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南の領地での報告会Ⅳ
しおりを挟む昼前になり、ウィルが子どもたちを連れて、屋敷に来た。私は執務室で軽食を齧りながら、ジョージアとエルドアの話を続けていたので、耳だけで来訪があったことがわかる。
ジョージアにそれを伝えると、驚いていた。何でわかるの?と聞かれたので、足音?というと、信じられないという顔を向けられる。
「そんなの、わかるわけないよ!」
「わかりますよ!もうすぐ、アンジェラがウィルの手を引いてやってきますよ?その後ろにレオでしょ?」
「ミアは……アンジーとウィルの取り合いかい?」
そうですねとクスクス笑っていると、コンコンと執務室の扉をノックされた。どうぞと入室許可を出せば、アンジェラに引きずられるようにウィルが入ってきて、その横にピタッとミア、三人を見守るようにレオが後ろについて入ってきた。
「ほら、正解」
「すごいな……これは、驚いた。ウィルには、昼から来るよう手紙を書いてあったのだろう?」
「えぇ、昼からです」
軽食を食べ終わった瞬間に入ってきたので、ぴったり約束の昼からになったことを言えば、苦笑いをこちらに向けてきた。
「確かに、ぴったり昼からだな……昨日も会ったばかりなのに、アンナに会いたかったのかい?」
「いえ、お嬢に呼ばれていると聞いたので、飛んできただけですよ。姫さんはついでに報告をするだけです」
「ウィール!」
ウィルの腕をひき、私たちの前のソファにアンジェラがよじ登っている。手伝うようにウィルがひょいっと抱きかかえて座らせると、自身も座った。その隣には、もちろんミアが座り、アンジェラの隣にレオが一礼してからかけた。
「レオは、しっかりしているな……」
「私が、少しですけど教えましたからね!」
胸を張る私に、ウィルがボソボソっとジョージア様の所作を手本としていると呟いた。隣を見上げると、何故か勝ち誇ったような顔のジョージアにムッとする。
「ジョージア様を手本とするなら、とても綺麗な所作もできるし、礼儀作法もきちんと学べるから、しっかり吸収していきなさい、レオ。この国の公爵ですから、誰にも恥じることのないものを身につけられるでしょう」
「はい、アンナ様。僕もそのように感じています。日常的な礼儀作法もアンナ様に大事だと教えてもらったので、たくさん勉強しています。領地にいる間は、同じ屋敷内で拝見することも多いので、とてもためになっています!」
「……ときおり、視線を感じるなって思っていたのは、レオだったのか。時間がある時には、声をかけなさい。教えられることもあるだろうから」
「ありがとうございます!」
キラキラとした目を向けられ、ジョージアは満更でもなさそうな顔をして嬉しそうにしている。思わず、頬が緩んでいるのがわかる。
「ジョージア様も、これからは、気が抜けませんね?」
「アンナは何を言っているのかな?いつも見られているという意識の中で、貴族は生活するべきだよ?」
「……意識せずともだとは思いますけど、私は、少し自由なところがありますから!」
「「少し?」」
ジョージアとウィルの声が重なる。その『少し』が異様な響きだったので、少しです!と反論しておく。自覚はあっても、認めるわけにはいかないのだ。
「私、借り物の公爵ですし、夜会や公の場に出るときは、完璧なのですから許してください!」
二人の視線が痛いので、思わず口走ってしまった。何故か二人とも満足そうにニマニマしている。それをお互い見て、文句を言い始めた。だいたい、声が揃った当たりで、一瞬おかしな雰囲気になったのだが。
「そろそろ、南の領地での報告会をしたいのですけど?」
「あぁ、そうだね。子どもたちは、俺が連れていくよ。話をしたいことが多いだろうしね。あとで、教えてくれ」
「わかりました。お願いします」
ジョージアがアンジェラ立ちに声をかけると、名残惜しそうにウィルを見ては、ジョージアの手を見ている。それほど、一緒にいたいなら我儘をいうのかと思えば、そうならないアンジェラ。レオがジョージアと反対側の手を握って、部屋を出るように促している。兄らしいその一面、レオの成長がみえた。
「レオって、アンジェラにかいがいしく世話をやいてくれるよね?」
「強さは姫さんと俺。礼儀作法はジョージア様、勉学はセバスとイチア。目標を持って、すごい勢いで学んでいるんだ。お嬢の隣に立っていられるようにな」
「それって……?」
「さぁ、そこのところは、よくわからないけど……元々は、リアンとミアを守るために養子になることを選んだ。子どもながらに過酷な環境で育っていたんだろ?主と決めたんじゃないか?お嬢を。姫さんに仕えたいと思っていただろうけど、親子ほど年が違うからな。姫さんの周りから学べるものや経験を積んで、大きく回ってお嬢の役に立つことが、姫さんへの恩返しだと思っているんじゃないかな?」
「そうなんだ?」
「本人に聞いたわけじゃないけど、レオは姫さんを目指していると思うぜ?」
「嬉しい気もするけど……憧れているのは、私ではなくて、ウィルだと思うけどね?」
「どっちかっていうと、姫さんと俺のような背中を預けられる関係をお嬢と築きたいのかもしれないけどな」
「それは、素敵ね?」
「……一応、自分が誰の血筋かは、弁えてはいるようだけどな」
「気にしなくていいのに。ウィルの子でいいじゃない」
「そう簡単な話ではないのだろ?レオなりに」
レオの将来を止めるつもりは、私にはなかった。誰の子であっても、自身でその枠から抜け出す決心を幼いながらに決めたレオに新しい道を用意したのは、何もアンジェラたちとの未来だけの話ではない。あの日、出会えたからこそ、繋がったレオたちの未来。大切にしてほしいとウィルに伝えた。
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