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私、怒っています!
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私たちの騒ぎを聞きつけ、この場所の住人たちが、出てきた。さっきまで、隠れていたのに……とイライラしながら、周りを見渡した。
「アデル、その老人は、公都へ送りますから、準備しておいてと……」
「わかっています。ディルさんへ連絡しておきますね!」
縄を括り付け、猿ぐつわをしているアデルの手際の良さに頷いた。
「慣れたものでしょ?公都では、こんな仕事したことがなかったですし、アンバー領もとても平和なので、こんなことしたことがなかったんですけど、いつだったか、ノクト三に教えてもらったんですよ。役にたつからって」
「そうなの?」
「えぇ、解けないけど、きつくもなくて、見張る方も楽な結び方ってあるの知っています?」
「えぇ、もちろんよ!私だって、そういうことは、母から一通り学んでいるわ!力がないからって言ったら、力がなくても、解けない方法を教えてもらってあるわ!」
「へぇーそれ、ぜひ、教えてください!ノクトさんのって、結構力がいるので……」
アデルが指笛を吹くとどこからともなく一人の男性が現れた。見覚えはあるが、話したことはなかったその人に、ペコリと頭を下げれば、少しだけ照れたようにして、老人を連れて行ってしまった。
「ディルさんの子猫たち……どうみても、今の人はクマ並ですけど……、優秀ですよね」
私に近づき、アデルが感心しているので、当たり前よと答えておく。
「ココナさんは、大丈夫ですか?」
「少し、貧血しているわね?ココナをこの場へ連れてくるべきでは、なかったのかしら?」
反省したように、眉尻をさげ、ココナの頬を撫でる。
「お役にたてず、申し訳ございません。暗示は、解けていたと思っていたので、ついてきたのですが、逆にご迷惑を……」
「いいのよ、そんなこと。私たちが、危険を察知できなかったことがダメだったのだから。腹立たしいわ!」
あぁ!!!と大きな声で悔しがる。ケガをさせたかったわけじゃない。ココナを大事に思っていたはずなのに……と。
「私、怒っています!」
「どうしたのですか?いきなり」
「だって、守りたいから、剣の腕も磨いたのだし、頭だってバカなりに頑張ってきたのよ?肝心なときに、守れないのは……私自身に腹が立つわ!」
往来の真ん中で、騒いでいる私たちを遠巻きに見ていたうち、一人の子どもが飛び出してきた。私に駆け寄ってくる。母親らしい人が、止めに来たが、一直線に私きて、おねぇちゃん、大丈夫?と聞いてくる。
「えぇ、大丈夫だよ。ここの子?」
「そう。お母さん!」
指さす方を見れば、とても困ったような表情をこちらに向けてくる。剣を持っているから、怖いのだろう。
ここで笑いかけても、きっと、母親は近づいてこないわね。
男の子の母親だけでなく、他のものたちもお互いの顔を見ながら、どうしたら?というふうだ。ここを仕切っていたはずの老人がいなくなったことは、喜ばしいことと同時に、ルールがなくなった無秩序となったのと同じである。
「私は、アンナリーゼ。ここの領主なんだけど……今から、お掃除をしようと思っているの。お手伝いしてくれるかな?」
「お掃除?」
「そう。ここを綺麗にしたいのよ」
母親の顔を見るように後ろを向いた男の子。母親の方は、ホッとしたような顔をしたが、私から離れない男の子をとても心配している。
アンジェラより少し大きな。ミアくらいかしら?
「ママ、アンナリーゼは、お掃除したいんだって!お手伝いする?」
母親に呼びかける男の子の言葉に、みなが驚いていた。口々に掃除だって?何のだ?この場所のか?とザワザワとなってきた。好機とみていいだろう。アデルに変わってもらい、立ち上がった。
「私の名前は、アンナリーゼ・トロン・アンバーです。この地をお掃除したいと思うのだけど、手伝ってくれる人、いるかしら?町全体を改修したいから、しばらく違う場所で住んでもらうことになるけど、手伝ってくれたら嬉しいわ!」
「……アンナリーゼって?」
「アンバーって……、領主様?」
「領主様がこんな汚い場所にいるかよ?」
「……あのお兄さんたちは護衛?」
「でも、あの女の人、メチャクチャ強かったぞ?」
遠巻きに見ていた彼らは、どうやら、私に興味をもってくれたらしい。それでいい。私に、領主に興味を持ってくれるだけで十分だ。
「そういえば、アンバー公爵がこの地の領主になったって……耳にしたことがある!」
「ダドリー男爵が領主じゃなかったかい?」
「張り紙があったが、俺らじゃ字も読めないからな……」
「字なら、読めるようになるわよ?私を手伝ってくれて、みんなが、努力をすれば」
「そんなこと、あるわけない!」
「俺らみたいな底辺が字を読める?」
「えぇ、もちろん、それに似合う努力をしてもらうけど……読み書き計算の学校をひらくわ!子どもだけじゃなく、大人も通えるように。アンバーでもしていたの。領地に必要なのは、何よりも人なの。領主一人じゃ、何もできないから。私は、あなたたちが必要なのよ!」
お互いの顔を見合わせ、困ったような嬉しいような顔をしている。
「私のお願いを聞いてもらうのですもの、対価として無料で読み書き計算の初歩的な教育を受けられるようにするし、この町を綺麗にするわ!
だから、お願い。力を貸してほしいの!」
ニッコリ笑いかければ、男の子が手を握ってくる。私は、その手を優しくにぎり返した。
後ろでアデルが、また、信者を増やしましたねと呆れかえっていることは、見えないし聞こえなかったことにした。
「アデル、その老人は、公都へ送りますから、準備しておいてと……」
「わかっています。ディルさんへ連絡しておきますね!」
縄を括り付け、猿ぐつわをしているアデルの手際の良さに頷いた。
「慣れたものでしょ?公都では、こんな仕事したことがなかったですし、アンバー領もとても平和なので、こんなことしたことがなかったんですけど、いつだったか、ノクト三に教えてもらったんですよ。役にたつからって」
「そうなの?」
「えぇ、解けないけど、きつくもなくて、見張る方も楽な結び方ってあるの知っています?」
「えぇ、もちろんよ!私だって、そういうことは、母から一通り学んでいるわ!力がないからって言ったら、力がなくても、解けない方法を教えてもらってあるわ!」
「へぇーそれ、ぜひ、教えてください!ノクトさんのって、結構力がいるので……」
アデルが指笛を吹くとどこからともなく一人の男性が現れた。見覚えはあるが、話したことはなかったその人に、ペコリと頭を下げれば、少しだけ照れたようにして、老人を連れて行ってしまった。
「ディルさんの子猫たち……どうみても、今の人はクマ並ですけど……、優秀ですよね」
私に近づき、アデルが感心しているので、当たり前よと答えておく。
「ココナさんは、大丈夫ですか?」
「少し、貧血しているわね?ココナをこの場へ連れてくるべきでは、なかったのかしら?」
反省したように、眉尻をさげ、ココナの頬を撫でる。
「お役にたてず、申し訳ございません。暗示は、解けていたと思っていたので、ついてきたのですが、逆にご迷惑を……」
「いいのよ、そんなこと。私たちが、危険を察知できなかったことがダメだったのだから。腹立たしいわ!」
あぁ!!!と大きな声で悔しがる。ケガをさせたかったわけじゃない。ココナを大事に思っていたはずなのに……と。
「私、怒っています!」
「どうしたのですか?いきなり」
「だって、守りたいから、剣の腕も磨いたのだし、頭だってバカなりに頑張ってきたのよ?肝心なときに、守れないのは……私自身に腹が立つわ!」
往来の真ん中で、騒いでいる私たちを遠巻きに見ていたうち、一人の子どもが飛び出してきた。私に駆け寄ってくる。母親らしい人が、止めに来たが、一直線に私きて、おねぇちゃん、大丈夫?と聞いてくる。
「えぇ、大丈夫だよ。ここの子?」
「そう。お母さん!」
指さす方を見れば、とても困ったような表情をこちらに向けてくる。剣を持っているから、怖いのだろう。
ここで笑いかけても、きっと、母親は近づいてこないわね。
男の子の母親だけでなく、他のものたちもお互いの顔を見ながら、どうしたら?というふうだ。ここを仕切っていたはずの老人がいなくなったことは、喜ばしいことと同時に、ルールがなくなった無秩序となったのと同じである。
「私は、アンナリーゼ。ここの領主なんだけど……今から、お掃除をしようと思っているの。お手伝いしてくれるかな?」
「お掃除?」
「そう。ここを綺麗にしたいのよ」
母親の顔を見るように後ろを向いた男の子。母親の方は、ホッとしたような顔をしたが、私から離れない男の子をとても心配している。
アンジェラより少し大きな。ミアくらいかしら?
「ママ、アンナリーゼは、お掃除したいんだって!お手伝いする?」
母親に呼びかける男の子の言葉に、みなが驚いていた。口々に掃除だって?何のだ?この場所のか?とザワザワとなってきた。好機とみていいだろう。アデルに変わってもらい、立ち上がった。
「私の名前は、アンナリーゼ・トロン・アンバーです。この地をお掃除したいと思うのだけど、手伝ってくれる人、いるかしら?町全体を改修したいから、しばらく違う場所で住んでもらうことになるけど、手伝ってくれたら嬉しいわ!」
「……アンナリーゼって?」
「アンバーって……、領主様?」
「領主様がこんな汚い場所にいるかよ?」
「……あのお兄さんたちは護衛?」
「でも、あの女の人、メチャクチャ強かったぞ?」
遠巻きに見ていた彼らは、どうやら、私に興味をもってくれたらしい。それでいい。私に、領主に興味を持ってくれるだけで十分だ。
「そういえば、アンバー公爵がこの地の領主になったって……耳にしたことがある!」
「ダドリー男爵が領主じゃなかったかい?」
「張り紙があったが、俺らじゃ字も読めないからな……」
「字なら、読めるようになるわよ?私を手伝ってくれて、みんなが、努力をすれば」
「そんなこと、あるわけない!」
「俺らみたいな底辺が字を読める?」
「えぇ、もちろん、それに似合う努力をしてもらうけど……読み書き計算の学校をひらくわ!子どもだけじゃなく、大人も通えるように。アンバーでもしていたの。領地に必要なのは、何よりも人なの。領主一人じゃ、何もできないから。私は、あなたたちが必要なのよ!」
お互いの顔を見合わせ、困ったような嬉しいような顔をしている。
「私のお願いを聞いてもらうのですもの、対価として無料で読み書き計算の初歩的な教育を受けられるようにするし、この町を綺麗にするわ!
だから、お願い。力を貸してほしいの!」
ニッコリ笑いかければ、男の子が手を握ってくる。私は、その手を優しくにぎり返した。
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