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終わりの夜会Ⅲ

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 久しいなと、隠し扉から入って来た公。初めてだったアデルは一瞬、飛びのき下がりながら剣の柄に手をやった。
 近衛であるアデルは、私の従者ではないので、帯剣を許されるのだが、公の後ろで、同じくアデルに反応したエリックと目を合わせたらしい。


「おっと……切りかからないでくれ」
「そんな場所から出てくるのが悪いんじゃないですか?」


 何事もなかったかのように振る舞うとつれないなぁ……と呟いていた。そんな公はほっておいてもいいだろう。後ろにいるエリックに話しかける。コーコナへ発つ前に会ったのだが、エリックと話すことは、公と話すより楽しいので仕方がない。そっと、ジョージアの背中を押せば、わかったと言ったように公へと挨拶へ行ってくれた。


「エリック、久しぶりね!」
「はい、アンナリーゼ様。お元気ですか?」
「もちろんよ!少し前に会ったばかりだけど、すぐにあちこちと飛び回っているから、なかなかゆっくり会えないわね……」
「本当ですね。ウィル様も一緒に、ゆっくり話ができるといいんですけど……お二人ともお忙しいですからね」
「それをいうなら、エリックが1番忙しいと思うけど?」


 クスクス笑い会っていると、どうしても混ざりたいと公が私たちのところへ入って来た。


「アンナリーゼはどうして、俺よりエリックの方を大事にするんだ?」
「……ん?それは、可愛いからですよ?公と違って」
「確かに、半分くらいの年齢だがなぁ……ガタイは可愛くないぞ?ほら見てみろ?このかったい胸板を!」
「公のふにゃふにゃの胸板よりいいじゃないですか?エリックに鍛えてもらったらいかがです?そろそろ、本当に頑張らないと、お腹が出てきますよ?」
「……ジョ、ジョージアだって!」
「ジョージア様は、これでも、馬を駆って領地を回ってくれていますし、何よりアンジェラやジョージ、ネイトを抱きかかえて遊んでくれています。それだけでも、結構な運動量になりますよ?」
「子どもがかぁ?」
「アンジェラと遊んでみます?次の日、立ち上がれないほど、筋肉痛になりますよ!」


 ニッコリ笑いかけると、ジョージアの方を見ていた。本当なのか?と問うている当たり、ちょろいと思っていたようだ。


「お貸ししますよ?うちのお姫様。アンジェラが歩き始めてからというもの……バタバタと走らされる毎日ですよ。最近では、走るのも早いですしね……見ておかないとどこに行くか……」
「アンナリーゼではないか!それでは。もっと、淑女教育をだな!」
「無駄でしょう?アンナは淑女としても定評がありますし、アンジェラの淑女レッスンは、ナタリーが……カラマス子爵の妹が担っていますから」
「……それは、なんとも。どっちもどっちだな?」


 何をおっしゃるやらとジョージアは、公を窘めた。実際、ナタリーの淑女レッスンは、かなり身についていると言っていい。多少、生来の気質が勝っているところがあるのは、仕方がないが、公の場で、きちんと、公爵令嬢をしていれば、問題はない。『華となれ!』母の言葉をアンジェラやミアに贈る日も、それほど遠くはないだろう。


「話があって、呼び出したのではないですか?」
「あぁ、そうだった。夜会の最後に、そなたらの勲章授与をする。この日に合わせてウィル・サーラーやヨハンが来ると調整をしていたのだが、どうやら少し遅れているようだ」
「そうなのですね。ウィルはともかく、ヨハンは、こないと連絡があったのではないですか?公の場にはでないと、連絡をもらってますが?」
「……ジョージアに説得を頼んだのだが、やはり、こないのか?」
「アンナの頼みでもこないヨハン教授が、どうして俺の呼びかけに来ると思ったので?」
「……そこは、なぁ?妻の主治医としてとかなんとか理由をつけて」
「無理ですよ。パトロンはアンナですし、お義父様になら従うでしょうけど、なんの関りもないものに、誰が従うのですか?」
「……そうか、やはり、こないのか。お金は、どうするんだ?」
「それなら、私がもらって帰ります。ヨハンに渡すようのお金ですよね?」
「……お金の話になると急に生き生きするのは、やめてくれ」


 ウンザリした顔をこちらに向けてくる公。確かに、今回の件では、驚くほどの金額が動いているのだから、仕方がないだろう。
 よく、工面してくれたと思えてならない。


「だって、お金好きですし……あの、ちゃりちゃりと貯まっていく感じがたまらなく……」
「ジョージア、なんとかしろ」
「どうしようもできませんね。アンバー領はアンナの稼いだお金で、回っているので、恍惚と金貨を数えていても何も言えません」
「ジョージア様も、あまりいいようには思っていなかったのですか?お金は大事なのですよ!貯めてばかりではダメですけどね!」
「……アンナリーゼは散財しているだろう?」
「散財はしていますね?適度にお金は回さないと。腐ってしまいますから……」


 嫌な顔をする公。それほど、嫌なら、私にわざわざ関わらなければいいだけなのに、面倒なことに関わりたいらしい。
 どこで聞いてきたのかしらないが、今日の夜会出席のご褒美に、どうやら、公は私がお友達になりたい方を紹介してくれるそうで、ありがとうと微笑んだ。
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