上 下
924 / 1,508

適性検査

しおりを挟む
 カイルをペタペタと触りながら、好き勝手言っていると、後ろからの視線が突き刺さる。


「アデル、何かしら?」
「……いえ、なんていうか……、元々のこういう素質が……みたいなこと言ってたじゃないですか?」
「えぇ、言ってたわよ?私の希望的なものも加えて」
「普通ですね?」
「普通?」
「はい、そんなペタペタと体を触ったくらいで、わかるものなのですか?将来の成長とか……」
「見た感じは、あるわよね?ディルもない?性格とか基本動作を見た入り、行動観察から、推測できることって」


 ディルの方をみると、その表情は苦笑いに変わっている。何かおかしなことが起こっているかのような雰囲気だ。


「ある程度はありますが、それは、最低でも数日間を見て、成長する先を考えるものですよ?」
「そうなの?」
「それが普通だと思いますけど?」
「アデルにペタペタ触るのって……あんまり貴族の夫人がよろしくないけど……ちょっと、こっちに来て!ちなみに、行動原理も性格も把握はしているし、近衛としてどれくらいの力があるか知っているけど、この先の成長に繋がるものを見てあげるわ!まだ、本人も知らないアデルを見てあげる!」


 そういって、立ち上がると、ひぃっと言ってディルの後ろに隠れてしまう。失礼ねっ!と頬を膨らませると、呆れたディルが後ろからアデルを引っ張り出してくれた。


「ここは、目を瞑りますし、旦那様には言いませんので、好きなだけお触りください!」
「……その言い方じゃ、私、痴女みたいじゃない!」
「……違うんですか?」


 怯えたように私をみるアデルを睨んでやる。ディルに手首を掴まれているため、身動きがとれないアデルにとって、私は恐怖の対象らしい。


「すぐ終わるわよ!強くなれば、もしかしたら、リアンさんも振り向てくれるかもしれないわよ?」


『リアン』という言葉に反応するアデル。あまりの現金さにため息をつく。

 あくまで振り向てくれるかもだけどね?むしろ、眼中にもないから、もっと頑張らないと視界にも入ってないし……。

 事情を知っているようなディルの表情。難しいでしょうね?という顔は、アデルからは見えないが、少々、おませなマリアは何かを察したようで、クスクスと笑い声が聞こえてきた。


「アデル……マリアに笑われているわ。望みないんじゃなくて?」
「そ、そんなことないですよ!アンナにもらった服もありますし、公都に帰ったら、お休みに……一緒に出かけてくれますかね?」
「さぁ?協力が必要なら、あとで言ってちょうだい。リアンの幸せを1番に考えているから」
「本当ですか?」
「えぇ、もちろん。アデルなら、まぁ、任せられるかな?くらいには、思っているわ。ウィルが重い腰をあげてくれれば別だけど……」
「サーラー様が、アンナ様へ気持ちを移すことなど、ないでしょう。いつかわといいつつ、一生ないですね。あるとすれば……」
「あるかしら?ウィルの幸せ!」
「一人だけ、思い当たる女性が。その方意外、心を動かせる人はいないと思いますが、それでも、アンナ様はサーラー様の心の内から出されることは、ないと思います。それをその方が、受け入れる覚悟ができれば……あるいわ」
「それって、誰かしら?私の知っている人?」
「そうですね……将来は、どうなるか、誰にもわかりません。迂闊なことは言わずにおきましょう」


 ニッコリ笑うディルに、ウィルの相手となる女性の話をやんわりと断られたので、アデルの方に向き直る。観念したかの顔に、なんだか、私が悪いことをしているみたいだ。


「アンナ様!」


 そのとき、後ろから私を呼ぶ声があった。振り返るとマリアが話しかけようとしている。


「あの……お話しても、よろしいでしょうか?」
「もちろん!」
「私を先に兄のように見てもらえませんか?」
「いいわよ!あんなダメな近衛よりずっといい心がけだわ!いらっしゃい」


 マリアは私の方へ駆けてくる。膝をつき、声をかけてから、触り始める。


「そうね……元々、メイドをお願いしようとしていたのだけど……掃除とか、得意だったりする?」
「……あまり、好きじゃないけど、箒で掃いたり、雑巾がけをしたりは、家でもよくしてた。あと……料理も」
「手を見せて」


