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女性と踊るのは初めて?
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ダリアが私についてくるように少し後ろを歩いていた。大広間の真ん中に立つと、先程まで小さく鳴らしていた楽器も、待っていました!と言わんばかりに大きな音へと変わっていく。
「この曲は踊れて?」
「えぇ、もちろんです。でも……」
「女性と踊るのは初めて?」
「はい。私、女性のパートしか、踊れません」
「そうなの?ダリアは見たところ、運動神経もよさそうだから、すぐに覚えられそうだけど……いつものとおりにしてちょうだい」
「でも、アンナリーゼ様が、」
「私、どちらでも踊れるからいいのよ!1曲、踊りましょう」
私たちが踊り始めると、周りにもダンスを楽しむ貴族たちがぞくぞくと集まって来た。綺麗なドレスを揺らし、色鮮やかな花が、あちらこちらで咲いているようだ。
「ローズディアの夜会は、華やかですね?」
「そうなの?トワイスの夜会は、もう少し賑やかかしら。いつも私は大広間の真ん中で、朝まで踊っていた気がするわ!」
「トワイスもですか?一度行ってみたいですね」
「招待してもらいましょうか?」
「アンナリーゼ様はトワイスにも……って、フレイゼン侯爵家のご令嬢でしたね?」
「えぇ、そうなの。今は、兄が侯爵位をついでいるから、いつでもお願いできるわよ!」
ニコリと笑い、少しダリアと距離を取る。まさか、回されるとは思っていなかったらしく、くるりと一回転して、私の元へ戻って来たときには、驚いていた。
「驚きました!アンナリーゼ様は、本当に男性パートも踊れるのですね?」
「幼いころに、兄とダンスの練習をたくさんしましたから。兄はダンスがちょっぴり苦手なので、パートを入れ替え練習したことも」
「それで、これほど踊れるだなんて……アンナリーゼ様と踊られる殿方は、きっと、踊りやすいでしょうね?」
「そうなのかしら?ジョージア様や公みたいに、上手な方と踊る機会が多いので……」
なるほどと笑ったあと、腰の手を離すと大きく広がった。私もダリアも夜会用の豪奢なドレスを着ているので、大輪の花が開いたようにスカートが広がった。繋いだ手先で引き寄せると、こちらに戻って来た。ダリアの耳元でそっと呟く。素敵な小鳥のモチーフになったネックレスね?と。ちょうど、音楽も鳴り止んだところで、中心部からそれ、端へと寄る。ジョージアが私たちへと飲み物を用意してくれていたようで、ヒーナがグラスを2つ持っている。
「ありがとう、ヒーナ」
「……私もいただいてもいいのでしょうか?」
「もちろんだよ!さっきのアンナとのチェスも見事だったけど、ダンスもとても素敵だった!」
「本当ですか?嬉しいですわ!」
少女のように笑うダリア。外面も程々に剥げたようで、言葉も軽くて話しやすい。
「まだ、挨拶が残っていますよね?急にチェスを始めてしまったので」
「あらかた終わっているのではなくて?」
「あぁ、終わっているよ。あとは、アンナが、仲良くしたいと言っていた領地の領主くらいだけど、どうやら、向こうから来てくれるみたいだ」
「では、私は、席を外した方がいいですね!よそ者ですから」
「ごめんなさいね!夜会が終わったら、また、お話しましょう!」
必ずよ!と握った手を離すと、ヒラヒラとスカートを振り、去っていくダリア。私は、ジョージアの隣に並び立つ。
「さっきのチェス、すごかったね?」
「お褒めに預かり、ありがとうございます」
「信じていたよ。例え、白のキングが取られたとしても、必ず、救い出してくれるって」
おでこにキスをされ、黒のキングを手渡された。ギュっと握りしめる。
「それは、どうでしょう?私が、負けるとジョージア様は、一瞬でも思ったってことですよね?」
「……あぁ、そうだね?アンナは、負けないと考えていたの?」
「当たり前です。チェスで私に勝てるなんて、お父様やお母様、お兄様やハリーじゃなければ、無理ですよ。私のことと調べてはいたようですけどね」
「ウェスティン伯爵が?」
「えぇ、そうです。セバスが私の友人だということを知っていましたもの。何かしら、口添えをさせるつもりだったんじゃないですかね?」
「その思惑は、あっさり打ち砕かれたというわけか。うちの奥様に」
「えぇ、そうです。ジョージア様を賭けの景品にしたのも、私が勝負から逃げないようにと考えられていたのでしょう。まさか、返り討ちにあうなんて、思ってもみなかったでしょうけどね?」
隣に並び、微笑んでダンスを見ているだけのように見せながら、ダリア・ウェスティンの話をする。後ろに控えているヒーナもアデルもただじっと聞いていた。
「それで?ウェスティン伯爵をどうするつもり?」
「そうですね……とりあえず、エルドアの老害どもの一掃をしてもらう駒にしましょう。セバスがどんなに頑張っても、エルドアには、好戦的な人物が多すぎる。例えば、国王とか……ね?」
「怖いな……きっと、今、隣でとてもいい笑顔なんじゃないかい?みれないのが残念だ」
「幕引きは任せますけど、悠長にはしていられません。セバスも孤軍奮闘で頑張ってくれていますから」
「たしかに……公の側から出してくれた文官や武官たちは、慎重派だけど……中には混ざっているらしいからね。息のかかったものが」
「お互いの利になりませんからね。御退場願うしかありませんよね!」
下位貴族からの挨拶を再開させる。それと同時にヒーナは、ダリアの近くへ向かい、監視をさせた。ローズディア国内で、ヘタなことはできないことを、ダリアには教えておいたので、もう、自由に飛べない鳥となっただろう。羽根を折ったわけではない。退場させるには、もったいない演者ではあるのだから、存分にこの国のために働いてもらうことに期待した。
