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おチビちゃん!

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「な……な、にが?」
「スピアって言ったかしら?」


 少年のような背格好のスピアは、私を見上げ、放心しているようで、呆然としていた。


「警備隊が負ける?いや、それよりも!」


 私の顔を見ながらブツブツと言い始めたスピアは、状況がうまく飲み込めないでいたのだろう。


「アデル!」
「何でしょう?」
「これって、正当防衛は適応できるかしら?」
「まぁ、一応は……上官であるスピアへの命令違反もありますし……それに、この領地で、アンナ以上の人は、誰もいませんから、好きなようにすればいいと思いますよ?」
「投げやりね……?」
「そんなことは、ないですよ。だいたい、木剣で、警備隊に勝つのは、さすがに、近衛隊員として、複雑です」
「……近衛隊員?」


 スピアは私たちの会話を聞き、アデルが『近衛隊員』と言ったことで、とても驚くと共に、納得したような顔をしている。


「あぁ、挨拶が遅れましたね。近衛の一員をしている、アデルと申します。そちら、スピアさんでいいですか?」
「……はい。このコーコナ領の警備隊副隊長を拝命していますスピアと申します。近衛の方だとは、知らず……部下が、大変失礼なことを」
「いえ、私はいいのです。近衛と言っても、今は、近衛の任というよりかは、退職後の仕事について学んでいるところですから」
「……近衛をお辞めになるのですか?隊員になるには、厳しい選抜があると聞いています。それなのに、もったいない」


 アデルはクスっと笑った。珍しいその表情に私は小首を傾げる。


「もったいないですか?私にとって、何より光栄な話をいただいているのです。近衛の地位は確かに捨てがたいですが、主自らの引き抜きは、正直、何物にも代えがたいですよ!」
「……地位を捨てても光栄な話ですか?」
「えぇ、そうです。アンバー公爵アンナリーゼ様の護衛です。まぁ、私などいなくても、強いのですけどね……ビックリするくらい」


 チラリと私を見たあと、下に転がっている警備隊を見て苦笑いをした。


「領主様は、それほど強いのですか?」
「えぇ、もちろんです。近衛の100人斬りなんて平然としてしまうくらいですから、正直、警備隊では、歯が立たないと思いますけどね?」
「それほどなのですか?」
「えぇ、そこに息ひとつ乱さず、立っている方なんですけどね?」
「……そこに?立っているって、ご夫人じゃないですか?」
「えぇ、知らないのですか?」
「……どういうことですか?領主様はアンバー公爵ということは知っていますが、確か、前領主の娘婿だと聞いています」
「……いつから、警備隊の副隊長に?」
「最近です。剣はからっきしダメなんですが、字が書けるので、報告書を書いたりなどをしていまして、領地内の警備計画をしたりと……今は、覚えることがたくさんで」
「それなら、まず、領主であるアンナの顔を覚えることが1番大事ですよ?」
「たしかに……そうですね。女性が領主だなんて、思いもしていませんでした。申し訳ありません」


 深々と頭を下げるスピア。思わず、スピアの頭を撫でてしまった。柔らかいその癖のある髪はとても撫でやすい位置にある。


「……あの」
「あっ、ごめんね。その、おチビちゃんだから、つい……」
「それ、気にしているんですけど……」
「ごめんなさい。ちょうど、撫でやすいところにあるから……」
「いえ、いいんですけど、その……領主様って、本当ですか?」
「えぇ、本当よ!私、これでも、領主なの!よろしくね?スピア」
「はい。こちらこそ、よろしくお願いします」


 再度、深々と頭を下げるスピア。


「スピアは、文字を書けることで、この警備隊に雇われているのかしら?」
「そうだと思いたいのですが……ここって、思っていたところとは、少し違うような気がします」


 明らかにがっかりしたような表情に苦笑いをした。見覚えのある光景ではあったので、何も言わなかったのだが、スピアはそうじゃないらしい。ただ、アンバー領より酷いと感じたことも事実。
 スピアに頼み事をすることにした。


「私、人材を探しているの。ここに、読み書きができて、努力もできる人って、いるかしら?」
「……心当たりは、今のところありませんが、仮にいれば、お知らせします。ここの訓練場では、そういった人を見かけないので、各地の警備へ出払っているのかもしれません」
「そう。私はあと数日で、この領地を離れないといけないの。スピアは、ここの管理は頼まれているかしら?」
「いえ、特には。他にも副隊長はいるので」
「そう。じゃあ、今すぐ合わせてくれる?」


 こちらにどうぞというので、ついていく。なんだか、寂しい背中が印象的である。


「アンナ、その……」
「何かしら?」
「いえ、出しゃばったことを言うのかもしれませんが、アンナが欲しい人材のことで……」
「あぁ、なんとなく、察してくれたかしら?さすが、アデルね?」


 クスクスっと笑うと、アデルと分かり合えたようで、頷きあう。私が欲しい人材が、まさに目の前で、がっかりしているのだ。
 その背中を救わない手はないだろう。領地のために尽くしてくれる……私を見上げる瞳から、そう、感じたのだから。
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