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子どもたちⅧ
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「……失礼します?」
「おい、本当にその言葉でいいのかよ?」
「えっ?さっきのおねぇちゃん、そう言ってたし……」
部屋に入るなり、マリアが挨拶をし、驚いていた私たちを見て焦ったのかカイルが問い詰めている。シシリーがカイルに話しかけ、ゴソゴソと話をしているので、思わずおかしくなって笑ってしまった。
「……ごめんなさいね」
目尻に溜まった涙を拭い、四人の方を見る。声を書けようとした四人の方から来てくれるとは思ってもみなかったうえに、なんだか、さっきより少し成長している子らを見て微笑ましくなる。
「……ほ、ほら!マリアが変な挨拶をするから!」
「お兄ちゃん!」
「なんだ?お貴族様の前で、大きな声を出すなって」
マリアが睨みながらカイルを呼ぶ姿はとても可愛らしい。自身の過去を振り返っても、呼ばれることはあっても、お兄様をマリアのように非難がましく呼んだことは、数えるくらいしかない。兄が、私に勝つことを諦めているからこそではあるが、よくアンナと窘められたことは懐かしく思う。
「失礼しますであっているわ!マリアは、もう、この屋敷での挨拶を覚えたのね?」
「えへへ、さっきのおねぇちゃん、とても綺麗だったから」
「そう。あとでココナに言っておくわ。喜ぶと思う」
「本当?そうだと、嬉しいな!」
頬を緩めるマリアであったが、兄のカイルもシシリーも顔色がよくない。私に、とりわけ貴族だと名乗った私に対して、マリアはため口で話してしまっていたからだ。
「気にしないでちょうだい。領地では、こんな感じで、話を聞いているし。多少の言葉使いには、こだわらないわ!」
ニコリと笑うと、ホッとしている二人を見て、やはり、気にしていたことがわかる。マリアとダンはあまりわかっていなかったようなので、あとで顔色が悪い理由を教えてもらうに違いない。
「それで?どんな要件かしら?私、意外と忙しいの」
早速本題をと促してやることにした。デビュタントも向かえていない子をいじめたって仕方がないので、見守ることにした。アデルやディルも同じような気持ちなのだろう。顔は笑顔でありながら、目を細め四人の品定めを始めてしまった。
「……えっと、あの……お願いがあり……あって!」
「お兄ちゃん」
「なんだよ。さっき、話して決めただろ?」
「……そうだけど」
「何?足りないものがあるとかなら、ココナに言って、揃えてもらえばいいわよ?」
「違う!そうじゃなくて……俺たち、って、俺とマリアだけど……お貴族様についていきたい!俺たちこの屋敷で働かせてくれないか……?まだ子どもだから、それほど役に立つとは思えないけど、なんでもするからさ。」
「そう。それは、よく考えた結果?マリアもそれでいいの?」
こっちにというと、扉の前にいたカイルとマリアがおずおずと近づいてくる。
「とって食べたりしないわよ。ほら。話を聞かせてちょうだい」
「……えっと、マリアもお兄ちゃんが行くなら、どこにでもついていく!」
「本当にいいのね?」
コクンと頷くマリアに微笑みかける。ギュっと兄の服の袖を握りしめてはいるが、私を見つめ返す目には力があり、本来は、私やアンジェラと同じように、元気に飛び跳ねていることだろう。
「わかったわ。では、カイルとマリアをアンバー領へ連れていきます。適正を見たいから、ここに並んでくれる?できれば、二人の間に人が入れるくらいには、はなれてくれないかしら?」
兄妹は顔を見合わせ、少しだけ距離をとった。
見た感じ、カイルのほうは、頭もいいのか場への適応能力があり、体も動かせる。ここまで見てきたように面倒見もよく人触りもよさそうだ。言葉遣いや礼儀作法を学べば、どこかの元皇太子よりずっと使える執事になるだろう。ただ、私は、カイルにそれを求めてはいない。副産物的に対応できるようになればいいかなぁ?と考えた。第一に考えているのは、アンジェラの護衛だ。視野も訓練で広がりそうだし、隊長向けの人員になるだろう。
次に妹のマリアを見た。少し緊張したようにしているが、先程からこちらを見る目は、好奇心が見え隠れしているのがわかるし、力強い雰囲気がある。今のデリアなら……エマと同等以上のメイドとして、育て上げることができるだろうが、しばらくは預けられないので、ヒーナと一緒に手元に置くことになるだろう。利発で、行動的。勉強も嫌いじゃないそうだ。兄のカイルと一緒に親元にいた時は、野山を駆け回っていたらしいし、働いている両親の代わりに家事も二人でしていたそうだ。
「うん、なかなかいい人材になりそうね。二人はいくつかしら?」
「俺が、10歳。マリアが8歳」
「なるほど、アンナの読みは当たっていましたね。レオ様と年が近い」
「そうね。これなら、一緒に訓練ができるわ!」
「……訓練?」
「えぇ、あなたたち二人にお願いする仕事は、私の子どもたちの護衛。そうはいっても、剣も握ったことのない子たちにいきなりさせたりしないから大丈夫よ!」