「この曲は踊れて?」
「えぇ、もちろんです。でも……」
「女性と踊るのは初めて?」
「はい。私、女性のパートしか、踊れません」
「そうなの?ダリアは見たところ、運動神経もよさそうだから、すぐに覚えられそうだけど……いつものとおりにしてちょうだい」
「でも、アンナリーゼ様が、」
「私、どちらでも踊れるからいいのよ!1曲、踊りましょう」
私たちが踊り始めると、周りにもダンスを楽しむ貴族たちがぞくぞくと集まって来た。綺麗なドレスを揺らし、色鮮やかな花が、あちらこちらで咲いているようだ。
「ローズディアの夜会は、華やかですね?」
「そうなの?トワイスの夜会は、もう少し賑やかかしら。いつも私は大広間の真ん中で、朝まで踊っていた気がするわ!」
「トワイスもですか?一度行ってみたいですね」
「招待してもらいましょうか?」
「アンナリーゼ様はトワイスにも……って、フレイゼン侯爵家のご令嬢でしたね?」
「えぇ、そうなの。今は、兄が侯爵位をついでいるから、いつでもお願いできるわよ!」
ニコリと笑い、少しダリアと距離を取る。まさか、回されるとは思っていなかったらしく、くるりと一回転して、私の元へ戻って来たときには、驚いていた。
「驚きました!アンナリーゼ様は、本当に男性パートも踊れるのですね?」
「幼いころに、兄とダンスの練習をたくさんしましたから。兄はダンスがちょっぴり苦手なので、パートを入れ替え練習したことも」
「それで、これほど踊れるだなんて……アンナリーゼ様と踊られる殿方は、きっと、踊りやすいでしょうね?」
「そうなのかしら?ジョージア様や公みたいに、上手な方と踊る機会が多いので……」
なるほどと笑ったあと、腰の手を離すと大きく広がった。私もダリアも夜会用の豪奢なドレスを着ているので、大輪の花が開いたようにスカートが広がった。繋いだ手先で引き寄せると、こちらに戻って来た。ダリアの耳元でそっと呟く。素敵な小鳥のモチーフになったネックレスね?と。ちょうど、音楽も鳴り止んだところで、中心部からそれ、端へと寄る。ジョージアが私たちへと飲み物を用意してくれていたようで、ヒーナがグラスを2つ持っている。
「ありがとう、ヒーナ」
「……私もいただいてもいいのでしょうか?」
「もちろんだよ!さっきのアンナとのチェスも見事だったけど、ダンスもとても素敵だった!」
「本当ですか?嬉しいですわ!」
少女のように笑うダリア。外面も程々に剥げたようで、言葉も軽くて話しやすい。
「まだ、挨拶が残っていますよね?急にチェスを始めてしまったので」
「あらかた終わっているのではなくて?」
「あぁ、終わっているよ。あとは、アンナが、仲良くしたいと言っていた領地の領主くらいだけど、どうやら、向こうから来てくれるみたいだ」
「では、私は、席を外した方がいいですね!よそ者ですから」
「ごめんなさいね!夜会が終わったら、また、お話しましょう!」
必ずよ!と握った手を離すと、ヒラヒラとスカートを振り、去っていくダリア。私は、ジョージアの隣に並び立つ。
「さっきのチェス、すごかったね?」
「お褒めに預かり、ありがとうございます」
「信じていたよ。例え、白のキングが取られたとしても、必ず、救い出してくれるって」
おでこにキスをされ、黒のキングを手渡された。ギュっと握りしめる。
「それは、どうでしょう?私が、負けるとジョージア様は、一瞬でも思ったってことですよね?」
「……あぁ、そうだね?アンナは、負けないと考えていたの?」
「当たり前です。チェスで私に勝てるなんて、お父様やお母様、お兄様やハリーじゃなければ、無理ですよ。私のことと調べてはいたようですけどね」
「ウェスティン伯爵が?」
「えぇ、そうです。セバスが私の友人だということを知っていましたもの。何かしら、口添えをさせるつもりだったんじゃないですかね?」
「その思惑は、あっさり打ち砕かれたというわけか。うちの奥様に」
「えぇ、そうです。ジョージア様を賭けの景品にしたのも、私が勝負から逃げないようにと考えられていたのでしょう。まさか、返り討ちにあうなんて、思ってもみなかったでしょうけどね?」
隣に並び、微笑んでダンスを見ているだけのように見せながら、ダリア・ウェスティンの話をする。後ろに控えているヒーナもアデルもただじっと聞いていた。
「それで?ウェスティン伯爵をどうするつもり?」
「そうですね……とりあえず、エルドアの老害どもの一掃をしてもらう駒にしましょう。セバスがどんなに頑張っても、エルドアには、好戦的な人物が多すぎる。例えば、国王とか……ね?」
「怖いな……きっと、今、隣でとてもいい笑顔なんじゃないかい?みれないのが残念だ」
「幕引きは任せますけど、悠長にはしていられません。セバスも孤軍奮闘で頑張ってくれていますから」
「たしかに……公の側から出してくれた文官や武官たちは、慎重派だけど……中には混ざっているらしいからね。息のかかったものが」
「お互いの利になりませんからね。御退場願うしかありませんよね!」
下位貴族からの挨拶を再開させる。それと同時にヒーナは、ダリアの近くへ向かい、監視をさせた。ローズディア国内で、ヘタなことはできないことを、ダリアには教えておいたので、もう、自由に飛べない鳥となっただろう。羽根を折ったわけではない。退場させるには、もったいない演者ではあるのだから、存分にこの国のために働いてもらうことに期待した。
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