967 / 1,513
ダンスの相手は選んだほうがいい?
しおりを挟む
「やっと、帰って来た……」
「いつでも、側にいますよ?」
「そうかなぁ?いつもどこかへ飛んでいってしまうよね?」
ジョージアに見つめられ、微笑んで誤魔化した。いつも側にいないのは、他の誰でもない、私自身が知っている。謝るのも変だろう。謝っても、側にいられる時間は多くないことは、お互いわかっているので、あえて口にはしなかった。
「ジョージア様、せっかくですし、踊りましょうか?」
「そうだね?アンナと踊るのは、始まりの夜会以来だね」
「えぇ、楽しみです」
公への挨拶へ向かう貴族が多い中、大広間の中心は、まだ、ガランとしている。ちょうど、真ん中にいた私たちは、音楽をお願いするべく、目配せした。
優しい音楽がなり始め、自然と体を揺らす。ゆっくりな音楽も嫌いではない。もちろん、ジョージアは、どんな曲でも、私を完璧に躍らせてくれるので、身を委ねるだけでよかった。
「アンナは、ダンス好きかい?」
「えぇ、ジョージア様とのダンスは特に好きですよ!」
「それは、光栄だね!じゃあ、誰とのダンスは嫌かな?」
「そうですね……内緒ですけど、下級貴族は少し苦手です」
「あまり、リードがうまくないからね……俺もリードをしていてもそれは感じるな」
「もう少し、ダンスの教育にも手を入れてほしいと思いますけど、そこまでは……というお家が多いですからね」
「確かに。ダンスの練習で先生を雇うにも結構な金額がいるからねぇ……その点、我が家は、アンナがいい手本だから」
「ジョージア様もですよ!レオなんて、食い入るようにみていますもの」
ふふっと、子どもたちの練習風景を思い出し笑いあう。アンジェラたちは、まだ早いので、見ているだけだが、レオやミアは練習をしている。そのときにお手本として、たまに見せることがあった。
「いつか、俺とも踊ってくれるかな?アンジーは」
「もちろんですよ!私もジョージやネイトと踊りたいですわ!」
「そういえば、サシャの練習相手は、アンナだったのかい?」
「……そうですよ?」
すごく嫌な顔をしていたようで、ジョージアは苦笑いをする。兄は、とてもどんくさかった。ダンスは、私以外と練習ができる状態ではなかったし、エリザベスとのダンスをのために、私がどれほど苦労したか、ジョージアにも語ってあげたいくらいだった。
「そんなに嫌わなくても。サシャなりに頑張ていたんでしょ?」
「そうなんですけど、可愛い妹の足は、お兄様に踏まれ続けていつも真っ赤でしたよ」
「……サシャっぽいな。頭はきれるのにな」
「残念な侯爵です」
ため息をついていたと同時刻、トワイス国では盛大なくしゃみをしてエリザベスに睨まれていた兄のことを私は知らない。
「音楽が、そろそろ終わりそうだね?」
「そうですね。少し、壁に寄りましょうか。私たちへの挨拶を待ってくださってる方もいるでしょうし」
音楽が鳴り止むと私たちのダンスも終わる。今年最後の夜会にそれぞれ深々と挨拶をした。あとは、少し壁際によるだけとなったとき、ジョージアの視線が厳しくなる。私の背中に視線を感じたので振り返った。そこには、ゴールド公爵が、微笑みながら私を待っていた。
「アンバー公アンナリーゼ様、1曲踊っていただけますか?」
その微笑みは、甘美な毒のように甘く優しい。うっかり気を許してしまいそうになる。私は気を引き締め、差し出された手にジョージアから離れ、そっと重ねる。
「お約束ですもの、喜んでお受けいたしますわ!」
「ありがとう。では、音楽を」
優しく引き寄せられ、音楽に合わせて踊り出す。その瞬間、音楽はなっているにも関わらず、他のものの音は全て消えてしまった。まるで、信じられないものを見たというふうで、固まっているのだろう。
「やけに静かですね?」
「私たちがこうして手を取り合い踊っていることに驚いているのでしょう」
「でしょうねぇ?私もアンナリーゼ様とこうしていることが、不思議でありませんから」
「私もです。まさか、ゴールド公爵と踊れる日が来るとは。あっ、公が驚きすぎて、席を立っていますよ?」
「あぁ、本当ですね?私たちは、それぞれが、公の後ろ盾ですから、この光景は珍しいことではないはずなのですけどね」
「それは、嫌味なのですか?私、この国に来てからというもの、公爵と踊ったことはありませんよ?」
少し拗ねたように子どもっぽく言ってみると、父のように優しく微笑み、そうでしたと呟く。
「アンナリーゼ様」
「なんでしょうか?」
「先程は、言いそびれてしまいましたが、愚息を助けていただきありがとうございました」
「天下のゴールド公爵も人の親ということですか?」
「そうです。我儘に育ってしまいましたが、大切な息子には変わりはありませんからな。特に奥に取っては、宝物。亡くさせるわけにはいきません」
「そんな弱みを私に言ってもいいの?」
「……そのうち、わかるでしょう。愚息は、私の元から、去っていく……、そんな予感を感じています」
この言葉は、ゴールド公爵の心の吐露なのだろうか。愚息といいつつも大切にしている、手元から巣立っていくと言われれば、親となった今、判断が鈍ってしまいそうな話だ。
「あの子をお願いします」
ゴールド公爵からの言葉に、私は言葉を失い、周りはだんだん私たちの異常さに気付き、ざわつき始める。音楽の途中ではあったが、ゴールド公爵は足をとめ、私もそれに倣った。