驚いたあと、少しだけホッとしたような表情を見せる二人。アデルも納得したという表情で、頷いていた。
「おい、本当にその言葉でいいのかよ?」
「えっ?さっきのおねぇちゃん、そう言ってたし……」
部屋に入るなり、マリアが挨拶をし、驚いていた私たちを見て焦ったのかカイルが問い詰めている。シシリーがカイルに話しかけ、ゴソゴソと話をしているので、思わずおかしくなって笑ってしまった。
「……ごめんなさいね」
目尻に溜まった涙を拭い、四人の方を見る。声を書けようとした四人の方から来てくれるとは思ってもみなかったうえに、なんだか、さっきより少し成長している子らを見て微笑ましくなる。
「……ほ、ほら!マリアが変な挨拶をするから!」
「お兄ちゃん!」
「なんだ?お貴族様の前で、大きな声を出すなって」
マリアが睨みながらカイルを呼ぶ姿はとても可愛らしい。自身の過去を振り返っても、呼ばれることはあっても、お兄様をマリアのように非難がましく呼んだことは、数えるくらいしかない。兄が、私に勝つことを諦めているからこそではあるが、よくアンナと窘められたことは懐かしく思う。
「失礼しますであっているわ!マリアは、もう、この屋敷での挨拶を覚えたのね?」
「えへへ、さっきのおねぇちゃん、とても綺麗だったから」
「そう。あとでココナに言っておくわ。喜ぶと思う」
「本当?そうだと、嬉しいな!」
頬を緩めるマリアであったが、兄のカイルもシシリーも顔色がよくない。私に、とりわけ貴族だと名乗った私に対して、マリアはため口で話してしまっていたからだ。
「気にしないでちょうだい。領地では、こんな感じで、話を聞いているし。多少の言葉使いには、こだわらないわ!」
ニコリと笑うと、ホッとしている二人を見て、やはり、気にしていたことがわかる。マリアとダンはあまりわかっていなかったようなので、あとで顔色が悪い理由を教えてもらうに違いない。
「それで?どんな要件かしら?私、意外と忙しいの」
早速本題をと促してやることにした。デビュタントも向かえていない子をいじめたって仕方がないので、見守ることにした。アデルやディルも同じような気持ちなのだろう。顔は笑顔でありながら、目を細め四人の品定めを始めてしまった。
「……えっと、あの……お願いがあり……あって!」
「お兄ちゃん」
「なんだよ。さっき、話して決めただろ?」
「……そうだけど」
「何?足りないものがあるとかなら、ココナに言って、揃えてもらえばいいわよ?」
「違う!そうじゃなくて……俺たち、って、俺とマリアだけど……お貴族様についていきたい!俺たちこの屋敷で働かせてくれないか……?まだ子どもだから、それほど役に立つとは思えないけど、なんでもするからさ。」
「そう。それは、よく考えた結果?マリアもそれでいいの?」
こっちにというと、扉の前にいたカイルとマリアがおずおずと近づいてくる。
「とって食べたりしないわよ。ほら。話を聞かせてちょうだい」
「……えっと、マリアもお兄ちゃんが行くなら、どこにでもついていく!」
「本当にいいのね?」
コクンと頷くマリアに微笑みかける。ギュっと兄の服の袖を握りしめてはいるが、私を見つめ返す目には力があり、本来は、私やアンジェラと同じように、元気に飛び跳ねていることだろう。
「わかったわ。では、カイルとマリアをアンバー領へ連れていきます。適正を見たいから、ここに並んでくれる?できれば、二人の間に人が入れるくらいには、はなれてくれないかしら?」
兄妹は顔を見合わせ、少しだけ距離をとった。
見た感じ、カイルのほうは、頭もいいのか場への適応能力があり、体も動かせる。ここまで見てきたように面倒見もよく人触りもよさそうだ。言葉遣いや礼儀作法を学べば、どこかの元皇太子よりずっと使える執事になるだろう。ただ、私は、カイルにそれを求めてはいない。副産物的に対応できるようになればいいかなぁ?と考えた。第一に考えているのは、アンジェラの護衛だ。視野も訓練で広がりそうだし、隊長向けの人員になるだろう。
次に妹のマリアを見た。少し緊張したようにしているが、先程からこちらを見る目は、好奇心が見え隠れしているのがわかるし、力強い雰囲気がある。今のデリアなら……エマと同等以上のメイドとして、育て上げることができるだろうが、しばらくは預けられないので、ヒーナと一緒に手元に置くことになるだろう。利発で、行動的。勉強も嫌いじゃないそうだ。兄のカイルと一緒に親元にいた時は、野山を駆け回っていたらしいし、働いている両親の代わりに家事も二人でしていたそうだ。
「うん、なかなかいい人材になりそうね。二人はいくつかしら?」
「俺が、10歳。マリアが8歳」
「なるほど、アンナの読みは当たっていましたね。レオ様と年が近い」
「そうね。これなら、一緒に訓練ができるわ!」
「……訓練?」
「えぇ、あなたたち二人にお願いする仕事は、私の子どもたちの護衛。そうはいっても、剣も握ったことのない子たちにいきなりさせたりしないから大丈夫よ!」
驚いたあと、少しだけホッとしたような表情を見せる二人。アデルも納得したという表情で、頷いていた。
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