 そういうと、小さな手を見せてくれる。子どもらしい柔らかい出てではなく、働いている手だ。ナイフをもっているようで、手に癖があった。


「包丁よりナイフで料理することが多かったかしら?箒を持ったり、雑巾がけをしたり……マリアの言っていることは伝わってくるわ」
「手を触っただけで、わかるの?」
「えぇ、癖っていうのがあるの。わりと小さなときから、ナイフを持っているよね?それも、大人が持つような大きさのもの。これくらいかな?」


 私は、ディルからもらったアンバーの家紋入りのナイフをマリアに渡す。重さも同じくらいなのか、手に持った瞬間、懐かしむような表情をする。


「すごい!どうしてわかるの?」
「あなたがずっとしてきたことは、体が覚えているし、教えてくれる」


 そういうと、マリアは私の方を見て驚いていた。カイルと同じで、細く、マリアの方は、年齢のわりに小さく感じていた。きっと、栄養がうまく体に取り入れられていなかっただろうことも、わかった。

 さて、どうしましょう?と小さくため息をつきながら、ナイフを返してもらうのである。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

五歳の時から、側にいた

田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。 それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。 グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。 前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

悪役令嬢カテリーナでございます。

くみたろう
恋愛
………………まあ、私、悪役令嬢だわ…… 気付いたのはワインを頭からかけられた時だった。 どうやら私、ゲームの中の悪役令嬢に生まれ変わったらしい。 40歳未婚の喪女だった私は今や立派な公爵令嬢。ただ、痩せすぎて骨ばっている体がチャームポイントなだけ。 ぶつかるだけでアタックをかます強靭な骨の持ち主、それが私。 40歳喪女を舐めてくれては困りますよ? 私は没落などしませんからね。

義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。

克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位 11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位 11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位 11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位

悪役断罪?そもそも何かしましたか?

SHIN
恋愛
明日から王城に最終王妃教育のために登城する、懇談会パーティーに参加中の私の目の前では多人数の男性に囲まれてちやほやされている少女がいた。 男性はたしか婚約者がいたり妻がいたりするのだけど、良いのかしら。 あら、あそこに居ますのは第二王子では、ないですか。 えっ、婚約破棄?別に構いませんが、怒られますよ。 勘違い王子と企み少女に巻き込まれたある少女の話し。

愛しき冷血宰相へ別れの挨拶を

川上桃園
恋愛
「どうかもう私のことはお忘れください。閣下の幸せを、遠くから見守っております」  とある国で、宰相閣下が結婚するという新聞記事が出た。  これを見た地方官吏のコーデリアは突如、王都へ旅立った。亡き兄の友人であり、年上の想い人でもある「彼」に別れを告げるために。  だが目当ての宰相邸では使用人に追い返されて途方に暮れる。そこに出くわしたのは、彼と結婚するという噂の美しき令嬢の姿だった――。  これは、冷血宰相と呼ばれた彼の結婚を巡る、恋のから騒ぎ。最後はハッピーエンドで終わるめでたしめでたしのお話です。 完結まで執筆済み、毎日更新 もう少しだけお付き合いください 第22回書き出し祭り参加作品 2025.1.26 女性向けホトラン1位ありがとうございます

交換された花嫁

秘密 (秘翠ミツキ)
恋愛
「お姉さんなんだから我慢なさい」 お姉さんなんだから…お姉さんなんだから… 我儘で自由奔放な妹の所為で昔からそればかり言われ続けてきた。ずっと我慢してきたが。公爵令嬢のヒロインは16歳になり婚約者が妹と共に出来きたが…まさかの展開が。 「お姉様の婚約者頂戴」 妹がヒロインの婚約者を寝取ってしまい、終いには頂戴と言う始末。両親に話すが…。 「お姉さんなのだから、交換して上げなさい」 流石に婚約者を交換するのは…不味いのでは…。 結局ヒロインは妹の要求通りに婚約者を交換した。 そしてヒロインは仕方無しに嫁いで行くが、夫である第2王子にはどうやら想い人がいるらしく…。

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持

空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。 その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。 ※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。 ※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。

処理中です...