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流星群を見上げながら、声をあげていると、音楽が鳴り止んでいることに気が付いた。ウィルが先に公への挨拶に行ったことから、そろそろ始まるのだろう。
「勲章授与が始まるかなぁ?我らの女王様が今日は主役の一人だからね。行かないと」
「女王様ですか?私、お母様ほど、強くはないですよ?」
「そう思っているの本人だけ。みんな、アンナのことをそう思っているんだよ」
「それは……なんていうか……もう少し、お姫様でいたいですけど?」
「可愛らしく?」
「えぇ!さっき、ウィルにはお姫様と言われましたし……」
「ウィルの中では、アンナは学生のころのままなのだろう。二人して、そんな雰囲気があるからね」
仕方がないよね?と呆れたようにため息をひとつしたあと、手を差し出されたので重ねる。私は、ジョージアと足並みを揃え、悠然と歩いて行けば、勲章授与を見たい貴族たちでごったがえしている大広間の前で、停まるはめになった。困ったねとジョージアは呟いていたけど、特に困ることはない。
「アンナリーゼ・トロン・アンバーです。道を開けてくださいますか?」
一言、目の前の貴族たちに声をかければ、振り返り、私を見て、一例したのちに道を開けてくれる。
「女王様のご帰還だね?」
「そんなことないですよ!」
横並びで人が四人ほど並んで歩けるほど道が開き、何事もなかったかのようにその間を歩いて行く。その道を作った誰もが、私に一礼を取っていく姿は、公でさえ表情を固くしていた。
その後ろに、そっとナタリーが続く。
「アンナリーゼ様!」
「ナタリー」
「遅くなりましたわ!」
「いいのよ!ナタリーにもいろいろと動いてもらっていたのですもの。迷惑をかけるわね?」
「滅相もないです。私がアンナリーゼ様のために動きたいだけですから」
「それで?」
「うまくいきましたよ?和解はするつもりはありませんけど」
少し怒ったような厳しい視線を背中に感じながらも、ナタリーの報告を聞く。続きは明日にもでということになったが、そのまま後ろをついてきてくれるようだ。
「ナタリーは、まるで、侍女のようだね?」
「ジョージア様、まるでとは失礼ですわ!私は、デリアと協力関係にあるのです。公宮では貴族令嬢は、公女・公妃の侍女になれるのですよ?公爵ともあろうお方ですもの!私は、アンナリーゼ様の侍女と自負していますわ!」
胸を張るナタリーに苦笑いをしながら、私は公妃ではないわと小さく呟いた。好きで公爵になっただけで、我儘を通りてしまった。それだけなのだから。
「姫さん、こっち!」
ウィルが手を振る方に私たちも向かう。最前列は、公爵家の場所ではあるが、今日はウィルもここにいる。勲章をもらうのだから。
夜会に出ていなかった公妃も公の隣でそれらしく佇んでいた。
「そういえば、あのドレスは……」
「ハニーアンバー店のドレスですよ!公にたくさん買っていただきましたから!公妃にもぜひにと言って」
「……なんというか、商人より商人らしいよね?アンナって」
「第二妃にばかり、贈り物を贈るのはダメですよ!って言っただけですよ?ねぇ?ナタリー」
「そうですよ。一応といえど、公妃を本来、たてるべきなんですから。第二妃のご実家は、爵位低いので、そこらの配慮が少々欠けているのです。誰か、教えて差し上げる貴族がいればよろしかったでしょうけど、第二妃の後ろ盾になる貴族はいませんからね」
「公妃の後ろ盾がゴールド公爵だからか?」
「そうです」
「それなら、アンバーが後ろ盾になれば、いいのではないか?」
「ジョージア様、それは違いますよ。私たちは、現公の後ろ盾です。第二妃の後ろ盾には、なりません。公世子を決めるときに、そのまま後ろ盾がものを言いますから」
「アンナは、公妃の子を公世子にと思っているかい?」
