937 / 1,480
お久しぶりのタンザ
しおりを挟む
コットンを伴って、タンザが養女として迎え入れられた村へ向かう。ここは、一大養蚕地となっており、この時期は、あちこちで、まだ、蚕が動き回っているかもしれない。
「ここに来るのも久しぶりですねぇ」
「そうなの?おじいさんがいるから、もっと足しげく通っているのかと思っていたけど……」
「そうしたいのはやまやまなんですが、綿花農家も規模が大きくなったり、品種改良の研究を手伝ったりと、忙しくしているので、ここまで足を運ぶことができないでいるんですよ」
「無理はしていないよね?」
「もちろんですよ!去年のこともありましたから、今年は、農家全体を集めて、話し合いをしようとしています。頼まれてた品種改良の話もちょうどできるし」
「さっきから、品種改良って言葉をきくけど?」
報告のない話を聞き、何のことだろうかと考えた。コーコナからの報告書では、綿花の品種改良をしているなど、聞いていなかったように思う。
「あれ?報告漏れていましたか?ヨハン教授と話をして、綿花の品種改良をしたいからって……助手さん、今、うちに来てくれていますよ?」
「本当?私、何も聞いていないのだけど……予算とか、どうなっているの?」
「……予算なんてあるんですか?」
「もちろん!お金は無限にわくものじゃないから、品種改良とかその他の研究には、必ず予算会議をしているのよ。もしかして、通してないんじゃない?」
「……えーっと、初めて知りました」
「……困るわね。誰よ!その予算通さず、研究しちゃってるバカわ!」
「教授の助手さんです……助手さんって呼んでるんで、名前までは、知らなくて」
「……帰ったら、至急予算案を出すように言っておいてくれる?よっぽどじゃない限り、予算はつけるし、お金も出すからって……ヨハンの研究費に比べれば、雀の涙ほどもないわ!」
知らないところで始まっていた品種改良。別に悪いことではないのでいいのだが……一言、声をかけておいて欲しいのは、本音だ。あのヨハンですら、多額の予算を私からぶんどるために、どれほどのレポートと報告書、申請に値する研究なのかを分厚い冊子5冊ほど書いて出してくる。
根っからの研究者であるので、実は、得意らしい。もっともらしく書かれている予算書を見れば、出さざるを得ないのだが……ヨハンの研究で、不採用となったものは、今まで1つもなかったことを思い出す。
村の入り口に着いたので、馬を小屋に入れ、タンザが滞在している家に向かった。ところどころ、お散歩中だったり逃亡中だったりかの蚕が地面を頑張ってはっているのを踏まないようにスカートの裾をあげ歩く。
「……蚕って、こんなに大きいのですか?昔見たとき、女性の小指より細く小さいものだと思っていましたが、思い違いでした?」
アデルは、大きな蚕を避けながら、上手に歩いて行く。表情を見る限り、うねうねとはっている蚕は苦手のようだ。
「もっと、小さいわね。ここのは、それこそ、品種改良されているものよ!蚕自身を大きくして、とれる繭も大きくする研究をしていたのが、タンザ。今は、その大きな蚕をもっと早い期間で成長させ、なおかつ、品質のいいものができるよう、交配の研究をしているのよ!」
「ここにもお金を出しているのですか?」
「当たり前よ!貴族女性のドレスが、ハニーアンバー店の主力商品。少しでも、手を抜いたり、品質が落ちるような生糸を作ってごらんなさい。誰も見向きしなくなるわ!」
「今年の夏は、生糸でつくったレースが人気高だと聞いていますが、どうですか?」
「売上、いいわよ!胸元をわざと開けたドレスを流行としたんだけどね?」
「それ、ナタリー様から聞きました。本当の狙いは、白い肌に映えるレースを作ることだって。アンナリーゼ様の今年の夜会用ドレスもそうなのですよね?」
「えぇ、情報通ね?」
コットンを褒めると、もちろんですと返ってくる。頼もしい話だと感心していたら、アデルの方は、何も思いつかなかったようだ。
「ドレス自体も、ハニーアンバー店の高いものを買んだけど、あえて肌を見せるように開けたの。このあたり……」
私が襟ぐりを指でなぞると、じっと見つめてくるアデル。少しだけ頬が赤い気がするが、何も言わないであげよう。
「若い人ばかりの集まりなら、何も言われないでしょうけど、年かさの方が一緒だと、胸元や背中が開きすぎて、はしたないと言われてしまうのよね。そこをあえてそのままにして、レースを後追いでつけられるようにして、開いた胸元を見えにくくしたのよ。ナタリーが考えてくれたのだけど、大当たりだったのよね。私の今度の夜会のドレスは、背中がほとんど見えるようなドレスになっているのだけど、青紫の薔薇の刺繍で透かすようにするのよ。あとは、このあたりとかのレースも着脱できるようにして、同じドレスでも、違うドレスに見えるように工夫したの」
「……なんていうか、女性のオシャレに関することは、ついていけません」
「画期的な考えでしたよね……ナタリー様のお話を聞いて、益々、生糸を作らないとっておもいましたもの!」
理解してくれないアデルと微妙な表情をしながら聞いていたコットンとは違い、共感してくれる女性が、話の輪に加わった。
「タンザ!」
「お久しぶりです!お元気にされていましたか!」
初めてこちらに呼んだとき、怯えられたタンザも、今では立派なコーコナ領の一員だ。表情も自信に満ち、ここでの生活が潤っていることが見て取れ、嬉しくなた。
「ここに来るのも久しぶりですねぇ」
「そうなの?おじいさんがいるから、もっと足しげく通っているのかと思っていたけど……」
「そうしたいのはやまやまなんですが、綿花農家も規模が大きくなったり、品種改良の研究を手伝ったりと、忙しくしているので、ここまで足を運ぶことができないでいるんですよ」
「無理はしていないよね?」
「もちろんですよ!去年のこともありましたから、今年は、農家全体を集めて、話し合いをしようとしています。頼まれてた品種改良の話もちょうどできるし」
「さっきから、品種改良って言葉をきくけど?」
報告のない話を聞き、何のことだろうかと考えた。コーコナからの報告書では、綿花の品種改良をしているなど、聞いていなかったように思う。
「あれ?報告漏れていましたか?ヨハン教授と話をして、綿花の品種改良をしたいからって……助手さん、今、うちに来てくれていますよ?」
「本当?私、何も聞いていないのだけど……予算とか、どうなっているの?」
「……予算なんてあるんですか?」
「もちろん!お金は無限にわくものじゃないから、品種改良とかその他の研究には、必ず予算会議をしているのよ。もしかして、通してないんじゃない?」
「……えーっと、初めて知りました」
「……困るわね。誰よ!その予算通さず、研究しちゃってるバカわ!」
「教授の助手さんです……助手さんって呼んでるんで、名前までは、知らなくて」
「……帰ったら、至急予算案を出すように言っておいてくれる?よっぽどじゃない限り、予算はつけるし、お金も出すからって……ヨハンの研究費に比べれば、雀の涙ほどもないわ!」
知らないところで始まっていた品種改良。別に悪いことではないのでいいのだが……一言、声をかけておいて欲しいのは、本音だ。あのヨハンですら、多額の予算を私からぶんどるために、どれほどのレポートと報告書、申請に値する研究なのかを分厚い冊子5冊ほど書いて出してくる。
根っからの研究者であるので、実は、得意らしい。もっともらしく書かれている予算書を見れば、出さざるを得ないのだが……ヨハンの研究で、不採用となったものは、今まで1つもなかったことを思い出す。
村の入り口に着いたので、馬を小屋に入れ、タンザが滞在している家に向かった。ところどころ、お散歩中だったり逃亡中だったりかの蚕が地面を頑張ってはっているのを踏まないようにスカートの裾をあげ歩く。
「……蚕って、こんなに大きいのですか?昔見たとき、女性の小指より細く小さいものだと思っていましたが、思い違いでした?」
アデルは、大きな蚕を避けながら、上手に歩いて行く。表情を見る限り、うねうねとはっている蚕は苦手のようだ。
「もっと、小さいわね。ここのは、それこそ、品種改良されているものよ!蚕自身を大きくして、とれる繭も大きくする研究をしていたのが、タンザ。今は、その大きな蚕をもっと早い期間で成長させ、なおかつ、品質のいいものができるよう、交配の研究をしているのよ!」
「ここにもお金を出しているのですか?」
「当たり前よ!貴族女性のドレスが、ハニーアンバー店の主力商品。少しでも、手を抜いたり、品質が落ちるような生糸を作ってごらんなさい。誰も見向きしなくなるわ!」
「今年の夏は、生糸でつくったレースが人気高だと聞いていますが、どうですか?」
「売上、いいわよ!胸元をわざと開けたドレスを流行としたんだけどね?」
「それ、ナタリー様から聞きました。本当の狙いは、白い肌に映えるレースを作ることだって。アンナリーゼ様の今年の夜会用ドレスもそうなのですよね?」
「えぇ、情報通ね?」
コットンを褒めると、もちろんですと返ってくる。頼もしい話だと感心していたら、アデルの方は、何も思いつかなかったようだ。
「ドレス自体も、ハニーアンバー店の高いものを買んだけど、あえて肌を見せるように開けたの。このあたり……」
私が襟ぐりを指でなぞると、じっと見つめてくるアデル。少しだけ頬が赤い気がするが、何も言わないであげよう。
「若い人ばかりの集まりなら、何も言われないでしょうけど、年かさの方が一緒だと、胸元や背中が開きすぎて、はしたないと言われてしまうのよね。そこをあえてそのままにして、レースを後追いでつけられるようにして、開いた胸元を見えにくくしたのよ。ナタリーが考えてくれたのだけど、大当たりだったのよね。私の今度の夜会のドレスは、背中がほとんど見えるようなドレスになっているのだけど、青紫の薔薇の刺繍で透かすようにするのよ。あとは、このあたりとかのレースも着脱できるようにして、同じドレスでも、違うドレスに見えるように工夫したの」
「……なんていうか、女性のオシャレに関することは、ついていけません」
