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町まるまるお引越し
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「まずは、お引越しから始めるわよ?今日言って、今日移動するのは難しいから、1週間くらいで、移動先に持っていく荷物をまとめてちょうだい。家具については、申し訳ないけど、持っていけないから、ここへ置いて行くわ!」
「主に何を持っていけば?」
「農作業ができる着替えとか、食器類など、日用品ね。また、ここへ戻ってくるのだから、置いて行けるものは置いて行って欲しい。ただ、町ごとの修繕をすることになるから、家も丸ごと、直すからね?そのあたりの了承も得てほしいわ。家については、移動した先のようになると考えてほしいのよね」
「……そういえば、どこへいくの?」
「コットンの農場の近く」
「あの大農場のか?」
「そう。去年建てた家があるのよ。避難所のひとつなんだけど、そこにね」
みなが、顔を見合わせているので、心配しなくても大丈夫だと頷いた。大移動になるのだから、不安もあるだろう。
コーコナは大きな領地ではないので、それほど、移動に時間もかからないので、領地内を荷馬車で行き来できる距離だ。
「荷物がまとまった家族から、移動を開始して。家族の人数によって、部屋の大きさが変わるから、何人かきちんとチャコに伝えてくれる?」
「わかりました。ここまで、親身になってくださる方がいるとは、思ってもみなかったです」
「そんなことは、ないけど……領地を豊かにするのは、私の役目だから。それに、みんなが、豊かになりたいと願ってくれないと、私もお手伝いできないから」
ニコッと笑うと、さっきまでとは違って、微笑み合う。その様子がアンバーと重なり、嬉しくなる。
「私、もう少ししたら、公都に戻らないといけないんだけど……チャコ、頼めるかしら?」
「頼めるもなにも、やらないといけないんだろ?俺、先生になったわけだし」
「そう。みなの手本になってほしいの。人が必要なら、ココナに頼めばいいわ。ここの責任者は、ココナだから」
「……私ですか?」
「えぇ、他に任せられる人、いないもの。実際、チャコたちより強いし、何か不正をしようとしたら、こってり絞ってくれるでしょ?」
ねっ?と、冗談混じりにいうと、チャコが、冗談に聞こえないと嘆く。それを聞いていた周りは、大笑いをしていた。
「あぁ、こんなに笑ったのはいつぶりだろう?」
「本当だね……生活自体は、それほど変わらなくても、笑って生活をしたいね」
「そうだな。今までは、それが当たり前だったけど……」
「笑える日々が、少しでも多くなるといいなぁ……」
「でも、ここを離れるのは、少し寂しい」
「すぐ、戻ってこれるさ。領主様が、俺らに生きるための道筋を作ってくれたんだから」
「私、去年の話、聞いたことがある!」
「何をだい?」
「領主様、自ら、災害が起こったところで、泥だらけになりながら、人命救助をしてくれていたって」
「それなら、俺だって聞いたことがあるぞ!」
いつの間にか領主の知っていることの自慢話へと変わっていった。
「領地全体をよくしてくださって……」
涙ぐむ領民まで出始めたのだが、逆に私のほうがおろおろとしてしまう。
「あ、あ、あのね?私、そんな大層なことは、していないんだよ?これが、普通。普通なんだよ?みんな、どんな生活していたの?」
「どんなって……さっき、領主様が捕まえてくれた老人が、ここをいいようにしていた。前の領主様の名を使って、やりたい放題」
「毎日、若い女の子が連れられてきて、あの子らのようにされて……」
「いつの間にか売られていたな」
「……私のところは、娘が連れ去られた!返してくれと言ったら、小銭をばらまかれ、それで……娘はもう返ってこない」
「ひどいな!うちは、息子を取られた!」
「うちもだ!」
ここで、生まれた子どもは、半数以上が、あの老人に売られてしまったらしい。売られた先を調べても、きっと、ここへは戻れないだろう。貴族に売られたのか、商人に売られたのか、国内にいない可能性もある。本来、人身売買や奴隷制度はこの国では、ご法度なのだから。
慰める言葉は見つからなかったが、みなが上を向いてくれていることが、救いなのかもしれない。
「連れ去られた子や売られた子を取り戻すことは、私にはできないわ。国内にいる可能性は低いし、もしかしたら……」
「……私らも、そこまでバカじゃない。わかっているさ。取られた子が返ってこないことくらい。でも、これからは、そんな人も減るんだろ?それなら、私らは、辛い想い出を胸にしまって、未来ある子らを大切に育てる。それが、私らのやらないといけないことさね?」
小さな子どもの頭を撫でるおばさん。私の母より年なのか、手も顔をしわくちゃだった。その反対側の手をそっと握る。
「……ごめんね。気付けなくて」
「いいんだよ。今日、領主様が来てくれたことが、大事なんだ。明日を生きるためにも。未来を、明るく照らしてくれて、ありがとう。これからは、俯てなんていられない。そこにいるお兄ちゃんも新しい先生とやらになって、この町を変えてくれるんだろ?」
「えぇ、そうよ」
「とても、楽しみじゃないか。私たちは、明日を夢見ることを許されたのだから。これから、頑張って生きようってもんだい!」
