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チェス盤を眺めて
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「それは、どういうことでしょうか?」
「言葉のままです」
踊るために繋いでいた手を離し、踵を返したゴールド公爵。それ以上は、言葉を交わさないと示しているのか、その背中から拒絶を感じた。
……どういうことなの?私にルチルを任せるということ?
去っていく背中を見送り、ぼうっとしていた。そんな私を見かねたのか、隣にはヒーナが来ていた。ここでは目立ちますというヒーナに従い、広間の端へと移動した。公への挨拶が終わった貴族から、ジョージアへ挨拶をしに来ている。私も公爵ではあるが、名ばかり公爵だからか、由緒正しい貴族たちはあまり挨拶にはこない。
カレンたちも公への挨拶が終わり、こちらに近づいてきた。
「あの人たちも、こりないですわね?」
「どうかして?」
「ジョージア様に第二夫人を娶られてはと言い寄っているのですよ」
「カレン?」
「だって、悔しいではありませんか!こんなに素敵な女性を前に、あのタヌキども
は、何だって自身の娘を差し出すというのです?」
険しい表情のカレンの背中を優しくぽんぽんと叩く。カレンが怒ってくれるおかげで、私は、笑っていられる。目くじら立てて割って入っていくより、こちらの会話を聞かせてあげる方が、貴族たちよりジョージアに効果がある。
「さぞ美しい方々なのでしょうね?私、トワイスでは、並ぶものがいないと言われるほど、美人だとか言われていましたし、婚約者にと手を差し伸べられた方々はあまた。あのインゼロ帝国の皇帝にまで、欲せられたのですよ?」
「本当ですか?私、アンナリーゼ様と仲良くさせていただいていましたが、全然知りませんでしたわ。もし、ジョージア様がアンナリーゼ様の心を射止めていなかったら、今頃、皇妃だったのですね!」
「トワイス国の次期王妃とも言われていたとも聞いたことがありますけど」
「トワイス国は、友好国ですから……もし、インゼロ帝国にこの才が渡っていたと考えると……」
少々演技がかったカレン夫妻にナタリーが加わった。目を輝かせているので、大変な話題提供することになるんじゃないだろうか?
「ローズディアはなくなっていた……かも、しれませんわね?私は、どこへでもお供する所存ですから、よいのですけど」
ニッコリ笑いかけてくるナタリーは、私の頬にキスをする。私も驚いたけど、ちょっと待って!と割り込んだのはジョージアの手だ。
「ナタリーは油断も隙もないんだから!俺のアンナなんだから、それはダメだよ?」
「ジョージア様は、あちらで、新しい奥様を迎える話をなさっていたではありませんか?」
「そんなことはないよ?アンナ以外の妻は、誰もいらないから」
「……そうですか?残念ですわね?みなさま」
ナタリーはわざとジョージアの後ろで、今まで娘自慢をしていた貴族たちに笑いかけた。その微笑みは、悪女のようなそれでいて艶やかなものである。ナタリーの気迫に負けた貴族たちは、我先にと慌てて散りじりになっていった。
「そなたの周りは、いつも騒がしい」
「公の周りほどではありませんよ?」
「そうであってほしいな。それより、ジョージア」
「なんです?」
「アンナリーゼがどこかへ飛んでいかないようにしっかり繋いでおけ。体をではなく、心をだぞ?」
「努力を重ねているつもりですよ」
「ジョージア様、全然たりませんわ!アンナリーゼ様への愛は、その程度のものですの!」
ナタリーがジョージアに抗議しているのを見守りながら、公の隣で、私たちのやり取りを微笑ましく聞いているものがいた。
この女性がウェスティン伯爵なのだろうか?
