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南の領地での報告会Ⅲ
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報告書を見る限り、ジョージアが言ったとおりの結果であった。このあたりの物流には、エレーナのところが関わっているかと思っていたのだが、どうやら違うようだ。
「これは、エレーナからもらった事業計画と報告になります」
「あぁ、エルドアで運輸業をしているんだったね?アンナの友人は」
「そうなのです。私も出資をしているのと、ハニーアンバー店でも活用させてもらっているので、このような報告書を出してもらっているのです」
「なるほど、それによると?」
「えぇ、このインゼロ帝国からの穀物輸送に関しては、手を出していないようですね」
「ここの土地はウェスティン伯爵の領地じゃないのか?」
指さされた場所を見れば、確かにそうだ。ここも穀物の輸入が増えている。今度、屋敷に招待したときに実情を聞けばいいかもしれないが、はたして素直に答えてくれるかは未定である。
「聞いて、答えてくれますかね?」
「それは、わからないね?国王派なんだろ?」
「……よくわかりません。どこに向かっているのか……情報を集めたとしてもその真偽、心の内までは、計りかねますからね」
「アンナでも、そこは見抜けないということか」
「ジョージア様の心も私にはわかりません。言葉で囁くほど私のことを愛してくれていないかもしれませんしね?」
「そこは疑うところではないと思うけど?囁きたりないのかな?」
「……そんなことはないですよ!」
「そう?今晩からは少し考えてみるよ。どうすれば、アンナの疑いがはれるのかを」
疑っているわけではないと否定する。自分でもわからない心の内側の話をしているのだと言えば、考え込んでしまった。今は、そういう話をしたいわけではないのにだ。おもむろに立って、対面に座っていた私の隣に座った。頬を撫でられるので、どうかしましたか?と問う。
「どうすれば、アンナに俺の全てが伝わるんだろうって思ってね?」
頬にあてがわれた手に私の手を重ねる。大きな手は、私の頬を優しく包み込むようだった。たいして、私の手は貴族女性のように柔らかくなめらかではない。
「アンナの手は、誰かを守るためにいつも働いている手だね」
「剣ダコや擦り傷があったり、少し恥ずかしいです」
「俺は、好きだよ。この手が、俺たち家族を、友人たちを、領民を守っているんだって、知っているから」
「……ありがとうございます」
スリッとジョージアの手に頬を寄せてみる。優しく微笑むジョージアは、心の全てを私にくれているのだろう。
「ウェスティン伯爵のことなんだけどさ」
「何かありますか?」
「心の内を聞いてみればどうだい?本音を話してくれるかは、彼女しかわからないけど、戦争を起こしたいのか、ただ、誰かに強要されているのか、はたまた、この時期に、ローズディアにきた目的があるのかってね。腹の探り合いもいいけど、案外、腹を割って話した方がいいこともあるし」
「私のことは、聞いているはずですよ。私は、自分でいうのも何ですけど、有名ですから」
「俺の意見を言うならば、アンナの後ろ盾が欲しいんじゃないかな?って、思うんだよね」
「私のですか?国も違いますし、私の後ろ盾など」
「必要なんだよ。きっと。何のためにかまでは、わからないけど……賭けチェスをしたことにも意味があるんだろう?わざわざ、俺をエサにアンナを釣るくらいだから」
「……やっぱり、そう思いましたか?」
昨夜の賭けチェスの話をジョージアがしてきたので、乗っていく。確かに対戦相手として、決して弱くはなかった。むしろ、とても強く、気が抜けない勝負であったことは事実。ジョージアを取られるわけにはいかなかったので、私の方も攻めた。
「強かったっていうのは、見ていればわかったけど、本気のアンナには、叶わないだろうとは、思っていたよ」
「……まだ、本気ではないですよ!」
「そう?そういうことにしておこうか」
ニコッと笑うジョージアに、まだまだ私の実力はこんなものじゃないよとうとそうだねと頭を撫でられる。まるで、アンジェラと同じ扱いにため息をつけば、わかっていないジョージアは困り顔をこちらに向けてくる。
「私、アンジェラじゃないですよ?」
「……つい。言ってることもやってることもそっくりだからね。その内、俺を置いて、アンジェラも南の領地みたいな危険なところでも、羽根を広げて飛んでいってしまうんだろうね。そうなると、寂しい気がするよ」
「そうなったら、ジョージア様が、追いかけてあげたらいいじゃないですか。いつまでも、子どもじゃないと回りにも本人にも言われるかもしれませんけど、大事な娘に変わりはないのですから」
「なるほど……さすがに、その発想はなかった。嫌われそうだけどね?」
「ジョージア様がいれば、アンジェラも心強いと思いますよ?」
そうかなぁ?と呟いているジョージアに頷く。私が、いつまでも、一緒にいられないのだからと心の中で呟き、絶対です!と後押ししておく。
