを向いてようが、見守ることに幸せを感じているのかもしれないわね……」
「……姫さんが、言ったらいいんじゃないか?」
「政略結婚しろと?」
あぁ、と頷くウィルを睨んでやる。ナタリーの幸せを私は願っている。望まない結婚をまたしてほしいとは思っていないのだ。
ナタリーが自らしてもいいと思えるときが来たら、私への恋心より優先できる人が出来たなら、私は全力で応援するつもりだが、あえて、私からどうしなさいとは言わない。私の人生じゃないのだから……責任をとれない。
「私はいやよ?私が好かれているからとかではなく、ナタリーには望んだ将来を手に入れてほしい。今、やってる事業も、仕方なくやっているというよりかは、本当に楽しんでいるように見えるから。そういうことには応援するわ!もちろん、ウィルやセバスもよ?」
「俺は、いいんだよ。子らが巣立つまで見守って、頃合いを見てから、将来を考えるし」
「投げやりね?私、ウィルにも幸せになってほしいわ!」
「今は、そういうときじゃないんだから、この話は終わり!」
そういって、話は終わらされ、インゼロ帝国の皇帝の話をした。残虐なとか非道なと形容がつく現皇帝。自身の父親を殺してでも手に入れたかったものは、手に入ったのだろうか。
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