「いつでも、側にいますよ?」
「そうかなぁ?いつもどこかへ飛んでいってしまうよね?」
ジョージアに見つめられ、微笑んで誤魔化した。いつも側にいないのは、他の誰でもない、私自身が知っている。謝るのも変だろう。謝っても、側にいられる時間は多くないことは、お互いわかっているので、あえて口にはしなかった。
「ジョージア様、せっかくですし、踊りましょうか?」
「そうだね?アンナと踊るのは、始まりの夜会以来だね」
「えぇ、楽しみです」
公への挨拶へ向かう貴族が多い中、大広間の中心は、まだ、ガランとしている。ちょうど、真ん中にいた私たちは、音楽をお願いするべく、目配せした。
優しい音楽がなり始め、自然と体を揺らす。ゆっくりな音楽も嫌いではない。もちろん、ジョージアは、どんな曲でも、私を完璧に躍らせてくれるので、身を委ねるだけでよかった。
「アンナは、ダンス好きかい?」
「えぇ、ジョージア様とのダンスは特に好きですよ!」
「それは、光栄だね!じゃあ、誰とのダンスは嫌かな?」
「そうですね……内緒ですけど、下級貴族は少し苦手です」
「あまり、リードがうまくないからね……俺もリードをしていてもそれは感じるな」
「もう少し、ダンスの教育にも手を入れてほしいと思いますけど、そこまでは……というお家が多いですからね」
「確かに。ダンスの練習で先生を雇うにも結構な金額がいるからねぇ……その点、我が家は、アンナがいい手本だから」
「ジョージア様もですよ!レオなんて、食い入るようにみていますもの」
ふふっと、子どもたちの練習風景を思い出し笑いあう。アンジェラたちは、まだ早いので、見ているだけだが、レオやミアは練習をしている。そのときにお手本として、たまに見せることがあった。
「いつか、俺とも踊ってくれるかな?アンジーは」
「もちろんですよ!私もジョージやネイトと踊りたいですわ!」
「そういえば、サシャの練習相手は、アンナだったのかい?」
「……そうですよ?」
すごく嫌な顔をしていたようで、ジョージアは苦笑いをする。兄は、とてもどんくさかった。ダンスは、私以外と練習ができる状態ではなかったし、エリザベスとのダンスをのために、私がどれほど苦労したか、ジョージアにも語ってあげたいくらいだった。
「そんなに嫌わなくても。サシャなりに頑張ていたんでしょ?」
「そうなんですけど、可愛い妹の足は、お兄様に踏まれ続けていつも真っ赤でしたよ」
「……サシャっぽいな。頭はきれるのにな」
「残念な侯爵です」
ため息をついていたと同時刻、トワイス国では盛大なくしゃみをしてエリザベスに睨まれていた兄のことを私は知らない。
「音楽が、そろそろ終わりそうだね?」
「そうですね。少し、壁に寄りましょうか。私たちへの挨拶を待ってくださってる方もいるでしょうし」
音楽が鳴り止むと私たちのダンスも終わる。今年最後の夜会にそれぞれ深々と挨拶をした。あとは、少し壁際によるだけとなったとき、ジョージアの視線が厳しくなる。私の背中に視線を感じたので振り返った。そこには、ゴールド公爵が、微笑みながら私を待っていた。
「アンバー公アンナリーゼ様、1曲踊っていただけますか?」
その微笑みは、甘美な毒のように甘く優しい。うっかり気を許してしまいそうになる。私は気を引き締め、差し出された手にジョージアから離れ、そっと重ねる。
「お約束ですもの、喜んでお受けいたしますわ!」
「ありがとう。では、音楽を」
優しく引き寄せられ、音楽に合わせて踊り出す。その瞬間、音楽はなっているにも関わらず、他のものの音は全て消えてしまった。まるで、信じられないものを見たというふうで、固まっているのだろう。
「やけに静かですね?」
「私たちがこうして手を取り合い踊っていることに驚いているのでしょう」
「でしょうねぇ?私もアンナリーゼ様とこうしていることが、不思議でありませんから」
「私もです。まさか、ゴールド公爵と踊れる日が来るとは。あっ、公が驚きすぎて、席を立っていますよ?」
「あぁ、本当ですね?私たちは、それぞれが、公の後ろ盾ですから、この光景は珍しいことではないはずなのですけどね」
「それは、嫌味なのですか?私、この国に来てからというもの、公爵と踊ったことはありませんよ?」
少し拗ねたように子どもっぽく言ってみると、父のように優しく微笑み、そうでしたと呟く。
「アンナリーゼ様」
「なんでしょうか?」
「先程は、言いそびれてしまいましたが、愚息を助けていただきありがとうございました」
「天下のゴールド公爵も人の親ということですか?」
「そうです。我儘に育ってしまいましたが、大切な息子には変わりはありませんからな。特に奥に取っては、宝物。亡くさせるわけにはいきません」
「そんな弱みを私に言ってもいいの?」
「……そのうち、わかるでしょう。愚息は、私の元から、去っていく……、そんな予感を感じています」
この言葉は、ゴールド公爵の心の吐露なのだろうか。愚息といいつつも大切にしている、手元から巣立っていくと言われれば、親となった今、判断が鈍ってしまいそうな話だ。
「あの子をお願いします」
ゴールド公爵からの言葉に、私は言葉を失い、周りはだんだん私たちの異常さに気付き、ざわつき始める。音楽の途中ではあったが、ゴールド公爵は足をとめ、私もそれに倣った。
0
お気に入りに追加
123
あなたにおすすめの小説

