上 下
918 / 1,480

子どもたちⅣ

しおりを挟む
 破れ汚れたドレスを着たままの私に、入浴をするようディルが促すので、私はココナに頼み、用意をしてもらう。
 モクモクと白い湯気が肌にまとわりついてくるが、今は、そんなことでもホッとする。


「アンナ様」
「どうかして?」


 体を洗ってくれているココナを振り向くと、顔が強張っているがわかる。


「私は侍女である前に、アンナ様の護衛であり、盾です。どうか、今回のような荒事はお避けいただいたうえで、私をお連れください。物騒な武器を持っている輩がいたと聞いています」
「新しい武器ね……確かに、今まで以上に物騒ではあるわ。今は、まだ、普及していないから、脅威というまでもないけど、ゆくゆくは……命を狙われる側として、対策を練らないといけないことね」
「そのために、私たちがいるのです。私たちを盾に……」
「できるわけないわ。私にとって、あなたも……ココナも守るべき私の大切な領民ですもの。ディルがどんなふうに言っているかはわからないけど、決して、自身の命を私のために使おうなんて、言わないで?」


 泡だらけだった手をお湯ですすぎ、水を少し切ってからココナの頭を撫でる。濡れた手で撫でられれば、迷惑だろう。何も言わず、私に撫でられてくれるココナに、自分を大切にしてね?と囁いた。
 目を見開き、ココナは驚いていたが、微笑み頷けば、はいと力強く返してくれる。

 風呂から出たあと、ココナに整えてもらい、そのまま、執務室へ向かう。そこには、すでにアデルとディルが部屋におり、少々難しい顔をしていた。


「もう、来ていたの?」
「お戻りでしたか?」
「えぇ、見苦しい恰好を見せていたわね。ごめんなさい」
「いえ、そんな……」


 私は、執務机に座り二人にも適当に座るように言えば、近場にあった椅子を持ってきて、かけた。ココナが飲み物を用意してくれ、私は、それに手をつける。いつもと違う茶葉の香りに驚く。


「この茶葉は、エルドアのものね?これは?」
「セバスチャン様から、届きました。手紙と共に……」
「そう。手紙にはなんて?」
「はい、話し合いの途中ではありますが、血の気の多いエルドアの騎士たちが、戦争を先に仕掛けてはどうだ?という話が持ち上がり、今、抑えているところだそうです。パルマは、セバスチャン様から少し離れ、別の情報を探していると」
「なるほどね。手紙、貸してくれる?」


 ディルから手紙を預かり、内容を確認すれば、頭が痛くなりそうな内容だ。ただ、セバスとパルマの意見が一致したとも書いてある。だから、パルマが別行動をしているらしい。


「なるほど、パルマにはキースがついていってくれているのね。小鳥からの情報をセバスに送っておいて。これを読む限り、エルドアの騎士……それも、地位の高いところが、何か怪しい動きをしているみたい。疑いくらいでは、罰せられないから、証拠集めをしているってところかしら?」
「その証拠が出た場合、我が国から情報提供すると、エルドアとの溝も生じませんか?」
「そのためのクロック侯爵でしょ?手は打ってある。クロック侯爵にも、前クロック侯爵にも、しっかり働いてもらうから。私、使えるものは使うわよ?直接、クロック侯爵が摘発すると、こちら側の陰謀に見えるから、そこはうまくしてねってエレーナには伝えてあるし、時間はかかっても、なんとかなるでしょう。まだ、動くべきでもないしね」
「それは、監視がついているからですか?」
「……監視がいなかった日なんて、ないよね?」


 クスクス笑うと、ディルがため息をつく。対応してくれているディルの方が詳しいのだから、そのため息の意味も笑って済ませる。


「話は、変わりますが、連れて来た子どもたちの件、どうなさるおつもりですか?」
「とりあえず、子どもたちには、選択をとは思っているの。私と一緒にくるのか、この領地に残るのか、親元へ帰るのか。乳飲み子は、どうしようもないから、探している親がいなければ、養子にだそうと思っているわ。物心ついている子ではないから、子の方は、受け入れられると思うから。大きくなってから、事情を説明するかは、その養父母に任せるつもり」
「わかりました。あとは、どうですか?気に入ったものはいますか?」
「……ディルって、目ざといわよね?」


 そんなことありませんよと笑っているが、本当に笑っているわけではない。大きくわざとらしくため息をついた。


「欲しいのは、四名」
「……年かさの子らですね」
「それって……あの、女の子を守っていた男の子二人ですか?」
「えぇ、当たり。あの二人は必ず欲しいわね。あと、妹のマリアと姉のシシリー」
「……男の子はわかりますが、女の子もですか?」


 アデルは小首をかしげて、どうしてだろうと考え込んだ。答えは簡単だ。


「答えをいっても?」


 アデルに視線を向けると、もう少し待って!と言わんばかりであるので、もう少しだけ待つことにした。
 答えに辿り着けるとは、とてもじゃないが思えないので、あまり待たないよ?と茶化してやると、焦りだすアデルにクスクスとディルが笑っていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました

結城芙由奈 
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】 今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。 「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」 そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。 そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。 けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。 その真意を知った時、私は―。 ※暫く鬱展開が続きます ※他サイトでも投稿中

悲恋を気取った侯爵夫人の末路

三木谷夜宵
ファンタジー
侯爵夫人のプリシアは、貴族令嬢と騎士の悲恋を描いた有名なロマンス小説のモデルとして持て囃されていた。 順風満帆だった彼女の人生は、ある日突然に終わりを告げる。 悲恋のヒロインを気取っていた彼女が犯した過ちとは──? カクヨムにも公開してます。

側妃、で御座いますか?承知いたしました、ただし条件があります。

とうや
恋愛
「私はシャーロットを妻にしようと思う。君は側妃になってくれ」 成婚の儀を迎える半年前。王太子セオドアは、15年も婚約者だったエマにそう言った。微笑んだままのエマ・シーグローブ公爵令嬢と、驚きの余り硬直する近衛騎士ケイレブ・シェパード。幼馴染だった3人の関係は、シャーロットという少女によって崩れた。 「側妃、で御座いますか?承知いたしました、ただし条件があります」 ********************************************        ATTENTION ******************************************** *世界軸は『側近候補を外されて覚醒したら〜』あたりの、なんちゃってヨーロッパ風。魔法はあるけれど魔王もいないし神様も遠い存在。そんなご都合主義で設定うすうすの世界です。 *いつものような残酷な表現はありませんが、倫理観に難ありで軽い胸糞です。タグを良くご覧ください。 *R-15は保険です。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

逃した番は他国に嫁ぐ

基本二度寝
恋愛
「番が現れたら、婚約を解消してほしい」 婚約者との茶会。 和やかな会話が落ち着いた所で、改まって座を正した王太子ヴェロージオは婚約者の公爵令嬢グリシアにそう願った。 獣人の血が交じるこの国で、番というものの存在の大きさは誰しも理解している。 だから、グリシアも頷いた。 「はい。わかりました。お互いどちらかが番と出会えたら円満に婚約解消をしましょう!」 グリシアに答えに満足したはずなのだが、ヴェロージオの心に沸き上がる感情。 こちらの希望を受け入れられたはずのに…、何故か、もやっとした気持ちになった。

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

処理中です...