ハニーローズ  ~ 『予知夢』から始まった未来変革 ~

悠月 星花

文字の大きさ
上 下
946 / 1,513

私、怒っています!

しおりを挟む
 私たちの騒ぎを聞きつけ、この場所の住人たちが、出てきた。さっきまで、隠れていたのに……とイライラしながら、周りを見渡した。


「アデル、その老人は、公都へ送りますから、準備しておいてと……」
「わかっています。ディルさんへ連絡しておきますね!」


 縄を括り付け、猿ぐつわをしているアデルの手際の良さに頷いた。


「慣れたものでしょ?公都では、こんな仕事したことがなかったですし、アンバー領もとても平和なので、こんなことしたことがなかったんですけど、いつだったか、ノクト三に教えてもらったんですよ。役にたつからって」
「そうなの?」
「えぇ、解けないけど、きつくもなくて、見張る方も楽な結び方ってあるの知っています?」
「えぇ、もちろんよ!私だって、そういうことは、母から一通り学んでいるわ!力がないからって言ったら、力がなくても、解けない方法を教えてもらってあるわ!」
「へぇーそれ、ぜひ、教えてください!ノクトさんのって、結構力がいるので……」


 アデルが指笛を吹くとどこからともなく一人の男性が現れた。見覚えはあるが、話したことはなかったその人に、ペコリと頭を下げれば、少しだけ照れたようにして、老人を連れて行ってしまった。


「ディルさんの子猫たち……どうみても、今の人はクマ並ですけど……、優秀ですよね」


 私に近づき、アデルが感心しているので、当たり前よと答えておく。


「ココナさんは、大丈夫ですか?」
「少し、貧血しているわね?ココナをこの場へ連れてくるべきでは、なかったのかしら?」


 反省したように、眉尻をさげ、ココナの頬を撫でる。


「お役にたてず、申し訳ございません。暗示は、解けていたと思っていたので、ついてきたのですが、逆にご迷惑を……」
「いいのよ、そんなこと。私たちが、危険を察知できなかったことがダメだったのだから。腹立たしいわ!」


 あぁ!!!と大きな声で悔しがる。ケガをさせたかったわけじゃない。ココナを大事に思っていたはずなのに……と。


「私、怒っています!」
「どうしたのですか?いきなり」
「だって、守りたいから、剣の腕も磨いたのだし、頭だってバカなりに頑張ってきたのよ?肝心なときに、守れないのは……私自身に腹が立つわ!」


 往来の真ん中で、騒いでいる私たちを遠巻きに見ていたうち、一人の子どもが飛び出してきた。私に駆け寄ってくる。母親らしい人が、止めに来たが、一直線に私きて、おねぇちゃん、大丈夫?と聞いてくる。


「えぇ、大丈夫だよ。ここの子?」
「そう。お母さん!」


 指さす方を見れば、とても困ったような表情をこちらに向けてくる。剣を持っているから、怖いのだろう。

 ここで笑いかけても、きっと、母親は近づいてこないわね。

 男の子の母親だけでなく、他のものたちもお互いの顔を見ながら、どうしたら?というふうだ。ここを仕切っていたはずの老人がいなくなったことは、喜ばしいことと同時に、ルールがなくなった無秩序となったのと同じである。


「私は、アンナリーゼ。ここの領主なんだけど……今から、お掃除をしようと思っているの。お手伝いしてくれるかな?」
「お掃除?」
「そう。ここを綺麗にしたいのよ」


 母親の顔を見るように後ろを向いた男の子。母親の方は、ホッとしたような顔をしたが、私から離れない男の子をとても心配している。

 アンジェラより少し大きな。ミアくらいかしら?


「ママ、アンナリーゼは、お掃除したいんだって!お手伝いする?」


 母親に呼びかける男の子の言葉に、みなが驚いていた。口々に掃除だって?何のだ?この場所のか?とザワザワとなってきた。好機とみていいだろう。アデルに変わってもらい、立ち上がった。


「私の名前は、アンナリーゼ・トロン・アンバーです。この地をお掃除したいと思うのだけど、手伝ってくれる人、いるかしら?町全体を改修したいから、しばらく違う場所で住んでもらうことになるけど、手伝ってくれたら嬉しいわ!」
「……アンナリーゼって?」
「アンバーって……、領主様?」
「領主様がこんな汚い場所にいるかよ?」
「……あのお兄さんたちは護衛?」
「でも、あの女の人、メチャクチャ強かったぞ?」


