ハニーローズ  ~ 『予知夢』から始まった未来変革 ~

悠月 星花

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子どもたちⅢ

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「……帰るところがないか。そのことについては、少し考えさせてくれるかしら?悪いようにはしないわ」
「本当ですか?どこかに、売られていったり……」
「売りはしないけど、私が全員を育てることは難しいの。それだけは、わかってちょうだい」


 肩を落とす子どもたち。レオくらいの年頃であるカイン、マリア、ダン当たりは、それすら顕著である。理解できるからだと考えると可哀想ではあるが、こればかりは、私だけでどうにか出来るものではない。


「そんな顔はしないで。あなたたちの将来に関しては、生きやすいように教育をするわ。文字が書ける読めるだけでも、今後、どこで生活するときにも必要になるし、必要とされる。公都でさえ、文字の読み書きが出来ない人も多いんだから!」
「……文字なんて覚えても。ただ、働かされるだけで……」
「違うわ、カイン」
「どこが違うんだ?」
「私は貴族、あなたは平民。まず、身分が違うわね?それはわかる?」
「……それくらい!」
「そう。じゃあ、子どもであっても、まず、言葉がそれじゃあ、不敬になるわ。私だから許しているだけで」


 私を見て、カインは目を見開いた。


「お貴族様だった?」
「えぇ、身分は言わなかったから、知らなくて当然なのかもしれないけど、もし、カインがこの領地の出身なら、領主の名と顔、特徴くらいは、覚えておいたほうがいいわ」
「……領主様?」
「「えっ?」」
「……僕たちが襲われているところに、助けに来てくれたのに?」
「領主って、お兄ちゃん、何?」
「領主っていうのは、このコーコナ領で1番えらい人だ。そんな人がなんで?」


 戸惑う子どもたち。先ほどから汚い服のまま私に抱きついて泣いていたことを思い出したのか、男の子たちは青ざめた。


「気にすることじゃないわ。今日は、お忍びでたまたま出かけた場所で、人攫いの一行を見つけただけだし、言葉使いも気にしなくていい。
 ただね?」


 ゴクンと唾を飲み込む音が聞こえてくる。私を見ている子どもたちの目は真剣そのものだった。自身の生死さえ、かかっているのだから、当然と言えば当然なのだろう。


「さっきの話に戻すけど、読み書きや計算、言葉遣いや礼儀作法がきちんと出来る人って、雇う側からしたら、とても貴重な存在なのよ。中には、体を使う方が得意な子もいるだろうから、警備兵や近衛なんかになりたいと思っている子もいるかもしれない。小さなお店をしてみたい子もいるかもしれない。そのときに、さっきいった読み書きや礼儀作法ができないと、試験さえ受けられない、お店すら出せないということだってあるの」
「……それをアンナ様は教えてくれる?」
「私がではないけど、きちんと習う気があるなら、学校へ学べる場所を用意するわ」


 お互いの顔を見合わせる子どもたち。アンジェラくらいの子には、少々難しいこともあるようで、顔にわからないと書いてある。それでも、年かさの子たちは、お互いに頷きあって、決まったようだ。


「返事は今じゃなくていいの。私がこの領地から公都へ戻るまで。酷な話になるけど、私のもうひとつの領地である、アンバー領へ来てもらうことになると思うわ。それでも、よかったらという条件付きで、提案するわね。それまでに、自宅に戻るのか、私についてくるのか、ただ、この屋敷を出ていくのかは、考えてちょうだい。1週間ほどで、ここを立つことになるから、それまでに詳細をつめるわ。休む場所は、別のところに用意させたから、そちらに案内させるわね?」


 ベルを鳴らすと、外で待っていたのか、ココナが即座に入ってきた。少々困り顔ではあるが、受け入れてくれるようで、子どもたちを誘導している。
 部屋から子どもたちが完全に出ていったあと、ソファに深く座りなおし、息を吐く。一息入れたくて、冷めた紅茶を口に含み喉を潤した。

 コンコンと扉が開き、ディルとアデルが入ってくる。
 ディルは頼んだ調査の手配と子どもたちの着替えの手配をし、アデルは捕まえた人攫いたちの報告にきたようである。
 破れ汚れたワンピースのままの私を気の毒そうな顔でアデルが見てきた。


「お疲れ様でした」
「そう、見えるかしら?」
「えぇ、そのように」


 そうと呟き、カップを机の上に置く。カチャっという音のあと、静かになった。


「……私より、子どもたちの方が怖かったはずよ。ほとんどが、売られたという話なんだけど、本当なのかしら?コーコナにも十分な資金が回るように、仕事の手配も出来ていると思っていたんだけど、そうじゃなかったのかしら?」
「……お恥ずかしい話、うまく、報告がされていなかったようです。これから、1ヶ月に1度は、視察に来ることにします。モレンには報告について、再度徹底した情報を書くようにと指導はしましたが」
「報告書にかかれるまで、まず最低3日はあるし、コーコナから公都、それからアンバーへの情報になるから、どうしても、ズレが生じてしまうわね。事前に情報が手に入ったから、あの子たちを助けることができたけど、もしかしたら、領地の警備隊の中に、故意に情報を流していない人物がいるのかもしれないわ。調査をしてみないとわからないけど、早急になんとかしたいわね。腐ったいもは、その周りさえ毒してしまうこともあるから……秘密裏に動いてちょうだい」


 かしこまりましたとディルが受け持ってくれるのだろう。ディルは、とても優秀である。少し調べれば、どうなっているのかなんて、すぐにわかってしまうだろう。
 強い味方が領地へ来てくれたおかげで、早々に方がつきそうで助かると微笑んだ。
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