ハニーローズ  ~ 『予知夢』から始まった未来変革 ~

悠月 星花

文字の大きさ
上 下
943 / 1,513

ようこそ、いらっしゃいました

しおりを挟む
 私の前に立ちはだかった老人。見覚えもないその老人を少し睨む。後ろにいる美少女たちの首にある首輪。繋がれている鎖が気になって仕方がない。
 あと、後ろで様子のおかしいココナのことも気になった。


「ようこそ、いらっしゃいました。我が牙城に。何か御用でしょうか?」


 言葉は丁寧。服装も綺麗。コーコナの一等地で商売をしていてもおかしくないほどの見栄えの老人は、私を見て、ニタっと笑った。


「用事ねぇ?ここは、アンバー公爵の土地だから、少々好きなように手を加えよと思うのだけど、どう思う?」
「そうですね?そんなこと、願い下げですね。ここは、この汚さがあるから、商品が輝く。この汚い場所だからこそ、この美しさが、際立つでしょ?」


 一人の少女の鎖を引っ張り、引き寄せて顔をよく見えるようにこちらに向ける。少々やせ細ってはいるが、娼館に売ることを考えられているのか、少々薬を使われているように目が虚ろになっている。

 ……麻薬が出回っているって話あったけど、コーコナでは幸い、大きな話として聞いていなかった。ただ、ここだけは、勝手が違うってことなのね。
 薬草畑のものは、管理がされている。ここで手に入れられるとしたら、隣の領地から。確か、隣の領地では、多少抑えられているらしいけど、中毒者が少しずつ増えてきているって、聞いたことがある。


「商品ってこと?」
「そうです。いいでしょ?ここいらで、1番の美人ですよ!」


 頬をなぞるように撫でている。怖気がするが、後ろ手でグッと拳を握って我慢した。私より、彼女たちのほうが、ずっと、嫌な思いをしているのだからと。


「……ここで1番の美人は、私だと思うけど?地位も名誉も欲しいまま。社交界でも人気なのよ?」
「何を言っておる、年増が!」
「年増ですって?」
「そりゃそうだろう。十代だからこそ、この肌艶。化粧を塗りたくったような年増女と一緒にするでない。貴族御用達なのは、そなたではなく、可愛いこの子たちだ!」
「……あ、アンナ?」


 声をかけてきたアデルを睨むと、おぉーこわっとチャコの声が聞こえてきた。『年増女』と呼ばれるには、まだ、早いと思っていたが、私の琴線には触れたようだ。


「アンナは、十分美人で可愛いし、強くて……」
「アデル?」
「……はい」
「剣で鎖は斬ったことあるかしら?」
「はい?アンナ、大丈夫?」
「いたって、冷静よ?」


 にこぉっと笑って、小声でアデルに聞くが、無理だと返って来た。


「鎖くらい切れるようになってね?」
「はぁ?俺だって、切れねぇよ?何?切れんの?」
「切れるに決まっているけど?私を誰だと思っているの?」
「年増女」
「こら、チャコ!」
「……そう。首、洗っておいてね?コーコナなんて小さな領地で最後にしないわ!公都で、晒し首にしてあげる!」
「えっ?ちょ、ちょっと待て!ほんの……ほんの冗談だから?」
「じょーうだん?それって……おいしいのかしら?」


 怯えるチャコと私の間にアデルが入り、作戦をと小声でいう。


「私が首輪が繋がっている鎖を全部切るからアデルとココナは、彼女たちを回収してほしいの!いいかしら?」
「わかった。なんとか、やってみるよ!ココナ、頑張ろうな?」
「……」
「ココナ?」


 アデルの呼びかけにハッとするココナ。この場所の出身だと言っていたココナの様子が、明らかにおかしい。大丈夫か問おうとしたとき、老人がおもむろに数字をを言えば、ココナが直立不動になった。


「ふむ。5192番は、ココナと名付けられていたか。惜しいことしたなぁ……あのとき、脱走されてしまって……ここへ戻ってくるとは、いい心がけだ!さぁ、こっちに……」


 手を伸ばす老人にココナは躊躇いがちに手を出した。なるで、その手を掴むように。


「ココナっ!しっかりなさい!」


 私が呼びかけた瞬間、正気を取り戻したようになったが、体を抱きしめるように震えるので、シークに任せ、私は老人の方へ向き直り、駆け始める。
 何をしようとしているのか、見当もついていない老人は、目を見張っていたが、同時に動いたアデルが、次々と私たちが立っていた方へと女の子たちを連れていく。


「すげぇ……本当に切ってしまうなんて!」
「そんなのは、あと!」
「はいはい」
「はいは1回でいいわ!」


 鎖がジャランと地面についてしまい、口惜しそうに老人は私を見た。


「こんなことが許されるとでも?男爵が、ここをどれほど、重宝されていたか!」
「男爵ねぇ……」
「じぃさん、残念ながら、男爵の時代は、結構前に終わったぞ?時代に取り残されると、闇に葬られるぞ?」
「ふんっ!何を。その女どもを殺せ!」