「私は、どちらとも思っていません。公世子を決めるのは、公であって、私ではありませんし、これ以上、体制が整っていないアンバー公爵家をゴールド公爵家と対立させるわけにはまいりません。公世子よりも、ハニーローズであるアンジェラの方が、私にとって、何倍も、何十倍も、何百倍も大切ですから。公もゴールド公爵もそれは、わかっている。だから、私は、公世子に関わる事柄には、表に立たないと決めています」
ジョージアは考えるように顎をなぞっていた。どれが正解なのかと。アンバー公爵家にゴールド公爵家ほどの力があるならば、第二妃の子に肩入れすることは可能なのかもしれないが、今は、そのときではない。
「いつだったか、聞いたことがあったね。最悪のことが起こる前兆でもあるハニーローズの誕生は、誰もが警戒すべきだということだった。全盛期であれば、ハニーローズが後ろ盾となることも可能なのだろうけど……まだ、アンジーは小さい。それに、後ろ盾になるには、アンバー公爵家はまだまだ弱いか。急速に領地改革が進んでいき、力をつけていっているつもりだったけど、アンナの判断は正しい。まだ、ゴールド公爵と対等ではないということなんだね?」
「そういうことです。足元にも及びませんよ。公の後ろ盾としてアンバー公爵家があるように、アンバー公爵家の後ろ盾として公がいるのです。そこを忘れないでください。
私たちは、ハニーローズ共々、運命共同体なのですよ」
ジョージアにニコリと笑いかければ、そうかと返答がきた。ウィルもナタリーも肌で感じているだろう。まだ、この国の勢力図は、圧倒的にゴールド公爵の手の内なのだと。自身の家でさえ、その内に取り込まれていたことを知っている友人たちは、少しずつ、ゴールド公爵家との距離を取るように促してきている。そのおかげで、少しだけ、変わりつつあるが、まだまだなのだ。
階段上を見れば、公がおもむろに立ち上がった。広間を二分するよう道が出来、その反対側には、ゴールド公爵がいた。今日の勲章授与のことは知っていただろう。余裕の微笑みで私を見ていた。
「勲章授与が始まるかなぁ?我らの女王様が今日は主役の一人だからね。行かないと」
「女王様ですか?私、お母様ほど、強くはないですよ?」
「そう思っているの本人だけ。みんな、アンナのことをそう思っているんだよ」
「それは……なんていうか……もう少し、お姫様でいたいですけど?」
「可愛らしく?」
「えぇ!さっき、ウィルにはお姫様と言われましたし……」
「ウィルの中では、アンナは学生のころのままなのだろう。二人して、そんな雰囲気があるからね」
仕方がないよね?と呆れたようにため息をひとつしたあと、手を差し出されたので重ねる。私は、ジョージアと足並みを揃え、悠然と歩いて行けば、勲章授与を見たい貴族たちでごったがえしている大広間の前で、停まるはめになった。困ったねとジョージアは呟いていたけど、特に困ることはない。
「アンナリーゼ・トロン・アンバーです。道を開けてくださいますか?」
一言、目の前の貴族たちに声をかければ、振り返り、私を見て、一例したのちに道を開けてくれる。
「女王様のご帰還だね?」
「そんなことないですよ!」
横並びで人が四人ほど並んで歩けるほど道が開き、何事もなかったかのようにその間を歩いて行く。その道を作った誰もが、私に一礼を取っていく姿は、公でさえ表情を固くしていた。
その後ろに、そっとナタリーが続く。
「アンナリーゼ様!」
「ナタリー」
「遅くなりましたわ!」
「いいのよ!ナタリーにもいろいろと動いてもらっていたのですもの。迷惑をかけるわね?」
「滅相もないです。私がアンナリーゼ様のために動きたいだけですから」
「それで?」
「うまくいきましたよ?和解はするつもりはありませんけど」
少し怒ったような厳しい視線を背中に感じながらも、ナタリーの報告を聞く。続きは明日にもでということになったが、そのまま後ろをついてきてくれるようだ。