 遠巻きに見ていた彼らは、どうやら、私に興味をもってくれたらしい。それでいい。私に、領主に興味を持ってくれるだけで十分だ。


「そういえば、アンバー公爵がこの地の領主になったって……耳にしたことがある!」
「ダドリー男爵が領主じゃなかったかい?」
「張り紙があったが、俺らじゃ字も読めないからな……」
「字なら、読めるようになるわよ?私を手伝ってくれて、みんなが、努力をすれば」
「そんなこと、あるわけない!」
「俺らみたいな底辺が字を読める?」
「えぇ、もちろん、それに似合う努力をしてもらうけど……読み書き計算の学校をひらくわ!子どもだけじゃなく、大人も通えるように。アンバーでもしていたの。領地に必要なのは、何よりも人なの。領主一人じゃ、何もできないから。私は、あなたたちが必要なのよ!」


 お互いの顔を見合わせ、困ったような嬉しいような顔をしている。


「私のお願いを聞いてもらうのですもの、対価として無料で読み書き計算の初歩的な教育を受けられるようにするし、この町を綺麗にするわ!
 だから、お願い。力を貸してほしいの!」


 ニッコリ笑いかければ、男の子が手を握ってくる。私は、その手を優しくにぎり返した。
 後ろでアデルが、また、信者を増やしましたねと呆れかえっていることは、見えないし聞こえなかったことにした。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

『伯爵令嬢 爆死する』

三木谷夜宵
ファンタジー
王立学園の中庭で、ひとりの伯爵令嬢が死んだ。彼女は婚約者である侯爵令息から婚約解消を求められた。しかし、令嬢はそれに反発した。そんな彼女を、令息は魔術で爆死させてしまったのである。 その後、大陸一のゴシップ誌が伯爵令嬢が日頃から受けていた仕打ちを暴露するのであった。 カクヨムでも公開しています。

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持

空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。 その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。 ※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。 ※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。

【完結】不貞された私を責めるこの国はおかしい

春風由実
恋愛
婚約者が不貞をしたあげく、婚約破棄だと言ってきた。 そんな私がどうして議会に呼び出され糾弾される側なのでしょうか? 婚約者が不貞をしたのは私のせいで、 婚約破棄を命じられたのも私のせいですって? うふふ。面白いことを仰いますわね。 ※最終話まで毎日一話更新予定です。→3/27完結しました。 ※カクヨムにも投稿しています。

愚か者の話をしよう

鈴宮(すずみや)
恋愛
 シェイマスは、婚約者であるエーファを心から愛している。けれど、控えめな性格のエーファは、聖女ミランダがシェイマスにちょっかいを掛けても、穏やかに微笑むばかり。  そんな彼女の反応に物足りなさを感じつつも、シェイマスはエーファとの幸せな未来を夢見ていた。  けれどある日、シェイマスは父親である国王から「エーファとの婚約は破棄する」と告げられて――――?

わがままな妹が何もかも奪って行きます

拓海のり
恋愛
妹に何でもかんでも持って行かれるヘレナは、妹が結婚してくれてやっと解放されたと思ったのだが金持ちの結婚相手を押し付けられて。7000字くらいのショートショートです。

婚約破棄の場に相手がいなかった件について

三木谷夜宵
ファンタジー
侯爵令息であるアダルベルトは、とある夜会で婚約者の伯爵令嬢クラウディアとの婚約破棄を宣言する。しかし、その夜会にクラウディアの姿はなかった。 断罪イベントの夜会に婚約者を迎えに来ないというパターンがあるので、では行かなければいいと思って書いたら、人徳あふれるヒロイン(不在)が誕生しました。 カクヨムにも公開しています。

すべてを思い出したのが、王太子と結婚した後でした

珠宮さくら
恋愛
ペチュニアが、乙女ゲームの世界に転生したと気づいた時には、すべてが終わっていた。 色々と始まらなさ過ぎて、同じ名前の令嬢が騒ぐのを見聞きして、ようやく思い出した時には王太子と結婚した後。 バグったせいか、ヒロインがヒロインらしくなかったせいか。ゲーム通りに何一ついかなかったが、ペチュニアは前世では出来なかったことをこの世界で満喫することになる。 ※全4話。

子育てが落ち着いた20年目の結婚記念日……「離縁よ!離縁!」私は屋敷を飛び出しました。

さくしゃ
恋愛
アーリントン王国の片隅にあるバーンズ男爵領では、6人の子育てが落ち着いた領主夫人のエミリアと領主のヴァーンズは20回目の結婚記念日を迎えていた。 忙しい子育てと政務にすれ違いの生活を送っていた二人は、久しぶりに二人だけで食事をすることに。 「はぁ……盛り上がりすぎて7人目なんて言われたらどうしよう……いいえ!いっそのことあと5人くらい!」 気合いを入れるエミリアは侍女の案内でヴァーンズが待つ食堂へ。しかし、 「信じられない!離縁よ!離縁!」 深夜2時、エミリアは怒りを露わに屋敷を飛び出していった。自室に「実家へ帰らせていただきます!」という書き置きを残して。 結婚20年目にして離婚の危機……果たしてその結末は!?

処理中です...