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……妬けるな
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「もう少ししたら、勲章授与だよ?」
「そうですか?少し、外の空気を吸ってきますね……さすがに疲れました」
ジョージアと踊ったあと、これ以上、誰かと踊りたいとは思えず、バルコニーへと移動する。太陽が沈めば、夏の蒸し暑さは薄れ、少しだけ秋を思わせる爽やかな風が、頬を撫でていく。火照った体には、ちょうどいい風で、まだ再会していない友人のことを想った。
「ヨハンはこないって言っていたけど、ウィルも遅すぎない?もうすぐ、夜会、終わっちゃうけど?」
「ん。そうだな」
「……」
「……妬けるな。ジョージア様とあんなに楽しそうに踊られると」
バルコニーに出た私の背中にもたれかかり、甘えるような仕草のあと、左肩に重みを感じた。お腹の前には、緩くではあるが、腕が回り、抱きしめられている。見覚えのある白い制服に、思わず頬が緩む。
久しぶりに聞く声に振り返りたくなったが、それを許してくれないらしい。 今は、どうやら、独占したいらしいその人物に何も言わず、肩を貸す。
横目に見える風に揺れた薄い金髪が、南の領地で別れたあと伸び、月日の流れを感じる。
「……じゃあ、一緒に踊る?」
「んー、それもいいけど、俺、ホールで目立って踊れるほど、姫さんと息ぴったりには踊れないからなぁ」
長い付き合いの中、初めて甘えるような仕草をされ、少しだけ驚きながらも、私のもとに無事帰って来てくれたことが何より嬉しい。
月明かりの下、バルコニーに二人。
正直、褒められた状況ではないのだが、それでも許してしまえた。
「……ここで踊る?」
「んーそうだな。ここなら、音楽も聴こえるし、見ている人は誰もいない。少々ダンスが下手でも笑われないかな?」
「ウィルは、下手じゃないし」
「姫さんの相手には、なれないってだけでしょ?」
少し寂しいような悔しいようなと続きそうな声音に、クスクスと笑えば、ウィルも同じく笑い体の振動が直に伝わる。
「でわ、私のお姫様」
耳元で囁いたとき、肩にかかった重みも、背中にあった温もりも、腹にあった腕も、全て解かれていく。
気取った王子にでもなったつもりなのか、大仰にお辞儀をする。
「一曲、踊っていただけませんか?」
いつものちゃかすような雰囲気ではなく、真剣な眼差しで、私を真っすぐ見る。そのアイスブルーの瞳は、優しく、されど、少々の嫉妬を含んだ目だった。
「もちろん、喜んで!私の騎士様」
差し出された手に私の手を重ねるとスッと引き寄せられる。見上げると、少しだけ、背が伸びたように見えた。学園を卒業してから、もう5年近く経っている中、おふざけをしているウィルでないことに、少しだけ、胸がざわついた。
「たまには、真面目にダンスも誘ってみるもんだな。そんな顔、されるとは……これは、意外だな」
「どんな顔?」
「さぁ?どんな、でしょうね?」
クックっと笑うと、いつものおどけたウィルに戻り、なんだかホッとする。
やっと、帰ってきてくれた。
肩に手を置き、ゆったりした音楽とウィルのリードに身を任せ揺られる。ステップなんんてあったもんじゃなかったけど、今日は、それでよかった。
「……おかえり、ウィル」
「……ただいま、姫さん。今日は、最後までいてくれるんだろ?いつも中抜けして帰るけど」
「もちろんよ!公に最後までいるように言われているから、残ることにしてるわ。まさか、本当にウィルが帰ってくるだなんて。遅いなって、今さっきまで考えていたの」
「本当?ジョージア様とあんなに楽しそうにしていたのに!」
「本当よ!」
「聞いているかもだけど、表彰があるんだってさ。姫さんと俺とヨハン教授の」
「えぇ、聞いているわ!」
「……そうか」
少しだけ照れたように、誇らし気に頷くウィル。そのあとはすぐに、困り顔になった。
「まぁ、ヨハン教授はバックれたけど、ヨハン教授らしいよね?」
「えぇ、そうらしいわね!私のところにも公のところにもわざわざ手紙を書いて送ってきたわ!」
うっわ……らしすぎる!と笑うと、本当に大変だったんだぞ?ヨハン教授のお守り!と、ちょっと拗ねたようにウィルは抗議してくる。
「私も手を焼いてるからね。助手が途切れないのが不思議よね?」
苦笑いしながら、曲が鳴り止むまで、ゆったりと静かに踊り続けた。
「久しぶりに楽しかった」
「私も! バルコニーでの一曲」
見つめ合い笑いあっていると、今度は拗ねたように大広間の方から名を呼ばれる。
「アンナ?」
いつもは優しいそのトロっとした蜂蜜色の瞳も、今日は私たち二人へ厳しい視線を送ってくる。抜け出して、ここでウィルと再会を喜んでいたことが不満のようだ。
「やべっ、ジョージア様が、すっんげぇ怒ってるわ。俺、しばらく、アンバーの屋敷、出禁になったりしないかな?」
「……それは、ジョージア様のみ知るって感じだよね?」
「姫さん、うまく、ご機嫌とっておいてな?」
「えっ、無理だよ!そんなこと」
「姫さんが無理なら、世界中の誰もが無理だから!」
私から、パッと離れ、それじゃあ、後でと大広間へ逃げ戻って行くウィル。その背中にもう一度声をかけた。
「おかえりなさい!」
