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結局さ

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 大広間の真ん中、公と公妃が踊っているのを横目に、二人でため息をついた。


「もう!ため息をつかないでくれる?」
「それは、こっちのセリフ。姫さんこそ、ため息つかないでよ?」
「……このあと、大変なんだから」
「あぁ、ジョージア様って、嫉妬深いよね?社交だって割り切ればいいけど……なんか、風当りがきついんだよね?俺にだけ」
「そうなの?」
「そうなんだよ……セバスには、それほどなんだけどなぁ?何?俺のかっこよさに……」
「ジョージア様の方がかっこいいと思うわよ?」
「……即答かよ。でも、優柔不断」


 確かに……と、納得するとウィルが笑う。ここ数年、ジョージアとそれなりに一緒にいる時間があるウィルの目は正しい。
 だからこそ、変な貴族に目をつけられたりするわけなんだが、私が目立てば、そういった輩も減っていった。目を光らせているからというメッセージが込められていることを感ずくのは、危機管理のできている貴族だろう。中には、そういったものがわからない貴族もいる。上位の貴族と関わることの少ない男爵位の新興貴族には、うまく取り入ろうと近寄ってくるものも多い。


「姫さん、帰ってから、本当に頼むな?俺、領地にも屋敷にも出禁になったら、辛すぎる」
「えぇ、わかっているわ。私が何かをするより、うちのお姫様に可愛くお願いをしてもらうわ!私だと、火に油をたっぷり注ぎそうだから」
「おっ!お嬢が?さすが、お嬢。ジョージア様をあの年で手玉に取っているなんて、すごいな?姫さんもそんな感じだった?」
「……失礼ね?怒ったお母様から逃げるためだけにお父様にお願いしただけよ?」
「この親あってのあのお嬢か……俺も転がされるんだろうなぁ?手のひらで」
「そうよ!上手に転がりなさい!」


 クスクス笑っていると、音楽が鳴り止んだようだ。今日は、これが最後の催しだったので、このまま、終わることだろう。
 久方ぶりに、夜会の最後までいたことで、少しばかり疲れた。


「アンナ」
「ジョージア様」


 ウィルのところから、ジョージアの元へ向かおうとして、トンッと背中を押された。いつだってウィルは、私の背中を押してくれる。ジョージアに微笑みかけて、隣に並ぶ。


「みてください!お星を掴んできたと思ったら、薔薇でしたわ!」


 胸元に公妃がつけてくれた紫薔薇のブローチをジョージアに見せると、がんばったねと頬を撫でてくれる。


「まだ、ここ、公宮の大広間ですからね?いちゃつくなら、屋敷に帰ってからにしてくださいね?」
「あぁ、そうだね。ウィルも星を取ったんだったね?」
「えぇ、いただきましたよ。どうです?星」
「俺は、星をもらえるようなことを成せないからね。アンナを後ろから支えるしかできない。ウィルが羨ましいよ。アンナの隣にたてる。引っ張ってやれる」
「それは、どうですかね?姫さんが求めているのは、俺じゃなく、ジョージア様ですからね?そのあたりは、間違えてはいけないところですよ。俺は、戦場へ向かう立ち位置だ。そこから、全力で姫さんやお嬢を守ることしかできない」
「それでいいのではないか?」
「そうですね。それでいいんです。ジョージア様は、どうか、姫さんの側で、姫さんを守ってください」


 では、明日と一礼して去っていくウィル。サーラー子爵の元へ向かい、報告をしている。その姿をみれば、父親である子爵が顔を綻ばせ、背中に手を添えている。


「誇らしいのだろうな。俺は、父にあんな顔をさせたことがない」
「……まだ、遅くはありませんよ。ジョージア様の人生もお義父様の人生も終わってはいないのですから、一緒に褒められる努力をいたしましょう」
「アンナのことは、とても褒めていたさ。両親が、本当にアンナのことをよくやっていると言っていた。それに比べ……」
「比べる必要はありません。ジョージア様だって、ここ数年、領地のために、どれほどの知識を私たちに提供してくれたことか。それがなければ、未だ、領地改革は遅々としていましたから。誇ってくださいといつも言っています。ジョージア様の領地への愛情は、一級品ですからと」


 帰りましょうと、背中にてを添えると、あぁと答えてくれた。


「明日から、しばらくは、南の領地での報告会やエルドアでの動向についての話合いが続きます。ウェスティン伯爵……ダリアへの要望もしっかり決めなくてはいけませんから、また、忙しくなりますね」
「アンナは、仕事を詰め込みすぎだよ?コーコナでの話も聞いているし、もう少し……と、悪いな。人が足りないんだよな」
「……えぇ、人材が足りません。アンバー領だけならまだしも、離れた場所にあるコーコナ領のこともあります。将来的には、ジョージかネイトに任せてもいいと考えてはいるのですが、まだまだ、先での話ですし」
「小さい子どもに押し付けられないからなぁ……何もできないもしれないけど、支えるよ」
「ジョージア様がいてくれるだけで、私は心強いのですよ?」


 帰る場所があることはホッとしますと言えば、いつでも帰っておいでと囁くジョージア。その言葉だけで、私は、私の成すべきことのために動けるのだから、ジョージアを大切に想っているというのは、本心以外の何物でもない。


「私の気持ち、伝わっていますか?」
「……どうだろう?」


 意地悪な顔をこちらに向けて来たので、馬車に押し込んでやる。


「屋敷へ向かってちょうだい!」


 御者に声をかけ、馬車の扉を乱暴に閉める。急なことで、ジョージアが戸惑っているので、ニコッと笑って、詰めてくださいませと馬車の隅に追いやり、頬に手をあてがいキスをする。驚いたジョージアを見つめるのは、少しいい気分であった。
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