おばさんの生きる希望は、どうやら、周りにも伝播していったらしい。乗り気ではなかった、チャコも表情を和らげているところ……、うまくいきそうで、楽しみになった。
「主に何を持っていけば?」
「農作業ができる着替えとか、食器類など、日用品ね。また、ここへ戻ってくるのだから、置いて行けるものは置いて行って欲しい。ただ、町ごとの修繕をすることになるから、家も丸ごと、直すからね?そのあたりの了承も得てほしいわ。家については、移動した先のようになると考えてほしいのよね」
「……そういえば、どこへいくの?」
「コットンの農場の近く」
「あの大農場のか?」
「そう。去年建てた家があるのよ。避難所のひとつなんだけど、そこにね」
みなが、顔を見合わせているので、心配しなくても大丈夫だと頷いた。大移動になるのだから、不安もあるだろう。
コーコナは大きな領地ではないので、それほど、移動に時間もかからないので、領地内を荷馬車で行き来できる距離だ。
「荷物がまとまった家族から、移動を開始して。家族の人数によって、部屋の大きさが変わるから、何人かきちんとチャコに伝えてくれる?」
「わかりました。ここまで、親身になってくださる方がいるとは、思ってもみなかったです」
「そんなことは、ないけど……領地を豊かにするのは、私の役目だから。それに、みんなが、豊かになりたいと願ってくれないと、私もお手伝いできないから」
ニコッと笑うと、さっきまでとは違って、微笑み合う。その様子がアンバーと重なり、嬉しくなる。
「私、もう少ししたら、公都に戻らないといけないんだけど……チャコ、頼めるかしら?」
「頼めるもなにも、やらないといけないんだろ?俺、先生になったわけだし」
「そう。みなの手本になってほしいの。人が必要なら、ココナに頼めばいいわ。ここの責任者は、ココナだから」
「……私ですか?」
「えぇ、他に任せられる人、いないもの。実際、チャコたちより強いし、何か不正をしようとしたら、こってり絞ってくれるでしょ?」
ねっ?と、冗談混じりにいうと、チャコが、冗談に聞こえないと嘆く。それを聞いていた周りは、大笑いをしていた。
「あぁ、こんなに笑ったのはいつぶりだろう?」
「本当だね……生活自体は、それほど変わらなくても、笑って生活をしたいね」
「そうだな。今までは、それが当たり前だったけど……」
「笑える日々が、少しでも多くなるといいなぁ……」
「でも、ここを離れるのは、少し寂しい」
「すぐ、戻ってこれるさ。領主様が、俺らに生きるための道筋を作ってくれたんだから」
「私、去年の話、聞いたことがある!」
「何をだい?」
「領主様、自ら、災害が起こったところで、泥だらけになりながら、人命救助をしてくれていたって」
「それなら、俺だって聞いたことがあるぞ!」
いつの間にか領主の知っていることの自慢話へと変わっていった。
「領地全体をよくしてくださって……」
涙ぐむ領民まで出始めたのだが、逆に私のほうがおろおろとしてしまう。
「あ、あ、あのね?私、そんな大層なことは、していないんだよ?これが、普通。普通なんだよ?みんな、どんな生活していたの?」
「どんなって……さっき、領主様が捕まえてくれた老人が、ここをいいようにしていた。前の領主様の名を使って、やりたい放題」
「毎日、若い女の子が連れられてきて、あの子らのようにされて……」
「いつの間にか売られていたな」
「……私のところは、娘が連れ去られた!返してくれと言ったら、小銭をばらまかれ、それで……娘はもう返ってこない」
「ひどいな!うちは、息子を取られた!」
「うちもだ!」
ここで、生まれた子どもは、半数以上が、あの老人に売られてしまったらしい。売られた先を調べても、きっと、ここへは戻れないだろう。貴族に売られたのか、商人に売られたのか、国内にいない可能性もある。本来、人身売買や奴隷制度はこの国では、ご法度なのだから。
慰める言葉は見つからなかったが、みなが上を向いてくれていることが、救いなのかもしれない。
「連れ去られた子や売られた子を取り戻すことは、私にはできないわ。国内にいる可能性は低いし、もしかしたら……」
「……私らも、そこまでバカじゃない。わかっているさ。取られた子が返ってこないことくらい。でも、これからは、そんな人も減るんだろ?それなら、私らは、辛い想い出を胸にしまって、未来ある子らを大切に育てる。それが、私らのやらないといけないことさね?」
小さな子どもの頭を撫でるおばさん。私の母より年なのか、手も顔をしわくちゃだった。その反対側の手をそっと握る。
「……ごめんね。気付けなくて」
「いいんだよ。今日、領主様が来てくれたことが、大事なんだ。明日を生きるためにも。未来を、明るく照らしてくれて、ありがとう。これからは、俯てなんていられない。そこにいるお兄ちゃんも新しい先生とやらになって、この町を変えてくれるんだろ?」
「えぇ、そうよ」
「とても、楽しみじゃないか。私たちは、明日を夢見ることを許されたのだから。これから、頑張って生きようってもんだい!」
おばさんの生きる希望は、どうやら、周りにも伝播していったらしい。乗り気ではなかった、チャコも表情を和らげているところ……、うまくいきそうで、楽しみになった。
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