返事の変わりに手をヒラヒラとさせ、公への挨拶へ向かうのだろう。その大きくより逞しくなった背中を見送った。
「そうですか?少し、外の空気を吸ってきますね……さすがに疲れました」
ジョージアと踊ったあと、これ以上、誰かと踊りたいとは思えず、バルコニーへと移動する。太陽が沈めば、夏の蒸し暑さは薄れ、少しだけ秋を思わせる爽やかな風が、頬を撫でていく。火照った体には、ちょうどいい風で、まだ再会していない友人のことを想った。
「ヨハンはこないって言っていたけど、ウィルも遅すぎない?もうすぐ、夜会、終わっちゃうけど?」
「ん。そうだな」
「……」
「……妬けるな。ジョージア様とあんなに楽しそうに踊られると」
バルコニーに出た私の背中にもたれかかり、甘えるような仕草のあと、左肩に重みを感じた。お腹の前には、緩くではあるが、腕が回り、抱きしめられている。見覚えのある白い制服に、思わず頬が緩む。
久しぶりに聞く声に振り返りたくなったが、それを許してくれないらしい。 今は、どうやら、独占したいらしいその人物に何も言わず、肩を貸す。
横目に見える風に揺れた薄い金髪が、南の領地で別れたあと伸び、月日の流れを感じる。
「……じゃあ、一緒に踊る?」
「んー、それもいいけど、俺、ホールで目立って踊れるほど、姫さんと息ぴったりには踊れないからなぁ」
長い付き合いの中、初めて甘えるような仕草をされ、少しだけ驚きながらも、私のもとに無事帰って来てくれたことが何より嬉しい。
月明かりの下、バルコニーに二人。
正直、褒められた状況ではないのだが、それでも許してしまえた。
「……ここで踊る?」
「んーそうだな。ここなら、音楽も聴こえるし、見ている人は誰もいない。少々ダンスが下手でも笑われないかな?」
「ウィルは、下手じゃないし」
「姫さんの相手には、なれないってだけでしょ?」
少し寂しいような悔しいようなと続きそうな声音に、クスクスと笑えば、ウィルも同じく笑い体の振動が直に伝わる。
「でわ、私のお姫様」
耳元で囁いたとき、肩にかかった重みも、背中にあった温もりも、腹にあった腕も、全て解かれていく。
気取った王子にでもなったつもりなのか、大仰にお辞儀をする。
「一曲、踊っていただけませんか?」
いつものちゃかすような雰囲気ではなく、真剣な眼差しで、私を真っすぐ見る。そのアイスブルーの瞳は、優しく、されど、少々の嫉妬を含んだ目だった。
「もちろん、喜んで!私の騎士様」
差し出された手に私の手を重ねるとスッと引き寄せられる。見上げると、少しだけ、背が伸びたように見えた。学園を卒業してから、もう5年近く経っている中、おふざけをしているウィルでないことに、少しだけ、胸がざわついた。
「たまには、真面目にダンスも誘ってみるもんだな。そんな顔、されるとは……これは、意外だな」
「どんな顔?」
「さぁ?どんな、でしょうね?」
クックっと笑うと、いつものおどけたウィルに戻り、なんだかホッとする。
やっと、帰ってきてくれた。
肩に手を置き、ゆったりした音楽とウィルのリードに身を任せ揺られる。ステップなんんてあったもんじゃなかったけど、今日は、それでよかった。
「……おかえり、ウィル」
「……ただいま、姫さん。今日は、最後までいてくれるんだろ?いつも中抜けして帰るけど」
「もちろんよ!公に最後までいるように言われているから、残ることにしてるわ。まさか、本当にウィルが帰ってくるだなんて。遅いなって、今さっきまで考えていたの」
「本当?ジョージア様とあんなに楽しそうにしていたのに!」
「本当よ!」
「聞いているかもだけど、表彰があるんだってさ。姫さんと俺とヨハン教授の」
「えぇ、聞いているわ!」
「……そうか」
少しだけ照れたように、誇らし気に頷くウィル。そのあとはすぐに、困り顔になった。
「まぁ、ヨハン教授はバックれたけど、ヨハン教授らしいよね?」
「えぇ、そうらしいわね!私のところにも公のところにもわざわざ手紙を書いて送ってきたわ!」
うっわ……らしすぎる!と笑うと、本当に大変だったんだぞ?ヨハン教授のお守り!と、ちょっと拗ねたようにウィルは抗議してくる。
「私も手を焼いてるからね。助手が途切れないのが不思議よね?」
苦笑いしながら、曲が鳴り止むまで、ゆったりと静かに踊り続けた。
「久しぶりに楽しかった」
「私も! バルコニーでの一曲」
見つめ合い笑いあっていると、今度は拗ねたように大広間の方から名を呼ばれる。
「アンナ?」
いつもは優しいそのトロっとした蜂蜜色の瞳も、今日は私たち二人へ厳しい視線を送ってくる。抜け出して、ここでウィルと再会を喜んでいたことが不満のようだ。
「やべっ、ジョージア様が、すっんげぇ怒ってるわ。俺、しばらく、アンバーの屋敷、出禁になったりしないかな?」
「……それは、ジョージア様のみ知るって感じだよね?」
「姫さん、うまく、ご機嫌とっておいてな?」
「えっ、無理だよ!そんなこと」
「姫さんが無理なら、世界中の誰もが無理だから!」
私から、パッと離れ、それじゃあ、後でと大広間へ逃げ戻って行くウィル。その背中にもう一度声をかけた。
「おかえりなさい!」
返事の変わりに手をヒラヒラとさせ、公への挨拶へ向かうのだろう。その大きくより逞しくなった背中を見送った。
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