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ようこそ、いらっしゃいました
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私の前に立ちはだかった老人。見覚えもないその老人を少し睨む。後ろにいる美少女たちの首にある首輪。繋がれている鎖が気になって仕方がない。
あと、後ろで様子のおかしいココナのことも気になった。
「ようこそ、いらっしゃいました。我が牙城に。何か御用でしょうか?」
言葉は丁寧。服装も綺麗。コーコナの一等地で商売をしていてもおかしくないほどの見栄えの老人は、私を見て、ニタっと笑った。
「用事ねぇ?ここは、アンバー公爵の土地だから、少々好きなように手を加えよと思うのだけど、どう思う?」
「そうですね?そんなこと、願い下げですね。ここは、この汚さがあるから、商品が輝く。この汚い場所だからこそ、この美しさが、際立つでしょ?」
一人の少女の鎖を引っ張り、引き寄せて顔をよく見えるようにこちらに向ける。少々やせ細ってはいるが、娼館に売ることを考えられているのか、少々薬を使われているように目が虚ろになっている。
……麻薬が出回っているって話あったけど、コーコナでは幸い、大きな話として聞いていなかった。ただ、ここだけは、勝手が違うってことなのね。
薬草畑のものは、管理がされている。ここで手に入れられるとしたら、隣の領地から。確か、隣の領地では、多少抑えられているらしいけど、中毒者が少しずつ増えてきているって、聞いたことがある。
「商品ってこと?」
「そうです。いいでしょ?ここいらで、1番の美人ですよ!」
頬をなぞるように撫でている。怖気がするが、後ろ手でグッと拳を握って我慢した。私より、彼女たちのほうが、ずっと、嫌な思いをしているのだからと。
「……ここで1番の美人は、私だと思うけど?地位も名誉も欲しいまま。社交界でも人気なのよ?」
「何を言っておる、年増が!」
「年増ですって?」
「そりゃそうだろう。十代だからこそ、この肌艶。化粧を塗りたくったような年増女と一緒にするでない。貴族御用達なのは、そなたではなく、可愛いこの子たちだ!」
「……あ、アンナ?」
声をかけてきたアデルを睨むと、おぉーこわっとチャコの声が聞こえてきた。『年増女』と呼ばれるには、まだ、早いと思っていたが、私の琴線には触れたようだ。
「アンナは、十分美人で可愛いし、強くて……」
「アデル?」
「……はい」
「剣で鎖は斬ったことあるかしら?」
「はい?アンナ、大丈夫?」
「いたって、冷静よ?」
にこぉっと笑って、小声でアデルに聞くが、無理だと返って来た。
「鎖くらい切れるようになってね?」
「はぁ?俺だって、切れねぇよ?何?切れんの?」
「切れるに決まっているけど?私を誰だと思っているの?」
「年増女」
「こら、チャコ!」
「……そう。首、洗っておいてね?コーコナなんて小さな領地で最後にしないわ!公都で、晒し首にしてあげる!」
「えっ?ちょ、ちょっと待て!ほんの……ほんの冗談だから?」
「じょーうだん?それって……おいしいのかしら?」
怯えるチャコと私の間にアデルが入り、作戦をと小声でいう。
「私が首輪が繋がっている鎖を全部切るからアデルとココナは、彼女たちを回収してほしいの!いいかしら?」
「わかった。なんとか、やってみるよ!ココナ、頑張ろうな?」
「……」
「ココナ?」
アデルの呼びかけにハッとするココナ。この場所の出身だと言っていたココナの様子が、明らかにおかしい。大丈夫か問おうとしたとき、老人がおもむろに数字をを言えば、ココナが直立不動になった。
「ふむ。5192番は、ココナと名付けられていたか。惜しいことしたなぁ……あのとき、脱走されてしまって……ここへ戻ってくるとは、いい心がけだ!さぁ、こっちに……」
手を伸ばす老人にココナは躊躇いがちに手を出した。なるで、その手を掴むように。
「ココナっ!しっかりなさい!」
私が呼びかけた瞬間、正気を取り戻したようになったが、体を抱きしめるように震えるので、シークに任せ、私は老人の方へ向き直り、駆け始める。
何をしようとしているのか、見当もついていない老人は、目を見張っていたが、同時に動いたアデルが、次々と私たちが立っていた方へと女の子たちを連れていく。
「すげぇ……本当に切ってしまうなんて!」
「そんなのは、あと!」
「はいはい」
「はいは1回でいいわ!」
鎖がジャランと地面についてしまい、口惜しそうに老人は私を見た。
「こんなことが許されるとでも?男爵が、ここをどれほど、重宝されていたか!」
「男爵ねぇ……」
「じぃさん、残念ながら、男爵の時代は、結構前に終わったぞ?時代に取り残されると、闇に葬られるぞ?」
「ふんっ!何を。その女どもを殺せ!」
老人が言った瞬間、首輪を付けている少女たちが、私たちを襲ってきた。その中には、ナイフを持ったココナが、実に躾られた猫のように、私を狙って一直線に来る。
「アンナ!」
「大丈夫。ココナは、私が止めるから、アデルたちは!」
「わかりました!」
私は、ナイフを振りかざすココナに向かって何もせず。ただ微笑んだ。正気を失っているココナは、老人の命令に従い、私にナイフ振り下ろす。
血しぶきが私の顔に飛ぶ。アデルたちが驚き、慌てて駆け寄ろうとしたのである。
あと、後ろで様子のおかしいココナのことも気になった。
「ようこそ、いらっしゃいました。我が牙城に。何か御用でしょうか?」
言葉は丁寧。服装も綺麗。コーコナの一等地で商売をしていてもおかしくないほどの見栄えの老人は、私を見て、ニタっと笑った。
「用事ねぇ?ここは、アンバー公爵の土地だから、少々好きなように手を加えよと思うのだけど、どう思う?」
「そうですね?そんなこと、願い下げですね。ここは、この汚さがあるから、商品が輝く。この汚い場所だからこそ、この美しさが、際立つでしょ?」
一人の少女の鎖を引っ張り、引き寄せて顔をよく見えるようにこちらに向ける。少々やせ細ってはいるが、娼館に売ることを考えられているのか、少々薬を使われているように目が虚ろになっている。
……麻薬が出回っているって話あったけど、コーコナでは幸い、大きな話として聞いていなかった。ただ、ここだけは、勝手が違うってことなのね。
薬草畑のものは、管理がされている。ここで手に入れられるとしたら、隣の領地から。確か、隣の領地では、多少抑えられているらしいけど、中毒者が少しずつ増えてきているって、聞いたことがある。
「商品ってこと?」
「そうです。いいでしょ?ここいらで、1番の美人ですよ!」
頬をなぞるように撫でている。怖気がするが、後ろ手でグッと拳を握って我慢した。私より、彼女たちのほうが、ずっと、嫌な思いをしているのだからと。
「……ここで1番の美人は、私だと思うけど?地位も名誉も欲しいまま。社交界でも人気なのよ?」
「何を言っておる、年増が!」
「年増ですって?」
「そりゃそうだろう。十代だからこそ、この肌艶。化粧を塗りたくったような年増女と一緒にするでない。貴族御用達なのは、そなたではなく、可愛いこの子たちだ!」
「……あ、アンナ?」
声をかけてきたアデルを睨むと、おぉーこわっとチャコの声が聞こえてきた。『年増女』と呼ばれるには、まだ、早いと思っていたが、私の琴線には触れたようだ。
「アンナは、十分美人で可愛いし、強くて……」
「アデル?」
「……はい」
「剣で鎖は斬ったことあるかしら?」
「はい?アンナ、大丈夫?」
「いたって、冷静よ?」
にこぉっと笑って、小声でアデルに聞くが、無理だと返って来た。
「鎖くらい切れるようになってね?」
「はぁ?俺だって、切れねぇよ?何?切れんの?」
「切れるに決まっているけど?私を誰だと思っているの?」
「年増女」
「こら、チャコ!」
「……そう。首、洗っておいてね?コーコナなんて小さな領地で最後にしないわ!公都で、晒し首にしてあげる!」
「えっ?ちょ、ちょっと待て!ほんの……ほんの冗談だから?」
「じょーうだん?それって……おいしいのかしら?」
怯えるチャコと私の間にアデルが入り、作戦をと小声でいう。
「私が首輪が繋がっている鎖を全部切るからアデルとココナは、彼女たちを回収してほしいの!いいかしら?」
「わかった。なんとか、やってみるよ!ココナ、頑張ろうな?」
「……」
「ココナ?」
アデルの呼びかけにハッとするココナ。この場所の出身だと言っていたココナの様子が、明らかにおかしい。大丈夫か問おうとしたとき、老人がおもむろに数字をを言えば、ココナが直立不動になった。
「ふむ。5192番は、ココナと名付けられていたか。惜しいことしたなぁ……あのとき、脱走されてしまって……ここへ戻ってくるとは、いい心がけだ!さぁ、こっちに……」
手を伸ばす老人にココナは躊躇いがちに手を出した。なるで、その手を掴むように。
「ココナっ!しっかりなさい!」
私が呼びかけた瞬間、正気を取り戻したようになったが、体を抱きしめるように震えるので、シークに任せ、私は老人の方へ向き直り、駆け始める。
何をしようとしているのか、見当もついていない老人は、目を見張っていたが、同時に動いたアデルが、次々と私たちが立っていた方へと女の子たちを連れていく。
「すげぇ……本当に切ってしまうなんて!」
「そんなのは、あと!」
「はいはい」
「はいは1回でいいわ!」
鎖がジャランと地面についてしまい、口惜しそうに老人は私を見た。
「こんなことが許されるとでも?男爵が、ここをどれほど、重宝されていたか!」
「男爵ねぇ……」
「じぃさん、残念ながら、男爵の時代は、結構前に終わったぞ?時代に取り残されると、闇に葬られるぞ?」
「ふんっ!何を。その女どもを殺せ!」
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「アンナ!」
「大丈夫。ココナは、私が止めるから、アデルたちは!」
「わかりました!」
私は、ナイフを振りかざすココナに向かって何もせず。ただ微笑んだ。正気を失っているココナは、老人の命令に従い、私にナイフ振り下ろす。
血しぶきが私の顔に飛ぶ。アデルたちが驚き、慌てて駆け寄ろうとしたのである。
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