『伯爵令嬢 爆死する』
三木谷夜宵
ファンタジー
王立学園の中庭で、ひとりの伯爵令嬢が死んだ。彼女は婚約者である侯爵令息から婚約解消を求められた。しかし、令嬢はそれに反発した。そんな彼女を、令息は魔術で爆死させてしまったのである。
その後、大陸一のゴシップ誌が伯爵令嬢が日頃から受けていた仕打ちを暴露するのであった。
カクヨムでも公開しています。

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持
空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。
その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。
※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。
※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。

あなたを忘れる魔法があれば
美緒
恋愛
乙女ゲームの攻略対象の婚約者として転生した私、ディアナ・クリストハルト。
ただ、ゲームの舞台は他国の為、ゲームには婚約者がいるという事でしか登場しない名前のないモブ。
私は、ゲームの強制力により、好きになった方を奪われるしかないのでしょうか――?
これは、「あなたを忘れる魔法があれば」をテーマに書いてみたものです――が、何か違うような??
R15、残酷描写ありは保険。乙女ゲーム要素も空気に近いです。
※小説家になろう、カクヨムにも掲載してます

断罪イベント返しなんぞされてたまるか。私は普通に生きたいんだ邪魔するな!!
柊
ファンタジー
「ミレイユ・ギルマン!」
ミレヴン国立宮廷学校卒業記念の夜会にて、突如叫んだのは第一王子であるセルジオ・ライナルディ。
「お前のような性悪な女を王妃には出来ない! よって今日ここで私は公爵令嬢ミレイユ・ギルマンとの婚約を破棄し、男爵令嬢アンナ・ラブレと婚姻する!!」
そう宣言されたミレイユ・ギルマンは冷静に「さようでございますか。ですが、『性悪な』というのはどういうことでしょうか?」と返す。それに反論するセルジオ。彼に肩を抱かれている渦中の男爵令嬢アンナ・ラブレは思った。
(やっべえ。これ前世の投稿サイトで何万回も見た展開だ!)と。
※pixiv、カクヨム、小説家になろうにも同じものを投稿しています。

三度目の嘘つき
豆狸
恋愛
「……本当に良かったのかい、エカテリナ。こんな嘘をついて……」
「……いいのよ。私に新しい相手が出来れば、周囲も殿下と男爵令嬢の仲を認めずにはいられなくなるわ」
なろう様でも公開中ですが、少し構成が違います。内容は同じです。

メインをはれない私は、普通に令嬢やってます
かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール
けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・
だから、この世界での普通の令嬢になります!
↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・

強制力がなくなった世界に残されたものは
りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った
令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達
世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか
その世界を狂わせたものは
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる