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お久しぶりのタンザ
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コットンを伴って、タンザが養女として迎え入れられた村へ向かう。ここは、一大養蚕地となっており、この時期は、あちこちで、まだ、蚕が動き回っているかもしれない。
「ここに来るのも久しぶりですねぇ」
「そうなの?おじいさんがいるから、もっと足しげく通っているのかと思っていたけど……」
「そうしたいのはやまやまなんですが、綿花農家も規模が大きくなったり、品種改良の研究を手伝ったりと、忙しくしているので、ここまで足を運ぶことができないでいるんですよ」
「無理はしていないよね?」
「もちろんですよ!去年のこともありましたから、今年は、農家全体を集めて、話し合いをしようとしています。頼まれてた品種改良の話もちょうどできるし」
「さっきから、品種改良って言葉をきくけど?」
報告のない話を聞き、何のことだろうかと考えた。コーコナからの報告書では、綿花の品種改良をしているなど、聞いていなかったように思う。
「あれ?報告漏れていましたか?ヨハン教授と話をして、綿花の品種改良をしたいからって……助手さん、今、うちに来てくれていますよ?」
「本当?私、何も聞いていないのだけど……予算とか、どうなっているの?」
「……予算なんてあるんですか?」
「もちろん!お金は無限にわくものじゃないから、品種改良とかその他の研究には、必ず予算会議をしているのよ。もしかして、通してないんじゃない?」
「……えーっと、初めて知りました」
「……困るわね。誰よ!その予算通さず、研究しちゃってるバカわ!」
「教授の助手さんです……助手さんって呼んでるんで、名前までは、知らなくて」
「……帰ったら、至急予算案を出すように言っておいてくれる?よっぽどじゃない限り、予算はつけるし、お金も出すからって……ヨハンの研究費に比べれば、雀の涙ほどもないわ!」
知らないところで始まっていた品種改良。別に悪いことではないのでいいのだが……一言、声をかけておいて欲しいのは、本音だ。あのヨハンですら、多額の予算を私からぶんどるために、どれほどのレポートと報告書、申請に値する研究なのかを分厚い冊子5冊ほど書いて出してくる。
根っからの研究者であるので、実は、得意らしい。もっともらしく書かれている予算書を見れば、出さざるを得ないのだが……ヨハンの研究で、不採用となったものは、今まで1つもなかったことを思い出す。
村の入り口に着いたので、馬を小屋に入れ、タンザが滞在している家に向かった。ところどころ、お散歩中だったり逃亡中だったりかの蚕が地面を頑張ってはっているのを踏まないようにスカートの裾をあげ歩く。
「……蚕って、こんなに大きいのですか?昔見たとき、女性の小指より細く小さいものだと思っていましたが、思い違いでした?」
アデルは、大きな蚕を避けながら、上手に歩いて行く。表情を見る限り、うねうねとはっている蚕は苦手のようだ。
「もっと、小さいわね。ここのは、それこそ、品種改良されているものよ!蚕自身を大きくして、とれる繭も大きくする研究をしていたのが、タンザ。今は、その大きな蚕をもっと早い期間で成長させ、なおかつ、品質のいいものができるよう、交配の研究をしているのよ!」
「ここにもお金を出しているのですか?」
「当たり前よ!貴族女性のドレスが、ハニーアンバー店の主力商品。少しでも、手を抜いたり、品質が落ちるような生糸を作ってごらんなさい。誰も見向きしなくなるわ!」
「今年の夏は、生糸でつくったレースが人気高だと聞いていますが、どうですか?」
「売上、いいわよ!胸元をわざと開けたドレスを流行としたんだけどね?」
「それ、ナタリー様から聞きました。本当の狙いは、白い肌に映えるレースを作ることだって。アンナリーゼ様の今年の夜会用ドレスもそうなのですよね?」
「えぇ、情報通ね?」
コットンを褒めると、もちろんですと返ってくる。頼もしい話だと感心していたら、アデルの方は、何も思いつかなかったようだ。
「ドレス自体も、ハニーアンバー店の高いものを買んだけど、あえて肌を見せるように開けたの。このあたり……」
私が襟ぐりを指でなぞると、じっと見つめてくるアデル。少しだけ頬が赤い気がするが、何も言わないであげよう。
「若い人ばかりの集まりなら、何も言われないでしょうけど、年かさの方が一緒だと、胸元や背中が開きすぎて、はしたないと言われてしまうのよね。そこをあえてそのままにして、レースを後追いでつけられるようにして、開いた胸元を見えにくくしたのよ。ナタリーが考えてくれたのだけど、大当たりだったのよね。私の今度の夜会のドレスは、背中がほとんど見えるようなドレスになっているのだけど、青紫の薔薇の刺繍で透かすようにするのよ。あとは、このあたりとかのレースも着脱できるようにして、同じドレスでも、違うドレスに見えるように工夫したの」
「……なんていうか、女性のオシャレに関することは、ついていけません」
「画期的な考えでしたよね……ナタリー様のお話を聞いて、益々、生糸を作らないとっておもいましたもの!」
理解してくれないアデルと微妙な表情をしながら聞いていたコットンとは違い、共感してくれる女性が、話の輪に加わった。
「タンザ!」
「お久しぶりです!お元気にされていましたか!」