「画期的な考えでしたよね……ナタリー様のお話を聞いて、益々、生糸を作らないとっておもいましたもの!」
理解してくれないアデルと微妙な表情をしながら聞いていたコットンとは違い、共感してくれる女性が、話の輪に加わった。
「タンザ!」
「お久しぶりです!お元気にされていましたか!」
初めてこちらに呼んだとき、怯えられたタンザも、今では立派なコーコナ領の一員だ。表情も自信に満ち、ここでの生活が潤っていることが見て取れ、嬉しくなた。
0
お気に入りに追加
120
あなたにおすすめの小説
挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました
結城芙由奈
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】
今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。
「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」
そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。
そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。
けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。
その真意を知った時、私は―。
※暫く鬱展開が続きます
※他サイトでも投稿中
悲恋を気取った侯爵夫人の末路
三木谷夜宵
ファンタジー
侯爵夫人のプリシアは、貴族令嬢と騎士の悲恋を描いた有名なロマンス小説のモデルとして持て囃されていた。
順風満帆だった彼女の人生は、ある日突然に終わりを告げる。
悲恋のヒロインを気取っていた彼女が犯した過ちとは──?
カクヨムにも公開してます。
側妃、で御座いますか?承知いたしました、ただし条件があります。
とうや
恋愛
「私はシャーロットを妻にしようと思う。君は側妃になってくれ」
成婚の儀を迎える半年前。王太子セオドアは、15年も婚約者だったエマにそう言った。微笑んだままのエマ・シーグローブ公爵令嬢と、驚きの余り硬直する近衛騎士ケイレブ・シェパード。幼馴染だった3人の関係は、シャーロットという少女によって崩れた。
「側妃、で御座いますか?承知いたしました、ただし条件があります」
********************************************
ATTENTION
********************************************
*世界軸は『側近候補を外されて覚醒したら〜』あたりの、なんちゃってヨーロッパ風。魔法はあるけれど魔王もいないし神様も遠い存在。そんなご都合主義で設定うすうすの世界です。
*いつものような残酷な表現はありませんが、倫理観に難ありで軽い胸糞です。タグを良くご覧ください。
*R-15は保険です。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
逃した番は他国に嫁ぐ
基本二度寝
恋愛
「番が現れたら、婚約を解消してほしい」
婚約者との茶会。
和やかな会話が落ち着いた所で、改まって座を正した王太子ヴェロージオは婚約者の公爵令嬢グリシアにそう願った。
獣人の血が交じるこの国で、番というものの存在の大きさは誰しも理解している。
だから、グリシアも頷いた。
「はい。わかりました。お互いどちらかが番と出会えたら円満に婚約解消をしましょう!」
グリシアに答えに満足したはずなのだが、ヴェロージオの心に沸き上がる感情。
こちらの希望を受け入れられたはずのに…、何故か、もやっとした気持ちになった。
《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。
友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」
貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。
「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」
耳を疑いそう聞き返すも、
「君も、その方が良いのだろう?」
苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。
全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。
絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。
だったのですが。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる