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適正検査Ⅳ
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「ア、ンナ様のせいじゃないから、大丈夫」
一頻りないたダンが私から離れて、ぐしゃぐしゃの顔で笑う。無理をして笑っているようには見えなかった。ホッとしたようなその笑顔に少しだけ救われる気持ちになる。
「俺たちを見つけてくれたのは、アンナ様だから……ありがとう」
後ろからカイルがニシシと笑う。その隣で、マリアも同じように。まだ、少しぐずっているシシリーも涙を拭いているところだ。
「もう、僕、泣かない。アンナ様、僕に何ができる?」
「そうね……文官になってもらいたいとも思っているのよね……でも、頭を使うより、体を使う方が好きなのでしょ?」
「うん。でも、必要なら……両方するから僕に剣も勉強も教えて!」
さっきまで泣いていたはずのダンは、強い意志を持って、私を見上げる。
領地の子らって、本当にたくましい。貴族の子たちにここまで這い上がろうとできる令息令嬢はどれほどいるのかしら?
今、ここにいる四人は、これから、自身の足で立ち上がり、歩き出すことができる。その背中を押してあげるのが私で、それ以上のことは何もできない。
「できる?」
「うぅん、僕、やる!アンナ様が必要としてくれるなら、頑張る!」
「わ、私も!剣を握ったりはできないかもしれないけど……その、できることがあるなら!」
「もちろんあるわ!シシリーは、もう武器をひとつ持っているもの」
小首を傾げるシシリー。何のことだかわからないというふうで、可愛らしい。
「シシリーは本が読めるのでしょ?それなら、文官を目指しなさい。文官の登用試験は、平民には難し過ぎると言われているし、優遇されるのは貴族の令息がほとんど。だけど、いい手本がたくさんアンバー領にはいるから、どんどん、知識を吸収していきなさい。一人で無理なら、ダンと一緒に。ダンだけでなく、いずれは、ミアもそちら側に行くはずよ!」
「ミアって?」
「私の秘蔵っ子よ?お人形さんみたいで、とっても可愛いの。仲良くしてあげてね?」
二人が頷く。四人の適正をそれぞれ見ながら、順次成長に合わせて課題を伝えることにした。私が見てなのか、他の人からの指示なのかは、まだ、わからないけど……きっと、四人ならこなしていけるだろう。
私の『予知夢』で見た十三人の子どもたち。アンジェラから『青薔薇』を贈られたうちの七人が揃ったのである。
「ふぅ……やっと、半分ね。まだ、第二公子に第一王子?まだまだ先は、長いわよ?」
「半分?何が半分なんです?」
「ん?何でもないわよ。私が考えていることだから、気にしないで?」
「気になりますが、とりあえず……」
「そういえば、適正検査は終わりですか?」
「一応は。あとは、個々の能力に合わせて、師事する先生を決めましょう。剣術は、私が見てもいいけど、もうすぐ、ウィルが帰ってくるって話だし、セバスが帰ってきたら勉強は一通り教えてくれるでしょうし、あとは、みながよってたかって教えるくらいよね?アデルも先生だから、しっかり吸収できるところはしてちょうだいね?」
カイルとダンに目配せすれば、うんと頷いていた。
「では、まず、礼儀作法を覚えてもらいましょうか。とりあえず、今いる孤児の中で、あなたたちが、孤児の代表となりますから。それと、働かないと食べて行けません。アンバー公爵家には、余分なお金はありませんから」
「ディル、それじゃあ、身もふたもない!」
「本当のことですよ!」
「そうだけど……もう少し、何かに包んでね?」
「それじゃあ、危機感が伝わらないのでダメです。いいですか?これからあなたたちが孤児たちの代表です。あなたたちが、勉学に仕事に励んだ分のお給金を出します。そのお金で、孤児たちの生活を賄います。もちろん、あの孤児たちも、自身の分は何かしらして生活できるようにしますから!」
「子どもに働けは、ねぇ?アンナ」
「近衛では、8歳から見習いなのでしょ?」
「そうですけど……ディルさん、厳しそうだから……」
「愛情のある厳しさは、あの子たちの成長を促進していくわ!それに、公都に帰ったら、本宅にいることがあるから、礼儀作法に話し方だけでも覚えてもらわないと。貴族って、そういうところ、煩いから」
「……確かに」
やれやれと肩を竦めれば、苦笑いするしかない。
「貴族のはしくれから言わせてもらうと、」
「ん?何?」
「ディルさんの教育、受けてみたいですね」
「いいわよ?ただし、容赦ないと思うから……子どもたちより、先にねをあげないでね?」
「……それは、自信ないですね。やっぱりやめておきます」
「その方が、アデルの身のためよ!今でも十分だしね!今度の終わりの夜会、お供よろしくね?」
「そういえば、今年は、夜会に出るのでしたね?」
「そうなの。私、表彰されるらしいのよね?ウィルとヨハンも一緒に」
「へぇ、いいな。ウィル様とか、また爵位上がったりして……」
「もう上がらないと思うわ。今、伯爵でしょ?それ以上は、他との兼ね合いで難しいらしいのよね。それに、そんなに高い爵位を持って、領地に来られたら、やりずらいでしょ?いろいろと」
いろいろを強調すると、アデルは、そのいろいろの意味をくみ取ってくれ苦笑いをする。子どもたちはといえば、早速ディルにご挨拶から教えてもらっているようで、静かだが厳しい声音が聞こえてきて、私も背筋が伸びるような気持ちになった。
一頻りないたダンが私から離れて、ぐしゃぐしゃの顔で笑う。無理をして笑っているようには見えなかった。ホッとしたようなその笑顔に少しだけ救われる気持ちになる。
「俺たちを見つけてくれたのは、アンナ様だから……ありがとう」
後ろからカイルがニシシと笑う。その隣で、マリアも同じように。まだ、少しぐずっているシシリーも涙を拭いているところだ。
「もう、僕、泣かない。アンナ様、僕に何ができる?」
「そうね……文官になってもらいたいとも思っているのよね……でも、頭を使うより、体を使う方が好きなのでしょ?」
「うん。でも、必要なら……両方するから僕に剣も勉強も教えて!」
さっきまで泣いていたはずのダンは、強い意志を持って、私を見上げる。
領地の子らって、本当にたくましい。貴族の子たちにここまで這い上がろうとできる令息令嬢はどれほどいるのかしら?
今、ここにいる四人は、これから、自身の足で立ち上がり、歩き出すことができる。その背中を押してあげるのが私で、それ以上のことは何もできない。
「できる?」
「うぅん、僕、やる!アンナ様が必要としてくれるなら、頑張る!」
「わ、私も!剣を握ったりはできないかもしれないけど……その、できることがあるなら!」
「もちろんあるわ!シシリーは、もう武器をひとつ持っているもの」
小首を傾げるシシリー。何のことだかわからないというふうで、可愛らしい。
「シシリーは本が読めるのでしょ?それなら、文官を目指しなさい。文官の登用試験は、平民には難し過ぎると言われているし、優遇されるのは貴族の令息がほとんど。だけど、いい手本がたくさんアンバー領にはいるから、どんどん、知識を吸収していきなさい。一人で無理なら、ダンと一緒に。ダンだけでなく、いずれは、ミアもそちら側に行くはずよ!」
「ミアって?」
「私の秘蔵っ子よ?お人形さんみたいで、とっても可愛いの。仲良くしてあげてね?」
二人が頷く。四人の適正をそれぞれ見ながら、順次成長に合わせて課題を伝えることにした。私が見てなのか、他の人からの指示なのかは、まだ、わからないけど……きっと、四人ならこなしていけるだろう。
私の『予知夢』で見た十三人の子どもたち。アンジェラから『青薔薇』を贈られたうちの七人が揃ったのである。
「ふぅ……やっと、半分ね。まだ、第二公子に第一王子?まだまだ先は、長いわよ?」
「半分?何が半分なんです?」
「ん?何でもないわよ。私が考えていることだから、気にしないで?」
「気になりますが、とりあえず……」
「そういえば、適正検査は終わりですか?」
「一応は。あとは、個々の能力に合わせて、師事する先生を決めましょう。剣術は、私が見てもいいけど、もうすぐ、ウィルが帰ってくるって話だし、セバスが帰ってきたら勉強は一通り教えてくれるでしょうし、あとは、みながよってたかって教えるくらいよね?アデルも先生だから、しっかり吸収できるところはしてちょうだいね?」
カイルとダンに目配せすれば、うんと頷いていた。
「では、まず、礼儀作法を覚えてもらいましょうか。とりあえず、今いる孤児の中で、あなたたちが、孤児の代表となりますから。それと、働かないと食べて行けません。アンバー公爵家には、余分なお金はありませんから」
「ディル、それじゃあ、身もふたもない!」
「本当のことですよ!」
「そうだけど……もう少し、何かに包んでね?」
「それじゃあ、危機感が伝わらないのでダメです。いいですか?これからあなたたちが孤児たちの代表です。あなたたちが、勉学に仕事に励んだ分のお給金を出します。そのお金で、孤児たちの生活を賄います。もちろん、あの孤児たちも、自身の分は何かしらして生活できるようにしますから!」
「子どもに働けは、ねぇ?アンナ」
「近衛では、8歳から見習いなのでしょ?」
「そうですけど……ディルさん、厳しそうだから……」
「愛情のある厳しさは、あの子たちの成長を促進していくわ!それに、公都に帰ったら、本宅にいることがあるから、礼儀作法に話し方だけでも覚えてもらわないと。貴族って、そういうところ、煩いから」
「……確かに」
やれやれと肩を竦めれば、苦笑いするしかない。
「貴族のはしくれから言わせてもらうと、」
「ん?何?」
「ディルさんの教育、受けてみたいですね」
「いいわよ?ただし、容赦ないと思うから……子どもたちより、先にねをあげないでね?」
「……それは、自信ないですね。やっぱりやめておきます」
「その方が、アデルの身のためよ!今でも十分だしね!今度の終わりの夜会、お供よろしくね?」
「そういえば、今年は、夜会に出るのでしたね?」
「そうなの。私、表彰されるらしいのよね?ウィルとヨハンも一緒に」
「へぇ、いいな。ウィル様とか、また爵位上がったりして……」
「もう上がらないと思うわ。今、伯爵でしょ?それ以上は、他との兼ね合いで難しいらしいのよね。それに、そんなに高い爵位を持って、領地に来られたら、やりずらいでしょ?いろいろと」
いろいろを強調すると、アデルは、そのいろいろの意味をくみ取ってくれ苦笑いをする。子どもたちはといえば、早速ディルにご挨拶から教えてもらっているようで、静かだが厳しい声音が聞こえてきて、私も背筋が伸びるような気持ちになった。
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