「ナタリーは、まるで、侍女のようだね?」
「ジョージア様、まるでとは失礼ですわ!私は、デリアと協力関係にあるのです。公宮では貴族令嬢は、公女・公妃の侍女になれるのですよ?公爵ともあろうお方ですもの!私は、アンナリーゼ様の侍女と自負していますわ!」
胸を張るナタリーに苦笑いをしながら、私は公妃ではないわと小さく呟いた。好きで公爵になっただけで、我儘を通りてしまった。それだけなのだから。
「姫さん、こっち!」
ウィルが手を振る方に私たちも向かう。最前列は、公爵家の場所ではあるが、今日はウィルもここにいる。勲章をもらうのだから。
夜会に出ていなかった公妃も公の隣でそれらしく佇んでいた。
「そういえば、あのドレスは……」
「ハニーアンバー店のドレスですよ!公にたくさん買っていただきましたから!公妃にもぜひにと言って」
「……なんというか、商人より商人らしいよね?アンナって」
「第二妃にばかり、贈り物を贈るのはダメですよ!って言っただけですよ?ねぇ?ナタリー」
「そうですよ。一応といえど、公妃を本来、たてるべきなんですから。第二妃のご実家は、爵位低いので、そこらの配慮が少々欠けているのです。誰か、教えて差し上げる貴族がいればよろしかったでしょうけど、第二妃の後ろ盾になる貴族はいませんからね」
「公妃の後ろ盾がゴールド公爵だからか?」
「そうです」
「それなら、アンバーが後ろ盾になれば、いいのではないか?」
「ジョージア様、それは違いますよ。私たちは、現公の後ろ盾です。第二妃の後ろ盾には、なりません。公世子を決めるときに、そのまま後ろ盾がものを言いますから」
「アンナは、公妃の子を公世子にと思っているかい?」
「私は、どちらとも思っていません。公世子を決めるのは、公であって、私ではありませんし、これ以上、体制が整っていないアンバー公爵家をゴールド公爵家と対立させるわけにはまいりません。公世子よりも、ハニーローズであるアンジェラの方が、私にとって、何倍も、何十倍も、何百倍も大切ですから。公もゴールド公爵もそれは、わかっている。だから、私は、公世子に関わる事柄には、表に立たないと決めています」
ジョージアは考えるように顎をなぞっていた。どれが正解なのかと。アンバー公爵家にゴールド公爵家ほどの力があるならば、第二妃の子に肩入れすることは可能なのかもしれないが、今は、そのときではない。
「いつだったか、聞いたことがあったね。最悪のことが起こる前兆でもあるハニーローズの誕生は、誰もが警戒すべきだということだった。全盛期であれば、ハニーローズが後ろ盾となることも可能なのだろうけど……まだ、アンジーは小さい。それに、後ろ盾になるには、アンバー公爵家はまだまだ弱いか。急速に領地改革が進んでいき、力をつけていっているつもりだったけど、アンナの判断は正しい。まだ、ゴールド公爵と対等ではないということなんだね?」
「そういうことです。足元にも及びませんよ。公の後ろ盾としてアンバー公爵家があるように、アンバー公爵家の後ろ盾として公がいるのです。そこを忘れないでください。
私たちは、ハニーローズ共々、運命共同体なのですよ」
ジョージアにニコリと笑いかければ、そうかと返答がきた。ウィルもナタリーも肌で感じているだろう。まだ、この国の勢力図は、圧倒的にゴールド公爵の手の内なのだと。自身の家でさえ、その内に取り込まれていたことを知っている友人たちは、少しずつ、ゴールド公爵家との距離を取るように促してきている。そのおかげで、少しだけ、変わりつつあるが、まだまだなのだ。
階段上を見れば、公がおもむろに立ち上がった。広間を二分するよう道が出来、その反対側には、ゴールド公爵がいた。今日の勲章授与のことは知っていただろう。余裕の微笑みで私を見ていた。
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