ハニーローズ  ~ 『予知夢』から始まった未来変革 ~

悠月 星花

文字の大きさ
上 下
964 / 1,517

ルチル・ゴールドとの睨み合い?

しおりを挟む
「あぁ、そうだね。アンナリーゼは、とても素晴らしい女性だよ。ルチル様に言われなくても、よくわかっている」


 私はさらに一歩下がる。どう考えても、ジョージアが纏う空気がとても冷たい。いつもの穏やかさはどこに消えてしまったのか、思わず両腕をさすってしまった。


「そう警戒されなくても……、どこまでご存じかしりませんけどね?確かに、、アンナリーゼという女性にとても興味があったのです。今回の件で、命を落とすほどの冒険もしましたが、おもしろい収穫もあった」


 ジョージアとは違い、とてもにこやかななルチル。それはそれで、不気味な気がする。南の領地でのことを思い出せば、ただのできの悪い坊ちゃんなんだろうと思えたが……少し、雰囲気があのときと違うことに気が付いた。


「おもしろい収穫?」
「えぇ、そうです。ジョージア様は南の領地へは出迎えなかったそうですね?病に対する抗体ないだとか。それで、アンナリーゼ様に止められていたのでしたね」
「それのどこがおもしろい収穫なんだい?だいたい、アンナリーゼが抗体を持っていて、生死を彷徨うルチル様を救うから面倒になるのでしょ?」
「面倒とは失礼な。ただ、お近づきになりたいだけですよ。貴族の一員として、その最溢れる女性のそばにいたいと願うことの何がいけないので?のほほんと過ごしてきただけのジョージア様が、本当に相応しいのか疑問ですけどねぇ?」
「のほほんと過ごして来ているわけではない!」


 そうですか?と鋭い視線を送ってくる。私と南の領地で別れたあと、何やら周辺を探っている者がいるとディルから聞いていた。まさかとは思っていたが、そのまさかのようだ。
 ただ、ここで私が口を開くと、火に油を注ぐような大火事を起こしそうな予感しかしないので、黙っておく。向こうで、おもしろそうにこちらの様子を窺っているゴールド公爵もうすら笑いをしていた。


「本当ですか?アンナリーゼ様との婚姻が決まっていながら、わざわざ、男爵家から無理な婚姻をする必要があったのですか?アンナリーゼ様が自ら詳らかにされましたが、領民を苦しめていた張本人とその親族だったようではありませんか!」
「……それは!」


 やらしく笑うルチルに反論できないジョージア。事実を言われれば、言い返すこともできないだろう。その男爵を動かしていたのが、ルチルの父、ゴールド公爵だったとしても、それを公にすることも、今はできなかった。
 あのとき、散々調べたのだ。公とありとあらゆることを紐解き、隅の隅まで調べつくした。が、ゴールド公爵が関わった記録だけ、すっぽり抜けていたのだ。

 ……トカゲのしっぽ切りがうまいのよね。ゴールド公爵って。

 その後も、小さなことからコツコツとセバスが自身の信頼できる人を使って、パルマが動いて、どんな些細なことでもいいからと情報を集めてみても、『らしい』とかで、確証が取れたことがなかった。
 ルチルは、ゴールド公爵が何かをしていることは知っているだろう。身内なのだし、外で、そんな話はしないだろうから、茶会や夜会に紛れて、何らかのやり取りをしていることまでは、突き止められている。
 ただ、全容は知らされていないに違いない。私がした『ダドリー男爵の取り潰し』も世間の見解どおり、私の怒りをかったからとしか思っていないはずだ。

 ……目の付け所は、よかったんだけど、まさか、身内の黒い部分だったとは、気付かないんだろうな。そんなはずはないと、目をつぶったのか。どちらにしても、社交界でも実生活でも、うちに入れることはない人物。派手に注目を浴びているけど、そろそろ、お開きにしてほしいわ。


「ルチル、そこまでにしたらどうだい?ジョージア様も困っている」
「いえ、困っているだなんて、強調していただかなくても……ゴールド公爵。ジョージア様は、困っているわけではありませんわ。こんな場所で、非常識な物言いに呆れているのです」
「それは、それは、アンナリーゼ様。失礼をいたしました。愚息の躾がなっていませんで……」
「いいのよ?そんな些末なこと。ルチル様は、私のことを大層気に入ってくださっているようですもの。ぜひ、お時間ができましたら、ダンスなどいかがですか?」


 女性からの誘いはマナー違反ではあるが、私は公爵だ。ダンスをしてやるからと高圧的に言ってやることはできる。
 定石としては、『公爵様のお時間を取るには』と断るのが正解だが、きっと、ルチルは断らないだろうと踏んでいた。最上級のまさかの予想を1つしたまま、どういう反応がくるのかと、答えを待った。


「では、愚息ではなく、私と1曲踊ってくだされ。筆頭と並ぶ公爵位。過不足はないかと存じます」
「えぇ、もちろんよ!喜んで」


 最上級のまさかを言ってくる当たり、さすがのタヌキだと本当の意味で微笑んだ。もちろん、会場はざわついた。冷戦状態だと言っても過言ではない公爵家同士のダンスなんて、一生に一度見れるかというほど、貴重なものだ。大広間にいるみなが、隣通しで囁きあっている。
 ザワザワとしている会場に遅れて入って来た公。私の方を見て、今度は何をやらかしたんだ!と目が吊り上がっていた。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