アンナリーゼと名を呼ばれたので、公の方へと向きを変え返事をした。少し後ろに控えていた女性を前へ出す。新しい妃というふうでもなさそうだ。
「こちらがエルドア国のウェスティン伯爵だ」
「エルドア国伯爵位、ダリア・ウェスティンと申します。アンバー公の噂はかねがね。あのクロック侯爵夫人のご友人だと聞きおよんでいます」
「私の噂、いいものばかりだと嬉しいのだけど……。私がローズディア公国公爵位アンナリーゼ・トロン・アンバーと申します。こちらが、夫で同じくアンバー公ジョージア・フラン・アンバーです」
「そうでした!アンバー公はお二人みえるのでしたね!」
「えぇ、私のことは、アンナリーゼとお呼びください」
「では、アンナリーゼ様とアンバー公とお呼びさせていただきますわ」
とても柔和なダリアに、私たちも思わず微笑んだ。少しお話がしたいですとダリアが嬉しそうにしているので、いいですよと答えると、右手の親指と人差し指、中指で何かを掴み弾くような仕草をみせた。話がしたいというのは、会話もであるが、盤上で戦いませんか?というお誘いだったらしい。公が大きくため息をついたあと、後ろにいる侍従に目配せをすると、少し広い場所に机と椅子が2脚用意された。何をするのか、他の貴族たちも興味があるのか、チラチラと覗いては、ヒソヒソと話している。
チェスの盤が用意されたのを見て、ダリアの方を見ると頷いた。
「行きましょうか?」
「えぇ、お話いたしましょう!盤上で」
スキップでもしそうなくらい、ウキウキと楽しみにしているのがわかる。私は、先に歩き始めたダリアを追いかけるように歩き出す。ジョージアがそっと隣にきて、私をエスコートしてくれた。
椅子にかければ、ダリアの赤い瞳はルビーのように輝き、表情が一変する。
いわゆる、チェスの名手というより、軍師のそれね。身に覚えがあるわ、その表情に
イチアを前にしたような緊張感に、ふぅっと息をはき、気持ちを整えていく。小さな盤上は、戦場。この勝負の行方は、ローズディアとエルドアの命運をかけてもいいと言うほどのものになるだろう。公ではなく、私を指名してきたあたり、セバスのことも調べて来ているのだろうと予測した。
「言葉のままです」
踊るために繋いでいた手を離し、踵を返したゴールド公爵。それ以上は、言葉を交わさないと示しているのか、その背中から拒絶を感じた。
……どういうことなの?私にルチルを任せるということ?
去っていく背中を見送り、ぼうっとしていた。そんな私を見かねたのか、隣にはヒーナが来ていた。ここでは目立ちますというヒーナに従い、広間の端へと移動した。公への挨拶が終わった貴族から、ジョージアへ挨拶をしに来ている。私も公爵ではあるが、名ばかり公爵だからか、由緒正しい貴族たちはあまり挨拶にはこない。
カレンたちも公への挨拶が終わり、こちらに近づいてきた。
「あの人たちも、こりないですわね?」
「どうかして?」
「ジョージア様に第二夫人を娶られてはと言い寄っているのですよ」
「カレン?」
「だって、悔しいではありませんか!こんなに素敵な女性を前に、あのタヌキども
は、何だって自身の娘を差し出すというのです?」
険しい表情のカレンの背中を優しくぽんぽんと叩く。カレンが怒ってくれるおかげで、私は、笑っていられる。目くじら立てて割って入っていくより、こちらの会話を聞かせてあげる方が、貴族たちよりジョージアに効果がある。
「さぞ美しい方々なのでしょうね?私、トワイスでは、並ぶものがいないと言われるほど、美人だとか言われていましたし、婚約者にと手を差し伸べられた方々はあまた。あのインゼロ帝国の皇帝にまで、欲せられたのですよ?」
「本当ですか?私、アンナリーゼ様と仲良くさせていただいていましたが、全然知りませんでしたわ。もし、ジョージア様がアンナリーゼ様の心を射止めていなかったら、今頃、皇妃だったのですね!」
「トワイス国の次期王妃とも言われていたとも聞いたことがありますけど」
「トワイス国は、友好国ですから……もし、インゼロ帝国にこの才が渡っていたと考えると……」
少々演技がかったカレン夫妻にナタリーが加わった。目を輝かせているので、大変な話題提供することになるんじゃないだろうか?
「ローズディアはなくなっていた……かも、しれませんわね?私は、どこへでもお供する所存ですから、よいのですけど」
ニッコリ笑いかけてくるナタリーは、私の頬にキスをする。私も驚いたけど、ちょっと待って!と割り込んだのはジョージアの手だ。
「ナタリーは油断も隙もないんだから!俺のアンナなんだから、それはダメだよ?」
「ジョージア様は、あちらで、新しい奥様を迎える話をなさっていたではありませんか?」
「そんなことはないよ?アンナ以外の妻は、誰もいらないから」
「……そうですか?残念ですわね?みなさま」
ナタリーはわざとジョージアの後ろで、今まで娘自慢をしていた貴族たちに笑いかけた。その微笑みは、悪女のようなそれでいて艶やかなものである。ナタリーの気迫に負けた貴族たちは、我先にと慌てて散りじりになっていった。
「そなたの周りは、いつも騒がしい」
「公の周りほどではありませんよ?」
「そうであってほしいな。それより、ジョージア」
「なんです?」
「アンナリーゼがどこかへ飛んでいかないようにしっかり繋いでおけ。体をではなく、心をだぞ?」
「努力を重ねているつもりですよ」
「ジョージア様、全然たりませんわ!アンナリーゼ様への愛は、その程度のものですの!」
ナタリーがジョージアに抗議しているのを見守りながら、公の隣で、私たちのやり取りを微笑ましく聞いているものがいた。
この女性がウェスティン伯爵なのだろうか?
アンナリーゼと名を呼ばれたので、公の方へと向きを変え返事をした。少し後ろに控えていた女性を前へ出す。新しい妃というふうでもなさそうだ。
「こちらがエルドア国のウェスティン伯爵だ」
「エルドア国伯爵位、ダリア・ウェスティンと申します。アンバー公の噂はかねがね。あのクロック侯爵夫人のご友人だと聞きおよんでいます」
「私の噂、いいものばかりだと嬉しいのだけど……。私がローズディア公国公爵位アンナリーゼ・トロン・アンバーと申します。こちらが、夫で同じくアンバー公ジョージア・フラン・アンバーです」
「そうでした!アンバー公はお二人みえるのでしたね!」
「えぇ、私のことは、アンナリーゼとお呼びください」
「では、アンナリーゼ様とアンバー公とお呼びさせていただきますわ」
とても柔和なダリアに、私たちも思わず微笑んだ。少しお話がしたいですとダリアが嬉しそうにしているので、いいですよと答えると、右手の親指と人差し指、中指で何かを掴み弾くような仕草をみせた。話がしたいというのは、会話もであるが、盤上で戦いませんか?というお誘いだったらしい。公が大きくため息をついたあと、後ろにいる侍従に目配せをすると、少し広い場所に机と椅子が2脚用意された。何をするのか、他の貴族たちも興味があるのか、チラチラと覗いては、ヒソヒソと話している。
チェスの盤が用意されたのを見て、ダリアの方を見ると頷いた。
「行きましょうか?」
「えぇ、お話いたしましょう!盤上で」
スキップでもしそうなくらい、ウキウキと楽しみにしているのがわかる。私は、先に歩き始めたダリアを追いかけるように歩き出す。ジョージアがそっと隣にきて、私をエスコートしてくれた。
椅子にかければ、ダリアの赤い瞳はルビーのように輝き、表情が一変する。
いわゆる、チェスの名手というより、軍師のそれね。身に覚えがあるわ、その表情に
イチアを前にしたような緊張感に、ふぅっと息をはき、気持ちを整えていく。小さな盤上は、戦場。この勝負の行方は、ローズディアとエルドアの命運をかけてもいいと言うほどのものになるだろう。公ではなく、私を指名してきたあたり、セバスのことも調べて来ているのだろうと予測した。
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