初めてこちらに呼んだとき、怯えられたタンザも、今では立派なコーコナ領の一員だ。表情も自信に満ち、ここでの生活が潤っていることが見て取れ、嬉しくなた。
「ここに来るのも久しぶりですねぇ」
「そうなの?おじいさんがいるから、もっと足しげく通っているのかと思っていたけど……」
「そうしたいのはやまやまなんですが、綿花農家も規模が大きくなったり、品種改良の研究を手伝ったりと、忙しくしているので、ここまで足を運ぶことができないでいるんですよ」
「無理はしていないよね?」
「もちろんですよ!去年のこともありましたから、今年は、農家全体を集めて、話し合いをしようとしています。頼まれてた品種改良の話もちょうどできるし」
「さっきから、品種改良って言葉をきくけど?」
報告のない話を聞き、何のことだろうかと考えた。コーコナからの報告書では、綿花の品種改良をしているなど、聞いていなかったように思う。
「あれ?報告漏れていましたか?ヨハン教授と話をして、綿花の品種改良をしたいからって……助手さん、今、うちに来てくれていますよ?」
「本当?私、何も聞いていないのだけど……予算とか、どうなっているの?」
「……予算なんてあるんですか?」
「もちろん!お金は無限にわくものじゃないから、品種改良とかその他の研究には、必ず予算会議をしているのよ。もしかして、通してないんじゃない?」
「……えーっと、初めて知りました」
「……困るわね。誰よ!その予算通さず、研究しちゃってるバカわ!」
「教授の助手さんです……助手さんって呼んでるんで、名前までは、知らなくて」
「……帰ったら、至急予算案を出すように言っておいてくれる?よっぽどじゃない限り、予算はつけるし、お金も出すからって……ヨハンの研究費に比べれば、雀の涙ほどもないわ!」
知らないところで始まっていた品種改良。別に悪いことではないのでいいのだが……一言、声をかけておいて欲しいのは、本音だ。あのヨハンですら、多額の予算を私からぶんどるために、どれほどのレポートと報告書、申請に値する研究なのかを分厚い冊子5冊ほど書いて出してくる。
根っからの研究者であるので、実は、得意らしい。もっともらしく書かれている予算書を見れば、出さざるを得ないのだが……ヨハンの研究で、不採用となったものは、今まで1つもなかったことを思い出す。
村の入り口に着いたので、馬を小屋に入れ、タンザが滞在している家に向かった。ところどころ、お散歩中だったり逃亡中だったりかの蚕が地面を頑張ってはっているのを踏まないようにスカートの裾をあげ歩く。
「……蚕って、こんなに大きいのですか?昔見たとき、女性の小指より細く小さいものだと思っていましたが、思い違いでした?」
アデルは、大きな蚕を避けながら、上手に歩いて行く。表情を見る限り、うねうねとはっている蚕は苦手のようだ。
「もっと、小さいわね。ここのは、それこそ、品種改良されているものよ!蚕自身を大きくして、とれる繭も大きくする研究をしていたのが、タンザ。今は、その大きな蚕をもっと早い期間で成長させ、なおかつ、品質のいいものができるよう、交配の研究をしているのよ!」
「ここにもお金を出しているのですか?」
「当たり前よ!貴族女性のドレスが、ハニーアンバー店の主力商品。少しでも、手を抜いたり、品質が落ちるような生糸を作ってごらんなさい。誰も見向きしなくなるわ!」
「今年の夏は、生糸でつくったレースが人気高だと聞いていますが、どうですか?」
「売上、いいわよ!胸元をわざと開けたドレスを流行としたんだけどね?」
「それ、ナタリー様から聞きました。本当の狙いは、白い肌に映えるレースを作ることだって。アンナリーゼ様の今年の夜会用ドレスもそうなのですよね?」
「えぇ、情報通ね?」
コットンを褒めると、もちろんですと返ってくる。頼もしい話だと感心していたら、アデルの方は、何も思いつかなかったようだ。
「ドレス自体も、ハニーアンバー店の高いものを買んだけど、あえて肌を見せるように開けたの。このあたり……」
私が襟ぐりを指でなぞると、じっと見つめてくるアデル。少しだけ頬が赤い気がするが、何も言わないであげよう。
「若い人ばかりの集まりなら、何も言われないでしょうけど、年かさの方が一緒だと、胸元や背中が開きすぎて、はしたないと言われてしまうのよね。そこをあえてそのままにして、レースを後追いでつけられるようにして、開いた胸元を見えにくくしたのよ。ナタリーが考えてくれたのだけど、大当たりだったのよね。私の今度の夜会のドレスは、背中がほとんど見えるようなドレスになっているのだけど、青紫の薔薇の刺繍で透かすようにするのよ。あとは、このあたりとかのレースも着脱できるようにして、同じドレスでも、違うドレスに見えるように工夫したの」
「……なんていうか、女性のオシャレに関することは、ついていけません」
「画期的な考えでしたよね……ナタリー様のお話を聞いて、益々、生糸を作らないとっておもいましたもの!」
理解してくれないアデルと微妙な表情をしながら聞いていたコットンとは違い、共感してくれる女性が、話の輪に加わった。
「タンザ!」
「お久しぶりです!お元気にされていましたか!」
初めてこちらに呼んだとき、怯えられたタンザも、今では立派なコーコナ領の一員だ。表情も自信に満ち、ここでの生活が潤っていることが見て取れ、嬉しくなた。
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