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流れ星に願いを

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 不機嫌そうなジョージアが、私の隣に来た。バルコニーの方へ移動するよう、誘われその手をとる。
 チラリと見上げると、不機嫌そうに見えていたはずが、柔らかい表情に変わっていた。


「今日は、いい日だね?」
「えっ?」
「アンナにとって、いいだろ?勲章授与がある。女性でしかも公爵のアンナが、勲章を与えられることって、ほとんどないに等しいだろ?」
「えぇ、そうですね。私が戦場へ向かうことはありませんから。それに1代限りの爵位には、国を救うほどの功績がない限りは、与えられることはないですものね」
「そうだ。それをやってのけるアンナは、すごいんだよ」


 珍しく饒舌に褒めてくれるジョージアを不思議に思った。綺麗だ可愛いと褒めることあるが、今回のことで何か言ってくれたことはなかった。


「ジョージア様、あの……」
「聞いてくれるかな?授与式まで、もう少しだけ時間があるから」
「えぇ、私は、いつでもジョージア様のお話を聞きますよ?」
「ありがとう」


 バルコニーの柵に背中を預け、上を向くジョージア。いつもと違う様子のジョージアをただ見つめることしかできなかった。


「俺はね、アンナリーゼっていう存在のこと、本当にすごいんだって思ってきた。学生のころからね。いつも誰かに必要とされ、誰かの手をとって……国に必要な人なのだろうって、王太子やヘンリー殿を見ていて思っていたんだ」


 ぽつりと話すジョージア。この話は、よくされる話ではあったので、ただ頷く。


「それが、どういう巡り合わせか、俺の隣に来た。王太子でもなく、公世子でもなく、皇太子でもなく、愛しいヘンリー殿でもなくね」
「ジョージア様、それは……」
「アンナが、俺を選んでくれたんだろう?未来のために」
「……未来のため、だけではありませんけどね」
「でも、戦争を無くすためという大きな目標のために、選んだことには変わりないよね?」
「……そうですね」
「貴族の結婚は、政略結婚も多いしね?俺は、アンナのことが好きだったから、それでよかったんだけど、アンナはどうだったの?」
「どうとは?」
「本当に、俺でよかったの?ってこと。公爵という地位は、少なからずあったけど、名ばかりの爵位で、領地は死んでいたし、ヘンリー殿に比べ何の才覚もなかった。国の母にとも望まれていたのに、本当に良かったのかって……」


 ジョージアの意図することは、くみ取ることができる。ただ、私がいいといったところで、納得してくれるのだろうか?
 私もジョージアとは反対側の空を見上げて、黙った。静かなバルコニーには大広間から軽快な音楽が流れてきたり、風が優しく吹き抜けていったりしている。
 頬にかかる髪を手で払い、星を眺めた。


「流れ星に願いを」
「流れ星?」
「えぇ、流れ星に願いをするとき、ジョージア様は何を願いますか?」


 こちらを見つめているのがわかる。突拍子もない話に、驚いたのか視線が向いた。


「私は、ジョージア様の幸せを1番に願います。そのあと、アンジェラたちのこと、アンバーに関わる人、友人たち」
「俺を1番に?」
「えぇ、私は子どもたちより先に願ってしまいます。ジョージア様、私の初恋を知っているんでしたね?」
「あぁ、もちろんだ。ヘンリー殿だろう?」


 ジョージアの方を見て微笑んだ。


「私も、そうだと思っていたんですけどね……最近、違うような気がしてきました。『予知夢』って、急にみれるようになったわけじゃないんです。怖い夢は、涙とともに流してしまっていましたから」
「どういう……こと?」
「アンジェラに私の『予知夢』の能力が移って行っているんじゃないかって思うんです。うまく言葉にできていないので、こちらが察しないといけないのですけど……私も同じように幼いころから見ていたのではないかと、アンジェラを見ていて思うんです」
「何がきっかけ?」
「夜泣きですかね?私、毎日、お兄様のベッドで朝を迎えていたのです。『予知夢』と認識できるまで……」
「サシャのベッドで寝起きして、それがどう繋がるんだい?」
「わかりません。ただ、最近、過去見ができる瞬間があるんですよね。ほんの一瞬。アンジェラに触れているときに」


 私を見て驚くジョージア。ハニーローズは、過去見ができると伝えられている。困ったことがあれば、過去を参考に打開策を見つけていくとかで、いわゆる、知識を本で認識するのではなく、過去を見ることで認識できるということみたいだ。
 私も、あまり興味は持っていなかったので、今まで、調べてこなかったが、この間、偶然、王配の手記でその記述を見つけた。


「過去を見ることって……それで、何を見たんだい?」
「アンジェラくらいの年のころの夢をみました。私が、『予知夢』を見ている内容をどうしてかみれたのです」
「……信じられない」
「私もです。ジョージア様は、戦争を回避するために選んだんだと思っていたのですから。『ぎんのかみのしゅてきなおうじちゃま』らしいですよ?」
「えっ?」
「銀の髪の素敵な王子様」


 ジョージアは、私の言葉を反芻している。何度も何度も。だんだん、恥ずかしくなってきたので、声をかけた。


「どうやら、私の初恋は、夢の中に出てきたジョージア様らしいです。初めて会った日、懐かしい気がしたのです。『予知夢』で知っているからだと思い込んでいたんですけどね……。誰より先に、私はジョージア様の虜だったようですよ?」


 流れ星が流れる。見てください!といい、願った。


「今日は、流星群のようだね?たくさんの人のことを願うといいよ!」
「えぇ、そうします!」


 胸の前で手を組み、ジョージアを始めたくさんの人の幸せを願う。
 願い終わったあと、ジョージアと目があったので、にっこり笑っておいた。
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