私の入る余地なんてないことはわかってる。だけど……。

さくしゃ
恋愛
キャロルは知っていた。 許嫁であるリオンと、親友のサンが互いを想い合っていることを。 幼い頃からずっと想ってきたリオン、失いたくない大切な親友であるサン。キャロルは苦悩の末に、リオンへの想いを封じ、身を引くと決めていた——はずだった。 (ああ、もう、) やり過ごせると思ってた。でも、そんなことを言われたら。 (ずるいよ……) リオンはサンのことだけを見ていると思っていた。けれど——違った。 こんな私なんかのことを。 友情と恋情の狭間で揺れ動くキャロル、リオン、サンの想い。 彼らが最後に選ぶ答えとは——?

異世界へ五人の落ち人~聖女候補とされてしまいます~

かずきりり
ファンタジー
望んで異世界へと来たわけではない。 望んで召喚などしたわけでもない。 ただ、落ちただけ。 異世界から落ちて来た落ち人。 それは人知を超えた神力を体内に宿し、神からの「贈り人」とされる。 望まれていないけれど、偶々手に入る力を国は欲する。 だからこそ、より強い力を持つ者に聖女という称号を渡すわけだけれど…… 中に男が混じっている!? 帰りたいと、それだけを望む者も居る。 護衛騎士という名の監視もつけられて……  でも、私はもう大切な人は作らない。  どうせ、無くしてしまうのだから。 異世界に落ちた五人。 五人が五人共、色々な思わくもあり…… だけれど、私はただ流れに流され……

騎士志望のご令息は暗躍がお得意

月野槐樹
ファンタジー
王弟で辺境伯である父を保つマーカスは、辺境の田舎育ちのマイペースな次男坊。 剣の腕は、かつて「魔王」とまで言われた父や父似の兄に比べれば平凡と自認していて、剣より魔法が大好き。戦う時は武力より、どちらというと裏工作? だけど、ちょっとした気まぐれで騎士を目指してみました。 典型的な「騎士」とは違うかもしれないけど、護る時は全力です。 従者のジョセフィンと駆け抜ける青春学園騎士物語。

はずれスキル念動力(ただしレベルMAX)で無双する~手をかざすだけです。詠唱とか必殺技とかいりません。念じるだけで倒せます~

さとう
ファンタジー
10歳になると、誰もがもらえるスキル。 キネーシス公爵家の長男、エルクがもらったスキルは『念動力』……ちょっとした物を引き寄せるだけの、はずれスキルだった。 弟のロシュオは『剣聖』、妹のサリッサは『魔聖』とレアなスキルをもらい、エルクの居場所は失われてしまう。そんなある日、後継者を決めるため、ロシュオと決闘をすることになったエルク。だが……その決闘は、エルクを除いた公爵家が仕組んだ『処刑』だった。 偶然の『事故』により、エルクは生死の境をさまよう。死にかけたエルクの魂が向かったのは『生と死の狭間』という不思議な空間で、そこにいた『神様』の気まぐれにより、エルクは自分を鍛えなおすことに。 二千年という長い時間、エルクは『念動力』を鍛えまくる。 現世に戻ったエルクは、十六歳になって目を覚ました。 はずれスキル『念動力』……ただしレベルMAXの力で無双する!!

皇帝の番~2度目の人生謳歌します!~

saku
恋愛
竜人族が治める国で、生まれたルミエールは前世の記憶を持っていた。 前世では、一国の姫として生まれた。両親に愛されずに育った。 国が戦で負けた後、敵だった竜人に自分の番だと言われ。遠く離れたこの国へと連れてこられ、婚約したのだ……。 自分に優しく接してくれる婚約者を、直ぐに大好きになった。その婚約者は、竜人族が治めている帝国の皇帝だった。 幸せな日々が続くと思っていたある日、婚約者である皇帝と一人の令嬢との密会を噂で知ってしまい、裏切られた悲しさでどんどんと痩せ細り死んでしまった……。 自分が死んでしまった後、婚約者である皇帝は何十年もの間深い眠りについていると知った。 前世の記憶を持っているルミエールが、皇帝が眠っている王都に足を踏み入れた時、止まっていた歯車が動き出す……。 ※小説家になろう様でも公開しています

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

(改訂版)帝国の王子は無能だからと追放されたので僕はチートスキル【建築】で勝手に最強の国を作る!

黒猫
ファンタジー
帝国の第二王子として生まれたノルは15才を迎えた時、この世界では必ず『ギフト授与式』を教会で受けなくてはいけない。 ギフトは神からの祝福で様々な能力を与えてくれる。 観衆や皇帝の父、母、兄が見守る中… ノルは祝福を受けるのだが…手にしたのはハズレと言われているギフト…【建築】だった。 それを見た皇帝は激怒してノルを国外追放処分してしまう。 帝国から南西の最果ての森林地帯をノルは仲間と共に開拓していく… さぁ〜て今日も一日、街作りの始まりだ!!

処理中です...