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終わりの夜会

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「今日はやたらと目立つドレスだね?ラベンダー色のドレスは、とてもよく似合うけど……惜しげもなく、レースが使われて……」
「綺麗な青紫色ですよね?今年、開発された染色の方法で染められたんですけど……、いいですね?ナタリーも相当気に入ったようでしたよ?」
「青紫限定で研究を進めていると聞いていたけど、アンナのドレスをみれば、ナタリーの気合の入れ方がわかるね」


 玄関前でドレスをゆらゆらとしていれば、まだ、屋敷の中をフラフラと歩き回っていたアンジェラが見つけたようだ。


「ママっ!かわいい!」
「ありがとう!」


 走ってきてギュっとドレスの裾に飛びついた。夜会用のドレスは、とても豪奢だ。爵位が上がれば上がるほど、煌びやかなものになる。とくに、私は、目立つことが必須だからか、薄い色のドレスであっても、ナタリーが豪奢なものに変えてしまうのだ。


「最初、ナタリー様が描いたものを見せてもらったときは、少し地味かな?って思ったんですけど、光沢があるから、絵とは全然違いますね?」


 ヒーナが私の隣にやって来た。護衛という立場になっているヒーナは、黒づくめのドレスでこちらを見上げてくる。


「ナタリーのデザインを見せてもらったの?」
「えぇ、最近では、私用のドレスも作っていただくことがあるので、そのときに。ナタリー様のドレスは、色合いも少し抑えられていますよね?」
「私が1番輝くようにと考えられているからね。実のところ、ハニーアンバー店にあるドレスは、私のものより、少しだけいろいろと抑えられているわ」
「知りませんでした。ナタリー様の本気がそんなところにも計算されていただなんて」


 背中に描かれた女神と蜂たちが見えるようなドレスは、ヒーナだけのものだ。誰の配下になっているかわかるように、ヒーナに与えた罰であった。インゼロ帝国の皇帝の元に帰れないようにとノクトが罪人への印として彫る刺青を施し、公の場にいくときは見せるようにしている。
 いつの間にか、ジョージアに抱き上げられたアンジェラは、私と同じ視線になり見つめ合った。青い薔薇がいたく気に入っているようで、私の胸に輝くサファイアの薔薇を欲しがっている。


「アンナのそれは、まだ、アンジーには早いよ?」
「欲しい!」


 なんとも可愛らしい攻防戦をするアンジェラとジョージア。同じ瞳、同じ髪の二人は、やはりそっくりで、思わず二人の頭を撫でてしまう。


「アンナ?」
「ママ!」


 戸惑うジョージアと喜ぶアンジェラに微笑んだ。


「アンジェラが、デビュタントの日に、この青薔薇たちは貸してあげるわ。ジョージア様にいただいた、とっても大切な子たちよ?アンジェラも大事にしてくれるかしら?」
「うん、大事にする」
「そう、嬉しいわ!ピアスだけは、ジョージア様に新しいのを買っていただきましょう。青薔薇は、アンジェラ……あなたには、とてもよく似合うものね!」


 そっと頬を撫でる。よほど青薔薇たちを貸してもらえることが嬉しかったのか、すごく喜んでいた。


「アンナ……それは、」
「ジョージア様、青薔薇は私のためのもの。でも、これが本当に似合うのは、私ではなくきっと、アンジェラなのですよ。ジョージア様と一緒で、この子も青がとてもよく似合う。いずれ、アンジェラには、青薔薇たちを譲りたいとずっと考えていました。ただ、そのいずれは、まだまだ、先です。デビュタントのときは、まだ、貸してあげるだけですから!」
「……母親から娘への継承的なもの?」
「かっこいいですね。継承できるものが、あるなんて……。嬉しいです、大切なものが、大切な人へと受け継がれることは。私の想いまで、繋いでいってくれると、さらにうれしいですけどね!」


 アンジェラごとジョージアを抱きしめる。温かい家族に縁がなかったはずなのに、こうして笑い合える今日が、何よりも愛おしく感じた。


「さぁ、ジョージア様、そろそろ向かわないと、間に合いませんよ?」
「そうだね。アンジー、今日は遅くなるから、早くお休み。エマに好きな本を読んでもらって……」
「……いってらっしゃい?」
「うん、行ってくるね!いい子でいるんだよ?」
「……それ、アンナにだけは、言われたくない言葉だよね……」


 呆れたように笑うジョージア。少しむくれた顔を向けるとアンジェラが急に笑いだす。私たちのやり取りがおもしろかったようだ。


「では、行ってきます」


 ヒーナとともに馬車に乗り込む。御者の隣には、すでに正装したアデルが座っていた。


「その制服、見れるのもあと少しかしら?」
「……そう言われると、名残惜しいですねぇ……。近衛の制服っていうだけで、モテますし、ウィル様なんて、白いの着て出歩くときありましたからね……着替えるのが面倒だって」
「隊長格が着れる制服ね」
「……今日、帰ってくるんですね?久しぶりに会えると思うと、なんだか、胸が一杯になりそうです」
「アデルも?私も!南の領地で一緒に馬で駆けていたのが、嘘のようよ!あんな毎日、大変ではあったけど、楽しかった日々はないわ」
「……アンナ?それは、どういうこと?」
「ジョージア様。私の隣はジョージア様がいいですけど、馬で駆け回る日々は、最高に気持ちがいいってことです」
「そういえば、話を聞く限り、大変だったと言ってたわりに、すごくいきいきしていた様子しか目に浮かばなかったな」


 大きくため息をつくジョージア。私という奥様を娶ったことに後悔はないのだろうか?と思いたくなるほど、長いため息だった。


「……予想不可能なアンナの夫になれるのなんて、世界中で僕とヘンリー殿とウィルくらいじゃないか?あぁ、あと、ノクトもか」
「……意外と多いのですね?」
「あぁ、アデル。幼馴染と友人はアンナのことを心の底から受け止める気だからね。いつ、この場を譲れと言われるか、未だにヒヤヒヤしている」


 そんなことないですよ!とアデルはジョージアを励まし、いつまでもジョージア様の隣にいますからね!と肩をぽんぽんと叩くと、いたためしないですよね?とヒーナから鋭いツッコミが入った。だよね……と大きく長いため息が、馬車中に広がっていったのである。
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