『予知夢』で、ジョージアを頼りにしている、アンジェラの姿を幾度となく見てきたのだから、お互いを大切に思っていますとだけ伝えておいた。
「これは、エレーナからもらった事業計画と報告になります」
「あぁ、エルドアで運輸業をしているんだったね?アンナの友人は」
「そうなのです。私も出資をしているのと、ハニーアンバー店でも活用させてもらっているので、このような報告書を出してもらっているのです」
「なるほど、それによると?」
「えぇ、このインゼロ帝国からの穀物輸送に関しては、手を出していないようですね」
「ここの土地はウェスティン伯爵の領地じゃないのか?」
指さされた場所を見れば、確かにそうだ。ここも穀物の輸入が増えている。今度、屋敷に招待したときに実情を聞けばいいかもしれないが、はたして素直に答えてくれるかは未定である。
「聞いて、答えてくれますかね?」
「それは、わからないね?国王派なんだろ?」
「……よくわかりません。どこに向かっているのか……情報を集めたとしてもその真偽、心の内までは、計りかねますからね」
「アンナでも、そこは見抜けないということか」
「ジョージア様の心も私にはわかりません。言葉で囁くほど私のことを愛してくれていないかもしれませんしね?」
「そこは疑うところではないと思うけど?囁きたりないのかな?」
「……そんなことはないですよ!」
「そう?今晩からは少し考えてみるよ。どうすれば、アンナの疑いがはれるのかを」
疑っているわけではないと否定する。自分でもわからない心の内側の話をしているのだと言えば、考え込んでしまった。今は、そういう話をしたいわけではないのにだ。おもむろに立って、対面に座っていた私の隣に座った。頬を撫でられるので、どうかしましたか?と問う。
「どうすれば、アンナに俺の全てが伝わるんだろうって思ってね?」
頬にあてがわれた手に私の手を重ねる。大きな手は、私の頬を優しく包み込むようだった。たいして、私の手は貴族女性のように柔らかくなめらかではない。
「アンナの手は、誰かを守るためにいつも働いている手だね」
「剣ダコや擦り傷があったり、少し恥ずかしいです」
「俺は、好きだよ。この手が、俺たち家族を、友人たちを、領民を守っているんだって、知っているから」
「……ありがとうございます」
スリッとジョージアの手に頬を寄せてみる。優しく微笑むジョージアは、心の全てを私にくれているのだろう。
「ウェスティン伯爵のことなんだけどさ」
「何かありますか?」
「心の内を聞いてみればどうだい?本音を話してくれるかは、彼女しかわからないけど、戦争を起こしたいのか、ただ、誰かに強要されているのか、はたまた、この時期に、ローズディアにきた目的があるのかってね。腹の探り合いもいいけど、案外、腹を割って話した方がいいこともあるし」
「私のことは、聞いているはずですよ。私は、自分でいうのも何ですけど、有名ですから」
「俺の意見を言うならば、アンナの後ろ盾が欲しいんじゃないかな?って、思うんだよね」
「私のですか?国も違いますし、私の後ろ盾など」
「必要なんだよ。きっと。何のためにかまでは、わからないけど……賭けチェスをしたことにも意味があるんだろう?わざわざ、俺をエサにアンナを釣るくらいだから」
「……やっぱり、そう思いましたか?」
昨夜の賭けチェスの話をジョージアがしてきたので、乗っていく。確かに対戦相手として、決して弱くはなかった。むしろ、とても強く、気が抜けない勝負であったことは事実。ジョージアを取られるわけにはいかなかったので、私の方も攻めた。
「強かったっていうのは、見ていればわかったけど、本気のアンナには、叶わないだろうとは、思っていたよ」
「……まだ、本気ではないですよ!」
「そう?そういうことにしておこうか」
ニコッと笑うジョージアに、まだまだ私の実力はこんなものじゃないよとうとそうだねと頭を撫でられる。まるで、アンジェラと同じ扱いにため息をつけば、わかっていないジョージアは困り顔をこちらに向けてくる。
「私、アンジェラじゃないですよ?」
「……つい。言ってることもやってることもそっくりだからね。その内、俺を置いて、アンジェラも南の領地みたいな危険なところでも、羽根を広げて飛んでいってしまうんだろうね。そうなると、寂しい気がするよ」
「そうなったら、ジョージア様が、追いかけてあげたらいいじゃないですか。いつまでも、子どもじゃないと回りにも本人にも言われるかもしれませんけど、大事な娘に変わりはないのですから」
「なるほど……さすがに、その発想はなかった。嫌われそうだけどね?」
「ジョージア様がいれば、アンジェラも心強いと思いますよ?」
そうかなぁ?と呟いているジョージアに頷く。私が、いつまでも、一緒にいられないのだからと心の中で呟き、絶対です!と後押ししておく。
『予知夢』で、ジョージアを頼りにしている、アンジェラの姿を幾度となく見てきたのだから、お互いを大切に思っていますとだけ伝えておいた。
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