 老人が言った瞬間、首輪を付けている少女たちが、私たちを襲ってきた。その中には、ナイフを持ったココナが、実に躾られた猫のように、私を狙って一直線に来る。


「アンナ!」
「大丈夫。ココナは、私が止めるから、アデルたちは!」
「わかりました!」


 私は、ナイフを振りかざすココナに向かって何もせず。ただ微笑んだ。正気を失っているココナは、老人の命令に従い、私にナイフ振り下ろす。
 血しぶきが私の顔に飛ぶ。アデルたちが驚き、慌てて駆け寄ろうとしたのである。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

わたしを捨てた騎士様の末路

夜桜
恋愛
 令嬢エレナは、騎士フレンと婚約を交わしていた。  ある日、フレンはエレナに婚約破棄を言い渡す。その意外な理由にエレナは冷静に対処した。フレンの行動は全て筒抜けだったのだ。 ※連載

『伯爵令嬢 爆死する』

三木谷夜宵
ファンタジー
王立学園の中庭で、ひとりの伯爵令嬢が死んだ。彼女は婚約者である侯爵令息から婚約解消を求められた。しかし、令嬢はそれに反発した。そんな彼女を、令息は魔術で爆死させてしまったのである。 その後、大陸一のゴシップ誌が伯爵令嬢が日頃から受けていた仕打ちを暴露するのであった。 カクヨムでも公開しています。

親切なミザリー

みるみる
恋愛
第一王子アポロの婚約者ミザリーは、「親切なミザリー」としてまわりから慕われていました。 ところが、子爵家令嬢のアリスと偶然出会ってしまったアポロはアリスを好きになってしまい、ミザリーを蔑ろにするようになりました。アポロだけでなく、アポロのまわりの友人達もアリスを慕うようになりました。 ミザリーはアリスに嫉妬し、様々な嫌がらせをアリスにする様になりました。 こうしてミザリーは、いつしか親切なミザリーから悪女ミザリーへと変貌したのでした。 ‥ですが、ミザリーの突然の死後、何故か再びミザリーの評価は上がり、「親切なミザリー」として人々に慕われるようになり、ミザリーが死後海に投げ落とされたという崖の上には沢山の花が、毎日絶やされる事なく人々により捧げられ続けるのでした。 ※不定期更新です。

結婚記念日をスルーされたので、離婚しても良いですか?

秋月一花
恋愛
 本日、結婚記念日を迎えた。三周年のお祝いに、料理長が腕を振るってくれた。私は夫であるマハロを待っていた。……いつまで経っても帰ってこない、彼を。  ……結婚記念日を過ぎてから帰って来た彼は、私との結婚記念日を覚えていないようだった。身体が弱いという幼馴染の見舞いに行って、そのまま食事をして戻って来たみたいだ。  彼と結婚してからずっとそう。私がデートをしてみたい、と言えば了承してくれるものの、当日幼馴染の女性が体調を崩して「後で埋め合わせするから」と彼女の元へ向かってしまう。埋め合わせなんて、この三年一度もされたことがありませんが?  もう我慢の限界というものです。 「離婚してください」 「一体何を言っているんだ、君は……そんなこと、出来るはずないだろう?」  白い結婚のため、可能ですよ? 知らないのですか?  あなたと離婚して、私は第二の人生を歩みます。 ※カクヨム様にも投稿しています。

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持

空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。 その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。 ※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。 ※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。

婚約破棄されて追放された私、今は隣国で充実な生活送っていますわよ? それがなにか?

鶯埜 餡
恋愛
 バドス王国の侯爵令嬢アメリアは無実の罪で王太子との婚約破棄、そして国外追放された。  今ですか?  めちゃくちゃ充実してますけど、なにか?

断罪イベント返しなんぞされてたまるか。私は普通に生きたいんだ邪魔するな!!

ファンタジー
「ミレイユ・ギルマン!」 ミレヴン国立宮廷学校卒業記念の夜会にて、突如叫んだのは第一王子であるセルジオ・ライナルディ。 「お前のような性悪な女を王妃には出来ない! よって今日ここで私は公爵令嬢ミレイユ・ギルマンとの婚約を破棄し、男爵令嬢アンナ・ラブレと婚姻する!!」 そう宣言されたミレイユ・ギルマンは冷静に「さようでございますか。ですが、『性悪な』というのはどういうことでしょうか?」と返す。それに反論するセルジオ。彼に肩を抱かれている渦中の男爵令嬢アンナ・ラブレは思った。 (やっべえ。これ前世の投稿サイトで何万回も見た展開だ!)と。 ※pixiv、カクヨム、小説家になろうにも同じものを投稿しています。

強制力がなくなった世界に残されたものは

りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った 令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達 世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか その世界を狂わせたものは

処理中です...